睡眠不足とはどのような状態?
睡眠不足とは、文字通り「睡眠が足りていない」状態です。個人差はありますが、成人の場合、適切な睡眠時間の目安は6時間から8時間とされています。しかし、長く眠ればよいというわけでもありません。まず、睡眠不足とはどのような状態を指すのか見ていきましょう。
睡眠不足の定義
令和5年に行われた国民健康・栄養調査によると、睡眠時間が1日6時間未満の方は男性38.5%、女性43.6%。特に30~50代に多く見られます。日本人の働き盛り世代は、慢性的な睡眠不足の傾向にあるといえるでしょう。
ただし、最適な睡眠時間には個人差があります。6時間も寝ていなくても日常生活に支障がない方もいれば、8時間以上寝ないとダメな方もいるなどさまざまです。また、季節や日中の活動量、年代によっても異なります。
睡眠が足りているかを判断する目安は以下の通りです。
- 起床時に爽快感がある
- 日中の活動に眠気や倦怠感による支障がない
- 平日と休日の睡眠時間差は2時間以下
当てはまらない方は、睡眠が足りていないかもしれません。逆に、睡眠時間が6時間未満でも、これらのポイントに該当する場合は、その人にとっては適切な睡眠がとれている可能性があります。
睡眠不足にも急性と慢性がある
急性睡眠不足は、徹夜のような一時的な連続覚醒(寝ないで起きている状態)を指します。眠気や倦怠感といった症状は、睡眠によって回復することがほとんどです。
一方、眠っても夜中に目が覚める「途中覚醒」や、短い睡眠を繰り返す、なかなか寝付けないといった状態は慢性睡眠不足といいます。急性睡眠不足に比べて自覚しづらく、睡眠による回復効果も得られにくいとされています。睡眠不足が蓄積されていくことも特徴です。
睡眠不足は寝だめで解消できる?
「平日は睡眠不足気味だから、休日に寝だめしておこう」と昼まで寝ていたり、一日中ゴロゴロしていたりしませんか?
残念ながら、睡眠を「ためる」ことはできません。休日に長く寝ても、平日の眠気解消は期待できないのです。むしろ平日と生活時間がずれることで体内時計が混乱して「ソーシャルジェットラグ」と呼ばれる時差ぼけのような状態に陥ることがあります。
休日に長時間の睡眠が必要な方は、寝だめより日頃の睡眠不足を改善することを考えましょう。
睡眠不足による日常的な症状
睡眠不足による影響は、日中の眠気や倦怠感だけではありません。心身にもさまざまな症状が現れるため、代表的なものについて詳しく見ていきましょう。
集中力や認知機能の低下
眠気を我慢しようとすると、集中力や認知機能、注意力などが低下します。一つのことに集
中できなくなるだけでなく、仕事上のミスや生産力の低下にもつながります。
実際に、ある研究では1日の睡眠時間を2時間ずつ短縮させると、2週間で徹夜と同程度の作業能力の悪化が見られました。
また、24時間の徹夜によって、車の運転技能も飲酒運転に匹敵するほど低下するという研究結果もあります。睡眠不足の影響の大きさがうかがえるでしょう。
気分の変動・イライラ・抑うつ傾向
睡眠不足は心の健康にも影響を及ぼします。忙しくて十分な睡眠がとれない日が続いたとき、理由もなくイライラしたり、気分が落ち込んだりしたことはないでしょうか。これは脳の感情をコントロールする働きが弱まるためです。
実際に、睡眠不足が強いほど脳の扁桃体(情動を司る部分)と、その働きを支える腹側前帯状皮質間との結合が低下し、不安や抑うつ傾向が強くなることが分かっています。ある研究では、わずか5日間の睡眠不足で、脳の扁桃体のうち、ネガティブな情動刺激に反応する左扁桃体の活動の活発化がみられました。一方で、ポジティブな情動刺激には変化がなかったという結果が出ています。
記憶力・学習力の低下
学生時代、テスト前に「睡眠時間を削って勉強したのに、思ったよりできなかった」という経験はないでしょうか。実は、記憶(学習したこと)の定着は睡眠中に行われるとされています。つまり、眠らずに勉強したとしても、十分な成果が得られない恐れがあるということです。
