加味逍遥散とは?基本情報と特徴
加味逍遥散は、主に女性にみられる心身の不調に幅広く用いられる漢方薬です。ここでは、加味逍遥散の概要や含まれる生薬、漢方医学における作用の仕組みについて解説します。
加味逍遥散の概要と名前の由来
加味逍遥散は、中国の古典医学書「和剤局方」に収載されている「逍遥散(しょうようさん)」をベースにした漢方薬です。逍遥散に牡丹皮(ボタンピ)と山梔子(サンシシ)という2つの生薬を加えて(加味して)作られたことから、「加味逍遥散」という名前が付けられました。
「逍遥(しょうよう)」という言葉には、「気ままにあちこちを歩き回る」「ぶらつく」という意味があります。この名前は、症状が次々と変化するような不定愁訴に対応する処方であることに由来するとされています。つまり、「今日は頭が痛い」「昨日はイライラがひどかった」「最近は眠れない」というように、症状があちこちに移り変わるような方に適した漢方薬ということです。
添付文書では「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある方」が対象とされています[1]。具体的な効能・効果として、冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症が挙げられています。
加味逍遥散に含まれる10種類の生薬
加味逍遥散は、それぞれ異なる働きを持つ10種類の生薬から構成されています[2]。
| 分類 | 生薬 | 働き |
| 気の巡りを整える生薬 | 柴胡(サイコ) | 漢方医学で「肝」の働きを調整する代表的な生薬で、ストレスによって滞った気を巡らせ、精神的な緊張を和らげるとされています |
| 薄荷(ハッカ) | スーッとした清涼感が特徴で、上昇した気を発散させて頭をスッキリさせる働きがあるとされています | |
| 血を補い巡りを良くする生薬 | 当帰(トウキ) | 「血を補う」代表的な生薬で、冷えの改善に用いられることがあります |
| 芍薬(シャクヤク) | 筋肉の緊張を和らげる働きがあり、月経痛や肩こりの緩和に用いられることがあります | |
| 熱を冷ます生薬 | 牡丹皮(ボタンピ)/山梔子(サンシシ) | 逍遥散に「加味」された2つの生薬で、体内にこもった余分な熱を取り除き、イライラやのぼせ、ほてりなどの症状を和らげる働きがあるとされています |
| 体の機能を整える生薬 | 茯苓(ブクリョウ)/白朮(ビャクジュツ)/甘草(カンゾウ)/生姜(ショウキョウ) | 胃腸の働きを助け、余分な水分を排出し、他の生薬の効果を調和させる役割を担うとされています |
このように10種類の生薬がバランスよく組み合わさることで、精神症状から身体症状まで幅広い不調に用いられるのが加味逍遥散の特徴です。
漢方の「気・血・水」と加味逍遥散の作用
漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つが体内をバランスよく巡ることで健康を維持できると考えます。
「気」は目に見えない生命エネルギーのことで、全身を巡って体を動かす原動力となります。気が滞ると(気滞)、イライラ、不安、緊張、のぼせといった症状があらわれやすくなります。さらに滞った気が「熱」を帯びるとされ、その「熱」が上昇して頭痛やほてり、不眠などの原因になることもあります。
「血」は体に栄養を与える物質で、全身を巡って各器官に栄養を届けます。女性は月経によって定期的に血を失うため、血が不足しやすい(血虚)と考えられています。血が不足すると、疲れやすさ、冷え、肌荒れ、髪のパサつき、月経の乱れなどが起こりやすくなります。また、漢方では血は精神を安定させる働きもあると考えるため、血虚は不安や不眠の原因にもなります。
加味逍遥散は、この「気滞」と「血虚」の両方にアプローチすることを目的とした漢方薬です。滞った気を巡らせながら、不足した血を補い、さらに余分な熱を冷ますことで、心身のバランスを整えるとされています。このような多面的な作用があるからこそ、さまざまな症状が入れ替わり立ち替わり現れる不定愁訴に用いられる理由の一つとされています。
