代償性発汗とは?原因・発生率・治療法などを詳しく解説

主に多汗症の治療の副作用によって、代償性発汗というものが生じることがあります。代償性発汗は、ある場所に汗をかかなくなったことで、別の場所の発汗が増えることを指します。つまり、治療によって、治療部位の汗は減ったものの、かわりに別の部位の発汗が増えるということです。

今回は、代償性発汗の原因や確率、治療法や予防法などについて詳しく解説します。

代償性発汗とは

代償性発汗は、だいしょうせいはっかんと読みます。ある場所に汗をかかなくなったことで、別の場所の発汗が増えることを指します。

ただ、たとえば手汗がひどくて手術をした場合、今まで手から出ていた汗が代わりに別の場所から出るというわけではなく、手術で交感神経が影響を受けたことで汗が増えると考えられています。

また、代償性発汗では、脇より下の汗が増えることが一般的です。単に発汗量が増えるだけでなく、汗が出るタイミングが変化したり、汗が増える回数が増えたりすることもあります。

代償性発汗の原因

代償性発汗は、発汗にかかわる交感神経が障害されることが主な原因とされています。その原因として、以下のような手術や病気が挙げられます。

多汗症治療

多汗症治療によって代償性発汗が生じることがあります。主に交感神経を遮断する手術が原因となりますが、お薬が原因となることもあります。詳しくは以下の通りです。

手術(交感神経遮断術)

交感神経遮断術(ETS)とは、多汗症治療を目的に行われる手術です。多汗の原因となっている交換神経節(神経細胞が集まる部分)を切ったり焼いたりすることで破壊する治療法で、脇、手のひら、頭部や顔の多汗症治療の際に行うことがあります。

この治療を行うことで発汗が抑えられる代わりに、別の場所に発汗が増えると考えられていますが、そのメカニズムについては明確にわかっていません。

お薬

多汗症の治療では、抗コリン作用や抗ムスカリン作用を持つお薬を使うことがあります。

  • 抗コリン作用:汗の分泌にかかわるアセチルコリンという神経伝達物質のはたらきを阻害する
  • 抗ムスカリン作用:アセチルコリンが結合するムスカリン受容体をブロックすることで、アセチルコリンが結合しにくくなり、はたらきが阻害される

このような作用を持つお薬(とくに塗り薬)を使うことで、代償性発汗が生じることがあります。

なお、多汗症に使うことがある塗り薬の成分と、お薬の添付文書に記載された代償性発汗(または発汗)の副作用が生じる頻度は以下の通りです。

  • グリコピロニウムトシル酸塩水和物:1%未満
  • ソフピロニウム臭化物:1%未満
  • オキシブチニン塩酸塩:不明

A型ボツリヌス療法(ボトックス注射)

美容医療でも使われるボトックス注射は、ボツリヌス菌がつくる毒素を注射するものです。なかでもA型毒素はアセチルコリンの抑制によいとされており、汗を止める効果が期待できるため、多汗症治療に使われることがあります。

ボトックス注射で代償性発汗の副作用が生じる頻度は0.5%未満だとされています。

ワキガ治療

ワキガとは、わきから独特の強いにおいがする病気(体質)のことです。汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があり、多汗症の主な原因はエクリン腺からの汗、ワキガの主な原因はアポクリン腺からの汗だとされています。

ワキガの治療では、皮膚を切開してアポクリン腺を取り除く手術を行うことが一般的です。その際、エクリン腺も同時に取り除かれるため、わきの汗が減り、他の部位に代償性発汗が生じることがあります。

その他の手術

もともと多汗症がなくても、別の手術で交感神経が障害されると汗が増えることがあります。たとえば、肺がんの手術後に代償性発汗が生じることがあります。

神経障害などの病気

以下のような病気に伴い、汗が増えることもあります。

  • 脳梗塞:後遺症として麻痺した側の汗が増えることがある。また、間脳(体温や自律神経の調整にかかわる部分)が障害されることで汗が増えることもある
  • 脊髄損傷:自律神経が障害されて汗が増えることがある
  • Ross症候群:交感神経の病変などによって汗が出なくなることに加え、瞳孔の開きなどがみられるもの。汗が出なくなった部分に代わって別の場所に汗が増えることがある
  • ハーレクイン症候群:暑さや運動によって顔の片側の汗が増えるもの。片側の交感神経がうまく働かず、汗が出なくなり、代わりに異常のない側の汗が増えると考えられている

代償性発汗は必ず起きる?確率は?

