HIVの潜伏期間
HIVの潜伏期間を理解する前にHIVとエイズの違いを確認しておきましょう。
HIVとはヒト免疫不全ウイルスの略でウイルスの名称です。
一方エイズとはHIVに感染することで発症する病名を指します。
つまりHIVの潜伏期間とはHIVの初期症状の潜伏期とエイズ発症までの潜伏期間に分けられます。
HIVに感染してもすぐにエイズを発症することはまれで、主に3つの時期に分けられます。
急性期
HIVに感染した場合、最初に現れる症状を「急性期」と呼びます。
急性期までの潜伏期間は2~4週間が多くなります。
急性期の症状には、
- 発熱
- 頭痛
- 筋肉痛
- 喉の痛み
- 吐き気
- 下痢
- 発疹
ただし上記の症状は現れない人も多く、全ての人が発症するわけではありません。
無症候性キャリア期
急性期を過ぎると、HIVは免疫系の中に侵入して、リンパ球という免疫細胞を攻撃し始めます。この時期を「無症候性キャリア期」と呼びます。この期間中、症状は現れませんが、ウイルスは増殖を続けていきます。
無症候性キャリア期は数ヶ月〜10年ほどが目安となりますが、個人差が大きく15年以上発症しないケースもあります。
エイズ期
無症候性キャリア期が長引くと、免疫系が壊れ始め、細菌やウイルスに感染しやすくなります。
この状態を「エイズ」と呼びます。
エイズの症状には、
- 発熱
- 体重減少
- 慢性的な下痢
- 口内炎
- 肺炎
- 脳炎
などがあり、適切な治療を受けないと命にかかわることもあります。
HIVの症状
- 感染初期ではインフルエンザのような症状が出ることもある
- HIVに感染するとリンパ球が破壊され免疫が低下する
- 免疫が低下するとエイズを発症し、普段は感染しない病気でも感染しやすくなる
HIVに感染して2~4週間すると「急性期」と呼ばれる時期に移行し、発熱や頭痛、筋肉痛、喉の痛みなどの症状が出ることがあります。
ただし症状が出ない人も多いため感染初期にHIV感染に気づくには検査を受けるほかありません。
急性期は2週間ほどで自然に治まり、その後は無症候性キャリア期に移行します。
無症候性キャリア期は個人差があり、数ヶ月から10年以上にわたるケースもあります。
この間はHIVの検査をしない限りは発覚することはなく、感染していることに気づかないで過ごすことがほとんどです。
無症状期を過ぎると体内のリンパ球が徐々に破壊され、免疫が低下していきます。
免疫が低下すると発熱や下痢、倦怠感やリンパ節の腫れなどの症状が続くようになり、エイズ関連症候群というエイズの前触れのような症状が現れます。
さらに進行し、ウイルス感染や細菌感染などを引き起こすとエイズと診断されます。
HIVの感染経路
HIVは感染者の体液に含まれるウイルスによって感染し、主に以下のような感染経路があります。
性行為による感染
性器、肛門、口腔などの粘膜を介して、性行為によって感染します。
感染リスクは、感染者のウイルス量、性的行為の頻度、使用するコンドームの有無などによって異なります。
性交渉によって感染する場合、男性同士、女性同士、異性間、どのような性的行為でも感染する可能性があります。
注射器の共用による感染
薬物使用者が注射器を共用することによって感染することがあります。
共用した注射器を通じて、感染者の血液が他の人に感染することがあります。
母子感染
HIV陽性の妊娠中または出産直前の女性から、胎児または授乳中の赤ちゃんに感染することがあります。
治療を行うことによって、感染を予防することができます。
その他の感染経路
HIV感染の他の経路には、血液製剤を受けた場合、臓器移植を受けた場合、歯科治療や医療行為中に感染することがあります。
ただし、これらの場合は現在では非常に稀なケースとなっています。
HIVの検査
HIVは感染しても症状が出ないことも多く、感染に気づく機会が非常に少ないという問題があります。
何か思い当たる行為があった場合は迷わず検査を受けることが肝要です。
検査方法
