多汗症治療に使われるお薬【外用薬】
多汗症治療に使うお薬は、主に外用薬、内服薬、注射です。まずは外用薬から見ていきましょう。
塩化アルミニウム溶液
有効成分 | 主に塩化アルミニウム六水和物(ACH) |
効果のメカニズム | ・汗管(汗が出る通り道)に沈着して汗管をふさぐ・継続して使用することで汗の分泌細胞が次第に機能を失い汗が減る |
使用する部位とガイドラインでの推奨度※ | ・腋窩多汗症(わきの多汗症):B・手掌多汗症(手のひらの多汗症):B・足底多汗症(足の裏の多汗症):C1・頭部・顔面多汗症:C1 |
保険適用の有無 | なし |
副作用 | 接触性皮膚炎(かぶれ)が生じることがある |
その他 | 薬局や院内で調剤したものを使う |
古くから多汗症治療に使われてきたお薬が塩化アルミニウム溶液です。局所多汗症(汗が多い場所が一部に限られる多汗症)の治療では、まず塩化アルミニウム溶液を使うことが多いです。保険適用がないことや、副作用としてかぶれが生じることがある点に注意が必要です。
※「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版」
推奨度A:行うよう強く勧められる
推奨度B:行うよう勧められる
推奨度C1:行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない
以下同。
エクロックゲル
有効成分 | ソフピロニウム臭化物 |
効果のメカニズム | 抗ムスカリン作用(汗の分泌にかかわるアセチルコリンが結合するムスカリン受容体をブロックすることで、アセチルコリンが結合しにくくなり、汗の抑制につながる) |
使用する部位とガイドラインでの推奨度 | 腋窩多汗症:B |
保険適用の有無 | あり(腋窩多汗症のみ) |
副作用 | ・塗った部分のかぶれ、湿疹、かゆみ、刺激感・口の渇き・排尿障害 など |
その他 | 2020年に日本初の原発性腋窩多汗症治療薬として承認された |
2020年に日本初の原発性腋窩多汗症治療薬として承認されたゲル状のお薬です。それまで、腋窩多汗症に対する第一選択は基本的に塩化アルミニウム溶液でしたが、保険適用がないというデメリットもありました。
エクロックゲルは保険適用が可能ということもあり、最近では腋窩多汗症に対する治療薬として広く使用されています。
ラピフォートワイプ
有効成分 | グリコピロニウムトシル酸塩水和物 |
効果のメカニズム | 抗ムスカリン作用 |
使用する部位とガイドラインでの推奨度 | 腋窩多汗症:B |
保険適用の有無 | あり(腋窩多汗症のみ) |
副作用 | ・塗った部分のかぶれ、湿疹・羞明(まぶしさなどを感じる)、かすみ目、ドライアイ・排尿困難・口の渇き など |
その他 | ・2022年に原発性腋窩多汗症治療薬として承認された・ワイプ型(汗拭きシートのような形)のお薬で、お薬が染み込んだ不織布を拭くようにして使う |
2022年に原発性腋窩多汗症治療薬として承認されたワイプ型(拭くタイプ)のお薬です。エクロックゲルと同様の効果が期待でき、保険適用もあるため、こちらも腋窩多汗症治療薬のよい選択肢となります。
アポハイドローション
有効成分 | オキシブチニン塩酸塩 |
効果のメカニズム | ・抗コリン作用(アセチルコリンのはたらきを阻害する)・抗ムスカリン作用 |
使用する部位 | 手掌多汗症 |
ガイドラインでの推奨度 | 2023年改訂版には記載なし |
保険適用の有無 | あり(手掌多汗症のみ) |
副作用 | ・塗った部分の皮膚炎、湿疹、かゆみ、皮脂欠乏症・口の渇き など |
その他 | 2023年に日本初の原発性手掌多汗症治療薬として承認された |
