インフルエンザの受診タイミング:12~48時間が推奨される理由
検査の精度と時間の関係
インフルエンザの診断には迅速抗原検査がよく用いられますが、この検査には「発症からの時間」が大きく影響します。発症から時間が経っていないと、体内のウイルス量が十分でなく、感染していても陰性と判定されてしまうことがあるのです。
日本感染症学会の研究によると、迅速抗原検査の感度(感染している人を正しく陽性と判定できる確率)は、発症後12時間未満では38.9%、24~48時間では65.2%と報告されました。[3]
つまり、熱が出てすぐに検査を受けても、半数以上のケースで正しい結果が得られない可能性があります。
一方で、政府広報オンラインでも「発熱から12時間未満では検査が陽性にならないことがある」と案内されており、[2]多くの医療機関では発症から12時間以上経過してからの検査を推奨しています。
検査結果が陰性でも安心できない理由
早い時期に検査を受けて陰性だったとしても、それはインフルエンザではないと確定するものではありません。症状が強い場合や、家族など身近な人がインフルエンザに感染している場合は、医師が総合的に判断して治療を開始することもあります。
治療薬の効果と開始時期
インフルエンザの治療に使われる抗ウイルス薬(タミフルなど)は、症状が出てから48時間以内に使い始めることで効果が期待できるとされています。[1][4]
厚生労働省の資料によると、抗インフルエンザウイルス薬の添付文書では、症状発現後48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていません。[1]これは、48時間を過ぎるとお薬の効果が十分に得られない可能性があることを意味します。
CDCのガイドラインでは、入院が必要なほど重症の場合や、合併症のリスクが高い方については、48時間を過ぎていても抗ウイルス薬の服用を検討すべきとしています。[4]このため、時間が経過していても、症状が重い場合は受診が推奨されます。
12~48時間が最適なタイミング
発症後12~48時間の間に受診することで、検査の精度が比較的高く、かつ抗ウイルス薬の効果も期待できる期間となるわけです。政府広報オンラインでも、この時間帯を受診の目安として案内しています。[2]
すぐに受診すべき「危険なサイン」
以下の症状がある場合は、時間を待たずにすぐに医療機関を受診してください
12~48時間という目安はあくまで一般的なケースの話です。重症化のサインが見られる場合は、発症からの時間に関わらず、直ちに医療機関を受診する必要があります。[2][4]
大人の危険なサイン
・呼吸が苦しい、息切れがする
・胸が痛む
・意識がもうろうとする、反応が鈍い
・けいれんを起こす
・水分が取れず、尿が出ない(脱水の兆候)
・高熱が続き、症状が急激に悪化している
子どもの危険なサイン
・呼吸が速い、呼吸が苦しそう
・顔色が悪い(青白い、土気色)
・ぐったりしていて、目の焦点が合わない
・意味不明なことを言う、異常な言動がある
・けいれんを起こす
・水分や母乳・ミルクを全く受け付けない
・おむつが長時間濡れない(脱水)
インフルエンザ脳症について
特に子どもの場合、「意味不明なうわごとを言う」「異常な言動」は、インフルエンザ脳症の可能性を示唆する重要なサインです。このような症状が見られたら、夜間や休日であっても、救急外来の受診を検討してください。
年齢や状況別:受診のタイミングと注意点
子どもの場合
小さなお子さんは、大人に比べて症状の変化が速く、重症化しやすい傾向があります。特に以下のような場合は、早めの受診を検討してください。
| 状況 | 対応 |
| 生後3か月未満の赤ちゃんが38度以上の熱を出している | すぐに受診 |
| 水分が取れない、おしっこが出ない | すぐに受診 |
| 呼吸が苦しそう、ぐったりしている | すぐに受診 |
| 38度以上の熱が続いているが、食欲や機嫌はいつも通りにある | 発症後12~48時間を目安に受診 |
夜間や休日に判断に迷ったら:#8000(子ども医療電話相談)
