インフルエンザウイルスにアルコール消毒は有効
東京都感染症情報センターは、インフルエンザの予防対策として手洗いとともにアルコールによる手指消毒を推奨しています[1]。
また厚生労働省でも、医療現場での感染対策として、アルコールを含ませた布で拭き取る方法が標準的な手法とされています[2]。
アルコール消毒が効果を発揮する理由は、インフルエンザウイルスの構造にあります。インフルエンザウイルスは「エンベロープ」と呼ばれる脂質膜を持つウイルスです。アルコールはこのエンベロープを破壊し、ウイルスが細胞に侵入できなくなるため、不活化します[3]。
東京都は令和7年のインフルエンザ流行シーズンにおいても、手洗いやせきエチケットとともにアルコール消毒の実践を呼びかけています[4]。
手指に付着したウイルスを物理的に除去する手洗いと、アルコール消毒による化学的な不活化を併用することで、感染予防効果が期待できます。
インフルエンザ予防効果を高めるアルコール消毒の正しい使い方
インフルエンザ予防においてアルコール消毒の効果を最大化するには、手指消毒・環境消毒・適切な濃度の3つの観点から正しく実践することが重要です。
手指消毒は、外出後や食事前など感染リスクの高いタイミングで実施しましょう。
東京都感染症情報センターでは、流水と石けんによる手洗いが基本とされていますが、アルコールによる手指消毒も推奨されています[1]。
環境消毒では、多くの人が触れるドアノブ、電気・電灯のスイッチ、手すりなどの共有部分を定期的に消毒することが大切です。接触感染を防ぐためには、共有物品の消毒も重要な対策となっています。
インフルエンザウイルスに有効なアルコール濃度は、消毒効果を左右する重要な要素です。
3つの対策を組み合わせた総合的な予防をおこないましょう。
手指消毒の正しい手順と適切なタイミングを理解する
手指消毒の効果を高めるには、正しい手順と適切なタイミングでの実施が不可欠です。
厚生労働省では、流水と石けんによる手洗いが標準的な手指衛生法として推奨されています。[2]手洗いの前に、爪を短く切ってあること、時計や指輪は外すことを確認しましょう。準備が整ったら石けんを泡立て、手のひら・手の甲・指の間・爪の間・手首まで丁寧に洗い、流水で十分にすすぎ、清潔なタオルで拭き取ることが大切です[1]。
消毒のタイミングは、外出後の帰宅時、食事の前後、トイレの後、せきやくしゃみをした後など、感染リスクが高まる場面でおこないましょう。
ドアノブやスイッチなど共有部分の環境消毒をおこなう
インフルエンザの感染を防ぐには、手指消毒だけでなく、多くの人が触れる共有部分の環境消毒が重要です。
東京都感染症情報センターでは、ドアノブ、電気スイッチ、手すり、エレベーターのボタン、共有電話、机・テーブルなど、不特定多数が触れる場所を定期的に消毒することを推奨しています[1]。これらの表面にウイルスが付着したまま放置されると、次に触れた人の手を介して感染が広がる可能性があるためです。
環境消毒の実施方法は、アルコールを清潔な布やペーパータオルに含ませ、対象物の表面を拭き取ります。定期的な水拭きに加えて、1日1回はアルコール消毒を行うことが望ましいです。[2]。
家庭や職場でも、流行期には共有スペースのアルコール消毒を習慣化することで、接触感染のリスクを低減できます。特に高齢者や基礎疾患のある方がいる場合は、より徹底したアルコール消毒が感染予防に効果的です。
インフルエンザウイルスに推奨されるアルコールの濃度で消毒する
インフルエンザウイルスに対する消毒効果を発揮するには、適切な濃度のアルコールを選ぶことが重要です。
日本臨床麻酔学会誌の2017年に発表された研究によれば、エタノールの最適濃度は60〜90vol%とされています[5]。この濃度範囲では、インフルエンザウイルスを含むエンベロープウイルスに対して高い不活化効果を得ることが可能です。
濃度が低すぎても高すぎても効果が下がるため、適切な濃度を選ぶことが大切です。
イソプロパノール(イソプロピルアルコール)を主成分とする製剤もありますが、エタノールと同様に適切な濃度で使用することで消毒効果が得られます[5]。
アルコール消毒の効果が落ちるケース
アルコール消毒は適切に使用すれば高い効果を発揮しますが、いくつかの条件下では効果が低下します。
- 手指や物品に汚れが残っている場合
- アルコールの使用量が不十分な場合
- ノンエンベロープウイルスが対象の場合
厚生労働省の医療施設向けガイドラインでは、目に見える汚れがある場合は、まず流水と石けんで洗浄してからアルコール消毒をおこなうことが推奨されています[6]。