睡眠不足は記憶力だけでなく、集中力や意欲の低下にもつながります。仕事の能率や成果に支障をきたしたり、学生の場合は成績や授業態度の評価に影響したりする可能性もあるのです。
睡眠不足による身体的な症状
睡眠不足は健康の大敵です。頭痛やめまいといったよくある症状から、深刻な病気を引き起こす要因になることもあります。ここからは、睡眠不足による身体的な症状の例を見ていきましょう。
頭痛
頭痛にはいくつかのタイプがあり、症状や原因も異なります。特に睡眠不足の影響が大きいとされているのが、緊張型頭痛や片頭痛です。
緊張型頭痛は、頭痛の中でも特に多く見られます。主な症状は、頭頸部の筋肉が緊張して血流が滞ることで起こる、頭全体が締め付けられるような痛みです。主な原因として、睡眠不足のほか、デスクワークなど同じ態勢を取り続けることや疲労などが挙げられます。
また、20~40代の女性に特に多いとされるのが片頭痛です。脳血管が拡張することで前頭部や側頭部に脈打つような痛みが起こります。頭痛薬が効きにくいのも特徴です。睡眠不足で起こりやすいため、睡眠で改善することもありますが、寝すぎると悪化する恐れがあります。
めまい・吐き気
睡眠不足によるめまいや吐き気は、自律神経の乱れが原因と考えられています。耳鳴りを伴うこともあります。
ただし、頻繁に起こる場合はメニエール病など、ほかの病気の可能性もあるため、「睡眠不足気味だから」と見過ごさず、必要に応じて耳鼻科の受診を検討しましょう。
メニエール病は頭痛や吐き気、嘔吐とともにめまいが突然生じる病気です。内リンパ嚢という、内耳の中の袋に存在する液体の量が過剰になる(内リンパ水腫)ことで起こるとされており、多くの場合耳鳴りや聞こえにくさを伴います。
免疫力の低下
睡眠不足によって風邪をひきやすくなることがあります。睡眠中に活性化する免疫細胞の働きが低下するためです。
また、体の修復に必要な成長ホルモンは、睡眠中に分泌が活発になります。睡眠不足が続くと、免疫力だけでなく回復力も低下する恐れがあるのです。
生活習慣病のリスクが高まる
慢性的な睡眠不足は、ホルモン分泌や自律神経機能に影響を及ぼします。肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を発症しやすくなるという研究結果も出ているほどです。また、睡眠時間が6時間未満の状態が続くと、死亡リスクも高まることも分かっています。
たとえば人間は睡眠中に血圧が低下するため、睡眠不足の方は血圧が高いままになりやすくなります。また、膵臓から分泌されるインスリンの作用も変化するため、食事内容が同じでも血糖値が高くなる傾向があるのです。
高血圧や高血糖は、動脈硬化(血管の老化)の原因になります。心疾患や脳血管疾患のリスクが高まるほか、認知症、うつ病など、心身の深刻な病気につながる恐れもあります。
睡眠不足は睡眠障害の可能性もある
睡眠不足には「睡眠時間が足りない」だけでなく「睡眠の質がよくない」ことも含まれます。「眠っているはずなのにすっきりしない」という方は、睡眠の質が低下している=睡眠障害の可能性も考えられます。具体的な病気や原因となる病気には以下のようなものがあります。
不眠症
「不眠症=一睡もできない」という状態を想像するかもしれませんが、不眠症とは以下の4つの総称です。
- 入眠困難:いわゆる「寝付きが悪い」状態。眠るまでに時間がかかる
- 中途覚醒:睡眠中に何度も目が覚める
- 早朝覚醒:起床予定時刻より早く目が覚めてしまう。高齢者に多い
- 熟眠困難:睡眠時間は足りていても、眠りが浅く「眠った気がしない」状態
厚生労働省によると、成人の約30%が、いずれかの症状を有するとされています。主な症状は、日中の眠気や倦怠感、集中力の低下、不安、抑うつなどです。
不眠症の要因はさまざまですが、大きく「5つのP」に分類されます。
