汗っかき・多汗症は漢方で治療できる?
汗っかきの症状がひどく、日常生活にも支障をきたすような場合は多汗症と診断されることがあります。多汗症の治療は主に西洋薬の内服や外用によって行うため、メインで漢方薬が使われることは少ないです。
ただ、漢方薬の中にも汗に関する症状に効果が期待できるものもあるため、場合によっては漢方薬が処方されることもあるでしょう。漢方薬は体質改善によって症状を緩和するという側面もあるため、根本的な原因にアプローチすることで、時間をかけて治癒に向かう可能性もあります。
なお、日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」によると、手のひらの多汗症の治療において、バイオフィードバック療法と漢方薬の併用で症状が緩和されたケースがあると記載されています。
バイオフィードバック療法とは、手のひらなどに温度や発汗を感知するセンサーを取り付け、数値を見て手のひらの温度や発汗の低下を意識させる治療法です。
漢方における「汗っかき」の考え方
漢方には、気・血(けつ)・水(すい)という考え方があります。これは体を構成する3つの要素のことで、それぞれエネルギー、血液や体液、それ以外の水分を意味します。そして、これらが過剰になったり不足したり、停滞したりすることが不調の原因だとされています。
汗っかきの場合は、以下のような原因が考えられます。
- 気逆:気が逆流して上にのぼりやすくなり、顔や上半身がほてったり汗をかきやすくなったりする
- 気虚:エネルギーが不足し、疲れや冷えが生じやすく、少し動いただけで汗をかくことがある
- 気滞:気が停滞し、自律神経の緊張や乱れによって汗をかきやすくなる
- 水滞:水分の代謝が停滞しており、体内に余分な水分がたまって汗をかきやすくなる
など
漢方における多汗症の種類
漢方の考え方では、多汗症は以下のような種類に分類することもできます。
- 肝鬱型局所性多汗症:肝鬱(ストレスによる交感神経の過活動)による多汗症
- 表虚型多汗症:表とは人体の表面に近い(浅い)部分のことで、この部分の機能低下が表虚。高齢者や水太り体質の方に見られる
- 気逆型多汗症:気が逆流して上にのぼることによる多汗症。更年期女性など、上熱下寒(上半身が熱く、下半身が冷える)がある方に見られる
- 裏熱型多汗症:裏は人体の奥のほうのことで、例えば体の内部に熱がこもり、汗を出して体温を下げようとするといった状態。口の渇きや、たくさん水を飲んでしまう傾向がある
漢方における汗っかき・多汗症治療の方向性
漢方の考え方では「証」も重要です。証とは体質や病気の原因を指すもので、例えば「実証」は外部からの刺激が原因で症状が現れるもの、「虚証」は体内における何らかの不足によって症状が現れるものを指します。
そして、漢方における汗っかき・多汗症の治療では、漢方薬で体質を中庸(偏りのない状態)にすることで、汗を抑えることを目指します。
具体的には、黄耆(おうぎ)を配合した漢方薬で汗腺の機能を高め、精神性発汗(ストレスや緊張などによる発汗)がある場合は、ストレスに対する感受性を弱める目的で柴胡(さいこ)を配合した漢方薬を使うのが一つの方法として挙げられます。
黄耆はマメ科の植物で、水滞の改善や、固表止汗(汗腺の締まりをよくして汗を止める)などの効果が期待できるとされています。また、利水消腫(余分な水分を排出してむくみを改善する)や補気作用(不足した気を補う)などによっても、汗をかきやすい体質の改善効果が期待できます。
柴胡はセリ科の植物で、中枢神経を抑制する作用があるため、精神的に安定し、ストレスによる発汗を抑えることが期待できます。
汗っかき・多汗症に効果が期待できる漢方薬
黄耆を含むなど、汗っかきや多汗症に効果が期待できる漢方薬の一例は以下の通りです。
四逆散
四逆散(しぎゃくさん)は、ストレス、不安、緊張などの精神的なものによる症状に使われる漢方薬です。柴胡や芍薬による精神安定・抗ストレス作用によって、とくに肝鬱型局所多汗症に効果が期待できます。
証としては、体力中等度以上の方に向いているとされています。
なお、若い女性の肝鬱型局所多汗症で、冷えやめまい、むくみなども伴う場合は、四逆散に当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を合わせたり、より若い年齢の方には小建中湯(
しょうけんちゅうとう)を合わせたりすると、より効果が期待できるという説もあります。
防已黄耆湯
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、名前の通り、黄耆や防已(オオツヅラフジという植物)を配合した漢方薬です。
