多汗症の治療法
まずは、多汗症の治療法の種類について見ていきましょう。大きく分けると、外用薬、内服薬、ボツリヌス療法(注射)、水道水イオントフォレーシス療法、超音波・レーザーなどによる治療、交感神経ブロック、手術があります。
外用薬による治療
多汗症の治療でまず使われることが多いのが外用薬です。主な種類として、局所制汗剤(塩化アルミニウム)と抗コリン薬があります。
局所制汗剤(塩化アルミニウム)
昔から多汗症治療に使われてきたお薬が塩化アルミニウム溶液です。汗管(汗が出る通り道)に沈着したり、細胞を障害したりして汗管がふさがり、汗が出にくくなるとされています。
なお、このお薬はチューブに入った塗り薬といった形をしているわけではなく、医療機関などでその場で成分を混ぜ合わせて調剤するのが大きな特徴です。
また、保険適用がないことや、副作用としてかぶれが生じることが比較的多いといった注意点もあります。
抗コリン薬
発汗には、アセチルコリンという神経伝達物質が深くかかわっています。脳から汗を出す指
令が出ると、交感神経(自律神経)からアセチルコリンが分泌されて汗が出るのです。
抗コリン薬は、アセチルコリンの作用を阻害して汗を抑えるお薬です。保険適用となっているのは、手のひらの多汗症に対して使うオキシブチニン塩酸塩や、わきの多汗症に対して使うソフピロニウム臭化物、グリコピロニウムトシル酸塩水和物です。
内服薬による治療
主な内服薬は抗コリン薬ですが、漢方薬が選択肢となることもあります。
抗コリン薬
外用抗コリン薬と同様、アセチルコリンの作用を阻害して汗を抑えるお薬です。保険適用となっているのはプロパンテリン臭化物のみですが、失禁や頻尿の治療に使うオキシブチニン塩酸塩やコハク酸ソリフェナシンが使われることもあります。
漢方薬
メインで漢方薬が使われることは少ないですが、漢方薬の中にも汗に関する症状に効果が期待できるものもあります。たとえば以下のようなお薬です(使い方はあくまで一例です)。
- 防己黄耆湯:皮下脂肪が多く、体温が上がりやすい水太り体質の方の多汗症に使う
- 補中益気湯:体力虚弱で疲れやすい方の寝汗などに使う
- 黄耆建中湯:体力虚弱で疲れやすい方の寝汗や冷え性などに使う
- 白虎加人参湯:比較的体力があり、体に熱がこもってしまう方で、気温や体温の上昇で汗をかきやすい場合に使う
- 桂枝加黄耆湯:体力が衰えている方の寝汗などに使う
- 五苓散:水滞(水分の代謝が停滞し、体内に余分な水分がたまって汗をかきやすくなる状態)に使う
- 柴胡加竜骨牡蠣湯:主にストレスによる多汗症で、不眠などの睡眠に関する症状もある場合に使う
- 加味逍遙散:生理や更年期など、女性ホルモンの変動によって汗が出ており、イライラなども伴う場合に使う
- 四逆散:主にストレスによる多汗症に使う
など
なお、日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」では、手のひらの多汗症の治療において、バイオフィードバック療法(手のひらなどに温度や発汗を感知するセンサーを取り付け、数値を見て手のひらの温度や発汗の低下を意識させる治療法)と漢方薬の併用で症状が緩和されたケースがあると記載されています。
ボツリヌス療法
ボツリヌス菌がつくる毒素を注入する治療、いわゆる「ボトックス注射」のことです。ボツリヌス菌の毒素にもアセチルコリンを抑制する作用があり、最も効率よく抑制するとされるA型毒素を使うことが一般的です。
注射をすると1週間ほどで汗が減り、半年ほど効果が続くとされています。
なお、この注射は筋肉の緊張を和らげる作用があるため、一時的な筋力低下が気になることがある点に注意しましょう。
水道水イオントフォレーシス療法
水道水イオントフォレーシス療法は、患部を水道水につけ、弱い電流を流す治療法です。水素イオンが生じ、汗の出口が障害されて汗が出にくくなると考えられています。
超音波・レーザーなどによる治療
マイクロ波、高周波、超音波、レーザーなどを使った治療が行われることもあります。いずれも、レーザーなどを照射して汗腺を加熱・変性させる治療法です。汗腺が変性することで汗が出にくくなるとされています。
生じうる副作用は使用する機器によっても異なりますが、一時的な赤みや腫れ、内出血などが現れることがあります。
交感神経ブロック
お薬やレーザー、ボトックス注射などを使って、発汗の原因となる交感神経節(神経細胞が集まる部分)などをブロックする治療法です。
注意点としては、代償性発汗と言って、ある場所の発汗が抑えられることで別の場所の発汗が増える副作用が生じることがあります。ただ、多汗症治療で代償性発汗が心配される代表的な治療法が、後述する手術による交感神経遮断術です。そのため、交感神経遮断術の効果や副作用を予測するために、交感神経ブロックが行われることもあります。
手術による治療
多汗症に対して手術を行うこともあります。主な方法は交感神経遮断術と外科的切除です。
交感神経遮断術
多汗症の原因となっている交感交換神経節を切ったり焼いたりすることで破壊する治療法です。一度の手術で症状が大きく改善されることがありますが、前述のとおり、代償性発汗のリスクもあります。