加味逍遥散の効果・効能
加味逍遥散は、更年期障害やPMS、自律神経の乱れに伴う不調など、さまざまな症状に対して効果が期待できます。ここでは、代表的な効果・効能について詳しく解説します。
更年期障害の症状改善
更年期とは、閉経をはさんだ45歳から55歳頃の約10年間を指します[3]。この時期は卵巣機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少するため、心身にさまざまな不調があらわれやすくなります。
代表的な症状としては、次のようなものが挙げられます。
- ホットフラッシュ(突然のほてり・発汗)
- 動悸
- めまい
- 頭痛
- 肩こり
- イライラ
- 不安
- 抑うつ
- 不眠
加味逍遥散は、こうした更年期障害の治療で用いられる代表的な漢方薬のひとつです。特に、イライラ、不安、めまい、不眠といった精神神経症状の緩和に効果が期待されます。
一般的に更年期障害の治療では、エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)が行われることがあります。ホルモン補充療法はホットフラッシュや動悸などの血管運動系の症状には有効ですが、気分の落ち込みなどの精神症状には効果が十分に出ない場合があります。一方、加味逍遥散はホルモン補充療法と比較して精神神経症状に対して用いられることがあり、症状によっては有用とされることがあります。
また、漢方薬は比較的副作用が少ないとされていますが、体質によっては注意が必要です。
PMS(月経前症候群)のイライラ・不安に
PMS(月経前症候群)とは、月経が始まる1〜2週間前から起こる精神的・身体的な不調のことです[4]。月経が始まるとこれらの症状は軽減または消失するのが特徴で、毎月のように繰り返されることで日常生活に支障をきたす方も少なくありません。
| 種類 | 症状 |
| 精神症状 | イライラ、怒りっぽくなる、不安、抑うつ、集中力の低下、涙もろくなるなど |
| 身体症状 | 頭痛、乳房の張り、腹部膨満感、むくみ、肩こり、腰痛など |
加味逍遥散は、このようなPMSの症状、特にイライラや不安、抑うつ感といった精神症状に効果が期待されます。
漢方医学の観点からは、PMSは月経前に気の巡りが滞り、それが熱に変わって精神症状を引き起こすと考えられています。加味逍遥散に含まれる柴胡や薄荷は気の巡りを整え、牡丹皮や山梔子は余分な熱を冷ますことで、月経前に高ぶりやすい神経を穏やかに鎮めると考えられています。
また、肩こりやのぼせ、頭痛といった身体症状にも同時に対応できるため、PMSで複数の症状に悩んでいる方にも適している場合があります。
PMSの症状が現れたときだけ服用する方法もありますが、体質改善を目的とする場合は月経周期を通じて、医師の判断で継続服用が検討されます。
自律神経の乱れによる不眠・精神症状
加味逍遥散は、自律神経のバランスの乱れに伴う症状に用いられることがあります。自律神経とは、心臓の拍動、呼吸、消化、体温調節など、私たちが意識しなくても自動的に働く神経のことです。自律神経には、活動時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経があり、この2つがバランスよく働くことで体の調子が保たれています。
しかし、ストレスや環境の変化、不規則な生活習慣などによって自律神経のバランスが乱れると、不眠、不安、イライラ、動悸、めまい、頭痛、胃腸の不調など、さまざまな症状があらわれます。
漢方医学では、このような状態を「肝」の異常として捉えます。「肝」とは西洋医学の肝臓とは異なり、自律神経や情緒のコントロールを司る機能のことを指します。加味逍遥散に含まれる柴胡は、この「肝」の働きを調整する代表的な生薬です。交感神経が興奮して神経が高ぶっている状態を鎮めると考えられており、心身をリラックスさせる方向に働くとされています。
