気管支喘息とは
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症が原因で起こります。気道とは、鼻から気管支・肺までつながった空気の通り道です。炎症を起こして過敏になっている気道は、ちょっとした刺激にも弱くなっています。そのため、周囲の筋肉が収縮したり、粘膜がむくんだりして気道が狭くなりやすいのです。
激しい咳や喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイという音)といった気管支喘息の症状は、狭くなった気道を空気が通ろうとすることで現れます。また、空気が十分に取り込めなくなり、重症になると呼吸困難に陥ることもあるため、早めの対応が必要です。
年齢による有病率
気管支喘息は小児まで(おおむね15歳未満)に多い病気の一つです。厚生労働省が2014年に病院・診療所を対象に行った調査では、14歳以下の患者がほかの年齢に比べて多いという結果が出ています。特に、1歳から9歳までの気管支喘息患者数が突出しています。
小児の気管支喘息は治療により寛解・完治するとされていますが、全ての小児にあてはまるわけではありません。小児の気管支喘息患者の約30%は、完治せず成人喘息に移行するとされています。また、症状がなくなった50~70%の気管支喘息患者のうち、約30%が成人後に再発するという調査結果もあります。
後々まで影響を残さないためにも、小児の気管支喘息治療は早期にそして継続して行うことが重要といえるでしょう。
(参考)
成人喘息の疫学、診断、治療と保健指導、患者教育
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07.pdf
小児と大人の気管支喘息の違い
小児と大人では、同じ気管支喘息でもやや異なる点があります。
まず、年齢が低いほど症状の進行が速い傾向があります。低年齢の子どもの気道は細いため、気管支がより細く狭くなりやすいのです。
また、小児の気管支喘息患者の多くは、思春期頃に症状が軽快します。一方、大人になってから発症すると慢性化・重症化しやすいとされています。
そのほかに、原因や症状などにも少し違いがあるため、後述します。
小児の気管支喘息の主な症状
咳や喘鳴といった気管支喘息の症状は、どの年齢でも同じです。ただし、小児と大人ではやや異なる部分があります。主な症状と併せて見ていきましょう。
激しい咳
気管支喘息の咳は、空咳と呼ばれる乾いた咳です。なかなか止まらないことが多いため、呼吸困難につながる恐れもあります。小児の場合、咳に伴って嘔吐することもあるほどです。
喘鳴
喘鳴は狭くなった気道を空気が通るために起こります。ヒューヒュー、ゼイゼイという気管支喘息の特徴的な音です。聴診器をあてなくても聞こえることもあります。
気道(気管支)が常に炎症で過敏になっているために起こる症状です。ただし、小児は気道がもともと細いため、風邪などほかの病気でも喘鳴が起こることがあります。
息苦しさ
気道が狭まることで呼吸が十分にできず、息苦しさを感じる方も少なくありません。しかし、小児は自分の症状をうまく伝えられないため「機嫌が悪いのかな?」と見過ごされてしまうことがあります。小鼻が開いたり、胸に手をあてたりしていたら、呼吸が苦しいのかもしれません。
また、重症になると呼吸困難で命にかかわることもあります。治療方法が限られていた時代には、気管支喘息の発作で亡くなる人もいました。現代でも数こそ大幅に減りましたが「喘息死」はなくなってはいないため、軽視は禁物です。
発作を繰り返す
気管支喘息は、常に気道が炎症を起こしている状態です。そのため、風邪などによる一時的な気管支炎とは異なり、症状が長く続く傾向があります。また、いったん症状が治まっても、きっかけがあればぶり返すことが少なくありません。「よくなったり悪くなったりを繰り返す」のが気管支喘息の特徴です。咳や喘鳴といった症状が何度も起こるときは、気管支喘息を疑いましょう。
小児の場合、気道が大人よりも狭いため、ちょっとした刺激にも反応しやすい傾向があります。大泣きしたり、遊びまわったりした後に気管支喘息の発作が起こりやすいのもこのためです。
夜間や早朝に症状が悪化する傾向がある
夜間や早朝に激しい咳で目が覚めてしまうことはないでしょうか。本来なら体を休めているはずの時間帯に症状が悪化するのも、気管支喘息の特徴です。特に小児は、寝ているときに発作が起こると、息を吸う度に胸がペコペコへこむ(陥没呼吸)ことがあります。
