夏の胃腸炎とは?まず知っておきたい基本
夏の胃腸炎とは、気温と湿度が上がる時期に増える、細菌などによる胃腸の炎症を指します。
吐き気や嘔吐、下痢、腹痛といった症状が出るもので、その多くは細菌による食中毒です。
冬に流行するウイルス性の胃腸炎とは原因が異なり、夏ならではの対策が必要になります。
夏の胃腸炎とはどんな状態か
夏の胃腸炎は、胃や腸に炎症が起こり、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛などの症状が出る状態です。
夏は原因となる細菌が食品の中で増えやすく、これによる食中毒が起こりやすくなります。
嘔吐や下痢は、体に入った有害なものを外へ出そうとする防御反応でもあります。
夏は細菌、冬はウイルスが多い理由
胃腸炎は一年を通して起こりますが、季節によって違いがあり、夏は細菌、冬はウイルスが原因として多いです。
夏(6〜8月頃)は気温と湿度が高く、サルモネラや腸炎ビブリオなどの細菌が食品の中で増えやすくなります。
カンピロバクターのように、食品の中では増えなくても少ない菌で感染する細菌もあり、夏は細菌による食中毒が増えます[1]。
一方、冬はノロウイルスやロタウイルスなど、低温で乾燥した環境を好むウイルスによる胃腸炎が流行します[1]。
夏は食品の扱いに、冬は人から人への感染に、それぞれ注意が必要です。
食中毒と感染性胃腸炎の関係
「食中毒」と「感染性胃腸炎」は重なる部分が多く、混同されやすい言葉です[1]。
感染性胃腸炎は、細菌やウイルスなどの病原体による胃腸炎の総称で、このうち食品や水を介して感染したものが一般的に「食中毒」と呼ばれます。
夏に多い細菌性の胃腸炎は、汚染された食品を食べることで起こる食中毒であることが多いです[1]。
呼び方は異なっても症状や基本的な対処は大きく変わらないことが多いとされています。
夏の胃腸炎の主な原因
夏の胃腸炎の主な原因は、食品の中で増えた細菌です。
代表的なものに、カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌(O-157など)、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどがあります[1]。
それぞれ原因となりやすい食品や症状が異なり、整理すると次のとおりです。
| 原因菌 | 主な原因食品 | 主な症状・特徴 |
| カンピロバクター[2] | 加熱不十分な鶏肉など | 下痢・腹痛・発熱 |
| サルモネラ[3] | 肉・卵など | 下痢・腹痛・発熱・嘔吐 |
| 腸管出血性大腸菌(O-157など)[4] | 加熱不十分な食肉、汚染された食品・水 | 激しい腹痛・血便。溶血性尿毒症症候群など重い合併症のおそれ |
| 黄色ブドウ球菌[5] | 手の傷などの菌が付着した食品(毒素) | 嘔吐・腹痛を比較的短時間で発症 |
| 腸炎ビブリオ[6] | 魚介類(刺身・寿司など) | 下痢・腹痛 |
カンピロバクター・サルモネラ
夏の食中毒で多い原因菌が、カンピロバクターやサルモネラです[1]。
カンピロバクターは、十分に加熱されていない鶏肉などから感染することが多く、下痢や腹痛、発熱などを引き起こします[2]。
サルモネラは、肉や卵などから感染することがあり、主な症状は下痢や腹痛、発熱、嘔吐です[3]。
いずれも、食品をしっかり加熱することや、調理器具を清潔に保つことで予防につながります。
腸管出血性大腸菌(O-157など)
夏の胃腸炎で特に注意したいのが、腸管出血性大腸菌(O-157など)です[4]。
加熱が不十分な食肉や、汚染された食品・水などから感染し、激しい腹痛や血便を引き起こすことがあります。
O-157などは、溶血性尿毒症症候群と呼ばれる重い合併症を起こすことがあり、死亡例もあるため軽く見てはいけません[4]。
激しい腹痛や血便、意識がはっきりしないといった症状があらわれた場合は、すみやかに医療機関を受診する必要があります。
黄色ブドウ球菌・腸炎ビブリオ
このほか、黄色ブドウ球菌や腸炎ビブリオも、夏の食中毒の原因です[5][6]。
黄色ブドウ球菌は、手の傷などにいる菌が食品に付着して毒素をつくり、嘔吐や腹痛などを比較的短時間で引き起こします[5]。
腸炎ビブリオは、魚介類に付着していることがあり、刺身や寿司などから感染して下痢や腹痛を起こすことがあります[6]。
魚介類は低温で保存し、調理の前後で手や器具を清潔に保つことが予防に役立つでしょう。
夏の胃腸炎の主な症状
夏の胃腸炎の主な症状は、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・発熱です[1]。
これらは胃腸に入った有害なものから体を守るための反応でもあります。
症状の出方や潜伏期間は原因の細菌によって異なり、なかには注意が必要な症状もあります。
吐き気・嘔吐・下痢・腹痛
