インフルエンザの発症にともない嘔吐の症状が出る原因
インフルエンザにかかった際は、発熱や倦怠感だけでなく、嘔吐症状があらわれることがあります。
嘔吐の原因としては、以下の3つが考えられます。
- インフルエンザウイルス感染そのものによる消化器症状
- タミフルなどの抗インフルエンザ薬による副作用
- インフルエンザに関連する脳症/脳炎/髄膜炎など中枢神経合併症に伴う嘔吐
それぞれの可能性について、詳しくみていきましょう。
ウイルス感染による全身症状の一環としての消化器症状
インフルエンザは38℃以上の発熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状があらわれるのが特徴ですが、これに加えて腹痛や嘔吐などの消化器症状が生じることがあります[1]。
インフルエンザでは炎症反応や高熱、食欲低下などにより、吐き気・嘔吐や腹痛などの消化器症状がみられることがあります。
また、高熱による脱水や体力の低下も、消化器症状を悪化させる一因となり得ます。
タミフルなどの抗インフルエンザ薬の副作用
抗インフルエンザ薬の服用後にあらわれる嘔吐は、お薬の副作用による可能性があります。
タミフル(オセルタミビル)では、悪心・嘔吐などの消化器症状が副作用として報告されています。[2]。
また、イナビル(ラニナミビル)・リレンザ(ザナミビル)・ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)も、まれではあるものの悪心・嘔吐の副作用が報告されています[3][4][5]。
タミフル(オセルタミビル)は1日2回服用するお薬です。空腹時より食後に服用する方が吐き気などの症状が軽減することがあります。
インフルエンザに関連する脳症など中枢神経合併症に伴う嘔吐
インフルエンザは、まれに重篤な合併症として急性脳症などの中枢神経合併症を引き起こすことがあります[6]。
急性脳症でみられる嘔吐は単なる消化器症状ではなく、脳がむくんでしまい、頭蓋骨内で圧迫されることで生じる、危険なサインの一つです。
また、嘔吐が続くと、脱水や誤嚥のリスクが高まるため注意が必要です。
水分摂取が難しい、意識がもうろうとしている、繰り返し嘔吐するなどの症状がみられる場合には、速やかに医療機関を受診してください。
インフルエンザによる急性脳症は進行が早く、適切な対応が遅れると命に関わる可能性もあるため、早期の判断と受診が重要です。
嘔吐への家庭での対処法
嘔吐物を処理する際、適切な手順を踏まなければ、家庭内で感染が拡大するリスクが高まってしまいます。そのため、嘔吐物の処理には、手袋やマスクの着用、消毒などの正しい対策が欠かせません。
ここでは、家庭でできる嘔吐物の処理の方法や、吐き気が続く場合の対応を紹介します。
嘔吐物の処理時は手袋・マスクを着用し二次感染を防ぐ
インフルエンザウイルスは感染者の嘔吐物に排出されることはありませんが、唾液や鼻汁などが含まれていれば嘔吐物にウイルスが含まれることがありますので、注意が必要です。同じ時期に流行する感染性胃腸炎である可能性もありますので、家庭内での感染拡大を防ぐためには、嘔吐物の処理時に適切な感染対策をおこなう必要があります。
厚生労働省は、以下の手順を推奨しています[7]。
<嘔吐物の処理手順(家庭での対応)>
- 汚染場所には人が近づかないようにし、窓を大きく開けて十分に換気します。
- 使い捨ての手袋・マスク・エプロンを着用します。
- 嘔吐物は使い捨てペーパータオルなどで、外側から内側へ向けて静かに拭きとります。
- 使用したペーパータオルはすぐにビニール袋へ入れます。
- 嘔吐物が付着した床や周囲を、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを染み込ませたペーパータオルで覆うか、浸すように拭きとります。(インフルエンザウイルスにはアルコールでも有効ですが、同時期に流行するノロウイルスも考慮すると次亜塩素酸ナトリウムが推奨されます)
- 使用済みのペーパータオルや手袋などはビニール袋に入れ、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを染み込ませて消毒し、袋の口をしっかり閉じます。