使用方法の誤りも効果低下の原因となります。アルコールの使用量が少なかったり、手が完全に乾く前に何かに触れたりすると、十分な消毒効果が得られません。適量を使用し、手全体にまんべんなく擦り込み、完全に乾燥させることが重要です[7]。
また、ウイルスの種類によってはアルコールの効果が限定的な場合があります。インフルエンザウイルスはエンベロープを持つためアルコールに弱いウイルスですが、ノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対してはアルコールの効果が低いため、別の消毒方法が必要です。
手指や物品に目に見える汚れが残っている
手指や物品に目に見える汚れが残っている状態では、アルコール消毒の効果は著しく低下します。汚れを除去してから消毒することが、感染予防の基本原則です。
医療現場における手指衛生のためのガイドラインでは、目に見える汚れがある場合は必ず流水と石けんによる手洗いを先におこなうよう明記されています[6]。
物品の消毒においても同様に、表面に汚れが付着している場合は、まず汚れを水拭きしてからアルコール消毒をおこないます。アルコール消毒は1日1回おこなえば感染予防ができるでしょう[2]。
アルコールの量が不十分または乾燥する前に触ってしまう
アルコール消毒の効果を十分に発揮させるには、適切な使用量を理解し、乾燥時間を確保しましょう。
手指消毒をおこなう際は、消毒剤のボトルを下までしっかり押し、十分量を手のひらに取ります。手全体にまんべんなく擦り込むことで、すべての部位にアルコールが行き渡ります[7]。
使用量が少ないと、指先や指の間など擦り込みが不十分な部分が生じ、そこにウイルスが残存する可能性も否定できません。
完全に乾燥すると両手全体にアルコールが付着するため、擦り込み時間も重要な要素です[6]。
擦り込む際は、手のひら・手の甲・指の間・指先・親指周り・手首の順に、すべての部位を意識的に擦り込みましょう。
ノンエンベロープウイルス(ノロウイルスなど)が対象の場合
アルコール消毒はインフルエンザウイルスには有効ですが、ウイルスの種類によっては効果が限定的です。ウイルスはその構造によって、エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスに分類されます[3]。
| ウイルスの種類 | 具体例 | 特徴 |
| エンベロープウイルス | ・インフルエンザウイルス ・コロナウイルス ・単純ヘルペスウイルス | アルコールによって脂質膜が破壊され、不活化できる |
| ノンエンベロープウイルス | ・ノロウイルス ・ロタウイルス ・アデノウイルス | 脂質膜を持たず、タンパク質の殻(カプシド)に覆われた構造をしている |
ノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対しては、アルコールの効果が低いか、ほとんど効果がないため、別の消毒方法が必要となります。ノンエンベロープウイルスの消毒には、次亜塩素酸ナトリウムが含まれている「ハイター」や「ブリーチ」などが推奨されます[3]。
アルコール消毒と組み合わせたいインフルエンザの基本予防策
インフルエンザを予防する際は、東京都や厚生労働省が推奨する総合的な予防策を組み合わせ、感染リスクを減らしましょう。アルコール消毒は有効な対策のひとつですが、単独で完璧な予防はできません[1][2][4]。
基本となるのは流水と石けんによる手洗いです。東京都感染症情報センターは、手洗いとアルコール消毒を併用することを推奨しています[1]。手洗いで物理的にウイルスを除去し、アルコール消毒で化学的に不活化する二段構えが効果的です。
飛沫感染対策としては、せきエチケットとマスクの着用が重要です。東京都は令和7年シーズンのインフルエンザ対策として、せきやくしゃみをする際の配慮を呼びかけています[4]。
また、室内の適切な加湿と換気がウイルスの活動を抑制します。
さらに、ワクチン接種は発症や重症化を防ぐ効果があり、予防策のひとつとして位置づけられています[1][4]。
感染対策の基本となる流水と石けんによる手洗い
正しい手洗いの手順は、以下のとおりです。
- 流水で手を濡らし、石けんを十分に泡立てる
- 手のひら・手の甲・指の間・爪の間・親指周り・手首まで、すべての部位を丁寧に擦り洗いする
- 洗い残しを防ぐため、最低15秒は擦り洗いをおこなう
- 流水でしっかりとすすぎ、清潔なタオルまたはペーパータオルで拭き取る
特に外出後、食事の前後、トイレの後など、感染リスクが高まる場面での手洗いを徹底することが重要です[1][4]。
飛沫感染を防ぐためのせきエチケットとマスクの適切な着用
インフルエンザの主要な感染経路は飛沫感染です。せきエチケットとマスクの着用は、飛沫の拡散を防ぎ、他者への感染リスクを低減する重要な対策となります。