夏の胃腸炎では、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛が中心的な症状です[1]。
これらは、胃腸に入り込んだ細菌や毒素を体の外へ出そうとする反応で、つらくても体を守るはたらきの一部です。
嘔吐や下痢が続くと体の水分が失われやすいため、脱水に注意することが大切です。
注意したい症状(血便・高熱など)
夏の胃腸炎では、注意が必要な症状もあります。
激しい腹痛や血便、高熱、ぐったりして元気がない、意識がはっきりしないといった症状は、重い食中毒や合併症のサインのことがあります。
特に、O-157などによる血便や激しい腹痛は、溶血性尿毒症症候群などの重い合併症の疑いがあるため、すみやかな受診が必要です[1]。
潜伏期間と何日で治るか
夏の胃腸炎は、原因となる細菌によって潜伏期間や経過が異なります[1]。
食べてから症状が出るまでの潜伏期間は、数時間のものから数日に及ぶものまであり、原因によってさまざまです。
多くの場合、嘔吐や下痢で原因の細菌や毒素が出されれば自然に回復に向かいますが、重症の場合や体力の弱っている方では、回復に時間がかかることもあります。
夏の胃腸炎の治し方(対処法)
夏の胃腸炎は特別な治療薬を使わず、脱水を防ぐ水分・電解質の補給と安静が対処の基本となることが多いです[1]。
つらい症状を和らげながら、体が細菌や毒素を出し切って回復するのを助けるイメージです。
症状が強い場合や脱水が心配な場合は、自己判断で乗り切ろうとせず、医療機関で相談しましょう。
水分・電解質の補給(脱水を防ぐ)
夏の胃腸炎の対処で最も大切なのが、脱水を防ぐための水分・電解質の補給です[1]。
嘔吐や下痢で水分とミネラルが失われやすいため、こまめに水分をとることが大切です。
「水を飲むと下痢をするから飲みたくない」と控えてしまう方もいますが、脱水は症状を悪化させるため、少しずつでも水分をとることがすすめられます。
経口補水液などを使い、一度に多く飲むのではなく、数時間かけて少量ずつ飲むと、吐き気につながりにくいです。
食事のとり方
夏の胃腸炎では、食事のとり方にも工夫が役立ちます。
下痢のときは無理に食事を制限する必要はなく、食べられるようなら消化のよいものを少しずつとるとよいでしょう。
吐き気が強いときは無理をせず、落ち着いてきたら少量ずつ始めるとよく、目安は次のとおりです。
| 食べやすいもの | 控えめにするもの |
| おかゆ、バナナ、ゼリーなど消化しやすいもの(落ち着いてから少量ずつ) | 脂っこいもの、刺激の強いもの、冷たいものの大量摂取 |
脂っこいものや刺激の強いもの、冷たいものの大量摂取は、胃腸に負担をかけることがあるため控えめにします。
下痢止め・市販薬の注意
夏の胃腸炎では、下痢止めなどの市販薬の使い方に注意が必要です。
下痢は、原因となる細菌や毒素を体の外へ出そうとする反応でもあるため、下痢止めを自己判断で使うと、排出が妨げられて回復が遅れることがあります。
そのため、下痢止めの服用は慎重に考え、必要かどうかは医師に相談することがすすめられます。
夏の胃腸炎で医療機関を受診する目安
夏の胃腸炎の多くは自然に回復しますが、症状によっては受診が必要です。
特に、乳幼児や高齢者、妊娠中の方、持病のある方は、早めの対応が大切です。
すぐに受診したいサイン
次のような場合は、早めの受診や、状況によっては緊急の受診が必要です[1]。
- 激しい腹痛や血便がある
- 高熱が続く
- 嘔吐や下痢が止まらず水分がとれない
- ぐったりして元気がない、意識がはっきりしない
- 脱水が進んでいると感じる(点滴などの治療が必要なことがある)
特に血便や激しい腹痛は、重い合併症のサインのことがあるため、すみやかに医療機関を受診してください。
子ども・高齢者・妊娠中で注意したい点
乳幼児や高齢者、妊娠中の方、持病のある方は、夏の胃腸炎で特に注意が必要です[1]。
これらの方は脱水や重症化を起こしやすいため、激しい下痢や嘔吐がみられる場合は早めに医療機関を受診することがすすめられます。
子どもは、おしっこの量が減っていないか、水分がとれているか、ぐったりしていないかなどに気を配ることが大切です。
受診時に伝えたいこと
医療機関を受診するときは、状況をできるだけ具体的に伝えると、診療に役立ちます。
次のような内容を伝えるとよいでしょう。
- いつから、どんな症状が、どのくらい続いているか
- 何を食べたか
- 周囲に同じ症状の人がいるか
- 血便の有無
- 水分がとれているか、おしっこが出ているか
これらは原因の推測や治療方針を決める手がかりになります。
夏の胃腸炎の予防方法
夏の胃腸炎(食中毒)は、日頃の対策によって防ぎやすくなります。
食中毒予防の基本は、「つけない・増やさない・やっつける」の3つです[1]。
それぞれの具体的な行動は、次のとおりです。
| 3原則 | 具体的な行動 |
| つけない | 調理前・食事前・トイレ後の手洗い/生の肉・魚を扱う包丁・まな板は生食野菜と使い分け、よく洗う |
