【医師監修】HIVとは?エイズとの違い・症状・治療方法について解説

HIVを聞いたことがある人は多いと思われますが、エイズとの違いについて疑問に思ったことはありませんか?

HIVとはヒト免疫不全ウイルスの略称で、非常に恐ろしいウイルスのことです。
一方エイズとはHIVに感染して症状が出た状態のことを指します。

つまりHIVはウイルスの名前、エイズは病名ということになります。 この記事では医師監修のもとHIVについて解説していきます。

HIVとエイズの違い

HIVとエイズの違いについて解説していきます。

HIVとはウイルスの名称

HIVとは”Human Immunodeficiency Virus”の略で、日本語では「ヒト免疫不全ウイルス」となります。

つまりHIVはコロナウイルスやインフルエンザウイルスと同じ、ウイルスの名前ということになります。

HIVは人体に侵入するとリンパ球を壊していくという恐ろしい特徴があります。

リンパ球とは身体の免疫として機能する体内物質のことで、普段私たちの身体はリンパ球によってウイルスや細菌から守られています。

このリンパ球が破壊されるということは免疫が低下することを意味し、普段ならかからない様々な病気にたやすく感染する状態になってしまいます。

また現在の医療では感染してしまったHIVを死滅させる方法はありません。

エイズはHIVによって発症する病名

エイズとは”Acquired Immunodeficiency Syndrome”の頭文字を取ったもので、HIVによって発症した後天性免疫不全症候群という病名です。

HIVによってリンパ球が破壊されることによって引き起こされる病態で、免疫が低下することで様々な病気に感染しやすくなる状態を指します。

エイズの指標となる病態は以下の23種類があります。

A.真菌症1.カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)2.クリプトコッカス症(肺以外)3.コクシジオイデス症(1)全身に播種(はしゅ)したもの(2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの4.ヒストプラズマ症(1)全身に播種(はしゅ)したもの(2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの5.ニューモシスティス肺炎
B.原虫症6.トキソプラズマ症(生後1か月以後)7.クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)8.イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症9.化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)(1)敗血症(2)肺炎(3)髄膜炎(4)骨関節炎(5)中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)11.活動性結核(肺結核又は肺外結核)12.非結核性抗酸菌症(1)全身に播種(はしゅ)したもの(2)肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
D.ウイルス感染症13.サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外)14.単純ヘルペスウイルス感染症(1)1か月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの(2)生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの15.進行性多巣性白質脳症
E.悪性腫瘍16.カポジ肉腫17.原発性脳リンパ腫18. 非ホジキンリンパ腫19.浸潤性子宮頚癌
F.その他20.反復性肺炎21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)22.HIV脳症(認知症又は亜急性脳炎)23.HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)

逆に言えばHIVに感染していても、上記の合併症を引き起こしていない場合はエイズではありません。

HIVの症状

HIVに感染して数週間すると発熱や筋肉痛などのインフルエンザに似た症状が出ることがありますが、多くの人は症状が出ないこともあります。

このインフルエンザのような症状は2週間ほどで自然に治まり、その後は無症状期になります。

無症状期は個人差があり、数ヶ月から10年以上にわたるケースもあります。

この間はHIVの検査をしない限りは発覚することはなく、感染していることに気づかないで過ごすことがほとんどです。

無症状期の間にも体内のリンパ球が徐々に破壊され、免疫が低下していきます。

免疫が低下すると発熱や下痢、倦怠感やリンパ節の腫れなどの症状が続くようになり、エイズ関連症候群というエイズの前触れのような症状が現れます。

さらに進行し、23の合併症のうちどれかを発現するとエイズと診断されます。

HIVに気づくきっかけとは?

HIV感染に気づくきっかけはあまりにも頻繁に発熱、下痢、倦怠感などを感じるようになってきた場合に検査を受けることで発覚します。

無症状期は症状がないので検査を受けようとするきっかけに乏しくなりますが、徐々に感染症を引き起こしやすくなっていくので、どこかで異常に気づいて検査を受けてみたら陽性反応が出たというパターンが多くなります。

また後述しますがHIVは感染力が弱く、通常の生活範囲内であれば感染することはありません。

従って不特定多数との性交渉の機会が多く、さらにコンドームを使用していないことが多いようであれば検査を受けることでエイズ発症前にHIV感染に気づくことができます。

HIVの感染経路

HIVは血液・精液・膣分泌液・母乳に存在する

HIVは人の血液、精液、膣分泌液、母乳の中にのみ存在できるウイルスです。

感染力は非常に弱く、粘膜同士の接触や血液を介してのみ感染します。

また人間同士でしか感染することはないので、動物から感染するということもありません。

HIVの主な感染経路

HIVは以下の経路で感染します。

  1. 性行為
  2. 血液感染
  3. 母子感染

性行為

性行為はHIVの感染経路の中で最も多いものです。

HIVは精液や膣分泌液の中に存在するので、性器の粘膜同士の接触や、オーラルセックスなどを通して体内に侵入すると感染する可能性があります。

従ってコンドームを適切に使用することはHIV予防の観点から非常に有効であるといえます。

感染の心配がないもの

以下のものは感染経路として心配する必要はありません。

  • 咳やくしゃみ、汗、涙に触れる
  • 洋式トイレの便座に座る
  • 電車のつり革、階段の手すりを触る
  • 職場や学校での生活
  • カラオケのマイク
  • お風呂やプール、洗面台の使用
  • 飲み物の回し飲み
  • 感染した人を刺した蚊に刺される
  • 感染した人が調理した食べ物や飲み物などを摂取する