夜間や早朝に症状が起こるのは、副交感神経が優位になるためです。体をリラックスさせる副交感神経には、気道を収縮させる働きもあります。そのため、気道に炎症があると空気が通りにくくなり、発作が起こりやすいのです。
また、寝ている間は炎症を抑える働きのあるステロイドホルモンの生成量が低下します。気道が刺激を受けやすくなる原因の一つです。
小児の気管支喘息と間違いやすい病気
咳や喘鳴があるからといって、全てが気管支喘息というわけではありません。咳はさまざま病気で見られる症状です。また、小児の場合、気管支喘息以外の呼吸器疾患でも起こることがあります。ここでは、気管支喘息と見分けのつきにくい病気について紹介します。
咳喘息
咳喘息は、気管支喘息の一歩手前とされる症状です。喘鳴がなく、咳だけが長く続きます。通常の風邪薬では症状が治まらず、気管支拡張薬(気管支喘息の治療薬)で効果が見られるのが特徴です。また、放置すると気管支喘息に移行する恐れがあります。
クループ症候群
クループ症候群は、ウイルス感染などによるのどの奥(喉頭)の炎症が原因でおこる病気の総称です。主な症状は以下の通りです。
- 犬やオットセイの鳴き声のような咳
- 吸気性喘鳴(息を吸うときにヒューヒュー音がする)
- 声がれ
- 陥没呼吸(呼吸するときに胸がペコペコする)
軽度なら特別な治療の必要はないこともありますが、急に悪化することもあり注意が必要な病気です。
小児の気管支喘息の主な原因
小児の気管支喘息の多くは、ダニなどのアレルギーやアトピー素因が原因とされています(アトピー型)。一方、大人は感染型などもあり、非アトピー型であることが多いとされています。
症状の悪化や発作を防ぐために、日常生活の中で接することの多いアレルゲンや環境について知っておきましょう。
花粉やハウスダストなどのアレルゲン
花粉やダニ、ハウスダスト、ペットの毛やフケ、食物などアレルギー症状の原因となるものは、気管支喘息の発作を誘発する恐れがあります。気道でアレルギー反応が起こり、炎症や腫脹につながるためです。特に、本人や家族にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどがある場合は注意しましょう。
前述の通り、小児の気管支喘息は、大人に比べるとアレルゲンによって症状が起こりやすいとされています。しかし、アレルギーがなければ気管支喘息になりにくいというわけではありません。ほかの原因で起こることもあるため、咳が続く、呼吸が苦しそうといった症状があるときは医療機関を受診しましょう。
環境の影響
大気汚染や急激な気圧・気温の変化が刺激になり、気管支喘息の発作を引き起こすことがあります。空気がホコリっぽい時期や、昼夜の寒暖差が大きい時期は注意が必要です。マスクや空気清浄機を使ったり、室温を一定に保ったりして刺激を避けましょう。
タバコの煙は本人だけでなく、周囲の人にも影響を及ぼし、咳などの発作を引き起こす可能性があります。お子さんのいる場所での喫煙は避けましょう。
運動
気管支喘息は、激しい運動や長時間の運動によって運動誘発性喘息(Exercise induced asthma:EIA)に移行する恐れがあります。そのため、「苦しい」と感じたら、無理をしないようにしましょう。自分の体力に合わせることが大切です。お子さんの場合は、適切な運動量や注意点などを医師に相談しておくとよいでしょう。
ストレス
ストレスは気管支喘息の症状を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。大人は自分なりの解消法を見つけておき、なるべくストレスをためこまないように心がけましょう。お子さんの場合は自己管理が難しいことも多いため、周囲の大人が気にかけてあげてください。
また「いつ発作が起きるか分からない」という不安や心配もストレスの種になります。気管支喘息の治療に積極的に取り組むことは、不安の軽減や、ストレスの緩和にもつながります。
小児の気管支喘息の主な診断方法
気管支喘息の診断には、さまざまな検査が必要です。成人と同じ検査が難しい小児や高齢者のために、負担のかかりにくい検査が行われることもあります。ここでは、気管支喘息の主な診断方法について解説します。
問診
問診は気管支喘息の診断・治療の第一歩です。咳や喘鳴、息苦しさといった症状があるか、いつからあるかなど、できるだけ詳しく回答しましょう。
小児の気管支喘息は、アレルギーやアトピー素因が原因であることが少なくありません。本人や家族にアレルギーがある、アトピー性皮膚炎や結膜炎の病歴があるという場合は、必ず医師に伝えましょう。
