顔の汗がひどいのは「頭部・顔面多汗症」?
多汗症とは、日常生活に支障が出るほど多量の汗をかく状態のことです。顔や頭の汗がひどい場合は、頭部・顔面多汗症の恐れがあります。
日本で原発性局所多汗症(病気などの明らかな原因がなく、特定の部位に多汗症が生じている)がある方は、2013年の調査(対象者5,807人)では12.8%、2020年の調査(対象者60,969人)では10%という結果が出ており、その中でも頭部や顔面の多汗症はそれぞれ4.7%、3.6%でした。
頭部・顔面多汗症は男性に多く、成人になる前後くらいの年齢で症状を自覚することが多いとされています。症状は、耳の上から側頭部や後頭部、おでこなどから流れ落ちるくらいの大量の汗が出るのが特徴です。
とくに、熱いものを食べたり、物理的・精神的ストレスを受けたりしたときに汗をかくことが多いです。数分でおさまることが一般的ですが、数時間~1日中汗が続くこともあります。
頭部・顔面多汗症の診断基準
以下の項目のうち、2項目以上当てはまる場合は多汗症とされています。医療機関を受診するなど、早めの対策を考えたほうがよいでしょう。
- 最初の症状が出たのが25歳以下
- 左右対称に汗をかく
- 睡眠中は汗が止まっている
- 1週間に1回以上症状が現れる
- 家族にも同様の症状を持つ人がいる
- 上記の症状によって日常生活に支障が出ている
頭部・顔面多汗症の原因とメカニズム
顔や頭に汗をかく場合、熱に弱い脳を守るために汗をかいていることが考えられます。具体的な理由は以下の通りです。
脳を冷却するために汗をかく
基本的に、汗は体温調節(体温を下げる)のために出るものです。脳は高温に弱いため、暑くなると脳を守るために顔や頭に汗をかくとされています。
なお、顔や頭は他の場所に比べて発汗が始まる温度が低いため、汗をかくような気温ではなくても顔や頭には汗をかくことがあります。
緊張で汗をかく
過度な緊張でも顔や頭に汗をかくことがあります。医学的には精神性発汗と言い、一般には冷や汗と呼ばれるものです。
汗は、自律神経のなかでも交感神経が優位なときにかくもので、緊張状態のときも交感神経が優位になります。そのため、緊張すると汗をかきやすくなるのです。
また、緊張やストレスなどで精神活動が活発になった脳を冷却するために、汗をかく側面もあると考えられています。
食べ物で汗をかく
顔や頭は、トウガラシなどの辛いものを食べたときにも汗をかきやすい部位です。これを医学的には味覚性発汗と言います。熱いものを食べたときに汗をかくこともあります。
トウガラシを食べたときの発汗のメカニズムとしては、辛味成分であるカプサイシンによって、温度感受性受容体(温度の変化を感知し、脳に伝えるタンパク質)が刺激されることで汗をかくとされています。
またこのとき、顔や頭の血管は広がっているため、脳を冷却するために汗をかいているという側面もあると考えられています。
生活習慣が原因で汗をかく
前述のとおり、発汗には交感神経がかかわっています。生活習慣の乱れは交感神経のバランスの乱れにつながることがあります。
たとえば、不規則な生活、ストレス、睡眠不足などは要注意です。また、運動不足や過度な飲酒、喫煙なども発汗の原因となりえます。
病気が原因で汗をかく
続発性多汗症と言って、何らかの病気や明確な理由があって顔や頭に汗をかくケースもあります。考えられる原因としては以下のようなものがあります。
- 内分泌や代謝にかかわる病気(肥満、糖尿病、低血糖、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、更年期障害など)
- 結核などの感染症
- パーキンソン病などの神経疾患
- 脳梗塞
- 脊髄損傷
- 循環器疾患
- 呼吸不全
- 感染症(結核、敗血症など)
- がん
- 皮膚疾患
- お薬の副作用
など
顔の汗の対策【セルフケア】
