インフルエンザで熱が下がらないことはある?
インフルエンザによる発熱は、ウイルスに対する免疫反応の一部で、解熱までの期間には個人差があります。
多くは数日で解熱に向かいますが、ウイルスの型や重症度、年齢、治療開始のタイミングによっては、高熱が続いたり、一度下がった熱が再び上がったりすることもあります。
お薬を飲んでいてもすぐに熱は下がらない
インフルエンザでは、抗インフルエンザ薬や解熱剤などのお薬を服用していても、すぐに解熱しないことはめずらしくありません。
抗インフルエンザ薬は、体内でのウイルスの増殖を抑えることで発熱期間を短縮させるお薬であり、解熱剤のようにすぐに熱を直接下げる作用はありません[1]。
そのため、服用開始から解熱までには個人差があり、年齢や重症度、ウイルスの型、治療開始のタイミングによって異なります。
一方、解熱剤は一時的に熱を下げるお薬で、ウイルスそのものを排除する効果はありません。そのため、効果が切れると再び発熱することがあり「効いていない」と感じることもあるでしょう。
また、発熱は体がウイルスと戦うために起こる自然な防御反応です。免疫反応が続いている間は、解熱剤で一時的に熱が下がったあと、再び上昇することがあります。
一般的なインフルエンザによる発熱期間の目安
インフルエンザの発熱期間には個人差がありますが、一般的には3〜4日程度で解熱に向かうことが多いとされていますが、その後二峰性の発熱として再び発熱を認めることがあります[2]。
インフルエンザは多くの場合、発症から1週間以内に全身症状は改善し、予後は良好な疾患です[3]。
ただし、解熱後もせきや強い倦怠感がしばらく続くことがあり、熱が下がったからといって完全に回復したとは限らない点には注意が必要です。
また、抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、バロキサビル マルボキシルなど)を発症から48時間以内に服用した場合、発熱期間を1〜2日短縮できることが報告されています[1]。
これは、ウイルスの増殖が抑えられることで、免疫反応が落ち着くまでの時間が短くなるためと考えられます。
<発熱・症状経過の目安>[2][3]
| 経過日数 | 症状の変化 |
| 発症1〜2日目 | 38〜40℃の高熱が急激に出現頭痛 ・関節痛 ・筋肉痛 ・全身倦怠感などの全身症状がピークを迎えるせき、鼻水、のどの痛みなどもあらわれる |
| 発症3〜4日目 | 多くは解熱傾向がみられるが、一度熱が下がったあとに再び上昇することもある |
| 発症5〜7日目 | 多くの方は解熱し、全身症状も改善に向かうせきや倦怠感は残ることが多い |
| 発症後1〜2週間以降 | 発熱をはじめ、ほかの全身症状はほぼ改善ただし、せきや倦怠感がしばらく持続することもある |
インフルエンザで熱が下がらない主な原因
インフルエンザで熱が長引く背景には、いくつかの要因が関係しています。
「お薬が効いていないのでは」「何か重い病気では」と不安になる方も多いですが、必ずしも異常とは限りません。
ここでは、熱が下がりにくい代表的な原因を整理して解説します。
ウイルスの型による違い
流行する季節性インフルエンザには主にA型とB型があり、型によって発熱の経過に差がみられることがあります。
また、B型インフルエンザで発熱がやや長く続く傾向示されたという報告もあります[4]。
そのため、「同じインフルエンザでも経過が違う」と感じることがあるのです。
抗インフルエンザ薬の服用タイミング
抗インフルエンザ薬は、ウイルスの増殖を抑えることで症状を軽減するお薬です。
発症初期に服用を開始した場合、発熱期間が短くなることが期待されますが、服用開始が遅れると解熱までに時間がかかることがあります[1]。
また、検査や受診のタイミングによって診断・治療の開始が遅くなった場合も、お薬を飲んでいても熱がすぐに下がらないことがあります。
免疫力や体質による個人差
インフルエンザの経過には個人差があり、同じ治療を受けても回復までのスピードは人によって異なります。
以下のような方では、発熱が長引きやすい傾向があります[3]。
- 高齢者
- 乳幼児
- 妊婦
- 糖尿病・心疾患・呼吸器疾患などの基礎疾患がある方
- 免疫力が低下している方
また、十分な休養が取れていない場合や、脱水・栄養不足がある場合も、体の回復が遅れやすくなるでしょう。
「熱が下がらない=お薬が効いていない」とは限らず、既往歴や年齢などによって個人差がみられるのです。
一度下がって再び熱が上がる「二峰性発熱」の可能性
インフルエンザでは、一度解熱した後に再び発熱する「二峰性発熱(にほうせいはつねつ)」がみられることがあります。