夜間や休日に「すぐ受診すべきか判断できない」という場合は、#8000に電話することで、小児科医や看護師から助言を受けることができます。お住まいの地域の実施時間については、厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。[8]
子どもの解熱剤について重要な注意点
インフルエンザの際に子どもに使う解熱剤には、注意が必要です。厚生労働省と日本小児科学会は、子どものインフルエンザ発熱にはアセトアミノフェンを基本とすることを推奨しています。[7]
一部の解熱鎮痛剤(ジクロフェナク、メフェナム酸など)は、インフルエンザ脳症との関連が指摘されており、服用を控えるべきとされています。お手持ちのお薬を服用する前に、必ず医師や薬剤師に相談してください。
妊娠中・授乳中の方
妊娠中の方は、インフルエンザが重症化しやすいため、早めの受診が推奨されます。「もう少し様子を見よう」と考えずに、インフルエンザの症状(高熱、関節痛、強い倦怠感など)が出たら、発症後12時間を過ぎたあたりで受診を検討してください。
抗インフルエンザ薬の中には、妊娠中でも服用できるものがあります。また、授乳中の服用についても、医師が適切に判断しますので、自己判断せずに相談することが大切です。
高齢の方・基礎疾患をお持ちの方
以下に該当する方は、インフルエンザが重症化しやすいため、早めの受診と治療開始が重要です。[2][4]
・65歳以上の方
・慢性的な呼吸器疾患(喘息、COPDなど)をお持ちの方
・心臓病、腎臓病、肝臓病などの基礎疾患がある方
・糖尿病の方
・免疫が低下する治療を受けている方(がん治療、ステロイド治療など)
これらに該当する方は、発症後できるだけ早く(12時間以降)受診し、重症化する前に治療を開始することが望ましいとされています。CDCのガイドラインでも、高リスク群については、症状が出てから48時間を過ぎていても抗ウイルス薬の服用を検討すべきとされています。[4]
健康な成人の方
持病がなく、普段健康な成人の方は、発症後12~48時間の間に受診するのが一般的です。ただし、以下のような場合は、この時間を待たずに受診を検討してください。
| 症状・状況 | 対応 |
| 危険なサイン(呼吸困難、意識障害など)がある | すぐに受診 |
| 40度近い高熱が続き、水分も取れない | すぐに受診 |
| 38度以上の熱があり、症状がつらい | 発症後12~48時間を目安に受診 |
| 微熱程度で、症状も軽い | 水分・休養を取り様子を見る(悪化すれば受診) |
受診先の選び方:一般の診療所か、救急外来か
通常の診療時間内の場合
平日の日中であれば、かかりつけ医や近くの内科・小児科クリニックに電話で相談してから受診するのがスムーズです。多くの医療機関では、発熱患者専用の時間帯や入口を設けていますので、事前に連絡することで、他の患者さんへの感染を防ぐことにもつながります。
夜間・休日の場合
夜間や休日にインフルエンザの症状が出た場合、以下のように判断してください。
すぐに救急外来を受診すべき場合
危険なサイン(呼吸困難、意識障害、けいれんなど)がある場合は、迷わず救急外来を受診するか、119番に連絡してください。
翌朝まで待てる場合
高熱はあるが水分は取れており、呼吸も問題ない場合は、自宅で安静にして水分補給を続け、翌朝の診療時間に受診することも一つの選択肢です。ただし、症状が悪化した場合はすぐに受診してください。
オンライン診療という選択肢
高熱で外出が難しい場合や、夜間・休日で近くの医療機関が開いていない場合、オンライン診療を利用することも可能です。クリニックフォアでは、オンライン診療や発熱外来でインフルエンザの診療を行っています。医師が症状を伺い、必要に応じて抗インフルエンザ薬(タミフルなど)の処方を行います。
ただし、呼吸困難などの重い症状がある場合は、オンライン診療ではなく、対面での受診や救急外来を利用しましょう。
※触診・検査が必要な場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
※診療時間は公式サイトをご確認ください
インフルエンザの治療:抗ウイルス薬について
インフルエンザと診断された場合、抗ウイルス薬が処方されることがあります。これらのお薬は、ウイルスの増殖を抑えることで、症状を軽減し、回復を早める効果が期待できます。[1][4]
