汗が臭う原因とメカニズム
汗の臭いに対処するには、なぜ汗が臭うのか原因を把握することが大切です。まずは、汗が臭う原因とメカニズムをくわしく解説します。
汗そのものは無臭
汗は体温調節のために出るものです。そのほか、ストレスなどで身体が緊張したときや、辛いものを食べたときにも汗が出る場合があります。
そして、汗には「エクリン腺」から分泌される汗と、「アポクリン腺」から分泌される汗の2種類があります。エクリン腺とは、全身に分布している汗腺の一種です。とくに手のひらや足の裏に集中しています。エクリン腺から分泌される汗はほぼ水分でできていますが、少量の塩分やミネラル、電解質、老廃物なども混ざっています。
一方、アポクリン腺は、主に脇や性器周辺に分布している汗腺です。アポクリン腺から分泌される汗は、水分のほかに、タンパク質、脂質、脂肪酸、コレステロールなどが混ざっています。
「汗=臭い」というイメージをもつ方が多いですが、実はエクリン腺とアポクリン腺のどちらから分泌される汗も、分泌直後はほぼ無臭といわれています。
汗臭い原因は雑菌
ほぼ無臭のはずの汗が臭う主な原因は雑菌です。人間の皮膚には、さまざまな細菌(常在菌)が存在します。汗が分泌された直後はほぼ無臭ですが、時間が経つと汗と皮脂が混ざり合い、皮膚の常在菌に分解されて臭いを放つようになるのです。
とくにアポクリン腺から分泌される汗には、タンパク質や脂質などの臭いの原因となりやすい成分が多く含まれているため、臭いが強くなりやすい傾向にあります。
食べ物も汗の臭いの原因になる
食べ物が汗の臭いの原因になるケースもあります。特定の食べ物を大量に摂ると、それらに含まれる揮発性成分が、汗腺や皮脂腺などからガスとして排出されるためです。汗が臭くなりやすい食べ物として、下記のようなものがあります。
- 肉類
- 乳製品
- スナック菓子
- 揚げ物
- ファーストフード
- ニンニク
- 香辛料 など
とくに動物性食品や脂質が多い食品は、汗の臭いが強くなりやすいとされています。
汗が臭いのは加齢臭・ミドル脂臭の可能性も
汗が臭いのは、加齢臭やミドル脂臭が原因という可能性もあります。加齢臭とは、中高年以降の方に発生する体臭のことです。枯草やロウソク、古本のような臭いなど、その表現はさまざまです。
年齢を重ねると、皮脂中の「パルミトレイン酸」という脂肪酸が増加します。増加したパルミトレイン酸が過酸化脂質という物質と合わさって酸化し、皮膚常在菌によって分解されると「2-ノネナール」という物質が生じます。この2-ノネナールが加齢臭の原因とされています。
ミドル脂臭とは
ミドル脂臭とは、株式会社マンダムが研究している体臭のことです。加齢臭が出始める前の、30代半ばから50代半ばのミドル世代の方に強く出やすいといわれています。
汗に含まれる乳酸を皮膚の常在菌が分解すると、「ジアセチル」という物質ができます。このジアセチル自体が使い古した油のようなイヤな臭いがするのですが、皮脂由来の中鎖脂肪酸と混ざるとさらに臭いが強くなり、ミドル脂臭になるとされています。
ミドル脂臭は、首の付け根から後頭部にかけて出やすいといわれています。加齢臭が出る年齢ではないのに、枕やパジャマなどが臭う場合は、ミドル脂臭が出ているかもしれません。
汗が臭くなる病気
何らかの病気が原因で、汗が臭くなっている可能性も考えられます。ここでは、汗が臭くなる主な病気について解説します。
ワキガ
ワキガ(腋臭症)とは、脇の下から独特な臭いが出る病気(体質)です。先述の通り、脇の下にはエクリン腺とアポクリン腺の2つの汗腺が存在します。このうちアポクリン腺から出る汗は、タンパク質や脂質が含まれていて臭いやすいのが特徴です。
汗腺の数や大きさは人によって異なり、なかにはアポクリン腺が大きく、数も多い人がいます。その分、アポクリン腺から分泌される汗の量も多くなるため、臭いが強くなりやすいといわれています。
なお、日本人をはじめとする黄色人種はワキガになる人が少なく、その割合は10%ほどといわれています。ワキガは遺伝することから、両親のいずれかがワキガの場合は、子どももワキガの可能性が高いです。
多汗症
多汗症とは、日常生活に問題が生じるほど大量に汗をかく病気です。全身の汗の量が増える「全身性多汗症」と、脇や頭など一部の汗の量が増える「局所多汗症」があります。
多汗症だからといって、汗が臭いというわけではありません。しかし、たくさん汗をかいて身体が湿った状態が続くため、雑菌によって臭いが出る機会が増えやすい傾向にあります。
