インフルエンザが時期はずれに流行する主な原因
インフルエンザが本来流行しない時期に発生する主な理由は、国際的な人の移動と現代の生活環境が関係しています。
\日本の夏は、南半球では冬にあたり、近年ではインバウンドの影響により、日本では夏の時期にもインフルエンザの流行期を迎えています[1]。また、熱帯地域では年間を通じてインフルエンザウイルスが循環しているため、これらの地域からの渡航者がウイルスを持ち込むことで、季節外れの感染が起こるのです。
室内の冷房使用による乾燥した環境や、近年の猛暑にともなう夏バテによる免疫力低下も感染リスクを高める要因となり得ます。
海外からのウイルスの持ち込みと国際的な人の移動
日本が夏を迎える時期、南半球のオーストラリアやニュージーランド、南米諸国などでは冬となり、インフルエンザの流行シーズンを迎えています[1]。
これらの国々から帰国した渡航者や訪日観光客を通じて、インフルエンザウイルスが日本国内に持ち込まれる可能性があります。
東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域では、季節を問わず年間を通じてインフルエンザウイルスが循環しているため、これらの地域との往来が活発になるほど、時期はずれの感染リスクは高まるのです。
国際的な人の移動が活発化している現代では、ウイルスの国境を越えた感染拡大が容易になっており、季節外れのインフルエンザ流行につながっています。
冷房による室内の乾燥と夏場の免疫力低下
冷房を長時間使用すると室内が乾燥し、インフルエンザウイルスが生存しやすい環境がつくられます。ウイルスは湿度の低い場所を好むため、エアコンの効いた室内は冬と同じように感染しやすい条件となってしまうのです。
夏の猛暑による体力消耗や、冷房による室内外の温度差による自律神経の乱れも、免疫力の低下につながります[2]。夏バテで食欲が落ちたり、睡眠不足に陥ったりすると、さらに抵抗力が弱まってインフルエンザウイルスに感染しやすくなります[3]。
このように乾燥した室内環境と免疫力の低下が重なることで、夏場でもインフルエンザにかかるリスクが高まることを覚えておきましょう。
最新のインフルエンザ流行状況と近年の傾向
インフルエンザの流行状況は、国立感染症研究所や厚生労働省が毎週公表する定点医療機関(全国約3,500か所の指定された医療機関)からの報告データで確認できます。
2025年は9月末の第39週(9月22日〜28日)に定点当たり報告数が1.04となり、流行開始の目安である1.00を上回って流行シーズンに入りました[4]。その後も報告数は増加を続け、11月第46週時点では37.73と注意報レベル(10.0)を大きく超えています[5]。
近年の傾向として、流行開始時期の早期化と流行期間の長期化がみられており、2023/24シーズンは9月時点で前シーズンの流行が継続するという、従来の流行パターンとは異なる状況となっています[6]。
【2025年11月】定点医療機関からの患者報告数
厚生労働省の発表によると、2025年第46週(11月10日〜11月16日)の全国定点当たりインフルエンザ報告数は37.73でした[5]。
前週(第45週)の21.82から大幅に増加しており、注意報レベル(10.0)を大きく上回っています[5]。
昨年同期の1.88と比較すると約20倍の水準です。
定点当たり報告数が30.0を超えると警報レベルとなるため、現在の流行状況は警戒が必要なレベルに達しています。
地域別では宮城県が80.02ともっとも高く、ついで岩手県55.90、神奈川県55.12、秋田県54.60となっており、東北・関東地方で流行が顕著です[5]。
全国の総報告数は14万5,526件に達し、学校での休校148施設、学年閉鎖1,361校、学級閉鎖4,726校が報告されています[5]。
近年の流行は早期化・長期化パターンもみられる
これまでのインフルエンザは11月末から12月にかけて、流行開始の指標である「定点当たり報告数1.00以上」となるのが通例でした[6]。
しかし2023/24シーズンは9月時点で定点当たり報告数が4.48と、前シーズンの流行が継続した状態でシーズンを開始しました[6]。
2025年シーズンも9月末の第39週(9月22日〜28日)には定点当たり1.04と流行シーズンに入っており、第36週(9月1日〜7日)の0.50から徐々に増加しています[5]。
