皮脂欠乏性湿疹とは?
皮脂欠乏性湿疹は、皮脂の欠乏(皮膚の乾燥)を原因とする皮膚疾患です。皮脂欠乏症が悪化して、湿疹が生じます。
皮脂欠乏症は、なかでも高齢者がかかりやすいことが知られており、高齢者の7割は乾燥肌という調査報告もあります。また、糖尿病やがんなどの持病がある場合も皮脂欠乏性症や、皮脂欠乏性湿疹が生じる可能性が高くなるとされています。
皮脂欠乏性湿疹の症状
皮脂欠乏性湿疹は、亀のこうらのような円形の赤みと、かゆみが主な症状です。
その前段階の皮脂欠乏症においては、皮膚はツヤがなく、角質がうろこ状になってはがれやすく、ときに亀裂が生じることもあります。
正常な皮膚は皮脂や汗によって乾燥から守られており、角質が整った状態で皮膚を覆っています。ところが、老化などのなんらかの原因によって皮膚のうるおいが失われ、バリア機能が低下して外部の刺激を受けやすくなると、皮脂欠乏症となり、さらに悪化すると湿疹の症状が現れます。
ひび割れやかゆみが発生することも
皮脂欠乏症になると、肌表面がカサカサになってひび割れたり、白い粉をふいたり、網目状になったりします。初期は小さなうろこのような角質がはがれ落ちるのが主な症状ですが、進行するにつれてはがれ落ちる角質が大きくなり、量も増えていきます。さらに進むと、表皮にさざ波のようなひび割れを生じたり、ひし形の亀裂が入ったりするようになります。
湿疹が生じた後はかゆみが生じることが多く、かゆみが強い場合は患部をかき壊してしまうこともあるため、生活の質にも影響する疾患です。ひどくなるとバリア機能が破綻して症状が悪化したり、紫斑ができたり、亀裂による疼痛を訴えることもあります。
膝下や肘に発症しやすい
皮脂欠乏性湿疹は上半身にも発症する可能性のある皮膚疾患ですが、特に高齢者の場合は、膝から下に発症するケースが多くみられます。また、乾燥しやすい肘や足の外側も皮脂欠乏性湿疹の好発部位となっています。
皮脂欠乏性湿疹の原因とは?
皮脂欠乏性湿疹を引き起こす主な原因は乾燥ですが、乾燥にいたる原因にはさまざまなものがあります。また、年齢によっては、汗腺の機能が低下していたり、保湿機能が未熟だったりすることも原因となりえます。詳しく見ていきましょう。
主な原因は乾燥
一般に、皮脂欠乏性湿疹の主な原因は乾燥です。皮膚には適度なうるおい(皮脂と水分)があり、外的刺激の影響を受けにくくなっています。しかし、角層から水分が失われた皮膚はバリア機能が低下するため、通常であれば角質層に侵入しない刺激物質が入り込んで、わずかな刺激でもかゆみを感じたり、赤く炎症を起こしたりするようになるのです。
皮膚が乾燥する原因には多くのものが考えられますが、日常生活が影響していることも少なくありません。詳細は以下の通りです。
季節による乾燥
秋の終わりから冬にかけては、空気が乾燥する季節です。冷たい外気にさらされ、皮膚のうるおいが失われやすいため、皮脂欠乏性湿疹も生じやすくなります。
部屋の湿度の低下
エアコンを使用すると、室内の湿度が低下しやすくなります。常時エアコンが効いた室内で過ごすことが多い方や、エアコンの使用頻度が高い夏冬などはとくに湿度の低下に注意が必要です。
長時間の熱いお風呂
熱いお湯に長時間入っていると、皮脂が失われやすくなります。皮脂を失った肌はバリア機能が低下するので、さらに乾燥しやすくなるという悪循環に陥る恐れがあります。
体の洗いすぎ
入浴時に使う石けんやボディソープには、油分を落とす界面活性剤が含まれています。過剰に使用したり、すすぎ残しがあったりすると、皮脂が落ちて乾燥をまねきやすくなります。また、ナイロンタオルやボディブラシなどで肌を強くこすってしまうと、うるおいの保持に欠かせない角層までも落としてしまうおそれがあります。
アトピー性皮膚炎など乾燥をともなう皮膚疾患
アトピー性皮膚炎の既往があるなど、乾燥を伴う皮膚疾患がある方は、バリア機能が低下している傾向があります。隙間ができた角層から水分が逃げやすいので、乾燥から皮脂欠乏性湿疹を併発しやすいです。
生理的な要因によるもの
皮脂を分泌する皮脂腺や汗を放出する汗腺は、加齢とともに機能が低下していきます。そのため、高齢者は皮脂が少なく、汗でうるおいを保持することが難しくなります。