- 処理後は丁寧に手洗いをおこないます。
正しい手順を心がけ、感染リスクを最小限に抑えましょう。
家族からの感染を防ぐためのインフルエンザの予防内服薬
インフルエンザにかかった家族を看病していると、自分も感染してしまわないかと不安に思う方もいるかもしれません。
インフルエンザの家庭内感染を防ぐ助けとなる「インフルエンザの予防内服薬」というものがあることをご存じでしょうか。実際の治療としても使われる抗インフルエンザ薬の予防投与(曝露後予防)は、どうしても体調を崩すことができない場合、濃厚接触後などに医師が適応を判断して行うことがあります。ただし、発症を100%防ぐものではありません。
当クリニックでは、抗インフルエンザ薬による予防内服薬の処方をおこなっており、オンラインでの処方にも対応しています。予防内服を希望される場合は、医師に相談のうえ、適応の可否などを確認しましょう。
※保険適用外の自由診療になります。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※検査等が必要な場合は、対面診療をご案内させていただく場合があります。
- オセルタミビル(タミフル後発品)1日1回 10日分:8,250円
- イナビル(先発品)2容器で1回分:10,450円
- ゾフルーザ(先発品)2錠で1回分 ※ 80kg 未満の方向け:11,550円
- ゾフルーザ(先発品)4錠で1回分 ※ 80kg 以上の方向け:19,250円
※お薬代(税込)
※価格は2025年11月時点のものになります。
※診察料1,650円(税込)と配送料550円(税込)がかかります。
脱水を防ぐため経口補水液やスープでこまめに水分補給をおこなう
インフルエンザによる発熱や嘔吐は、体内から水分が急速に失われる原因になります。厚生労働省は、インフルエンザ時には十分な水分補給を行うよう推奨しており、お茶やスープなど飲みやすいもので構わないとしています[8]。
経口補水液やスポーツドリンク、果汁などは電解質を補いながら水分をとることができます。スポーツドリンクや果汁は糖分が多いことがあるため、摂取量には注意しましょう。
具体的な水分補給のポイントは次のとおりです。
- まずは少量の水分から始め、吐かなければ量を増やします
- 常温または人肌程度の温度にすると胃腸への負担が軽減されます
嘔吐直後は飲んだり食べたりせず、30分〜1時間程度休んでから再開してください。
口の中が不快なときは、うがいでさっぱりさせるのもおすすめです。
吐き気があるときは無理せず消化のよいものを少量ずつ摂取する
インフルエンザで嘔吐があるときは消化機能が低下しているため、無理に食事をとる必要はありません。症状が落ち着いたタイミングで、消化のよい食品を中心に少量ずつ摂取するとよいでしょう。
<消化のよい食品の例>
| 主食 | ご飯 ・おかゆ、食パン、そうめん、うどん |
| 主菜 | 脂肪の少ない肉、白身魚、豆腐 ・納豆、卵 |
| 副菜 | 大根、にんじん、かぶ、玉ねぎ、ほうれん草など繊維が柔らかい野菜 |
| その他 | ヨーグルト、牛乳、チーズ |
一方で、以下の食品は消化に時間がかかるため、嘔吐がある時期は避けた方がよいでしょう。
- ごぼう、たけのこ、コーン、山菜など繊維の固い野菜
- 鶏皮やバラ肉など脂身の多い肉
- 揚げ物や炒め物
- 香辛料が強いもの、味の濃い料理
嘔吐や頭痛が激しいときに注意すべき症状と危険なサイン
インフルエンザで嘔吐や激しい頭痛に加えて、意識がばんやりする、けいれん、異常な言動などがみられる場合、インフルエンザ脳症などの合併症も疑われるため早急に受診が必要です。
厚生労働省の報告では、インフルエンザ脳症は発熱から早期(多くは24〜48時間以内)に発症し、嘔吐、異常行動、意識障害、けいれんなどが特徴とされています[9]。
子どもに多く発症し、とくに1歳前後がピークであり1シーズンに100〜300人が発症するといわれています[9]。
子どもがインフルエンザと診断された際は、症状が急変する可能性を考慮し、一人にならないよう周囲の大人が注意を払うことが重要です。