なお、小児の場合、自分の症状を言葉にするのが難しいことがあります。保護者はお子さんの様子をよく観察しておくことが大切です。メモして持参すると、診断の手がかりになります。
呼吸機能検査(肺機能検査・スパイロメトリー)
スパイロメーターという機械を用いて、肺の働きや呼吸器の機能を調べる検査です。
診断の根拠になるのは、努力性肺活量(最大限に息を吸い込み、吐き出した空気の量)と1秒量(1秒間に吐き出した空気の量)です。努力性肺活量に対する1秒量の割合(1秒率)が70%以下になると、気管支喘息の可能性があります。気道が狭くなっていると1秒量が低下するためです。
ただし、呼吸器機能検査は「大きく息を吸い、思いきり吐き出す」ことができないと正しい結果が得られません。検査が難しい小児や高齢者は、他の検査方法が選択される場合があります。
モストグラフ
モストグラフは、安静時の呼吸で行う検査です。呼吸抵抗(気道の空気の通りにくさ)の変化を3Dグラフで表示して、気道の状態をチェックします。気管支喘息の診断だけでなく、管理にも有効です。
モストグラフはスパイロメトリーのように、思いきり空気を吸って吐く必要がありません。普段通りの呼吸で検査できるため、小児や高齢者でも受けられるというメリットがあります。
呼気NO(一酸化窒素)検査
呼気(吐く息)中の一酸化窒素濃度を測定する検査です。機械に息を吐き出すだけで検査ができます。
気管支喘息など、気道に炎症があると一酸化窒素を作る酵素が増加します。診断だけでなく炎症の程度や空気の通りやすさを調べるのにも有効です。
血液検査
血液検査はアレルギーの有無を調べるために行われます。
好酸球は白血球の成分の一つです。アレルギー反応を起こすと増加する傾向があります。
IgE抗体検査は、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体の量を調べる検査です。IgE抗体には、アレルゲン(ダニや花粉など、アレルギーの原因となるもの)の数値を測定する特異的IgE抗体検査と、体内の特異的IgE抗体の総量を調べる非特異的IgE抗体検査があります。数値の高さでアレルギーの有無や程度を診断できます。
小児の気管支喘息の薬物治療
気管支喘息の治療薬には、症状を予防・抑制するものと、急性の発作を鎮めるためのものがあります。
症状はお薬で治まることがほとんどですが、気管支喘息はちょっとしたきっかけでぶり返しやすい病気です。お薬を継続して症状がないようにしていくことが大切です。症状がないからと、自己判断でやめないようにしましょう。
なお、吸入タイプのお薬がよく使われますが、小児では小さい吸入器は難しいかもしれません。ネブライザーを自宅に用意して治療することもあります。保護者のサポートが必須のため、吸入薬の使い方も把握しておきましょう。
長期管理薬
長期管理薬は、気道の炎症を抑えて発作を予防するために用いられます。吸入薬や内服薬が一般的であり、以下のようにさまざまなお薬があります。
種類 | お薬の概要 | その他特徴、使い方など |
吸入ステロイド薬 | 強い抗炎症作用で気道の炎症を抑えるお薬 | ・どんな重症度でもメインとして使われるお薬 ・成分が直接気道に届く ・効果が出始めるまで3日~1週間ほどかかる |
長時間作用型性β2刺激薬 | 気管支の平滑筋細胞と結合して平滑筋をゆるめ、気管支を広げるお薬 | ・吸入薬・内服薬 ・貼り薬の剤形がある ・吸入ステロイド薬と併用するのが一般的 |
ロイコトリエン受容体拮抗薬 | ロイコトリエン※の働きを阻害して、発作を予防するお薬 | 内服薬(カプセル・錠剤) |
テオフィリン徐放薬 | 気道を広げ、炎症を抑えるお薬 | ・作用がゆっくりで長時間持続する ・内服薬(錠剤) |
抗アレルギー薬 | アレルギー反応を抑えるお薬 | アレルギーの関与があるときに処方される |
※ロイコトリエン:アレルギー反応によって生成される物質。気道を収縮させたり、炎症を起こしたりする働きがあるため、気管支喘息の発作につながる恐れがある。
発作時の治療薬
気管支喘息の発作が起こったときに、速やかに鎮めるお薬です。長期管理薬と同様に、吸入薬や内服薬があり、以下のようにさまざまなお薬があります。
種類 | お薬の概要 | その他特徴、使い方など |
短時間作⽤型吸⼊β2刺激薬 | 交感神経を刺激して気管支を広げるお薬 | ・気管支を広げる作用が強く、即効性がある ・吸⼊補助器具(スペーサー)を使うと、よりスムーズかつ即効性が期待できる ・炎症を抑える効果はない(あくまで緊急用のお薬) |