外科的切除
多汗症が気になる部位の汗腺(エクリン腺)を取り除く手術もあります。皮膚を切開するので傷跡が残ったり、術後の生活に一時的に制限(数日入浴ができない、しばらくは激しい運動ができないなど)が生じたりする点に注意が必要です。
なお、外科的切除の際に、ワキガの原因となるアポクリン腺も取り除けるため、ワキガ治療も同時に行うことが可能です。
精神療法
多汗症の背景に不安障害やうつ傾向があるケースもあります。このような精神的な問題があ
る場合は、精神療法を行うこともあります。
多汗症に対して有用な可能性があるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 催眠療法:催眠状態にして、「手のひらの温度を下げて発汗が減る」といった催眠をかける
- バイオフィードバック療法:発汗が気になる箇所にセンサーを取り付け、温度や発汗の程度を数値で見ながら、自身で温度や発汗を低下させる意識をつける
- 自律訓練法:温度や発汗に関して自己暗示をする、一種の自己催眠法
多汗症の種類による治療法
多汗症は部位によっていくつかの種類に分けることができ、種類によって治療法が異なります。まず、大きく分けると、原因となる明らかな病気などがある「続発性多汗症」と、原因がはっきりしていない「原発性多汗症」があり、さらにそれぞれに「全身性」と「局所性」があります。それぞれの治療法は以下の通りです。
原発性多汗症
原発性多汗症は、特に原因となる病気などはないものの、汗腺が密集している特定の場所に、日常生活に支障が出るレベルの汗が出るものを言います。
全身に多量の汗をかく全身性多汗症と、下記のように一部にだけ汗を多量にかく局所性多汗症があり、全身性多汗症は内服抗コリン薬による治療を行うことが一般的です。
また、局所性多汗症は部位によって下記のように分類でき、部位ごとに治療の選択肢がやや異なります。
手掌多汗症
手掌(しゅしょう)多汗症は、手のひらに過剰に汗をかくものです。小学校に入るくらいの時期から自覚することが多く、重症の場合はしたたり落ちるほどの汗をかくことがあります。また、手が湿っていて冷たく、紫色がかることもあります。汗で皮膚が長時間しめっているため、あせもや皮膚の剥がれが生じ、場合によっては細菌やウイルスに感染することもあります。
緊張したときや、ものを持つとき、日中や夏に汗が多く、睡眠中や冬は汗が少なくなる傾向があります。紙に触ったり電子機器の操作をしたりする際に支障が出るため、仕事などにも影響することが多いです。
治療は、局所制汗剤(塩化アルミニウム)、水道水イオントフォレーシス療法、ボツリヌス療法、内服抗コリン薬、交感神経ブロック、交感神経遮断術などが選択されることが一般的です。
ただし、2023年にオキシブチニン塩酸塩を有効成分とした外用薬が、日本初の原発性手掌多汗症治療薬として承認されており、使用される患者さんも増えてきています。
腋窩多汗症
腋窩(えきか)多汗症は、わきに多量の汗をかくもので、思春期頃に自覚することが多いで
す。また、他の部位には汗をかかないような温度でも汗が出ることが多く、衣服に汗ジミができることなどもあって、少量の汗でも気になることが多い部位です。
治療法は、外用抗コリン薬や局所制汗剤(塩化アルミニウム)、ボツリヌス療法、内服抗コリン薬、レーザーなどの機器による治療、外科的切除、交感神経遮断術などが選択されることが一般的です。
なお、2020年にはソフピロニウム臭化物を有効成分とするゲル状のお薬が、日本初の原発性腋窩多汗症治療薬として承認されています。その後、2022年にはグリコピロニウムトシル酸塩水和物を有効成分とするワイプ状(シートタイプ)のお薬も承認されており、使用される患者さんも増えてきています。
頭部顔面多汗症
頭部顔面多汗症は、頭部や顔面に多量の汗をかくものです。成人を迎える前後から自覚することが多く、男性の患者が多いとされています。とくに、熱い飲食物をとったあとや、ストレスを感じたときに汗が出る傾向があります。
治療は局所制汗剤(塩化アルミニウム)、内服抗コリン薬、ボツリヌス療法、交感神経ブロック、交感神経遮断術などが選択されることが一般的です。
足底多汗症
足底多汗症は、足の裏に多量の汗をかくものです。治療は、局所制汗剤(塩化アルミニウム)、水道水イオントフォレーシス療法、ボツリヌス療法、内服抗コリン薬などが選択されることが一般的です。
続発性多汗症
内分泌・代謝疾患など、何らかの病気などによって過剰に汗が出るものを続発性多汗症と言います。こちらも全身性と局所性があります。
治療は、原因となる病気自体に対するアプローチ療や、原因となるお薬の中止などを行います。
多汗症の原因
ここからは、多汗症の原因について見ていきましょう。汗をかく原因には以下のようなものがあり、過度になると多汗症と診断されるケースがあります。
主な原因・タイプは3つ
一般的に、汗をかくメカニズム・原因については、誘発因子をふまえて以下の3種類に分類されています。
- 温熱性発汗:高温、発熱、運動など、体温が高くなった時に下げるために汗をかくもの
- 味覚性発汗:辛い物を食べるなどして汗をかくもの