東京都感染症情報センターでは、インフルエンザ予防の基本対策としてせきエチケットの実践を推奨しています[1]。せきエチケットとは、せきやくしゃみをする際に飛沫を周囲に飛ばさないようにするためのマナーです。
具体的には、マスクを着用する、マスクがない場合はティッシュやハンカチで口と鼻を覆う、それもない場合は袖や肘の内側で覆うという方法があります。手のひらで直接覆ってしまった際は、手に付着したウイルスが他のものに触れないようにすぐに手を洗うようにしましょう。
マスクの着用は、感染者からの飛沫拡散防止に加え、未感染者が飛沫を吸い込むリスクを低くする効果があります。人混みや医療機関を訪れる際、体調不良時には積極的な着用を心がけましょう[1]。
ウイルスの活動を抑える室内の適切な加湿と換気
室内環境の管理は、インフルエンザウイルスの活動を抑制し、感染リスクを低くします。特に加湿と換気は、具体的な対策として挙げられています。
インフルエンザウイルスの特性は、低温・低湿度の環境で活性が高まり、生存時間が長いことです。室内を適度に加湿することで、ウイルスの活動を抑制できるでしょう。
加湿器を使用する、濡れたタオルを室内に干すなどの方法で、室内湿度を50〜`程度に保つことが望ましいとされています[8]。
また、室内に留まったウイルスを含む飛沫や空気中の微粒子を部屋の外に排出し、新鮮な空気と入れ替えることで、ウイルス濃度を低下させる効果があります。1日数回の換気や、換気設備の適切な使用が推奨されています[1][8]。
冬季は暖房により室内が乾燥しやすく、換気の機会も減少しがちです。意識して加湿と換気を両立させることで、インフルエンザウイルスが活動しにくい環境を保つことができます。
発症や重症化を防ぐためのワクチン接種
厚生労働省では、インフルエンザの予防策として流行前のワクチン接種を推奨しています[8]。インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスに対する免疫を体内に作り出すことで、感染しても発症しにくくする、または発症しても重症化を防ぐ効果があります。
高齢者や基礎疾患のある方、13歳未満の子どもなどの重症化リスクの高い層は、ワクチン接種をすることで、肺炎などの合併症や生命に関わる重篤な状態を避けることが可能です。
ワクチンの効果は接種後2週間程度であらわれ、約5か月間持続するとされています[9]。インフルエンザの流行は通常12月から3月頃にピークを迎えるため、11月から12月上旬までに接種を完了しておくとよいでしょう。
ワクチン接種は感染を確実に予防するものではありません。
しかし、手洗いやアルコール消毒、せきエチケット、加湿・換気といった他の予防策と組み合わせることで、総合的な感染リスクの低減が期待できます。
クリニックフォアでは、毎年10月から2月までインフルエンザワクチンの接種を受け付けています。オンラインでご予約のうえ、ご来院ください。
2025年時点での接種価格は4,000円(税込4,400円)となります。
人混みの多い場所を避ける
インフルエンザ流行期には、人混みの多い場所を避けることが感染リスクを下げることにつながります。多くの人が集まる場所は、感染者と接触する機会が増えるため、飛沫感染や接触感染のリスクが高いです。
政府広報オンラインによると、人が密集する場所への訪問を最小限にすることが推奨されています[8]。電車やバスなどの公共交通機関、商業施設、イベント会場など、換気が不十分で人が密集しやすい環境は、特に注意が必要です。
高齢者や基礎疾患のある方、妊婦など重症化リスクの高い方は、流行期における人混みへの外出を極力避けることが望ましいとされています[8]。
アルコール消毒液の安全性や手荒れが不安な方へ
アルコール消毒液は有効な感染予防策ですが、以下のような懸念を抱く方もいるでしょう。
- 頻繁な使用による手荒れ
- 子どもへの使用に不安を感じる
効果的な感染予防を継続するためにも、順番に解説します。
アルコールによる手荒れのメカニズムと保湿ケアの重要性
アルコール消毒液の頻繁な使用により手荒れが生じるのは、アルコールが皮膚の脂質を溶解・除去することで、肌が乾燥してしまうためです。
皮脂膜や角質層は皮膚のバリア機能を担っており、外部刺激から皮膚を守る役割を果たしています。アルコール消毒を繰り返すことで脂質が減少し、皮膚のバリア機能が低下します。
肌の水分が蒸発しやすくなることで起こる症状には、乾燥、ひび割れ、かゆみ、炎症などがあります。
アルコールによる手荒れ予防には、消毒後の保湿ケアをおこなうとよいでしょう。ハンドクリームやローションを使用し、皮膚に水分と油分を補給することで、失われがちなバリア機能を維持できます。