表虚型多汗症で、皮下脂肪が多く、体温が上がりやすい水太り体質の方に適しているとされています。手のひらの多汗症に対して防已黄耆湯と抑肝散(よくかんさん・ストレスによるイライラがある方に適した漢方薬)を組み合わせたお薬で効果があったという報告もあります。
補中益気湯
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は黄耆や柴胡などを配合した漢方薬で、体力虚弱で元気がなく、疲れやすい方の寝汗などに使われます。
気力、体力、食欲の向上も期待できるため、高齢者の表虚型多汗症にとくに適していると考えられます。
桂枝加黄耆湯
桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)は、桂枝(シナモン)、黄耆、芍薬などを配合した漢方薬です。
体力が衰えている方の寝汗やあせもに使われるお薬で、高齢者の表虚型多汗症に効果が期待できます。
黄耆建中湯
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は、黄耆、桂皮(シナモン)、芍薬などを配合した漢方薬です。
虚弱で疲れやすい方の寝汗や冷え性などに使われるお薬で、こちらも高齢者の表虚型多汗症に効果が期待できます。
白虎加人参湯
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)は、主成分の石膏(含水硫酸カルシウム)から白虎という名前がついており、名前の通り朝鮮人参なども配合されています。
比較的体力があり、体に熱がこもってしまう方に適しており、気温や体温の上昇で汗をかきやすい裏熱型多汗症の方に効果が期待できます。
五苓散
五苓散(ごれいさん)は、沢瀉(たくしゃ・サジオモダカという植物のいも状の部分)や桂皮を配合した漢方薬で、水滞の症状に対して使うことがあります。体力にかかわらず使用できるとされています。
加味逍遥散
加味逍遥散(かみしょうようさん)は、柴胡や芍薬などを配合した漢方薬で、女性特有の症状に使うことが多いです。たとえば、生理不順や生理痛、更年期症状、その他ホルモンバランスの変動によって生じるさまざまな症状などにつかわれることがあります。
多汗症の場合は、気逆型多汗症で、怒りっぽさやイライラなどの症状もある方に適しているとされています。
その他
そのほかに、体質や症状などに応じて、以下のような漢方薬が適していることもあります。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):肝鬱型多汗症で、不眠や悪夢を見る傾向がある方
- 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう):同上かつ虚証の方
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):柴胡加竜骨牡蛎湯や桂枝加竜骨牡蛎湯が適しているケースでは、抑うつが見られることもあり、そのような場合は半夏厚朴湯を組み合わせることで有効なケースがある
- 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう):気逆型多汗症で虚証の方
- 女神散(にょしんさん):加味逍遥散の効果が期待できない場合や、抑うつ症状がある場合に使うことがある
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)+苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):明らかな上熱下寒かつ、気うつ(気が停滞し、抑うつ症状などが出る)や気逆がある多汗症
- 柴陥湯(さいかんとう):黄耆が配合された漢方で効果がない多汗症
- 大承気湯(だいじょうきとう):裏熱型多汗症で、肥満、お腹の張りや便秘がある陽実証(実証かつ、活動的で熱性な体質・症状)の方
- 調胃承気湯(ちょういじょうきとう):同上
汗っかき・多汗症に対して漢方薬を使うときの注意点
汗っかきや多汗症に対して漢方薬を使うときには、以下のような点に注意しましょう。特に、市販の漢方薬を自己判断で使うようなときは十分に注意が必要です。
副作用・アレルギーのリスクを理解する
漢方薬はナチュラルで体に優しいというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、お薬であることに変わりはないので、どんな漢方薬にも副作用のリスクはあります。
添付文書などをよく読み、副作用のリスクや正しい用法用量を理解した上で飲みましょう。