胃腸機能の低下
汗から硫黄のような腐敗臭がする場合は、胃腸機能が落ちている恐れがあります。胃腸の働きが低下すると、食べ物をうまく消化・吸収しきれなくなり腸内で腐敗してガスが出ます。
放出されたガスが腸粘膜から吸収されて血液に流れ込み、汗とともに出てくるため、汗が臭くなるのです。ガスが混ざった血液が肺に運ばれ呼気に混ざるため、口臭がすることもあります。
肝機能・腎機能の低下
肝機能・腎機能の低下も、汗が臭くなる原因のひとつです。タンパク質を摂取すると、分解する際に「アンモニア」という有害物質が発生します。
アンモニアは肝臓に送られ、肝臓内にある「オルニチン」という物質と反応し、「尿素」という無害な物質に変わります。その後、尿素は腎臓に運ばれ、尿として排出されていきます。
しかし、肝機能や腎機能の働きが低下すると、アンモニアの分解や尿素の排出がうまくいかなくなるのです。その結果、血液中の尿素の濃度が上がり、汗とともに尿素が排出されてアンモニア臭がすることがあります。
糖尿病
糖尿病にかかると、果物が腐敗したときのような甘酸っぱい臭いの汗が出る場合があります。糖尿病は血糖値をコントロールする役割を担う「インスリン」という物質が正常に働かなくなり、血液中の糖が増えてしまう病気です。
糖は身体を動かすためのエネルギー源であるため、インスリンが働かないとエネルギー不足になってしまいます。すると身体が不足したエネルギーを補うために、肝臓が中性脂肪を分解して脂肪酸を作り、脂肪酸から「ケトン体」というエネルギー源を生成し始めます。このケトン体が、腐った果物のような甘酸っぱい臭いのもとです。
糖尿病によって体内でケトン体が増加すると、汗からもケトン体の臭いがするようになってきます。また、極端な糖質制限などをした場合も、糖不足を補うためにケトン体が作られるため、汗が臭くなることがあります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症を発症した場合も、汗の臭いが気になることがあります。甲状腺機能亢進症とは、甲状腺が働きすぎ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促す作用があるため、甲状腺ホルモンの分泌が増えすぎると汗をかきやすくなり、汗の臭いが気になる場合があります。
なお、甲状腺機能亢進症の原因の90%は、バセドウ病だとされています。バセドウ病の場合、汗をかきやすくなる以外にも、疲れやすい、体重が減少する、筋力が低下するなどの症状が出ることもあります。
パーキンソン病
パーキンソン病とは、脳に異常が生じて身体の動きに問題が起こる病気です。主な症状として、ふるえや筋強剛(きんきょうごう:筋肉がこわばること)などがあります。また、多汗の症状に悩む方も多いです。
パーキンソン病を発症すると自律神経の働きが乱れてしまい、体温調節がうまくできなくなるため汗をかきやすくなるとされています。大量に汗をかくと臭いが気になりやすいだけでなく、脱水や熱中症を起こしやすくなるため注意が必要です。
メープルシロップ尿症
汗や尿からメープルシロップのような臭いがする場合は、メープルシロップ尿症の可能性が考えられます。
メープルシロップ尿症とは、アミノ酸を分解する酵素の異常によって「α-ケト酸」という物質が体内に蓄積する病気です。α-ケト酸とは、日本酒の香りのもとになるアミノ酸由来の物質です。
メープルシロップ尿症を発症すると、α-ケト酸がうまく分解できなくなって体内に蓄積します。そして、溜まったα-ケト酸が汗や尿に排出されるため、メープルシロップのような臭いを放つようになるのです。
メープルシロップ尿症は遺伝性の病気であり、早ければ生後1~2週間で汗や尿の特徴的な臭いとともに、哺乳力の低下や発熱、嘔吐、下痢などの症状が現れます。
重症の場合は意識障害や呼吸困難などを起こして、重篤な後遺症が残ったり死亡したりするおそれがあるため、新生児マススクリーニングの対象疾患となっています。
汗が臭いときの対策
汗の臭いは、しっかりと対策をすればある程度抑えられる場合があります。具体的にはどうしたらよいのか、汗の臭いが気になるときの対処法を紹介します。
定期的に汗をかく
汗腺には、汗が体外に排出されるまでに、汗に含まれるミネラルなどを吸収するろ過機能が備わっています。ろ過機能が正常に働いている場合は汗に余分な成分がほとんど含まれないので臭いにくいです。