多汗症治療目的で交感神経遮断術を行った場合、代償性発汗を確実に避けることはできません。しかし、近年では減少傾向にあると言われています。詳しくは以下の通りです。

近年は減少傾向で発生頻度は20%以下

代償性発汗の発症頻度は2006年頃から減少傾向にあり、近年での頻度は20%以下というデータもあるとされています。これは、交感神経遮断術で遮断する神経の部位が関係すると考えられています。

神経は、脊髄のどこから出るかでT2、T3、T4のように番号が振られており、多汗症の症状が出ている場所によって遮断する神経が異なります。そして、どの神経を遮断するかで代償性発汗の発症率がやや異なるのです。

たとえば、T4の遮断では代償性発汗(中等度以上)の発症率が低く、逆に、T2の遮断では90%以上に代償性発汗が見られるというデータがあります。このように、どの神経を遮断すると代償性発汗のリスクが高いかがわかってきているため、リスクの低い神経を選択して遮断することで、発症率が下がっていると考えられます。

ただし、代償性発汗の感じ方は主観的なものになるため、客観的なデータは存在しません。

顔の多汗症治療で起きやすい

前述の通り、T2の遮断では90%以上に代償性発汗が見られるとされています。顔の多汗症の場合はT2の遮断が必要になるため、代償性発汗が生じるリスクが高いと言えます。

発症の仕方・感じ方には個人差がある

代償性発汗の程度や感じ方は人によって異なるため、代償性発汗が起きていても気にならない方もいれば、多少であっても気になる方もいるでしょう。

また、T2の遮断よりもT4の遮断のほうがリスクが低いというような紹介をしましたが、T2の遮断でも症状が出ない人もいれば、T4の遮断でも強い代償性発汗が生じる人もいるため、個人差があることを理解しましょう。

お薬で代償性発汗が生じる頻度は1%未満

前述のとおり、多汗症に使うことがある塗り薬の成分と、代償性発汗(または発汗)の副作用が生じる頻度は以下のようになっています。

  • グリコピロニウムトシル酸塩水和物:1%未満
  • ソフピロニウム臭化物:1%未満
  • オキシブチニン塩酸塩:不明

また、ボトックス注射で代償性発汗の副作用が生じる頻度は0.5%未満だとされています。

代償性発汗に治療法はある?

代償性発汗自体に有効な治療法はないとされています。ただ、以下のような多汗症の治療によって改善が見込めるケースがあります。

内服療法

方法の一つが多汗症の飲み薬を使うものです。使用するお薬は、プロパンテリン臭化物やトフィソパムなどが挙げられます。

プロパンテリン臭化物は、多汗症に対する保険適応がある唯一の飲み薬です。抗コリン作用(汗の分泌にかかわるアセチルコリンのはたらきを阻害する)や、発汗にかかわる自律神経を遮断することで汗を抑える効果が期待できます。臨床試験においては、代償性発汗の副作用は確認されていません。

また、緊張したときなどに代償性発汗がひどくなるような場合は、トフィソパムを併用することもあります。自律神経の過度の興奮を抑え、バランスを改善するお薬で、通常は更年期障害や自律神経失調症などによる発汗といった自律神経症状に使います。臨床試験においては、代償性発汗の副作用は確認されていません。

なお、漢方薬で効果が期待できるケースもあります。汗に対して効果が期待できる漢方薬にはさまざまなものがありますが、ある研究では、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう・自律神経の乱れなどに対して処方される漢方薬)と苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう・体内のエネルギーや水分の流れを促し、神経症状などを改善する漢方薬)を使ったところ、多汗症の症状が緩和されたという結果が出ています。このケースでは副作用や代償性発汗も見られず、多汗症治療に伴う代償性発汗に対しても効果が期待できる可能性があると示唆されています。

外用療法

塩化アルミニウム製剤や抗コリン製剤といった、多汗症治療に使う塗り薬も、代償性発汗に効果が期待できる可能性があります。

塩化アルミニウム製剤は、お薬の成分が汗管(汗が出る通り道)に沈着したり、細胞を傷害したりして汗管をふさぐことで、汗が緩和されるとされるお薬です。抗コリン製剤は、発汗につながるアセチルコリンという神経伝達物質を阻害することで汗を止めるお薬です。