なお、黄耆にアレルギー反応を示す方もいるため注意してください。
妊娠中・授乳中は医師や薬剤師に相談を
漢方薬の中には、妊娠中や授乳中は避けたほうがよいものもあります。そのため、担当医や薬局の薬剤師さんなどに相談してから使用しましょう。
ときには受診も検討する
漢方薬を飲んでも汗っかきが改善されない、または余計にひどくなったり、他にも気になる症状が出てきたりする場合は、早めに受診を検討しましょう。汗っかきの背景には、重大な病気が隠れていることもあるためです。
まずは皮膚科や、多汗症専門の診療科の受診をご検討ください。
漢方薬を飲むと汗が出ることもある
漢方薬の種類によっては、副作用などとしてかえって汗が出ることもあります。たとえば以下のような漢方薬は、発汗や多汗の副作用のリスクがあるとされています。漢方薬を飲んでから汗が気になるようになった場合は、処方医などに相談しましょう。
- 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
- 葛根湯(かっこんとう)
- 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうじんい)
- 葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
- 桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)
- 桂麻各半湯(けいまかくはんとう)
- 五虎湯(ごことう)
- 五積散(ごせきさん)
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
- 神秘湯(しんぴとう)
- 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
- 麻黄湯(まおうとう)
- 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
- 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
- 麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)
- 薏苡仁(よくいにん)
なお、上記の漢方薬はいずれも、発汗傾向が著しい方が飲むと発汗が多くなったり、全身の脱力感が生じたりすることがあるため注意が必要とされています。
また、複数の漢方薬を併用したり、他の西洋薬と併用したりすることで汗が出やすくなることもあるため注意しましょう。
汗っかき・多汗症に関するQ&A
最後に、汗っかき・多汗症に関する質問にお答えします。
そもそも多汗症って何?
多汗症は汗っかきよりもさらに症状が強い状態で、体温調節が必要ない場面でも、日常生活に支障が出るほど多量の汗をかくことをいいます。
多汗症の診断基準は以下の通り。2つ以上当てはまる場合は多汗症の可能性があります。
- 最初の症状が出たのが25歳以下
- 左右対称に汗をかく
- 睡眠中は汗が止まっている
- 1週間に1回以上症状が現れる
- 家族にも同様の症状を持つ人がいる
- 上記の症状によって日常生活に支障が出ている
多汗症の種類や原因は?
多汗症には、病気などの明らかな原因がある「続発性多汗症」と、明らかな原因がない「原発性多汗症」があります。また、それぞれに、全身に汗をかく「全身性多汗症」と、特定の分だけに汗をかく「局所多汗症」があります。
続発性多汗症の原因
続発性多汗症の場合、以下のような病気などが背景にあるケースがあります。
- 内分泌や代謝にかかわる病気(肥満、糖尿病、低血糖、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、更年期障害など)
- 結核などの感染症
- パーキンソン病などの神経疾患
- 脳梗塞
- 脊髄損傷
- 循環器疾患
- 呼吸不全
- 感染症(結核、敗血症など)
- がん
- 皮膚疾患
- お薬の副作用
など
原発性多汗症の原因
原発性多汗症は、続発性のように明らかな原因はありませんが、以下のようなものが原因や誘発因子として考えられます。
- 緊張やストレス
- 自律神経の乱れ
- 生活習慣
- ホルモンバランスの乱れ
- 遺伝
など
汗のお悩みはクリニックフォアの多汗症オンライン診療へ
クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。
オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。