しかし、ろ過機能の働きが悪くなると、汗のなかの余分な成分が増えるため、臭いが出やすくなります。汗をかくほどろ過機能の能力が高まるとされているため、汗の臭いが気になるときは、定期的に運動したりしっかりと湯船につかったりして、汗をかく習慣を身に付けることが大切です。
身体を清潔に保つ
汗の臭いの主な原因は雑菌です。また、加齢臭などは皮脂も原因となります。そのため、汗の臭いが気になるときは、こまめに汗や皮脂を拭き取る、身体を洗うときに洗い残しが出ないようにするなどして、清潔に保つよう心がけることが重要です。
身体を拭いたり洗ったりすると汗の臭いの原因物質が除去されるので、一時的ではあるものの臭いが軽減されます。
ストレスを溜め込まないようにする
ストレスが溜まると体内で活性酸素が発生します。すると、活性酸素によって皮脂が酸化しやすくなり、汗の臭いが強くなります。また、ストレスは自律神経のバランスをくずし、発汗を促すこともあります。
活性酸素の発生や、過剰な発汗を抑えるためにも、できるだけストレスを溜め込まないようにすることが大切です。ストレス解消には以下のような方法が役立ちます。
- 人に話を聞いてもらう
- ノートに今の気持ちを書き出す
- 深呼吸する
- 音楽を聴く など
自分なりのストレス解消法を探してみましょう。
質のよい睡眠を取る
睡眠不足の状態が続くと、自律神経のバランスが乱れやすくなって代謝が悪くなり、体内に毒素や老廃物が溜まりやすくなります。また、肝機能が低下し、アンモニアも分解されにくくなります。
その結果、汗に含まれるアンモニアや乳酸などの物質が増加し臭いが強くなるため、質のよい睡眠を取ることを意識しましょう。睡眠の質を上げる方法として、下記のようなものがあります。
- 最低でも6時間以上の睡眠時間を確保する
- 起床後に朝日を浴びる
- 1日60分を目安に、ウォーキングなどの適度な有酸素運動を行う
- 就寝の1~2時間前に入浴する
- 防音・遮光機能のあるカーテンにするなどして、寝室に音や光が入るのを防止する
- 就寝前はPCやスマートフォンの使用を控える
- 就寝の1時間前くらいからは、リラックスする時間にする など
質のよい睡眠は心身の疲れを癒すため、ストレス解消にも役立ちます。まずは就寝前のPCやスマートフォンの使用を止めるなど、できることから始めてみましょう。
臭いが出やすい食べ物を控える
動物性食品や脂質が多い食品、にんにくや香辛料などを食べ過ぎると、汗の臭いが強くなりやすいです。とくに動物性脂肪が多い食品は皮脂の分泌を増やすので、ワキガなどの臭いの悪化につながります。
汗が臭いと感じるときは、臭いが出やすい食べ物をできるだけ避けることを意識しましょう。
抗酸化作用が期待できる食品を取り入れる
加齢臭は皮脂の酸化が原因で発生するため、日々の食品に抗酸化作用が期待できる食品を取り入れるのもおすすめです。とくにビタミンC・ビタミンEが多く含まれる食品は、加齢臭対策に役立ちます。
- ビタミンCが多く含まれる食品:キウイフルーツ・パプリカ・イチゴ・パセリ・ブロッコリーなど
- ビタミンEが多く含まれる食品:かぼちゃ・アボカド・アスパラガス・卵・うなぎなど
臭いの原因となる病気を治療する
病気が原因で汗が臭う場合は、原因となる病気を治療する必要があります。汗が臭い以外にも何らかの症状が出ている場合は、医療機関を受診して病気を特定し、治療することが重要です。
汗の臭いに男女差はある?
病気が原因のケースを除き、一般的に男性のほうが汗の臭いが出やすいといわれています。男性のほうが皮脂の分泌量や、揮発性の臭い成分の含有量が多いためです。また、女性ホルモンに汗や皮脂の分泌を抑制する作用があるため、女性のほうが臭いが出にくいといわれています。
ただし、女性も加齢などによって女性ホルモンの分泌量が低下すると、臭いが強くなる場合があります。
また、排卵~生理前までは、体内で「黄体ホルモン」という女性ホルモンが増加します。黄体ホルモンは汗や皮脂の分泌量を増加させるため、雑菌が増えやすくなって汗の臭いが気になることがあります。
汗のお悩みはクリニックフォアの多汗症オンライン診療へ
クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。
オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。