2023年に日本初の原発性手掌多汗症治療薬として承認された、ローションタイプのお薬です。
それまで、手掌多汗症に対する第一選択は基本的に塩化アルミニウム溶液でしたが、前述の通り、保険適用がないことといったデメリットもありました。
アポハイドローションは保険適用が可能ということもあり、これからの手掌多汗症に対するよい選択肢となっていくでしょう。
多汗症治療に使われるお薬【内服薬】
多汗症治療に使う内服薬は、外用薬と同様に抗コリン作用を持つお薬のほか、発汗にかかわる交感神経(自律神経)に作用するお薬、漢方薬などがあります。詳しく見ていきましょう。
プロバンサイン
有効成分 | プロパンテリン臭化物 |
効果のメカニズム | ・抗コリン作用・自律神経節遮断作用(発汗にかかわる自律神経節を遮断することで、汗の抑制につながる) |
使用する部位とガイドラインでの推奨度 | ・全身性多汗症:C1・腋窩多汗症:C1・手掌多汗症:C1・足底多汗症:C1・頭部・顔面多汗症:C1 |
保険適用の有無 | あり |
副作用 | ・口の渇き・目の調節障害・排尿障害・便秘など |
多汗症に対しては、外用薬と同様、内服薬も抗コリン作用のあるお薬(抗コリン薬)を使うことが多いです。多汗症治療の内服抗コリン薬の中で、唯一多汗症に対して保険適用となるのがプロパンテリン臭化物(プロバンサイン)です。
とくに、全身性多汗症の治療の選択肢は基本的に内服抗コリン薬のみなので、プロバンサインを使うことが多いでしょう。他の局所多汗症については、外用薬よりも優先順位は低いですが、プロバンサインも選択肢となります。
カタプレス
有効成分 | クロニジン塩酸塩 |
効果のメカニズム | 発汗にかかわる交感神経の緊張を抑制 |
使用する部位とガイドラインでの推奨度 | ・全身性多汗症:C1・腋窩多汗症:C1・手掌多汗症:C1・足底多汗症:C1・頭部・顔面多汗症:C1 |
保険適用の有無 | なし |
副作用 | ・口の渇き・眠気・目の乾燥・便秘など |
その他 | ・本来は高血圧の治療薬・2024年4月頃から供給が停止されている(再開時期未定) |
交感神経の緊張を抑制することで、発汗を抑える効果が期待できるお薬です。本来は高血圧の治療薬であり、日本では多汗症治療に関して未承認かつ、保険適用もありません。
グランダキシン
有効成分 | トフィソパム |
効果のメカニズム | ・自律神経のバランスを改善する・自律神経の過度の興奮を抑える |
使用する部位とガイドラインでの推奨度 | ・全身性多汗症:C1・腋窩多汗症:C1・手掌多汗症:C1・足底多汗症:C1・頭部・顔面多汗症:C1 |
保険適用の有無 | 自律神経症状として発汗に対して保険適用あり |
副作用 | ・口の渇き・眠気・便秘など |
グランダキシンは自律神経を調整するお薬です。更年期障害や卵巣欠落症状、自律神経失調症、頭部・頚部損傷などによる発汗と考えられる場合に用いられることがあります。
ポラキス
有効成分 | オキシブチニン塩酸塩 |
効果のメカニズム | 抗ムスカリン作用 |
ガイドライン | お薬の紹介はあるが、推奨度の記載はなし |
保険適用の有無 | なし |
副作用 | ・口の渇き・目のかすみ・排尿障害・便秘など |
その他 | ・本来は膀胱の異常による失禁や頻尿の治療に使うお薬・多汗症の改善にも効果が期待でき、欧米では多汗症治療にも広く使われている |
アポハイドローションと同じく、オキシブチニン塩酸塩を有効成分とするお薬です。本来は膀胱の異常による失禁や頻尿の治療に使うお薬ですが、多汗症の改善にも効果が期待でき、欧米では多汗症治療にも広く使われています。なお、ベシケアは多汗症に対して適応外使用(保険未承認)となるため、自由診療で処方されることが一般的です。処方の可否や治療方針は医師の判断により異なります。