不眠に対しては、睡眠薬のように直接的に眠りを誘導するのではなく、抑うつや不安、焦燥といった睡眠を妨げている要因にアプローチするのが加味逍遥散の特徴とされています。体のバランスを整えることで、自然な眠りにつきやすい状態へ導くことが期待されます。そのため、睡眠薬特有のふらつきや翌日への持ち越しといった副作用が比較的少ないとされていますが、体質や併用薬によっては注意が必要です。
冷え症・のぼせ・肩こりなどの身体症状
加味逍遥散は精神症状への効果が注目されがちですが、身体症状の改善にも効果が期待できます。
まず、血行を促進すると考えられており、手足の冷えの緩和に役立つ場合があります。当帰や芍薬は血を補い巡りを良くする生薬で、末梢の血行を改善すると考えられており、冷えの緩和に寄与するとされています。
肩こりについても、血行不良や精神的な緊張が原因となっている場合に効果が期待できます。芍薬には筋肉の緊張を和らげる作用があり、ストレスで肩に力が入りやすい方にも適している場合があります。
一方で、牡丹皮や山梔子といった熱を冷ます生薬も含まれているため、のぼせやほてりにも対応することが期待されます。これは一見矛盾するようですが、「下半身は冷えるのに、上半身はのぼせる」という冷えのぼせの症状に悩む女性は少なくありません。漢方医学では、これは気が上に昇りすぎて下に降りてこない状態と考えられています。加味逍遥散は上昇した気を下に降ろし、全身の気血の巡りを整えると考えられており、こうした複雑な症状に用いられることがあります。
加味逍遥散が向いている人・合わない人
漢方薬は、その人の体質(証)に合わせて選ぶことが大切です。同じ症状でも体質によって適した漢方薬は異なるため、自分に合った処方を選ぶことで効果が得られやすくなります。ここでは、加味逍遥散が効きやすい人の特徴と、合わない人の特徴について解説します。
加味逍遥散が効きやすい人の特徴
加味逍遥散が向いているのは、体力が中等度以下で疲れやすい体質の方です。漢方医学では「虚証」から「中間証」と呼ばれるタイプで、どちらかというと比較的体力が低めの方、体力に自信がない方に適しています。
- 具体的には、のぼせ感があり、肩がこりやすく、精神的に不安定になりやすいという特徴があります。
- イライラしやすい、些細なことで不安を感じる、気分の浮き沈みが激しい、くよくよと考え込みやすいといった精神症状がある方に効果が期待できます。
- また、訴える症状が次々と変化する方、つまり「今日は頭痛がひどい」「昨日は胃の調子が悪かった」「最近はとにかくイライラする」というように、不調があちこちに移り変わるタイプの方にも適しています。これはまさに「逍遥(あちこち歩き回る)」という名前に由来するとされています。
- 月経周期に連動して症状が強くなる方、更年期で心身のバランスが乱れやすい方にも向いています。
- 便秘傾向がある方にも適しており、当帰には腸を潤して便通を整える作用があるとされています。
加味逍遥散が合わない人の特徴
一方で、加味逍遥散が向いていない方もいます。
- まず、著しく胃腸が弱く、普段から下痢や嘔吐を起こしやすい方は注意が必要です。加味逍遥散に含まれる当帰などの生薬により、体質によっては胃もたれや胃痛、下痢などの消化器症状があらわれることがあります。このような方は、まず胃腸の調子を整える漢方薬から始めるか、より胃腸に優しい処方を選ぶ方がよいでしょう。
- 体力が充実している「実証」タイプの方にも、加味逍遥散は必ずしも適していません。がっちりとした体格で、声が大きく、暑がりで、便秘がちという特徴を持つ方には、同じ婦人科系の漢方薬でも桂枝茯苓丸など、より体力のある方向けの処方が適していることがあります。
- 妊娠中の方も注意が必要です。添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい」とされています[1]。これは、配合生薬の牡丹皮に血行を促進する作用があり、妊娠中の使用には注意が必要とされているためです。妊娠中に類似の症状がある場合は、当帰芍薬散など、妊娠中にも用いられる漢方薬が検討されることがあります。
男性も服用できる?