逆に乳幼児や小児は、まだこれらの生理機能が未発達な状態です。保湿機能が未成熟なため、皮脂欠乏性湿疹を起こす可能性が高くなります。
他の疾患にともなうもの
糖尿病の方は通常より多くの水分を尿として排出するため、脱水から乾燥をまねきやすくなります。慢性腎臓病の方は、水分摂取に制限があったり、血液透析によって皮脂腺や汗腺が萎縮してしまったりするため、角層の水分量が少なくなります。
また、抗がん剤や放射線治療を受けている方は、治療の副作用で、皮膚細胞や皮脂線、汗腺などがダメージを受けてるため、乾燥肌やバリア機能が低下することがあります。このように、他の疾患に伴って、皮脂欠乏性湿疹につながることもあります。
皮脂欠乏性湿疹の治療方法とは?
皮脂欠乏性湿疹は複数の治療法があります。症状に応じて医師が処方しますが、症状が軽度であれば、市販薬で治療することも可能です。
保湿剤
皮脂欠乏性湿疹の原因は皮膚の乾燥なので、保湿をすることが重要です。保湿剤は、「モイスチャライザ―」と「エモリエント」に大きく分けることができます。
モイスチャライザー
角層にうるおいを与えて、水分保持量を高めるお薬です。「ヘパリン類似物質」や「尿素」を配合したお薬が代表的です。
エモリエント
皮膚をコーティングし、水分の蒸発を防ぐことを目的としたお薬です。「白色ワセリン」などが代表的です。
ステロイド外用剤
保湿をしても症状が治まらない場合や、悪化してしまう場合は、炎症を鎮める作用のあるステロイド外用剤を使います。ステロイド外用剤は抗炎症効果とともに、かゆみを抑える作用もあるため、強いかゆみがあるときにも効果が期待できます。
抗アレルギー内服薬
かゆみや赤みが強い場合は抗アレルギー作用のある内服薬を併用する場合もあります。抗アレルギー薬はアレルギー反応による皮膚炎を引き起こす「ヒスタミン」という伝達物質を抑える働きがあり、抗ヒスタミン薬とも呼ばれます。
お薬によっては、眠気や吐き気、便秘などの副作用があらわれることもあるため、服用前に医師や薬剤師に確認しておくとよいでしょう。
市販薬で対応できるケースもある
症状が軽い場合や体質的なもの、環境によるものなどが原因である場合は、市販薬で対処できるケースもあります。
市販薬には、医療機関で処方される医療用医薬品とは成分やその配合量が異なるものも多いため、自己判断で選ぶのではなく、薬剤師や登録販売者に相談したうえで、使用回数や使用感なども含めて選ぶとよいでしょう。ただし、数日使用しても改善がみられない場合は、医療機関を受診したほうがよいでしょう。
皮脂欠乏性湿疹のお薬の塗り方のコツ
皮脂欠乏性湿疹のお薬の効果を効率よく得るためには、以下のようなコツを押さえましょう。
入浴後に保湿剤を使う
入浴後の皮膚は、水分が蒸発しやすくなっています。入浴後は忘れずに保湿剤でうるおいを守るようにしましょう。
ただし、保湿剤を塗るのは、かならずしも入浴直後でなければならないわけではありません。入浴1分後と1時間後に保湿剤を塗って比べた結果、どちらも角層の水分量に違いはなかったという研究結果もあります。
(参考)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680714482560
保湿剤は適切な量を使う
保湿剤は適量を使うことも大切です。塗る量が少なすぎると、保湿効果を得にくくなってしまいます。
ヘパリン類似物質などのクリーム状の保湿剤は、指先から第一関節まで押し出した量( 1FTU(finger-tip unit))が約0.5gです。これは大人の手のひら2枚分の面積の適量とされており、片側上肢であれば3FTU、背中は7FTU、片側下肢は6FTU、片足は2FTUが目安となっています。
リキッド状のお薬であれば、手のひらに1円玉大ほどを出した量が約0.6gなので、上記に準じて量を加減するとよいでしょう。
また、塗る回数についても、1日1回塗った場合と2回塗った場合では、2回塗った方が高い保湿効果を得られるとの研究結果もあります。
(参考)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205737609216
皮脂欠乏性湿疹の予防・対処法とは?