顔の汗が気になる場合は以下のような対策を講じるとよいでしょう。
首の周りを冷やす
熱さで顔に汗をかいている場合は、首の周りを冷やすことで汗を緩和できることがあります。冷やしたタオルなどを当ててみましょう。
食べ物に注意する
辛いもの、熱いものを食べると汗が大量に出やすくなるため、汗をかきたくないときはこのような食べ物は避けましょう。
また、日ごろから規則正しく、栄養バランスのとれた食生活を心がけることで体調が整い、発汗が正常になる可能性もあります。
生活習慣全般の改善
汗は自律神経によってコントロールされています。自律神経を整えるためには、十分な睡眠が大事です。
また、過度な飲酒は血管を広げて発汗につながったり、睡眠の質が低下して自律神経のバランスが乱れたりすることがあります。喫煙も汗腺を刺激して発汗を促します。そのため、過度な飲酒を控え、できれば禁煙に努めましょう。
運動習慣をつくる
運動不足などで汗をかくことが減ると、心臓から離れた部位の汗腺の機能が下がることがあります。すると、体温調節の際に、顔や頭などの汗腺が発達している部位に汗をかきやすくなることがあるのです。
また、自律神経を整えるためにも、運動はとても大事です。
リラックスし、ストレスを解消する
ストレスや興奮は、自律神経の交感神経を優位にし、汗をかきやすくなることにつながります。そのため、リラックスするなどしてストレスを解消することが大事です。
趣味を楽しんだり、ゆったりする時間をつくったりしましょう。睡眠もストレス解消につながります。
制汗剤・汗拭きシートを使う
制汗剤は、汗の出口をふさいで汗の分泌を防ぐもののほか、抗菌成分やにおいを吸着する作用、芳香作用などで、においケアもできる製品が多いです。
制汗剤というとわきに使うイメージがあるかもしれませんが、顔用のミストやクリームもあるため、自分に合ったものを探してみましょう。
なお、制汗剤は使用をやめると効果がなくなることが一般的です。また、医療用医薬品とは異なる成分が入っていたり、成分量が少なかったりして、明確な効果が実感できないこともあります。多汗症はお薬による治療法もあるため、場合によっては医療機関の受診を検討するとよいでしょう。
頭部・顔面多汗症の治療法
多汗症の治療法は、外用薬や内服薬、注射などを用いる方法や手術など、さまざまなものがあります。ここからは、頭部・顔面多汗症の治療法について詳しく解説します。
【外用薬】局所制汗剤(塩化アルミニウム)
頭部・顔面多汗症の治療でまず検討されるのが、局所制汗剤の使用です。成分は塩化アルミニウムで、各医療機関や薬局で調剤したものを処方します。
お薬のメカニズムは、塩化アルミニウムが汗管(汗が出る通り道)に沈着したり、細胞を障害したりして汗管がふさがり、汗が出にくくなるといったものだと考えられています。
なお、塩化アルミニウムは昔から多汗症治療に用いられてきたお薬ですが、保険適用がなく、副作用としてかぶれが生じることが多いことにも注意が必要です。
【内服薬】抗コリン薬
続いて検討されるのが、内服抗コリン薬による治療です。発汗にはアセチルコリンという神経伝達物質がかかわっており、これを阻害することで汗を出にくくするお薬です。
現在のところ、多汗症に対して保険適用が可能な抗コリン薬の成分は、プロパンテリン臭化物のみとなっています。コハク酸ソリフェナシンやオキシブチニン塩酸塩はいずれもプロバンテリンと同様に抗コリン作用を有し、同じ作用機序で発汗抑制効果が期待できる薬剤です。しかし、これらは本来過活動膀胱や尿失禁の治療薬として承認されており、多汗症に対しては保険適用が認められておりません。
ボツリヌス療法
いわゆる「ボトックス注射」を行うこともあります。ボツリヌス菌がつくる毒素を注入することで、アセチルコリンが抑制され、汗が減るとされています。注射をしてから1週間ほどで効果が現れ、半年ほど続くことが一般的です。