保湿剤は消毒直後、手が完全に乾いた後に塗布するのが効果的です[10]。手荒れがすでに生じており、保湿剤だけで改善しない場合は、皮膚科への相談を検討しましょう。
クリニックフォアではオンライン保険診療をおこなっています。アルコールによる手荒れでお困りの場合は、医師にご相談ください。
※触診・検査が必要な疾患の場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
※診察の結果、医師の判断によりお薬の処方ができない場合もございます
子どもが安全にアルコール消毒を使用するための注意点
子どもへのアルコール消毒使用は、保護者の目の届く場所で適切に使用するようにしましょう。誤飲や誤用を防ぐための具体的な注意点を理解することが大切です。インフルエンザなどの感染症予防では、大人も子どもも適切に手指衛生を保つことが推奨されています。
ただし、子どもにアルコール消毒液を使用する際は、いくつかの安全上の配慮が必要です。
最も重要なのは誤飲防止です。アルコール消毒液は高濃度のエタノールを含むため、誤って飲み込むと健康被害を引き起こす可能性があるため、注意しましょう[11]。
また、子どもは消毒液が乾く前に目や口に触れてしまうことがあります。消毒後は「手が乾くまで待つ」ように伝え、保護者がそばで見守ることが大切です。
消毒液は子どもの手の届かない場所に保管しておきましょう。
インフルエンザとアルコール消毒に関するよくある質問
インフルエンザ予防やアルコール消毒について、よくある質問をまとめました。家庭内の感染対策や身の回りの消毒に関する代表的な質問にお答えします。
正しい知識を持つことで、より効果的な予防策を実践できるでしょう。
家族がインフルエンザにかかった場合、洗濯物は分ける必要がありますか?
家族がインフルエンザにかかった場合、必ずしも洗濯物を分ける必要はありません。通常の洗濯でウイルスは十分に落とせます[12]。洗濯洗剤によって物理的にウイルスが除去されるため、特別な消毒処理や洗濯物の分別は必要ありません。
ただし、発症したご家族の方が使用した衣類やタオルには、鼻水や唾液が付着している可能性があります。洗濯前の衣類を触ったあとは、必ず手洗いまたはアルコール消毒を行いましょう。発症したご家族専用のタオルを用意し、家族間での共有を避けることも有効な対策です。
洗濯後の衣類は通常通り乾燥させれば、他の家族の衣類と一緒に保管しても問題ありません。
ドアノブや布団など、環境表面でウイルスはどのくらい生存しますか?
インフルエンザウイルスの環境表面における生存期間については、明確なデータがないのが現状です。
しかし一般的に、せきやくしゃみによって飛散したウイルスの生存期間は表面の材質、温度、湿度などの条件によって変動します。
凹凸の少ない環境表面では24~48時間、衣類のような凹凸の多い環境表面では8~12時間だと言われることもあります[13]。
同じ部屋にいるだけでインフルエンザに感染しますか?
同じ部屋にいるだけでインフルエンザに感染する可能性はあります。インフルエンザの主な感染経路は飛沫感染と接触感染ですが、適切な対策をおこなえばリスクを大幅に低減することが可能です。
インフルエンザだけではありませんが、ウイルス感染者のせきやくしゃみによって飛散する飛沫は通常1〜2m程度で、この範囲内にいる人が飛沫を吸い込むことで感染が成立します[2]。したがって、感染者と同じ部屋にいて、2m以内の近距離で会話や接触をする場合、感染リスクが高まります。
- 部屋の定期的な換気をおこない、ウイルスを含む飛沫の濃度を低下させる
- 感染者はマスクを着用し、飛沫の拡散を防ぐ
- 同室者もマスクを着用することで、飛沫の吸入リスクを減らす
- 感染者との距離を2m以上保つ
- 接触感染を防ぐため、共有物品の使用後や食事前には手洗いやアルコール消毒をする
同じ部屋にインフルエンザを発症している方がいる場合は、上記のポイントを心がけましょう。
まとめ
インフルエンザ予防におけるアルコール消毒の有効性と正しい実践方法について解説しました。
インフルエンザウイルスに対してアルコール消毒は有効ですが、その効果を最大限に引き出す条件も知っておく必要があります。
- 手指と環境への正しい使用方法
- 汚れを落としてから使う
- 他の予防策と組み合わせる
本記事でご紹介した知識を参考に、ご自身や大切なご家族、職場の仲間を感染から守るため、明日からの予防策にお役立てください。
信頼できる情報をもとに適切な対策を行い、安心してシーズンを乗り切りましょう。
クリニックフォアでは、自費診療でインフルエンザの予防内服薬の処方が可能です。
ご家族や周りの方がインフルエンザに感染された場合には、ぜひご利用ください。