テオフィリン薬 | 発作時に気道を広げて呼吸を楽にする | ・長期管理薬として用いられるテオフィリン徐放薬と同様の作用が期待できるお薬 ・テオフィリン徐放薬よりも効果が早いものは発作時の治療薬としても使われる |
抗コリン薬 | 気管支を収縮させるアセチルコリンという物質を抑制し、気管支を広げる | 短時間作⽤性吸⼊β2刺激薬と併用することもある |
吸入薬の使い方
吸入薬とその吸入器には種類がさまざまです。処方を受ける際に親御さんがしっかりと説明を受けて把握しておきましょう。お薬といっしょになった吸入器が難しい場合は、ネブライザーを使うことがあります。受診の際に相談しましょう。
吸入後はうがいが必須です。うがいした水を飲まないよう注意しましょう。
吸入補助器を使うと、スムーズに吸引ができるだけでなく、確実に吸い込めます。咳や吐き気の心配もありません。
お子さんに吸入薬を使わせるときは、正しくできているか保護者がチェックしましょう。うまくできない場合は、医師に相談しましょう。乳幼児や小児は、吸入に抵抗を感じることが少なくありません。まず吸入補助器をおもちゃとして使わせるなど、慣れることから始めるとよいでしょう。
気管支喘息のセルフケア
気管支喘息の発作は、日常生活を見直すことで予防が期待できます。普段から気をつけたいことや、予防に効果的な改善方法を紹介します。
換気・掃除を心がける
刺激の原因となるアレルゲンを排除することで、気管支喘息の予防効果が期待できます。小児の場合、自宅で過ごす時間が多いため、生活環境の見直しは特に重要といえるでしょう。
まず、部屋の換気と掃除はダニやハウスダストを除去するのに効果的です。花粉や外気の刺激に敏感な場合は、空気清浄機がおすすめです。エアコンのフィルターや内部も定期的に掃除して、ホコリやカビを防ぎましょう。
寝具の管理に気を遣う
布団はダニの温床になりやすいため、こまめに天日干しします。取り込んだら掃除機をかけて、ダニの死骸やホコリを吸い取りましょう。防ダニ効果のある布団カバーをかけるのも有効です。
アレルゲンの温床になる物を避ける
カーペットやぬいぐるみ、ペットはなるべく避けましょう。フローリングは掃除しやすく、
水拭きもできるのでカーペットに比べて、清潔を保ちやすいというメリットがあります。ぬいぐるみやペットの毛は、アレルゲンとなるダニやハウスダストがたまりやすいのでおすすめできません。
タバコを遠ざける
タバコの煙は気道の刺激になるため、家族など身近に子どもがいる場合は、特に大人側からの配慮が必要です。また、喫煙者の多い場所には近づかない、マスクをつけるなど、できるだけお子さんが受動喫煙をしないようにしましょう。
家族で治療に取り組む
小児の気管支喘息治療には、家族で取り込むことが大切です。お薬を家の中の目につきやすい場所や毎日必ず通るところに置く、カレンダーに印をつけるなど、吸入や服薬を日常生活に組み込んでいきましょう。
吸入を手伝ったり、自分でできるよう見守ったりするのも効果的です。上手にできたらほめてあげる、カレンダーにシールを貼るなど、習慣化できるような工夫をするとよいでしょう。
こまめな掃除や禁煙など、家族が協力して環境を整えることも大切です。
気管支喘息は保険適用で診療できる?
気管支喘息は保険適用で診療が受けられることが一般的です。診療は、保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、基本的に、激しい咳や呼吸困難などなんらかの症状があり、治療の必要性があり、決められた範囲内の治療法を実施する場合は保険適用となります。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査・治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査・治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
気管支喘息の治療はクリニックフォアへ
気管支喘息の症状は苦しいものです。大人でもつらいと感じるほどですから、小児の気管支喘息患者はなおさらでしょう。
気管支喘息は適切な治療をすれば、症状のコントロールが可能です。早めに医療機関を受診し、治療に取り組むことが大切です。
クリニックフォアでは、さまざまなお悩みに対応するオンライン診療を行っており、保険診療にも対応しています。
「咳がずっと続いている」「気管支喘息ではないか?」と心配になったら、受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。