また、先述したとおり前シーズンの流行が春以降も継続するケースもあり、流行期間の長期化も確認されています。
このような流行パターンの変化によって、従来の冬季だけでなく時期はずれのインフルエンザの流行がみられるようになっているのです。
時期はずれのインフルエンザの症状と間違いやすい感染症との違い
夏に高熱が出た場合、インフルエンザとほかの感染症では治療法が異なるため、どちらなのかはっきりさせることが重要です。
とくに子どもの場合、夏には咽頭結膜熱、手足口病、ヘルパンギーナといった三大夏風邪が流行しやすく、これらはすべて対症療法が中心です。
症状の特徴を理解して正しいタイミングで医療機関を受診し、適切な診断を受けましょう。
インフルエンザの主な症状は急な高熱と強い全身症状が特徴
インフルエンザの主な症状は、38℃以上の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などが比較的急速にあらわれることです。
これらの全身症状に加えて、のどの痛み、鼻水、せきなどの呼吸器症状もみられます。日本呼吸器学会によるとこの呼吸器症状は、遅れて出現する傾向があります[7]。
一般的な風邪が鼻水やのどの痛みといった局所症状からゆるやかに始まるのに対し、インフルエンザは全身症状が突然あらわれ、症状が強いのが大きな違いです。
また、高齢者では肺炎、小児では脳症といった重篤な合併症を起こす可能性があるため、高熱に加えて呼吸困難、意識障害、けいれんなどの症状があらわれた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。[7]。
新型コロナウイルス感染症との違い
インフルエンザと新型コロナウイルス感染症は、どちらも呼吸器疾患で症状が非常に似ています[8]。
WHOによると、両者ともせきや鼻水、のどの痛み、発熱、頭痛、倦怠感など同様の症状を引き起こします[8]。
無症状や軽症の場合もあれば、重症化する場合もあり、致命的となる可能性があるという点も共通です[8]。
そのため症状だけで両者を区別することは困難であり、確定診断には検査が必要です。
一般的な風邪や夏風邪との違い
一般的な風邪は、のどの痛みや鼻水といった局所症状からゆるやかに始まり、インフルエンザのような急激な高熱や強い全身症状はあまりみられません。
夏には子どもの間で咽頭結膜熱、手足口病、ヘルパンギーナといった三大夏風邪が流行します[9]。
咽頭結膜熱は高熱、のどの炎症、結膜炎が特徴で、手足口病は手のひらや足の裏、口の中に発疹が出ます[9]。
ヘルパンギーナは高熱とのどの痛み、口の中の粘膜に発疹ができるのが一般的な症状です[9]。
これらの夏風邪は、インフルエンザと異なり特有の症状があるため見分けやすいですが、初期の高熱だけでは判断が難しい場合もあります。
風邪の原因はほとんどがウイルスで、抗菌薬(抗生物質)は効果がありません。
一方、インフルエンザには抗インフルエンザウイルス薬というお薬があり、発症後48時間以内に服用すれば症状軽減が期待できる点が大きな違いです[7]。
時期はずれのインフルエンザが疑われたらすべきこと
インフルエンザを疑う症状が出た場合、重症化を予防するため十分な休養と水分補給を心がけましょう。
症状がつらい場合や悪化がみられる場合は、早めに医療機関を受診してください。
高齢者や基礎疾患のある方、小児は症状が重くなりやすいため、早期の受診が推奨されます。
抗インフルエンザウイルス薬は発症後48時間以内に服用すると、発熱期間を1〜2日間短縮できるとされています[10]。
周囲への感染を防ぐため、せきエチケットを徹底し人混みへの外出を控えることも大切です。
症状がつらい場合は早めに医療機関を受診する
インフルエンザを疑う症状がある場合、高熱が続く、呼吸が苦しい、意識状態がおかしいなど症状がつらいときは、早めに医療機関を受診しましょう。
日本呼吸器学会によると、基礎疾患のない若い方は対症療法で自然に軽快しますが、高齢者や基礎疾患のある方には抗インフルエンザウイルス薬が推奨されています[7]。
抗インフルエンザウイルス薬は発症後48時間以内に服用すると、発熱期間が通常1〜2日間短縮され、のどからのウイルス排出量も減少します[10]。