- Physical(身体的なもの):痛み・かゆみ・咳・頻尿など
- Physiological(生理的なもの):環境・時差・夜勤など
- Psychological(心理的なもの):ストレス・プレッシャー・心配ごとなど
- Psychiatric(精神医学的なもの):うつ病・不安性障害・統合失調症など
- Pharmacological(薬理学的なもの):カフェイン・アルコールなどの嗜好品やステロイドなどお薬の影響
不眠症の背後には、生活習慣病などの病気が隠れていることもあります。不眠が続く場合は早めに医師に相談しましょう。
中枢性過眠症
十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気や突発的な眠気を感じる睡眠障害を指します。ナルコレプシーや突発性過眠症などがよく知られています。
ナルコレプシーや突発性過眠症は「怠けている」などと勘違いされることがありますが、れっきとした病気です。治療が必要な睡眠障害であることを周囲に理解してもらうためにも、医師の診察と適切な治療が重要だと言えます。
ナルコレプシー
ナルコレプシーは耐えがたい眠気と、通常なら眠らないような状況(食事中や歩行中など)でも眠ってしまうこと(睡眠発作)が主な症状です。数分から数十分睡眠をとったあとはすっきりしますが、繰り返し起こることもあるため、日常生活や社会生活に支障をきたすことが多いです。そのほか、突発的・一時的な筋力の低下や入眠時の幻覚、睡眠の質の低下といった症状もナルコレプシーの特徴です。
突発性過眠症
突発性過眠症は、日中の強烈な眠気と居眠りが特徴の睡眠障害です。睡眠時間が通常~通常より長い人に多い傾向があります。ナルコレプシーとは異なり、居眠りから目が覚めてもすっきりしません。起床困難や頭痛、起立性障害などを伴うこともあります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることで低酸素状態になり、睡眠の質が低下する病気です。夜中に息苦しくて何度も目が覚める、いびきや睡眠中の無呼吸を指摘されたことがあるという方は、睡眠時無呼吸症候群の恐れがあります。
主な症状は起床時の頭痛や倦怠感、日中の眠気などです。眠気から重大な事故を起こす恐れもあります。また、睡眠中の低酸素状態や眠気によるストレスから、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などのリスクや、突然死につながる恐れも指摘されています。
睡眠時無呼吸症候群の恐れがある場合は、専門医による診察や検査、適切な治療が必要です。
レストレスレッグス症候群
「下肢静止不能症候群」「むずむず脚症候群」とも呼ばれる睡眠障害の一種です。主な症状は、脚を動かさずにいられない、脚の皮膚の表面を虫が這うような不快感がある、疼痛などです。
横になったり座ったりしているときに起こりやすく、特に就寝時に激しくなる傾向があります。
レストレスレッグス症候群の場合、脚を動かしたり歩き回ったりすることで症状は軽快します。そのため、入眠困難や頻繁な中途覚醒といった睡眠障害につながりやすいのです。ぐっすり眠れないことがストレスになり、さらに睡眠不足になるという悪循環に陥る恐れもあります。
レストレスレッグス症候群の誘因は、喫煙や肥満、運動不足などです。また、鉄欠乏性貧血や慢性腎臓病、慢性肝疾患、糖尿病などの病気があると起こりやすいとされています。
睡眠不足を改善するポイント
睡眠不足の自覚があるときや、なんとなく体や心の不調を感じるときは、睡眠時間だけでなく睡眠の質を確保することが大切です。睡眠不足を改善するために、見直したいポイントを紹介します。
生活習慣を見直す
まず、生活習慣を見直して、最低でも1日6時間の睡眠時間を確保することを心がけましょう。仕事や家事、育児などでどうしても不足する場合は、午後の早い時間に30分程度の昼寝で補うことをおすすめします。