加味逍遥散は「婦人科三大漢方薬」として知られているため、女性専用の漢方薬というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、実際には男性も服用することができます。
近年、男性更年期障害(LOH症候群:加齢男性性腺機能低下症候群)という概念が広く知られるようになりました。男性も40代以降になると男性ホルモン(テストステロン)が徐々に減少し、疲れやすさ、イライラ、不安、抑うつ、不眠、性欲の低下、集中力の低下などの症状が現れることがあります。
加味逍遥散は、このような男性更年期障害の治療にも用いられることがあります。男性であっても、イライラ、不安、不眠、のぼせといった症状があり、体力が中等度以下で疲れやすいという特徴に当てはまる場合には、効果が期待できます。ストレスの多い仕事環境で自律神経が乱れている男性にも処方されることがあります。
ただし、漢方薬は体質に合ったものを選ぶことが大切ですので、処方の際は医師に相談し、自分の症状や体質に合っているかを確認することをおすすめします。
加味逍遥散の副作用と注意点
「漢方薬は自然由来だから副作用がない」と思われがちですが、漢方薬も医薬品である以上、副作用が起こる可能性があります。加味逍遥散を安全に服用するために、副作用と注意点を正しく理解しておきましょう。
よくある副作用(消化器症状・皮膚症状)
加味逍遥散の一般的な副作用として、消化器症状と皮膚症状があります[1]。
| 種類 | 症状 |
| 消化器症状 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢など |
| 皮膚症状 | 発疹、発赤、かゆみなど |
消化器症状は、加味逍遥散に配合されている生薬の作用や体質との相性により起こると考えられています。特に胃腸が弱い方では、これらの症状が出やすい場合があります。皮膚症状は、漢方薬に対するアレルギー反応の可能性があります。
これらの症状があらわれた場合は、服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。軽い症状の場合は、服用タイミングを工夫することで改善することもありますが、症状が続く場合は自己判断で調整せず、医師や薬剤師に相談してください。
重大な副作用(偽アルドステロン症・腸間膜静脈硬化症)
頻度は低いものの、加味逍遥散には注意すべき重大な副作用がいくつかあります。
まず、偽アルドステロン症は、加味逍遥散に含まれる甘草(カンゾウ)の成分であるグリチルリチン酸の影響により起こることがあります[1]。アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されたのと同じような状態になり、体内にナトリウムと水分が貯まりやすくなります。症状としては、次のようなものがあらわれます。
- 手足のむくみ
- 体重増加
- 血圧上昇
- 全身倦怠感
- 筋肉痛
- 手足のしびれや脱力感
特に血液中のカリウムが低下する低カリウム血症を引き起こすことがあり、重症化すると筋肉の障害(ミオパチー)につながることもあります[1]。
肝機能障害も報告されています[1]。発熱、全身倦怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などの症状に注意が必要です。
腸間膜静脈硬化症は、山梔子(サンシシ)を含む漢方薬を長期間(多くは5年以上)服用した場合にあらわれることがある副作用です[1]。腸間膜の静脈が硬くなり、腸への血流が悪くなることで、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などの症状が繰り返しあらわれます。長期間服用する場合は、医師の指示のもとで経過をみていくことが重要です。
これらの症状に気づいた場合は、すぐに服用を中止し、医師の診察を受けてください。
飲み合わせに注意が必要なお薬
加味逍遥散には併用禁忌(絶対に一緒に使ってはいけない薬)はありませんが、飲み合わせに注意が必要な薬があります。