なお、ボツリヌス菌がつくる毒素には筋肉の緊張を和らげる作用があるため、一時的な筋力低下などの副作用が生じることがあります。
交感神経ブロック
発汗の原因となる交感神経節(神経細胞が集まる部分)などを、お薬やレーザー、ボトックス注射などを用いてブロックする治療法です。
注意点すべき副作用として、代償性発汗が挙げられます。代償性発汗とは、多汗症の治療などによってある部位の発汗が抑えられる代わりに、別の部位の発汗が増えることです。
なお、代償性発汗が心配される多汗症治療の代表例が、後述する交感神経遮断術(手術)です。そのため、交感神経ブロックを、交感神経遮断術の効果や副作用を予測するためにあえて行うこともあります。
交感神経遮断術
多汗症の原因となっている交感神経節を、切る、焼く、クリップで止めるなどして破壊または遮断する治療法です。一度手術を受ければその後の治療は必要なくなることも多いですが、前述のとおり、代償性発汗のリスクがある点を理解しておきましょう。
ただし、最近では代償性発汗のリスクが高い場所がわかってきているため、リスクの高い場所を避けて遮断することで、代償性発汗が生じるリスクが下がってきているとされています。
精神療法
多汗症の方は、不安障害やうつ傾向を持っていることもあり、精神療法が効果的なケースがあります。効果が期待できるものとしては、以下のような治療法が挙げられます。
- 催眠療法:催眠状態にして、「手のひらの温度を下げて発汗が減る」といった催眠をかける
- バイオフィードバック療法:発汗が気になる箇所にセンサーを取り付け、温度や発汗の程度を数値で見ながら、自身で温度や発汗を低下させる意識をつける
- 自律訓練法:温度や発汗に関して自己暗示をする、一種の自己催眠法
汗に関するよくある質問
最後に、汗に関するよくある質問と答えをご紹介します。
汗はどこから出ているの?
汗は、アポクリン腺とエクリン腺という2種類の汗腺から出ています。
・エクリン腺:皮膚の浅い部分にあり、全身に分布する汗腺。暑いときにかく汗は基本的にここから出ており、ほとんどが水分なのでサラサラで無臭なのが特徴
・アポクリン腺:皮膚の深い部分にあり、脇や陰部などの特定の部分にしかない汗腺。ここから出る汗はタンパク質やアンモニアなどさまざまな成分が含まれているため、色が濁って粘り気があるのが特徴。体臭が強い、またはわきがの方は、アポクリン腺の数が多いか大きい傾向がある
汗にはよい効果もあるの?
前述の通り、汗は体温調節のために必要なものです。
それ以外にも、汗に含まれる保湿成分によって乾燥を防いだり、皮脂と混ざってできた皮脂膜で肌を外的刺激から守ったりする効果が期待できます。余分な水分や老廃物を排出する役割もあります。
汗っかきは遺伝する?
多汗症の患者さんの中には、家族も同じような症状を持つ方がいます。そのため、汗っかきや多汗症は遺伝する可能性もあると言えます。
汗に関する交感神経の活動が活発であったり、何らかの遺伝子との関係などが理由として考えられるでしょう。
顔の汗が気になるときは治療すべき?
顔の汗がひどいと日常生活に支障が出たり、ストレスになったりしてよくありません。
また、続発性多汗症と言って、なんらかの病気が原因で汗が増えることもあります。そのため、原因をはっきりさせ、適切な治療を受けるためにも早めに受診を検討するのがよいでしょう。
顔の汗が気になるときは何科に行けばよい?
多汗症などの治療は、皮膚科や美容皮膚科、美容外科、多汗症専門の診療科などの受診を検討しましょう。
汗のお悩みはクリニックフォアの多汗症オンライン診療へ
クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。
オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。