熱が上がったり下がったりしている場合は、二峰性発熱である可能性も考えられるでしょう。
これはインフルエンザにみられる経過の一つで、乳幼児で起こりやすいとされています[5]。
二峰性発熱そのものは、必ずしも異常な経過ではありません。しかし、再発熱時に新たな症状がみられたり、全身状態が明らかに悪化していたりする場合は、合併症の可能性も考える必要があるでしょう。
合併症を起こしている可能性
発熱が長く続く場合や、熱がなかなか下がる様子がない場合には、合併症を起こしている可能性も考えられます。
インフルエンザの代表的な合併症には、以下のようなものがあります[6][7]。
- 肺炎
- 中耳炎
- インフルエンザ脳症(主に子ども)
合併症を起こすと、発熱が長引くだけでなく、せきや呼吸困難、意識の変化などの症状があらわれることがあります。
「熱が長引いている」「いつもと様子が違う」と感じたときは、自己判断せず、早めに医療機関を再受診することが大切です。
再受診が必要な症状と受診目安
インフルエンザは多くの場合、自宅療養で回復しますが、経過によっては合併症を起こしている可能性も考えられます。
「熱が下がらない」「一度よくなったのに悪化した」といった場合は、再受診や救急受診が必要になることもあります。
以下の目安を参考に、受診のタイミングを判断しましょう。
まず確認したい大人・子ども共通の再受診・救急受診の目安
インフルエンザの経過中に、年齢を問わず以下の症状がみられる場合は注意が必要です。
再受診でよいケースと救急受診を検討すべきケースを分けて確認しましょう[8][9]。
| 対象 | 再受診の目安 | 救急受診の目安 |
| 共通 | 呼吸時にゼーゼー ・ヒューヒューと音がする胸が痛い耳が痛い | 呼吸困難意識障害けいれん顔色が悪い(チアノーゼ)嘔吐を繰り返す水分がとれない尿量が減っている |
インフルエンザと診断されて治療を開始した後でも、上記のような症状がみられる場合は、合併症の可能性を考えて医療機関を再受診することをおすすめします。
また、高齢者や基礎疾患のある方は、同じ症状でも重症化しやすいことが知られています。上記の表に該当する症状がみられる場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
子どもで注意が必要な症状
子どもでは、大人とは異なる形で重症化のサインがあらわれることがあります。次のような症状がみられる場合は、発熱の程度にかかわらず、早めに医療機関へ相談してください[9]。
- 水分をとりたがらない、ぐったりしている
- 呼びかけに反応しにくい、ぼんやりしている
- 異常な言動がみられる
これらは、脱水や合併症、インフルエンザ脳症などの初期サインである可能性があります。
インフルエンザ脳症は主に子どもに発症し、急速に進行することがあるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。「いつもと様子が違う」と感じた場合は、早めの受診が大切です。
解熱剤を服用しても熱が下がらないときの対処法
インフルエンザで解熱剤を服用しても熱が続くと、不安に感じる方も多いでしょう。しかし、発熱が続いているからといって、すべてがすぐに再受診や救急受診の対象になるわけではありません。
受診の目安に当てはまらず、全身状態が比較的安定している場合には、自宅で様子をみながら回復を待てるケースもあります。
ここでは、解熱剤を使っても熱が下がらないときに、自宅で意識したい基本的な対処法と、受診に迷った際の考え方について解説します。
自宅で様子をみる場合の基本的なポイント
受診の目安に当てはまらず、全身状態が比較的安定している場合は、自宅で様子をみることが可能なケースもあります。
以下のポイントを意識して過ごしましょう[1][8]。
- こまめに水分をとり、脱水を防ぐ
- 無理をせず、十分な休養をとる
- 室内を乾燥させすぎない(加湿など)
- 解熱剤は指示を守って服用する
なお、インフルエンザ時に解熱剤を服用する場合、子どもではアセトアミノフェンが第一選択とされています[9]。
全身状態が悪化していると感じる場合や、判断に迷う場合は、早めに医療機関へ相談してください。
熱がなかなか下がらず不安なときはオンライン診療の活用も検討を
インフルエンザで高熱が続いていると「このまま様子をみていて大丈夫なのか」「もう一度受診したほうがいいのか」と迷うことがあります。
また、発熱や強い倦怠感がある状態では、外出そのものが負担になるでしょう。