主な抗インフルエンザ薬と特徴
| 薬剤名(一般名) | 剤形 | 服用開始の目安 | 特記事項 |
| オセルタミビル(タミフル) | 内服(錠剤・カプセル・ドライシロップ) | 原則48時間以内 | 子ども用シロップあり |
| バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ) | 内服(錠剤・顆粒)吸入 | 原則48時間以内 | 1回の服用で治療完了 |
| ラニナミビル(イナビル) | 吸入 | 原則48時間以内 | 1回の吸入で治療完了 |
これらのお薬は、基本的に症状が出てから48時間以内に使い始めることが推奨されています。
しかし重症の方や入院が必要な方、合併症リスクが高い方については、48時間を過ぎていても服用を検討する場合があります。[4]
抗ウイルス薬を使わない選択肢もあります
インフルエンザは、抗ウイルス薬を使わなくても、多くの場合は1週間程度で自然に回復することが可能です。症状が軽く、重症化のリスクが低い方の場合は、対症療法(解熱剤、十分な休養と水分補給)だけで様子を見ることもあります。治療方針については、医師とよく相談して決めることが大切です。
学校や職場への復帰:いつから登校・出勤できる?
学校の場合:学校保健安全法の基準
学校(幼稚園、小学校、中学校、高校など)については、学校保健安全法で出席停止の期間が定められています。[6]
出席停止期間
発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで
例えば、月曜日に発症(熱が出始めた日を「発症日」とし、0日目と数えます)して、水曜日に解熱した小学生の場合、以下のようになります。
| 日付 | 状態 | カウント |
| 月曜 | 発症(発熱開始) | 発症0日目 |
| 火曜 | 発熱 | 発症1日目 |
| 水曜 | 解熱 | 発症2日目、解熱0日目 |
| 木曜 | 平熱 | 発症3日目、解熱1日目 |
| 金曜 | 平熱 | 発症4日目、解熱2日目 |
| 土曜 | 平熱 | 発症5日目、解熱3日目 |
| 日曜 | 平熱 | 登校可能 |
今回のケースでは、2つの条件を満たしていなければなりません。
- 発症後5日を過ぎるまで
- 解熱して2日を過ぎるまで
条件を満たしきっているのは日曜日であるため、日曜日から登校が可能、ということになります。
ただし、医師が個別に判断して、より長い期間の療養が必要と診断した場合は、その指示に従いましょう。
職場の場合
職場については、法律で一律の基準は定められていませんが、一般的には以下の目安が用いられます。
・解熱後、少なくとも2日程度は自宅療養
・全身状態が回復してから(倦怠感や咳などの症状が落ち着いてから)
・会社の就業規則に定めがある場合はそれに従う
職場によっては、医師の診断書や「治癒証明書」の提出を求められることもあります。出勤再開のタイミングについては、医師に相談し、会社の担当部署にも確認することをおすすめします。
インフルエンザと風邪・新型コロナの見分け方
「これはインフルエンザなのか、ただの風邪なのか」迷うこともあると思います。一般的な特徴を比較してみましょう。
| 項目 | インフルエンザ | 普通の風邪 | 新型コロナ |
| 発症のスピード | 急激(数時間~1日) | 緩やか(数日) | 緩やか~やや急 |
| 発熱 | 高熱(38~40度)が多い | 微熱~37度台が多い | 高熱の場合も微熱の場合も |
| 全身症状 | 強い(関節痛、筋肉痛、倦怠感) | 軽い | 中程度~強い |
| 主な症状 | 高熱、関節痛、倦怠感、咳 | 鼻水、のどの痛み、軽い咳 | 発熱、咳、味覚・嗅覚異常など |
ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、症状だけで確実に区別することはできません。特に新型コロナウイルス感染症とインフルエンザは症状が似ているため、検査で確認する必要があります。現在は、インフルエンザと新型コロナを同時に検査できるキットもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 検査や治療に費用はどのくらいかかりますか?