高齢者や基礎疾患のある方、小児は重症化リスクが高いため、症状が出てつらい場合は速やかに医療機関を受診してください。
なおインフルエンザの迅速診断検査は、正確な結果を得るために発症から6〜12時間以上経過していることが望ましいとされています。ただし、症状が重い場合や重症化リスクが高い場合は、検査のタイミングを待たずに受診することが優先されます。
自宅では安静にして水分を積極的にとる
インフルエンザが疑われる場合、自宅では安静にして休養をとり、からだの抵抗力を高めることが重要です[10]。
空気が乾燥すると気道粘膜の防御機能が低下してインフルエンザにかかりやすくなるため、室内では加湿器などを使って適切な湿度(50~60%)を保ちましょう[10]。
水分補給ものどを潤したり、脱水を予防したりするため、十分におこなってください。発熱により体内の水分が失われやすくなるため、こまめに水分をとることが症状の悪化予防に大切です。
やむを得ず外出する場合は、不織布製マスクを着用するなど、周囲への感染を防ぐ配慮が必要です。
季節を問わず実践できるインフルエンザの予防法
インフルエンザは季節を問わず発生する可能性があるため、年間を通じた予防対策が重要です。
基本的な予防法として、以下があげられます。
- ワクチン接種
- 手洗い
- マスク着用を含むせきエチケット
- 室内の換気と湿度管理
- 十分な休養と栄養摂取
- 抗インフルエンザウイルス薬の予防内服
これらの対策を日常的に実践することで、時期はずれのインフルエンザを含む感染症から身を守れます。
接種時期のワクチン接種
インフルエンザワクチンは、発症の可能性を低減させる効果と、発症した場合の重症化防止に有効と報告されています[10]。高齢者や基礎疾患のある方、医療従事者などはワクチン接種が推奨されています。
日本では例年12月から3月にインフルエンザが流行するため、12月中旬までにはワクチン接種を終えておくと良いとされてきましたが、近年は流行の前倒しがみられることから、できる限り早めに接種しておくと良いでしょう。
ウイルスを物理的に除去する正しい手洗い
手洗いは、手や指などからだについたウイルスを物理的に除去するために有効な方法です。
インフルエンザウイルスはせきやくしゃみで空中に飛び散ったウイルスが物の表面等などに付着し、それに触れた手指を介して感染する(接触感染)ことがあります。
WHOも接触感染を防ぐために手を清潔に保つことを推奨しており、手で目、鼻、口に触れないことも重要だとしています[9]。
インフルエンザウイルスにはアルコール製剤による手指衛生も効果があるため、外出先では手指消毒を活用すると良いでしょう。
飛沫感染を防ぐためのマスク着用とせきエチケット
せきエチケットとは、せきやくしゃみをする際に、飛沫をほかの人に向けて発散しない、ティッシュや腕の内側などで口と鼻を覆うといった行動を指します。
インフルエンザの主な感染経路は、せきやくしゃみの際に口から発生される飛沫による飛沫感染です[1]。
やむを得ず外出して人混みに入る可能性がある場合には、不織布製マスクを着用することが一つの防御策になるとしています[10]。
せきやくしゃみが出ているときはできるだけマスクをすること、鼻水・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨てることも重要です。
これらのせきエチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防げます。
ウイルスの活性化を抑える室内の換気と湿度管理
空気が乾燥すると気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。
乾燥しやすい室内では、加湿器の使用や濡れたタオルを干すなどして適切な湿度(50~60%)を保ちましょう[10]。
また、WHOは定期的な換気を推奨しており、窓やドアを開けて部屋の換気を良くすることが感染予防に有効だとしています[7]。
冬場は暖房を使いながら定期的に窓を開けたり、室内の24時間換気システムを活用したりなど、室温を下げすぎないように工夫しながら換気をおこないましょう。
感染症に負けないためのからだづくり
十分な休養、バランスのとれた栄養摂取などで日頃からウイルスに負けないからだづくりを心がけることが重要です。