HIVは感染力が非常に弱いウイルスです。

従って日常生活の中で感染する可能性はゼロに近く、極端に心配する必要はありません。

HIVの検査

HIVに感染していても症状がでないことが多く、検査に至らないこともあります。

思い当たる行為があった場合は検査を受けることが重要です。

検査方法

HIVは血液を採取してHIVに対する抗体の有無を調べます。

検査方法は1~2週間で結果が出る、「通常検査」とその日に結果がわかる、「即日検査」の2つがあります。

ただし即日検査の場合でも陰性か陽性かはっきりわからない場合は確認検査を行うため、1~2週間ほどかかる点は注意が必要です。

一部の医療機関では「HIV-1型RNA定量検査」や「HIV抗原抗体即日検査(第4世代) 」という検査方法もあり、即日または20分で結果が出るものもあります。

検査可能な時期

検査可能な時期は通常検査と即日検査で少し異なります。

通常検査感染機会から60日以上経過していること
即日検査感染機会から90日以上経過していること

また一部の医療機関では感染機会から13日以上経過していれば検査できるところもありますが、確実に感染を否定するには感染機会から3ヶ月以上経過してからの抗体検査が必要であると厚生労働省のガイドラインで定められています。

治療方法は抗HIV薬の投与

残念ながら現代の医療ではHIVを体内から完全に除去することができません。

しかしHIVの増殖を抑えて免疫の低下を防ぐ抗HIV薬が多く開発され、エイズの発症を抑えることができるようになっています。

抗HIV薬を適切に服用することでほぼ測定できない程度までHIVを抑えることができます。

このことはHIVの主たる症状であるリンパ球の減少を抑えることを意味し、多くの感染症に対して免疫を維持することができます。

また血液中のHIV量が少なくなると感染させるリスクも低減します。

抗HIV薬の種類

抗HIV薬には以下の種類があります。

核酸系逆転写酵素阻害剤非核酸系逆転写酵素阻害剤HIVのRNAからDNAを複製することを防ぐ。HIVの感染を不成立にさせ、ウイルスの増殖を抑制する。
プロテアーゼ阻害剤HIVの成熟と免疫細胞からの分離を阻害する
インテグラーゼ阻害剤HIVのDNAが免疫細胞に組み込まれることを阻害する
侵入阻害薬免疫細胞にHIVが侵入することを防ぐ

抗HIV薬の効果を最大限に高めるために現在では上記の薬剤を複数組み合わせて処方することが一般的です。

抗HIV薬は定められた用法用量を守ることで効果を発揮します。

飲んだり飲まなかったりしたり、2回分を一度に飲むなどすると薬剤の効果が十分に発揮されず、耐性化する恐れがあります。

治療開始のタイミング

近年ではガイドラインにより全てのHIV感染者に対して抗HIV薬の投与が推奨されています。

以前は抗HIV薬の副作用が強く、内服することが困難な患者さんもいたためリンパ球の数が一定以下に下がってから開始するという考え方もありました。

しかし、近年では副作用の少ない薬剤が開発されてきたため、リンパ球の数に関わらず治療を開始するケースが主流となっています。

また早期に治療を開始することはそれだけ感染症や合併症のリスクを抑えられることもわかってきています。

ただし、D4陽性リンパ球数というリンパ球の数が500/μLより多い、かつHIV-RNA量が5000コピー/mlよりも少ない患者さんは身体障害者手帳を取得できない場合もあります。

この場合は医療費助成制度が使えないこともあるので、事前にしっかりと検査を受けて確認する必要があることに注意が必要です。

予防方法

HIVの感染を防ぐには不特定多数との性行為を避けることが第一歩となります。

性行為をする場合はコンドームを適切に使用することで感染の確率を下げる効果が期待できます。

また血液からの感染を防ぐには注射針の共有などを避けるようにします。

もっともこれは麻薬常習者などの話であり、現代の医療で注射針を共有することはまずありえません。

さらに薬剤で感染のリスクを減らすPEP療法(曝露後予防)とPrEP療法(曝露前予防)という方法もあります。

PEP療法はHIV感染者または可能性の高い人との性行為や医療事故による針刺しなど感染した可能性がある場合に72時間以内に抗レトロウイルス薬を服用するというものです。

PrEP療法は事前に抗レトロウイルス薬を服用していることでHIV感染者のパートナーとの性行為や不特定多数との性行為に備えるものです。

ただしどちらの方法も保険診療外なので、薬剤費が非常に高額であるという欠点もあります。

よくある質問

Q.オーラルセックスでも感染しますか?

口腔粘膜に精液や膣分泌液が付着すれば感染する可能性はあります。

ただし感染者の唾液中にはHIVは存在しないので、キスで感染することはありません。

Q.日常生活でHIVに感染することはありますか?

HIVは感染力が非常に弱いため、空気感染や飛沫感染することはありません。

またお風呂やプールなどで感染することもないので、過度に心配しなくても大丈夫です。

まとめ:HIVはウイルスの名前でエイズは病名

以上、HIVについて解説してきました。

ポイントは以下の通りです。

  • HIVはウイルスの名前、エイズは病名
  • 感染力は弱く、性行為・血液感染・母子感染でのみ感染する
  • HIVに感染しても抗HIV薬を服用することでエイズの発症を抑制はできる

HIVとエイズはそれぞれ別のものなので混同しないようにしましょう。

HIV自体は感染力が弱く主な感染経路は性行為となります。

コンドームを使用することで感染確率を下げることができますので、予防のために使用しましょう。

クリニックフォアでは、オンライン診療と対面診療で性感染症の検査・治療を行っています。

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また、他の医療機関等で検査した結果がある場合は、結果をもとに治療することも可能なので、まずはご相談ください。

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