主な検査方法は採血による抗体検査です。
検査は結果が出る期間によって2種類に分けられます。
- 通常検査:結果は数日後にわかる
- 即日検査:陰性の結果がその日のうちにわかる
ただし、判定保留(陰性か陽性か結果が出ない)の場合は確認検査を行うため、結果が遅れることがあります。
検査可能な時期
HIVは感染してからある程度の期間が経過していないと正確な結果を出すことができません。
- 通常検査:感染機会から60日以上経過
- 即日検査:感染機会から90日以上経過
厚生労働省のガイドラインでは確実な結果を出すためには感染の機会から3ヶ月以上経過してからの検査が必要とされているので、上記の期間を目安にしてから検査を受けるようにしましょう。
治療方法は抗HIV薬の投与
HIVは現代医療では体内から完全に除去することができません。
エイズを発症しないように抑制していく薬物治療が中心となります。
抗HIV薬の種類
抗HIV薬にはいくつかの種類があり、複数組み合わせて処方されるケースが一般的です。
以下に代表的な薬剤の特徴を解説します。
核酸系逆転写酵素阻害剤・非核酸系逆転写酵素阻害剤
核酸系逆転写酵素阻害剤・非核酸系逆転写酵素阻害剤は、HIVが増殖する際に必要な逆転写酵素の働きを阻害しウイルスの増殖を抑制する作用があります。
主な代表薬剤にはジドブジン、ラミブジン、テノホビルなどがあります。
逆転写酵素阻害剤は多くの場合、他の薬剤と併用されます。
プロテアーゼ阻害剤
プロテアーゼ阻害剤はHIVの増殖に必要なプロテアーゼという酵素を阻害し、ウイルスの増殖を抑制する作用があります。
主な代表薬剤には、リトナビル、アタザナビル、ダルナビルなどがあります。
プロテアーゼ阻害剤も他の抗レトロウイルス薬と併用することで、より効果的な治療が可能です。
インテグラーゼ阻害剤
インテグラーゼ阻害剤はHIVがウイルスゲノムをヒト細胞に組み込む際に必要なインテグラーゼという酵素を阻害し、ウイルスの増殖を抑制する作用があります。
主な代表薬剤には、エルビテグラビル、ダイトグアブル、バイトグアブルなどがあります。
侵入阻害薬
侵入阻害薬はウイルスがヒト細胞に侵入するために必要なCCR5という受容体を阻害することによって、ウイルスの増殖を抑制する作用があります。
主な代表薬剤には、マルベロクシル、シクロスポリンなどがあります。
抗レトロウイルス薬服用上の注意
抗レトロウイルス薬の効果は個人差があり、治療開始時のウイルス量、免疫状態、副作用のリスクなどによって異なります。
また治療には、定期的な健康診断や検査を受けることが必要です。
抗レトロウイルス薬による治療は感染専門医師の指導を受け、正しく薬を服用することが重要です。
服用したりしなかったりなどすると期待された効果を発揮できないこともあるので、用法用量をしっかり守るようにしましょう。
治療開始のタイミング
最近のガイドラインでは、すべてのHIV感染患者さんに対して抗HIV薬の開始が推奨されるようになっています。
予防方法
HIVの主な感染経路は性行為なので、不特定多数との性交渉をまずは避けるようにしましょう。
またコンドームを使用することも感染予防に効果を発揮します。
医療現場での針刺し事故などでの感染は現代では稀です。
さらにHIVは感染力の弱いウイルスなので、日常生活で感染することはまずありません。
まとめ:HIVに感染してからエイズ発症までは期間が長いこともある
以上、HIVの潜伏期間について解説してきました。
HIV自体はウイルスの名称なので、実際に発症するのはエイズということになりますが、HIVの初期症状も現れない人も多数います。
無症候キャリア期には検査でもしない限りは発覚することはないので、思い当たる行為や機会があった場合は3ヶ月以上待ってから検査を受けるようにしましょう。
HIVはしっかり治療を行えばエイズの発症を高い確率で抑えられるようになっています。
万が一感染が発覚した場合は専門医の指示を仰ぎ、治療をすることが重要です。