- 最も注意が必要なのは、甘草を含む他の漢方薬との併用です[1]。芍薬甘草湯、葛根湯、補中益気湯、抑肝散など、多くの漢方薬には甘草が含まれています。複数の漢方薬を併用すると甘草の摂取量が増え、偽アルドステロン症のリスクが高まります。一般的に、一定量以上の甘草を摂取すると、副作用のリスクが高まるとされています[5]。
- グリチルリチン酸を含む製剤との併用も同様の理由で注意が必要です。グリチルリチン酸は肝臓の治療薬(強力ネオミノファーゲンシーなど)や、一部の風邪薬、のど飴などにも含まれていることがあります。
- ループ系利尿薬(フロセミドなど)やチアジド系利尿薬を服用している方も注意が必要です。これらの利尿薬はカリウムを体外に排出する作用があるため、甘草の作用と相まって低カリウム血症を起こしやすくなります。
他の薬を服用している場合は、医師や薬剤師に必ず伝えてから加味逍遥散を使用するようにしてください。
加味逍遥散と他の漢方薬の違い
加味逍遥散は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)と並んで「婦人科三大漢方薬」と呼ばれています。いずれも月経不順や更年期障害などの女性特有の症状に使われますが、それぞれ適した体質や症状が異なります。ここでは、それぞれの特徴と使い分けについて解説します。
当帰芍薬散との違い
当帰芍薬散は、体力がなく疲れやすい「虚証」タイプの方に向いている漢方薬です。冷えやすく、疲れやすい、貧血傾向がある、むくみやすいといった特徴を持つ方に適しています。
当帰芍薬散の主な作用は、血を補い、水分代謝を改善することです。当帰、芍薬、川芎といった血を補う生薬と、茯苓、白朮、沢瀉といった水分代謝を改善する生薬がバランスよく配合されています。そのため、冷え症、頭痛、めまい、むくみ、貧血傾向のある方に効果が期待できます。
加味逍遥散との違いの一つは、精神症状への適応の違いです。当帰芍薬散は身体症状が中心の方に用いられることが多く、イライラや不安といった精神症状が強い場合には、加味逍遥散が選択されることがあります。
また、当帰芍薬散は妊娠中に使用されることもある漢方薬ですが、使用にあたっては医師の判断が必要です。切迫流早産の治療や妊娠中のむくみ・貧血にも使われることがあります。妊娠中に精神的な不調がある場合でも、症状や体質に応じて当帰芍薬散が選択されることがあります。
桂枝茯苓丸との違い
桂枝茯苓丸は、体力が比較的ある「実証」タイプの方に向いている漢方薬です。比較的体力があり、のぼせやすい、便秘傾向があるといった特徴を持つ方に適しています。
桂枝茯苓丸の主な作用は、血の巡りを改善すること(駆瘀血作用)です。桂皮、桃仁、牡丹皮など血行を促進する生薬が配合されており、いわゆる婦人科領域で用いられる代表的な漢方薬の中でも、血の巡りを改善する作用が強いとされています。そのため、のぼせ、肩こり、頭痛、めまいなどの症状に加え、月経痛が強く血の塊が出るような方などに用いられます。また、子宮筋腫や子宮内膜症に伴う症状の改善を目的として使用されることもあります。
加味逍遥散との違いの一つは、体力と症状の傾向です。桂枝茯苓丸は体力のある方向けで、身体症状が主な場合に適しています。加味逍遥散は体力が中等度以下で、精神症状(イライラ、不安、不眠など)が目立つ方に向いています。また、桂枝茯苓丸は加味逍遥散に比べて血行を促進する作用が強いとされており、冷えよりものぼせが目立つ方に用いられることがあります。
婦人科三大漢方薬の使い分け
いわゆる「婦人科三大漢方薬」は、主に体質(証)と症状の傾向によって使い分けます。
| 漢方薬 | 体質(証) | 向いている方 | 選択されやすいケース |
| 当帰芍薬散 | 虚証(体力がない) | 冷えやすく疲れやすい、むくみやめまいがある、貧血傾向のある方 | 身体症状が主で、精神症状が比較的軽い場合 |
| 加味逍遥散 | 虚証から中間証 | 疲れやすく、イライラ、不安、不眠といった精神症状が目立つ方、症状が次々と変わる不定愁訴がある方 | 精神症状と身体症状の両方がある場合や、特に精神症状が強い場合 |
| 桂枝茯苓丸 | 実証(体力がある) | 比較的体力があり、のぼせや肩こり、頭痛が強い方、月経痛が強く血の塊が出る方 | 身体症状が主で、血の巡りの悪さが目立つ場合 |
自分がどのタイプに当てはまるか迷う場合は、医師や薬剤師に相談して、体質や症状に合った漢方薬を選んでもらうことをおすすめします。