ただし、代償性発汗は発汗の速度が速い傾向にあり、外用薬では効果が見られないことがあります。また、前述のとおり、外用薬によって代償性発汗が引き起こされることもゼロではないため注意が必要です。

マイクロ波による治療(ミラドライ)

多汗症の治療では、マイクロ波や超音波、レーザーなどの機器を使うこともあり、代償性発

汗に対して効果が期待できる可能性もあります。マイクロ波の場合は、照射されると細胞内の水分子が振動し、電子レンジのように熱が発生します。すると汗腺が加熱され、変性することで発汗が抑制されるというメカニズムになっています。

加熱と同時に皮膚表面を冷却するため火傷することはありませんが、一時的に傷跡が残ることがあるなど、副作用のリスクもあります。

なお、マイクロ波による治療は日本でも普及しつつありますが、日本では脇の多汗症にのみ承認されており、代償性発汗に対しては未承認かつ保険適用外の自費診療となります。

リバーサル手術

リバーサル手術とは、代償性発汗の原因となっている、遮断された交感神経を、代わりの神経を用いてつなぎ、機能を回復させる手術のことです。

海外では行われることもありますが、日本ではほとんど行われていないとされています。

多汗症治療で後悔しないためのポイント

多汗症治療によって代償性発汗が生じるリスクがあります。せっかく治療を受けても、別の場所の汗が増えてしまえば治療の意味がありません。多汗症治療で後悔しないためには、以下のようなポイントを押さえるとよいでしょう。

まずは交感神経遮断術以外の治療を受ける

多汗症治療の方法は交感神経遮断術だけではありません。内服薬や外用薬を含めさまざまな種類があり、基本的には最後の手段として交感神経遮断術を行うというガイドライン上の位置づけになっています。

そのため、まずは医師が判断した適切かつ体に負担の少ない治療を受け、効果を見極めましょう。

交感神経遮断術を受ける際は医師とよく相談する

他の治療で効果が感じられなかった場合は、交感神経遮断術が選択肢となりえます。前述のとおり、汗が気になる部位や遮断する神経の部位によって代償性発汗のリスクは異なるため、わからないことや不安なことは医師に質問し、理解した上で治療を受けましょう。

代償性発汗に関するQ&A

最後に、代償性発汗に関するQ&Aをご紹介します。

代償性発汗が生じる部位は?

代償性発汗では、脇より下の汗が増えることが一般的です。胸、背中、お腹、腰、お尻、ももなどに生じることがあるでしょう。

イオントフォレーシスで代償性発汗になることはある?

ダーマドライなどのイオントフォレーシス治療で代償性発汗が生じることはほとんどないとされています。

イオントフォレーシスは、とくに手のひらの多汗症に対して選択肢となる治療法です。手のひらなどの汗が気になる部分を水道水につけ、弱い電流を流すことで水素イオンが生じ、汗の出口が障害されて汗が出にくくなると考えられています。

高周波による治療で代償性発汗になることはある?

ビューホットなどの高周波による治療も、代償性発汗のリスクはほとんどないとされています。

高周波治療は、とくにわきの多汗症に対して選択肢となる治療法です。細い針を皮膚にさし、針から高周波を発生させることで汗腺を加熱し、変性させて汗を止めるというメカニズムになっています。体への負担は少ないとされていますが、針を刺すため、しばらく腫れや赤み、内出血などが出ることがあります。

市販の制汗剤でも代償性発汗に効果はある?

市販の制汗剤でも代償性発汗に効果が期待できる可能性はあります。

代償性発汗の治療には塩化アルミニウム製剤を使うことがありますが、市販の制汗剤にも、同じ成分が配合されているものがあります。成分表示には「クロルヒドロキシアルミニウム」と書かれていることが一般的です。

ただし、市販品はにおいを抑える効果がメインで、汗を抑える効果は緩やかなものが多いです。成分量も少ないことが多いため、より効果を期待したい場合は医療機関を受診し、医療用医薬品を処方してもらうことを検討するとよいでしょう。

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クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。

オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。

汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。

 

 

※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。

注意 オンラインでお薬の処方ができない場合があります

以下に当てはまる場合はオンラインで処方ができません。

  • 依存性の高い向精神薬(不眠症のお薬を含みます)に分類されるお薬や麻薬は処方できません。
  • 触診・検査などが必要な場合(爪水虫など)、オンラインでは病状を把握するために必要な情報が十分に得られないと医師が判断した場合には、対面での診療をお願いする場合がございます。