ベシケア
有効成分 | コハク酸ソリフェナシン |
効果のメカニズム | 抗コリン作用 |
ガイドライン | 記載なし |
保険適用の有無 | なし |
副作用 | ・口の渇き・目のかすみ・排尿障害・便秘など |
その他 | 本来は過活動膀胱(膀胱が過敏になり、意思に反して膀胱が収縮して、急な尿意や頻尿が生じる状態)による失禁、頻尿などの治療薬 |
ポラキスと同じく、失禁や頻尿などの治療薬ですが、多汗症の改善にも効果が期待できます。なお、ベシケアは多汗症に対して適応外使用(保険未承認)となるため、自由診療で処方されることが一般的です。処方の可否や治療方針は医師の判断により異なります。
漢方薬
多汗症の治療は、ここまでに紹介したような西洋薬を使うことが多いですが、場合によっては漢方薬も選択肢となります。漢方薬の中には、汗の改善が見込めるものも複数あり、体質や、他の症状などに応じてお薬を選びます。
たとえば、以下のようなお薬を使うことがあります(使い方はあくまで一例です)。
- 四逆散:主にストレスによる多汗症に使う
- 防己黄耆湯:皮下脂肪が多く、体温が上がりやすい水太り体質の方の多汗症に使う
- 白虎加人参湯:比較的体力があり、体に熱がこもってしまう方で、気温や体温の上昇で汗をかきやすい場合に使う
- 補中益気湯:体力虚弱で疲れやすい方の寝汗などに使う
- 黄耆建中湯:体力虚弱で疲れやすい方の寝汗や冷え性などに使う
- 桂枝加黄耆湯:体力が衰えている方の寝汗などに使う
- 五苓散:水滞(水分の代謝が停滞し、体内に余分な水分がたまって汗をかきやすくなる状態)に使う
- 柴胡加竜骨牡蠣湯:主にストレスによる多汗症で、不眠などの睡眠に関する症状もある場合に使う
- 加味逍遙散:生理や更年期など、女性ホルモンの変動によって汗が出ており、イライラなども伴う場合に使う
など
多汗症治療に使われるお薬【A型ボツリヌス菌毒素製剤】
有効成分 | A型ボツリヌス菌毒素 |
効果のメカニズム | 抗コリン作用 |
ガイドライン | ・腋窩多汗症:B・手掌多汗症:C1・足底多汗症:C1・頭部・顔面多汗症:C1 |
保険適用の有無 | あり(重症型の腋窩多汗症のみ) |
副作用 | 筋力低下など |
その他 | 保険適用外の部位への注射は数万円以上と高額になる傾向 |
いわゆるボトックス注射です。ボツリヌス菌がつくる毒素の中でも、アセチルコリン抑制に対して最も効率がよいとされるA型毒素を患部に注射します。
一度注射をすると1週間くらいで汗が減り、効果は半年程度続くとされています。
なお、ボツリヌス菌の毒素は筋肉の緊張を和らげるため、ペンが持ちにくいといった筋力低下が生じることがありますが、通常は一過性で、自然に気にならなくなることが多いです。
多汗症に関するよくある質問
最後に、多汗症に関するよくある質問にお答えします。
そもそも多汗症とは?
単に汗っかきというわけではなく、生活に支障が出るほどの大量の汗が出るものを多汗症と言います。汗がしたたり落ちるほど出ることもあります。
診断基準は以下の通りで、2つ以上該当すると多汗症の可能性があります。
- 最初の症状が出たのが25歳以下
- 左右対称に汗をかく
- 1週間に1回以上症状が現れる
- 家族にも同様の症状を持つ人がいる
- 睡眠中は汗が止まる
- 上記の症状によって日常生活に支障が生じている
なお、気温や体温が上がったり、緊張状態になったりしたときに汗が出やすい傾向があるものの、暑くないときやリラックス状態でも汗が出ることがあります。
多汗症に悩む人は多い?