加味逍遥散の入手方法と費用
加味逍遥散は、医療機関で処方を受ける方法と、ドラッグストアで市販薬を購入する方法の2つがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の状況に合った方法を選びましょう。
処方薬(医療用)と市販薬の違い
医療用の加味逍遥散は、医師が問診や診察を行い、体質や症状を診断した上で処方します。医療用医薬品は、医師が症状や体質に応じて適切な用量で処方するため、より個別に合わせた治療が可能です。また、健康保険が適用されるため、自己負担額が軽くなるというメリットもあります。
一方、市販薬(一般用医薬品)は、ドラッグストアや薬局で処方箋なしで購入できます。思い立ったときにすぐ入手できる手軽さが最大のメリットです。ただし、市販薬は一般の方が自己判断で使用できるよう、用法・用量があらかじめ設定されています。また、自己判断で体質に合わないものを選んでしまうリスクがあるため、初めて漢方薬を試す方や、症状が重い方は医療機関を受診することをおすすめします。
市販の加味逍遥散(ツムラ・クラシエ)
市販の加味逍遥散は、ツムラやクラシエ薬品など複数のメーカーから販売されています。
| 製品 | 剤形 | 容量 | 価格 |
| ツムラ漢方加味逍遙散エキス顆粒 | 顆粒 | 20包入り(10日分) | 2,000円〜2,500円程度 |
| 64包入り | 4,000円〜5,000円程度 | ||
| クラシエ漢方加味逍遙散料エキス錠 | 錠剤 | 96錠入り(8日分) | 2,500円〜3,000円程度 |
| 240錠入り(20日分) | 4,500円〜5,000円程度 |
(※価格は販売店や時期によって異なります)
ツムラ漢方加味逍遙散エキス顆粒は、顆粒タイプの市販薬です。医療用漢方製剤も手がけるツムラが製造しています。クラシエ漢方加味逍遙散料エキス錠は、錠剤タイプの市販薬です。顆粒タイプに比べて、服用しやすいと感じる方もいます。
どのメーカーの製品を選ぶかは、飲みやすさ(顆粒か錠剤か)、価格、1日あたりのコストなどを比較して、自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。
医療機関で処方を受けるメリット
医療機関で処方を受けることには、いくつかの重要なメリットがあります。
- 体質に合った漢方薬を選んでもらえる
医師が体質や症状を診断したうえで処方します。漢方薬は体質に合ったものを選ぶことが重要なため、専門家の判断を仰げるのは大きな利点です。 - 飲み合わせや副作用の確認ができる
注意点の説明も受けられるため、比較的安心して服用できます。特に他の薬を服用している方や持病のある方は、医師への相談をおすすめします。 - 保険適用で自己負担が軽くなる
医療用の加味逍遥散(ツムラ)の薬剤費は、処方内容にもよりますが1日あたりおおよそ100円前後。3割負担なら数十円程度です。30日分でも比較的抑えられ、市販薬より経済的になる場合もあります。 - 経過を相談しながら続けられる
効果が感じられない場合の対応、他の漢方薬への変更、服用期間の判断などについて、医師からアドバイスを受けられます。
加味逍遥散に関するよくある質問
加味逍遥散について、よく寄せられる質問にお答えします。
Q1:加味逍遥散の効果が出るまでどれくらいかかる?
加味逍遥散の効果が出るまでの期間には個人差があり、症状の種類や重さ、体質によって異なります。
比較的軽い精神症状(イライラ、気分の落ち込み、軽い不眠など)の場合、数日から1週間程度で「なんとなく気持ちが楽になった」「イライラが減った気がする」といった変化を感じるといった報告があります。一般的には、2週間から1カ月程度の継続服用が一つの目安とされています。
漢方薬は体質を改善しながら症状を緩和していくため、西洋薬のような即効性は期待しにくいですが、その分、体質改善につながる可能性があります。
ただし、1カ月程度服用しても効果をまったく感じられない場合は、加味逍遥散が体質に合っていない可能性があります。その場合は自己判断で服用を続けるのではなく、医師や薬剤師に相談して、他の漢方薬への変更を検討することをおすすめします。
Q2:加味逍遥散を飲むと太る?