皮脂欠乏性湿疹は、日常生活の中に予防のヒントがあります。できてしまった湿疹を悪化させないためにも、次の点に注意してください。
部屋の湿度を保つ
空気の乾燥は皮膚を乾燥させる原因となります。室内で過ごすときは、エアコンの使い過ぎに注意し、適宜加湿器を使うなどして湿度を調整しましょう。
保湿をする
乾燥から肌を守るためには、毎日の保湿ケアが大切です。市販のものでよいので、ヘパリン類似物質や白色ワセリンなどの保湿剤を日ごろから使い、肌のうるおいを守るようにするとよいでしょう。
短時間でぬるめの温度で入浴する
入浴時は温度と入浴時間に注意してください。熱いお湯は皮脂を流出させてしまうので、ぬるめの温度が理想です。一般的には、約38℃で皮脂は溶け出すとされています。
また、長時間お湯に浸かっているのも、肌の乾燥をまねきます。浴槽に浸かるのは短時間にとどめておきましょう。
体を優しく洗う
体を洗うときは、タオルの素材にも注意が必要です。ナイロンタオルは肌への刺激が強いため、使用を避けたほうが賢明です。手のひらでやさしく洗うのが理想ですが、タオルを使いたい場合は、綿やシルクなどの天然素材のものを使うと刺激を抑えられます。
また、湿疹ができている部分や乾燥が気になる部分は、石けんをなるべく使わずに洗うとよいでしょう。
入浴後は皮膚から水分が蒸発しやすくなっています。早めに水分をふき取ることも乾燥予防につながります。拭き取るときは、タオルでごしごしこするのではなく、タオルを肌にあてて水分を吸収させるようにしましょう。
服装にも注意をする
衣類の刺激が湿疹をまねくこともあります。とくに注意したいのは、羊毛や硬くゴワゴワした素材です。肌に刺激を与えやすいので、なるべく避けたほうがよいでしょう。
また、髪による刺激も皮膚にとっては大きなダメージにつながることがあります。湿疹が気になったら、髪の先端が触れていないかもチェックしてみてください。
紫外線対策をする
皮膚が日光にさらされると、水分の蒸発が加速して乾燥が悪化します。普段から紫外線対策が必要ですが、とくに5月から8月にかけては紫外線が強くなる時期です。なかでも、午前10時から午後2時は1日のうちもっとも紫外線量が多い時間帯なので、紫外線対策を徹底しましょう。
紫外線対策としては、日焼け止めのほか、帽子の着用もおすすめです。外出時には、なるべく日光を避け、日陰を歩くようにするのも効果的です。
皮脂欠乏性湿疹は保険適用で診療できる?
診療は、以下のように保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、皮脂欠乏性湿疹は保険適用で診療が受けられることが一般的です。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査・治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査・治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
皮脂欠乏性湿疹の治療はクリニックフォアのオンライン保険診療へ
クリニックフォアでは、さまざまなお悩みに対応するオンライン診療を行っています。皮脂欠乏性湿疹の診療は、保険診療の皮膚科で対応が可能です。
特に皮脂欠乏性湿疹は、放置すると重症化することもあるため、早めに受診することをおすすめします。クリニックフォアのオンライン診療は診療時間も幅広く、自宅などにいながら診察を受けられるため、忙しい方でも受診しやすくなっています。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。