国内の調査では、原発性局所多汗症に悩んでいる方は、2013年には12.8%(回答者数5,807人)、2020年には10%(回答者数60,969人)というデータがあります。このデータでは多汗症に悩んでいる方は20~30代に多いという結果も出ています。
多汗症にはどんな種類がある?
多汗症は、原因と部位の違いによっていくつかの種類に分けられます。まず、何らかの病気やお薬の副作用など、はっきりとした原因があって汗が増える「続発性多汗症」と、そのようなはっきりとした原因が見当たらない「原発性多汗症」に分けることができます。
さらに、汗が増える部位によって「全身性多汗症」と「局所多汗症」に分けることができます。そこからさらに、局所多汗症「腋窩多汗症(えきかたかんしょう)」(わきの多汗症)、「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」(手のひらの多汗症)、「足底多汗症(そくていたかんしょう」(足の裏の多汗症)、「頭部・顔面多汗症」に分けられます。
ワキガとの違いは?
ワキガは「腋臭症(えきしゅうしょう)」や「アポクリン臭汗症」と呼ばれる病気で、わきなどから強いにおいを発する症状・体質のことです。
汗をかいていなかったり少なかったりしてもにおうことがあるため、多汗症とワキガは全くの別物です。
また、汗を分泌する汗腺には、エクリン腺とアポクリン腺があります。多汗症の場合はエクリン腺から汗が大量に出ますが、この汗にはにおいがほとんどありません。一方で、ワキガの場合はアポクリン腺から出る汗が原因となります。この汗にはタンパク質や脂質などが含まれており、これを皮膚の常在菌が分解することでにおいが生じます。
ただし、多汗症とワキガを併発することは珍しくないとされています。そのため汗が多くにおいも強い場合は、ワキガも合併している恐れがあります。
多汗症は治療が必要?
汗があまりにも多いと生活に支障をきたしてしまいます。それだけでなく、汗で皮膚が湿っている時間が長いため、皮膚のめくれやあせもといった症状が出ることもあります。細菌などが感染してしまうこともあるため、そのようなことを防ぐためにも、はやめに治療を受けたほうがよいでしょう。
多汗症の治療法は?
ここまでに紹介したようなお薬による治療法以外にも、以下のような治療法があります。
- 水道水イオントフォレーシス:汗が気になる部分を水道水につけ、弱い電流を流す治療法
- 機器による治療:レーザーや超音波などを照射して汗腺を変性・凝固させる治療法
- 交感神経ブロック:お薬やレーザーなどで、発汗の原因となっている交感神経の部位をブロックする治療法
- 交感神経遮断術:発汗の原因となっている交感神経の部位を切除したり焼いたりして遮断する治療法
- 外科的切除:汗腺を取り除く治療法
多汗症を発症している部位や重症度によっても治療法は異なるため、医療機関で適切な治療を受けるとよいでしょう。
多汗症のお薬は市販されている?
市販の制汗剤にも、塩化アルミニウムと同じ成分が配合されているものはあります。その場合は、「クロルヒドロキシアルミニウム」と記載されていることが一般的です。ただし、医療機関で処方されるものとは濃度が異なるため、期待できる効果も異なる可能性が高いです。
また、他のお薬は市販されているものはないため、皮膚科などの医療機関を受診する必要があります。
多汗症のセルフケアは何をすればいい?
制汗剤を使う、タオルなどでこまめに汗を拭きとる、わき汗パッドで汗染みを防ぐなどの方法があります。また、発汗量を少しでも抑えるために、ストレスを溜めない、十分に睡眠をとる、適度に運動するなど、生活習慣も整えるとよいでしょう。
汗のお悩みはクリニックフォアの多汗症オンライン診療へ
クリニックフォアでは、汗のお悩みに対応する多汗症について、対面診療だけでなくオンライン診療も行っています。
オンライン診療はオンラインで診察が完了し、お薬はご自宅などのご希望の場所に届くため、直接の受診に抵抗がある方やお忙しい方でも受診しやすくなっています。
汗に関して気になることがある方は、まず受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。