政府広報によると、普段から体力や抵抗力を高めておくことで、インフルエンザを含む感染症にかかりにくくなります[10]。
睡眠不足や偏った食事、過度なストレスは免疫機能を低下させる要因となります。
規則正しい生活リズムを保ち、バランスの良い食事を心がけましょう。
抗インフルエンザウイルス薬の予防内服
受験や重要な会議などを控えており、どうしても体調を崩したくないときには、抗インフルエンザウイルス薬の予防内服という選択肢があります。
インフルエンザウイルスに対する予防内服薬は、インフルエンザ患者との濃厚接触があった場合や、高齢者や基礎疾患のある方など重症化リスクの高い方が流行期に感染を予防したい場合に、医師の判断により処方されるお薬です。
クリニックフォアでは、対面診療だけでなくオンライン診療にも対応しており、自宅にいながら医師の診察を受けられます。
予防内服を希望する方は、まずクリニックフォアへご相談ください。
※触診・検査が必要な場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
※抗インフルエンザウイルス薬の予防内服は自費診療となります。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合もございます。
時期はずれのインフルエンザに関するよくある質問
時期はずれのインフルエンザについて、多く寄せられる疑問にお答えします。
季節にかかわらず、正しい知識を持って適切な感染対策をおこないましょう。
時期はずれのインフルエンザは、流行時期のものと症状に違いはありますか?
インフルエンザは季節にかかわらず、高熱や悪寒、頭痛、全身倦怠感で発病し、のどの痛みや鼻水などの呼吸器症状が遅れて生じることもあります。
症状の違いは季節ではなく、ウイルスの型(A型、B型など)や個人の免疫状態によって変化するのが一般的です。
インフルエンザと診断されたら、どのくらい休む必要がありますか?
インフルエンザと診断された場合、学校保健安全法施行規則にもとづく出席停止期間が目安となります。
具体的には「発症した後5日を経過、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過」が基準です[11]。
発熱1日前から3日目をピークとし、7日目ころまで感染力がありますが、低年齢の子どもでは長引く場合があります[12]。
職場や成人の場合は法で定められた期間はありませんが、多くの会社で学校保健安全法施行規則の基準を参考に療養期間を設けています。詳しくは会社の上司や人事課に問い合わせてみましょう。
時期はずれでもインフルエンザの検査は受けられますか?
時期はずれでも医師が必要と判断すれば、季節にかかわらずインフルエンザの検査を受けることは可能です。
ただし検査のタイミングは、発症後6〜12時間、可能ならば12時間以上経過したタイミングが推奨されます。
高熱や関節痛など、インフルエンザを疑う症状がある場合は、季節を問わず早めに医療機関を受診し、医師の判断を仰ぐことが重要です。
時期はずれだからと油断せず正しい知識を持って感染対策をしましょう
インフルエンザは本来の冬季だけでなく、時期はずれに流行することがあります。国際的な人の移動の増加や、冷房による乾燥した室内環境など、現代の生活様式が季節を問わない流行につながっています。
突然の高熱や関節痛は典型的な症状ですが、ほかの感染症と見分けにくい場合も少なくありません。
「季節外れだから違うだろう」と自己判断せず、インフルエンザが疑われるときは早めに医療機関を受診しましょう。
感染が疑われた場合の基本は、受診後、自宅で安静に過ごすことです。
予防策としては、接種時期のワクチン接種に加え、手洗い、せきエチケット、適切な湿度管理といった基本的な対策を一年とおして続けることが大切です。
「時期はずれだから」と油断せず、正しい知識を持って冷静に備えることが、重症化を防ぎ、ご自身や大切な家族を守りましょう。
※触診・検査が必要な場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
※抗インフルエンザウイルス薬の予防内服は自費診療となります。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合もございます。