- 精神性発汗:緊張などによって汗をかくもの。精神活動が活発になった脳を冷却するために汗が出ると考えられている
これらは原因となる病気などがあるわけではない「原発性多汗症」の主な原因と言えます。
続発性多汗症の原因
続発性多汗症の原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 内分泌・代謝疾患:内分泌や代謝にかかわる病気(肥満、糖尿病、低血糖、更年期障害、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫など)によるもの
- 神経障害(パーキンソン病などの神経疾患):大脳皮質(大脳の表面を覆う層)の障害によって発汗機能が促進されるなどすることがある
- 代償性発汗:ある場所の発汗が抑えられることで、別の場所の発汗が増えるもの。
- 脳梗塞において麻痺した側の汗が増える、脊髄損傷による自律神経障害などの原因が挙げられる。
- その他の病気:循環器疾患、呼吸不全、感染症(結核、敗血症)、がん、皮膚疾患など
- 薬剤性(お薬の副作用):非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド、睡眠導入剤、向精神薬などが原因となることがある
遺伝も関係する可能性あり
汗っかきや多汗症には遺伝が関係する可能性もあります。
たとえば手のひらや足の裏の多汗症の場合、家族にも同様の症状を持つ方がいるケースがよくあるため、遺伝的に、発汗にかかわる交感神経の活動が活発であることが考えられます。さらに、なんらかの遺伝子が関係していることも考えられています。
汗っかきの治療の必要性
前述のとおり、多汗症の症状があると書類や電子機器を触れなかったり、握手がしにくかったりと、仕事や日常生活に支障が生じることがあります。わきや足の汗がひどい場合は衣服の汗ジミや靴の蒸れなども気になるでしょう。
多汗症による全般労働障害率は30.52%とされており、日本における腋窩多汗症の生産性損失は、1ヶ月あたりで3,129億円と推定されています。
このように、汗が多いことによってさまざまな悪影響があるため、早めに治療するのがよいと考えられます。
汗っかきの対策【セルフケア】
汗がひどい場合はセルフケアで多少の改善ができることもあります。たとえば以下のようなことを心がけるとよいでしょう。
食べ物に注意する
からいものや熱いものは発汗のきっかけとなります。できるだけ汗をかきたくない場合は控
えたほうがよいでしょう。なお、カフェインも交感神経を刺激し、発汗のきっかけとなることがあります。
生活習慣全般の改善
汗は交感神経が活発になることで出るため、交感神経のバランスが乱れるような生活習慣は改めましょう。睡眠を十分にとる、過度な飲酒をしない、禁煙することなどが大事です。
リラックスする
緊張やストレスは交感神経を優位にし、発汗の原因となってしまいます。そのため、リラックスして緊張をほぐしたり、ストレスを解消したりすることが大事です。ゆっくり休んだり、趣味の時間をつくったりして、自分なりのリラックス・ストレス解消に取り組みましょう。
制汗剤・汗拭きシートを使う
制汗剤は汗の出口をふさいで汗の分泌を防ぐほか、抗菌成分やにおいを吸着する作用、芳香作用などで、においケアもする製品が多いです。スプレーやクリーム、ロールオンタイプなどさまざまな形状のものがあるため、自分に合ったものを選びましょう。
ただし、使用をやめると効果がなくなることが一般的です。また、医療用医薬品とは成分が異なる、または成分量が少ないこともよくあるため、しっかりした効果を期待したい場合は医療機関を受診するとよいでしょう。
汗を吸う衣類を身につける
汗をかかないようにするだけでなく、汗をかいてしまった後の対策も大事です。汗を吸わない衣類を着ているとかぶれなどの症状につながることもあるため注意しましょう。
吸湿性や通気性の高い、天然素材を選ぶのがおすすめです。
わき汗パッドを使う
わき汗は、衣服に汗ジミをつくったり、そこからにおいが生じたりすることがあります。精神的にも気になるものなので、わき汗パッドのようなアイテムでケアすることも一つの方法です。
汗っかきの治療はどのように受ければよい?
汗が気になる場合の受診の目安や、適切な診療科は以下の通りです。多汗症は生活に大きな支障を及ぼすこともあるため、気になったら早めに受診を検討しましょう。
受診の目安
以下のような状況に当てはまる場合は多汗症の可能性があります。早めに受診したほうがよいでしょう。
- 汗によって日常生活に支障が出ている
- 違和感を覚えるほどの多量の汗が出る
- 汗が数時間単位の長時間続く
- 週に1回以上多量の汗をかくことがある
- 上記のような状態が半年以上続いている
何科で受けられる?
汗っかきの治療は、皮膚科、美容外科、多汗症の専門クリニックなどで受けられることが一般的です。
汗のお悩みはクリニックフォアの多汗症オンライン診療へ
クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。
オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。