嘔吐・異常行動・けいれんがある場合は救急受診を
インフルエンザ脳症は進行が早いため、危険なサインを早期に見逃さないことが大切です。厚生労働省によると、以下のような症状がみられる場合には速やかな受診が推奨されています[8]。
<小児で注意すべき症状>
- 呼吸が速い、息苦しそう
- 顔色が悪い(青白い、土気色など)
- 嘔吐・下痢が続いている
- 落ち着かない、泣き止まない
- ぐったりして呼びかけても反応しない
- 意味不明の言動や異常行動がある
- 症状が長引き悪化している
<成人で注意すべき症状>
- 呼吸困難、強い息切れ
- 胸の痛みが続く
- 嘔吐や下痢が続く
- 発熱が数日以上続く
- 症状が改善せず悪化している
嘔吐に加えて「けいれん」や「異常行動」「意識もうろう」といった症状がみられる場合は、脳症が強く疑われるため救急対応が必要となります。
子どもに使用を避けるべき解熱鎮痛剤と注意点
インフルエンザにかかった際の解熱剤の使用には注意が必要です。とくに子どもに関しては、急性脳症のリスクが指摘されているお薬があります。
厚生労働省は以下のお薬を15歳未満には使用しないよう注意喚起しています[9]。
- アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬
- ジクロフェナクナトリウム
- メフェナム酸
これらは一部の市販薬(総合感冒薬や頭痛薬)にも含まれていることがあるため、成分を確認せず使用するのは控えましょう。解熱剤を使用したい場合には、できるだけ医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
また成人も含めてライ症候群という肝障害を伴う脳症は、主にサリチル酸系(アスピリン等)との関連が知られています。そのためインフルエンザでも使用できる解熱剤としてはアセトアミノフェンが一般的です。これも過量投与は危険であるため、医師の指示に従って使用する必要があります。以前処方された残りのお薬を使う・他の人からもらったお薬を使うといった行為も避けましょう。
インフルエンザと嘔吐に関するよくある質問
インフルエンザと嘔吐症状に関して、よく寄せられる質問にお答えします。
症状の特徴や対処法について、厚生労働省などの公的機関の情報を基に解説していきますので、参考にしてみてください。
インフルエンザB型は嘔吐しやすいというのは本当ですか?
厚生労働省からは、インフルエンザの型による消化器症状の発現率の違いについて明確な言及はされていません[8]。
型による症状の違いよりも、個人の体質や年齢、免疫状態などが消化器症状の出現に影響すると考えられます。
いずれの型に感染した場合でも、嘔吐や下痢などの消化器症状が出る可能性はあり、注意すべきポイントや対応方法も共通です。
インフルエンザの嘔吐は何日くらい続きますか?
インフルエンザの嘔吐症状の持続期間については、厚生労働省の公式資料では具体的な日数は明記されていません。ただし、インフルエンザ全体の症状経過については一定の目安が示されています。
発病後、多くの方は数日から1週間程度で回復するとされていますが、年齢や症状の程度、基礎疾患などで経過は異なります。[8]。
また、抗インフルエンザウイルス薬を適切な時期(発症から48時間以内)に服用開始すると、発熱期間は通常1〜2日間短縮されると示されていますが[8]、嘔吐の程度は個人差があります。
嘔吐が続く間は、自身に無理のないペースで水分を補給し、脱水予防に努めることが大切です。
まとめ
インフルエンザにともなう嘔吐は、ウイルスそのものの影響だけでなく、お薬の副作用や合併症のサインである可能性があります。
原因としては、インフルエンザに伴う消化器症状、タミフルなどのお薬の副作用、さらには脳症などの重い合併症の可能性が挙げられます。
嘔吐への対処の基本は水分補給を最優先とし、食事は消化のよいものを無理のない範囲でとることです。
意識障害がみられる場合や水分摂取が難しいときには早急に受診してください。
嘔吐が続く場合や、子どもの様子が普段と異なり意識がぼんやりしている、あるいはけいれんがあるといった場合には、迷わず医療機関へ相談しましょう。