「加味逍遥散を飲むと太る」という噂を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、加味逍遥散の成分が直接的に体重増加を引き起こすという科学的根拠はありません。
ただし、間接的に体重が増える可能性はあります。例えば、加味逍遥散によってストレス性の食欲不振が改善された場合、食事量が増えて体重が増えることがあります。これは副作用ではなく、体調が回復した結果と考えられる場合があります。また、以前は不調で活動量が減っていた方が、体調改善とともに食欲が戻り、活動量の増加が追いつかないうちに体重が増えるケースもあります。
一方で、注意が必要なのは副作用による体重増加です。加味逍遥散に含まれる甘草の影響で偽アルドステロン症が起こると、体内に水分が貯まりやすくなり、むくみや体重増加があらわれることがあります。急激な体重増加(数日で2〜3kg以上)やむくみを感じた場合は、副作用の可能性があるため、服用を中止して医師に相談してください。
Q3:妊娠中・授乳中でも服用できる?
妊娠中の加味逍遥散の服用は推奨されていません。添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい」と記載されています[1]。これは、加味逍遥散に含まれる牡丹皮(ボタンピ)に活血作用(血の巡りを活発にする作用)があり、流産や早産などの影響の可能性が指摘されているためです。
妊娠中に加味逍遥散と同様の症状(イライラ、不安、不眠など)がある場合は、当帰芍薬散など妊娠中でも使用できる漢方薬を選択されることがあります。妊娠を希望している方や妊娠の可能性がある方は、服用前に必ず医師に相談してください。
授乳中の場合は、「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とされています[1]。加味逍遥散の成分が母乳に移行するかどうか、また乳児への影響については十分なデータがないため、授乳中の服用は医師と相談の上で判断する必要があります。
Q4:加味逍遥散はいつ飲むのが効果的?
加味逍遥散は、食前または食間に服用することが推奨されています[1]。
食前とは、食事の約30分前のことです。食間とは、食事と食事の間(前の食事から約2時間後)のことで、いわゆる空腹時を指します。「食間」を「食事中」と勘違いする方もいますが、食事をしながら服用するという意味ではありませんのでご注意ください。
漢方薬を空腹時に服用する理由は、生薬の成分が胃腸から吸収されやすくなり、効果が出やすいとされているためです。食後だと食べ物と混ざり合って吸収が妨げられる可能性があります。
1日の服用回数は、通常1日2〜3回です。朝・昼・夕の食前、または朝食前・夕食前の2回というパターンが一般的です。
飲み忘れた場合は、次の服用時間が近ければ忘れた分は飛ばして、次の時間に1回分だけ服用してください。2回分を一度に服用することは避けてください。
胃腸が弱く空腹時の服用で胃の不快感が出る方は、食後に服用しても構いません。効果はやや弱まる可能性がありますが、飲み続けられることが最も大切です。
まとめ
加味逍遥散は、イライラや不安、のぼせ、不眠といった心身の不調に効果が期待できる漢方薬です。「婦人科三大漢方薬」のひとつとして、更年期障害やPMS、自律神経の乱れによる症状に広く使われています。
10種類の生薬がバランスよく配合されており、気の巡りを整え、血を補い、余分な熱を冷ますことで、精神的にも身体的にもバランスを整えると考えられています。体力が中等度以下で疲れやすく、精神症状が目立つ方に特に適しています。一方、胃腸が著しく弱い方や妊娠中の方は注意が必要です。
加味逍遥散は医療機関での処方と、ドラッグストアでの購入の両方が可能ですが、初めて服用する方や症状が気になる方は、医師や薬剤師に相談することをおすすめします。自分の体質や症状に合った漢方薬を選ぶことで、より効果的に心身の不調を改善していくことが期待されます。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