インフルエンザの検査や治療は、保険適用されます。3割負担の場合、迅速抗原検査は概ね1,000円前後、診察料やお薬代を含めた全体では、初診で3,000~5,000円程度が目安となります。ただし、医療機関や処方されるお薬によって異なりますので、詳細は受診される医療機関にお問い合わせください。
Q2. 検査は痛いですか?
インフルエンザの迅速抗原検査は、鼻の奥に細い綿棒を入れて粘液を採取します。数秒間の不快感はありますが、強い痛みを伴うものではありません。小さなお子さんでも受けられる検査です。
Q3. オンライン診療でインフルエンザの確定診断やお薬の処方は可能ですか?
オンライン診療では、症状や経過を医師が詳しく伺い、臨床的にインフルエンザが疑われる場合は、抗インフルエンザ薬を処方することが可能です。ただし、迅速抗原検査による確定診断は、対面での受診が必要です。クリニックフォアでは、オンライン診療と対面診療の両方で対応していますので、ご状況に応じてご利用ください。
Q4. 家族がインフルエンザになりました。予防のためにお薬を処方してもらうことはできますか?
同居家族がインフルエンザを発症し、自分自身が高齢者や基礎疾患があるなど重症化リスクが高い場合、予防投与として抗インフルエンザ薬を処方してもらえることがあります。ただし、予防投与は保険適用外(自費診療)となる場合が多いため、詳細は医師にご相談ください。
Q5. インフルエンザワクチンを打っていても感染しますか?
はい、ワクチンを接種していてもインフルエンザに感染することはあります。ただし、ワクチンには重症化を防ぐ効果が認められており、特に高齢者や基礎疾患のある方には推奨されています。ワクチンを接種していても、感染の疑いがある症状が出た場合は、適切なタイミングで受診してください。
Q6. 解熱後もまだ咳が出ています。登校・出勤してもいいですか?
学校の場合は、学校保健安全法の基準(発症後5日かつ解熱後2日/幼児は3日)を満たしていれば登校可能です。職場の場合は、咳がまだ強く出ている場合は周囲への配慮として、マスク着用や、可能であればもう数日休養を取ることが望ましいでしょう。医師や職場の担当者と相談してください。
まとめ
インフルエンザで医療機関に行くタイミングは、発症後12~48時間が一つの目安です。この時間帯であれば、検査の精度が比較的高く、抗ウイルス薬の効果も期待できます。
ただし、呼吸困難や意識障害などの危険なサインがある場合は、時間に関わらず直ちに受診してください。特に、小さなお子さん、妊婦さん、高齢の方、基礎疾患をお持ちの方は、重症化しやすいため、早めの受診と治療開始が重要です。
夜間や休日で受診先に迷った場合は、#8000(子ども医療電話相談)を利用したり、症状によってはオンライン診療という選択肢もあります。自己判断が難しい場合は、医療機関に電話で相談してから受診するとスムーズです。
適切なタイミングで受診し、十分な休養と水分補給を心がけることで、早期の回復につながります。
クリニックフォアのオンライン診療・発熱外来について
クリニックフォアでは、インフルエンザの症状でお困りの方に、オンライン診療と対面診療の両方で対応しています。
・高熱で外出が難しい方
・休日で近くの医療機関が開いていない方
・小さなお子さんがいて医療機関に連れて行くのが大変な方
オンライン診療では、医師が症状を詳しく伺い、必要に応じて抗インフルエンザ薬の処方を行い、お薬はご自宅に配送いたします。
※症状が重い場合(呼吸困難など)は、対面での受診や救急外来の利用を推奨します。
※触診・検査が必要な場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
※診療時間は公式サイトをご確認ください
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。