| 増やさない | 食品は低温保存/買ったら保冷して持ち帰りすぐ冷蔵庫へ/調理後も室温に長く置かない |
| やっつける | 肉・魚はしっかり加熱/O-157などは中心部まで十分に加熱 |
家庭での食品の扱いを少し意識するだけでも、予防につながります。
つけない(手洗い・調理の工夫)
予防の第一歩は、細菌を食品に「つけない」ことです[1]。
調理の前、食事の前、トイレのあとなどは、しっかり手を洗うことが大切です。
生の肉や魚を扱った包丁・まな板は、生で食べる野菜などと使い分け、よく洗うことで、細菌が移るのを防げます。
増やさない(低温保存)
次に大切なのが、細菌を「増やさない」ことです[1]。
多くの細菌は気温の高い環境で増えやすいため、食品は低温で保存することが大切です。
肉や魚を買ったら保冷剤などと一緒に持ち帰り、帰宅後はすぐに冷蔵庫へ入れるとよいでしょう。
調理した食品も、室温に長く置かず、早めに食べるか適切に保存することが大切です。
やっつける(十分な加熱)
最後に大切なのが、細菌を「やっつける」ことです[1]。
多くの細菌は加熱に弱いため、肉や魚はしっかり火を通すことが大切です。
特に、腸管出血性大腸菌などは、食品の中心部まで十分に加熱することで死滅するとされています。
家庭内でうつさないための工夫
夏の胃腸炎の中には、人から人へうつるものもあるため、家庭内で広げない工夫も大切です[1]。
特に、嘔吐物や便にウイルス・細菌が含まれることがあるため、その処理には注意が必要です。
感染を広げないための対策
家庭内で感染を広げないためには、こまめな手洗いと清潔を保つことが大切です[1]。
トイレのあとや、看病のあと、食事の前にはしっかり手を洗いましょう。
タオルの共用を避けたり、よく触れるドアノブやスイッチを清潔に保ったりすることも役立ちます。
症状が落ち着いてからも、しばらくは便などに病原体が残ることがあるため、手洗いを続けることがすすめられます。
嘔吐物・便の処理の注意
嘔吐物や便の処理には、特に注意が必要です。
処理の手順として、次の点を意識しましょう[1]。
- 使い捨ての手袋やマスクを使う
- 汚れた部分をしっかり拭き取って清潔にする
- 処理に使ったものは袋に入れて口を閉じて捨てる
- 処理のあとはしっかり手を洗う
- 赤ちゃんが嘔吐したときは、吐いたものが気管に入らないよう、顔を横に向けて寝かせる
※医師の判断により、お薬を処方できない場合がございます。
※対面診療をご案内する場合もございます。
※診療費は診察内容によって異なります。保険診療の自己負担割合(原則3割)に応じた金額となります。
夏の胃腸炎に関するよくある質問
Q:夏の胃腸炎と食中毒は違う?
A:夏の胃腸炎と食中毒は、まったく別物ではなく重なる部分が多い概念です。感染性胃腸炎のうち食品や水を介して感染したものが一般的に「食中毒」と呼ばれ、夏の胃腸炎は細菌による食中毒であることが多いといえます[1]。
呼び方は異なっても、症状や基本的な対処は大きく変わらないことが多いとされています。
Q:夏の胃腸炎は何日で治る?
A:原因の細菌によって異なり、経過には個人差があります。
多くの場合、嘔吐や下痢で原因の細菌や毒素が出されれば自然に回復に向かいますが、重症の場合や体力の弱っている方では時間がかかることもあります。
長引く場合や悪化する場合は、医療機関で相談しましょう。
Q:夏の胃腸炎では下痢止めは使っていい?
A:下痢は細菌や毒素を出そうとする反応でもあるため、自己判断での下痢止めの服用には注意が必要です[7]。
下痢止めを使うと排出が妨げられ、回復が遅れることがあります。
使ったほうがよいかどうかは、医師に相談して判断することがすすめられます。
Q:夏の胃腸炎はうつりますか?
A:夏の胃腸炎の中には、人から人へうつるものもあります[1]。
便などに病原体が含まれることがあるため、手洗いや嘔吐物・便の適切な処理など、家庭内での感染対策が大切です。
症状が落ち着いてからも、しばらくは手洗いを続けることがすすめられます。
まとめ
夏の胃腸炎は、気温と湿度が上がる時期に増える、細菌による食中毒が多いのが特徴です。
カンピロバクターやサルモネラ、腸管出血性大腸菌(O-157など)、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどが主な原因菌で、主な症状は吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・発熱です[1]。
特別な治療薬を使わないことが多く、脱水を防ぐ水分・電解質の補給と安静が対処の基本で、安易に下痢止めを使ってはいけません。
激しい腹痛や血便、高熱、脱水が心配なときや、子ども・高齢者・妊娠中・持病のある方は、早めに医療機関を受診することがすすめられます。
予防は「つけない・増やさない・やっつける」が基本で、手洗い・低温保存・十分な加熱が役立ちます。
家庭内で広げないために、手洗いや嘔吐物・便の適切な処理を心がけることも大切です。