また、夜更かしを避け、就寝・起床時間をできるだけ固定するのがポイントです。日頃の睡眠不足を解消しようと、休日に寝だめと称して昼まで寝る方もいますが、根本的な解決にはなりません。平日と休日の起床時間が大幅にずれると体内時計が乱れて、かえって辛くなることもあります。
食事もなるべく決まった時間に摂るようにします。特に就寝前に食べるのは避けましょう。体内時計が乱れるだけでなく、睡眠の質の低下につながるためです。また、肥満や糖尿病などのリスクが高まる恐れもあります。
日中に適度な運動を取り入れるのも効果的です。エレベーターやエスカレーターより階段を使う、近所への買い物は徒歩で行くなど、簡単なことから始めるとよいでしょう。
睡眠環境を整える
寝室の照明が明るすぎると、入眠の妨げになります。自分が不安に感じない程度の暗さに抑えましょう。スマホやタブレットの光も寝付きを悪くする原因になるため、ベッドに持ち込まないようにします。
室内の温度は、季節に応じて暑すぎず寒すぎない程度に調節しましょう。エアコンや加湿器・除湿器などを活用して、湿度も一定にすると快適です。また、寝る1~2時間前に入浴して体を温めると寝付きをよくする効果が期待できます。
音楽やアロマなど、自分なりにリラックスできるアイテムを揃えておくのもおすすめです。外部の音はカーテンやブラインドを閉めてできるだけ遮断し、静かな環境を確保しましょう。
嗜好品の摂取はほどほどに
カフェインやアルコールを摂取することで寝付きが悪くなる恐れがあります。これらの成分に覚醒作用があるためです。
カフェインはコーヒーだけでなく、紅茶やココア、緑茶、栄養ドリンクにも含まれています。夕方以降の摂取は控えるようにしましょう。摂取量が多いと午前中の摂取でも影響を及ぼす恐れがあります。一日に何杯もコーヒーや紅茶などを飲む方は注意が必要です。
アルコールは一時的に寝付きがよくなるため、晩酌や寝酒の習慣がある方もいるかもしれません。しかし、アルコールを摂取すると途中で覚醒しやすくなります。また、長期的なアルコールの摂取は健康にも影響を及ぼしかねません。日常的に飲むのはほどほどにし、特に寝る前のアルコールは避けましょう。
ニコチンにも覚醒作用があります。アルコール同様、寝る前の喫煙は入眠を妨げる原因の一つです。さらに、喫煙は睡眠不足だけでなく体にも悪影響を及ぼすため、禁煙を目指すことが理想です。
医療機関を受診する
なかなか眠れない、眠ってもスッキリしない場合は、単なる睡眠不足ではなく、睡眠障害の可能性もあります。特に、家族などに睡眠中のいびきや呼吸の停止を指摘される場合は、睡眠時無呼吸症候群の恐れがあります。睡眠不足から生活習慣病などの病気につながるリスクも考えられるため、頭痛や倦怠感、日中の強い眠気などの症状があるときは、医療機関の受診を検討しましょう。
診察を受けることで、症状に応じたお薬を処方してもらえる場合もあります。話を聞いてもらうだけでもストレスが解消されたり、気が楽になったりすることもあるでしょう。
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クリニックフォアでは、いびきや睡眠のお悩みに対応する睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療を行っています。
まずはクリニックからお送りする機器を使ってご自宅で検査いただき、検査結果をお知らせします。睡眠時無呼吸症候群の結果が出た場合や、自覚症状がある場合は、お送りするCPAP装置でCPAP療法を受けていただきます。
オンラインで診察が完了し、検査機器や治療機器はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
いびきや睡眠に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。
※自由診療