そのようなときの選択肢の一つが、オンライン診療の活用です。スマートフォンやパソコンがあれば、自宅にいながら医師の診察を受けることができ、現在の症状やこれまでの経過を伝えたうえで、受診の必要性や今後の対応について相談できます。
クリニックフォアでも、保険診療のオンライン診療を実施しています。
たとえば「熱が何日も続いているが、再受診すべきか判断できない」といった場合でも、医師の視点からアドバイスを受けられることは、大きな安心材料になるでしょう。
なお、インフルエンザの診断や抗インフルエンザ薬の処方については、症状や経過に応じて医師が判断します。オンライン診療の結果、対面での診察や検査が必要と案内される場合もあります。
「外出がつらいから」と自己判断で我慢を続けるのではなく、体調や状況に応じて、医療につながる方法を選択することが大切です。不安が強い場合は、早めに相談してください。
※オンライン診療においても、インフルエンザ陽性者との濃厚接触歴、高熱などの症状から医師がインフルエンザと推定診断した場合には、抗インフルエンザ薬が処方される場合があります。市販の抗原検査キットの結果も参考にする場合があります。
※症状や状況に応じて、対面での検査や診察をご案内する場合があります。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合もございます。
インフルエンザでの体調悪化を避けるために予防内服という選択肢も
インフルエンザに感染すると、高熱や強い倦怠感が数日続き、回復までに時間がかかることがあります。
体力が落ちやすい方や、これまでインフルエンザで症状が長引いた経験がある方では「なかなか熱が下がらない」「治るまでがつらい」と感じることも多いのではないでしょうか。
こうした経過をできるだけ避けるための対策として「予防内服」という方法があることも知っておくとよいでしょう。
予防内服とは、治療にも用いられる抗インフルエンザ薬を発症前に服用し、インフルエンザの発症リスクを下げる目的で行う方法です。
インフルエンザの感染を完全に防げるわけではありませんが、発症リスクを下げられる可能性があります。
次のような状況では、医師の判断のもとで予防内服薬が検討されることがあります。
- 身近な人(職場・学校など)でインフルエンザの感染者が出たとき
- 受験など、絶対に体調を崩したくない予定があるとき
- 基礎疾患があるなど、重症化リスクが高く感染を避けたい場合
ただし、予防内服薬は保険適用外の自由診療となり、服用しても100%発症を防げるわけではありません。インフルエンザによって症状が長引いたり、合併症が心配な場合の選択肢の一つであることを理解したうえで、必ず医師に相談して適切かどうか判断してもらうことが大切です。
予防内服薬として処方できるお薬は以下のとおりです。
- オセルタミビル(タミフル後発品)1日1回 10日分:8,250円
- イナビル(先発品)2容器で1回分:10,450円
- ゾフルーザ(先発品)2錠で1回分 ※80kg 未満の方向け:11,550円
- ゾフルーザ(先発品)4錠で1回分 ※80kg 以上の方向け:19,250円
予防内服薬を希望される場合は、医師に相談のうえ、ご自身の状況に合った対応を確認しましょう。
※自費での処方となります。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合もございます。
インフルエンザの症状・期間に関するよくある質問
インフルエンザで熱が下がらない、症状が長引いている場合に、多くの方が疑問に思うことについてお答えします。
Q1:インフルエンザで5日以上熱が続くのは異常ですか?
インフルエンザの発熱期間は通常3〜4日程度であり、多くの場合1週間程度で症状が改善します[2]。
5日程度であれば通常の経過の範囲内であることも多いですが、高熱が続く/全身状態が悪い/新たな症状が出る場合は受診を検討してください。
考えられる原因として、肺炎や中耳炎などの合併症を起こしている可能性も考えられます。
また、B型インフルエンザではA型と比較して解熱に時間がかかることがあるため、感染したウイルスの型によっても発熱期間は異なります[4]。
激しいせき、呼吸困難、胸痛など、発熱以外に新たな症状が加わっている場合は、早めに医療機関を受診してください。
Q2:熱が下がらない場合、再度検査を受けた方がよいですか?
インフルエンザの診断がすでについている場合、熱が下がらないからといって、原則再度インフルエンザの検査を行う必要はありません。
ただし、発熱が長引く場合は、血液検査やレントゲンなど、合併症の有無を確認するための検査が必要になることがあります。
熱が下がらず心配な場合は、検査の必要性も含めて医師に相談するとよいでしょう。
Q3:二峰性発熱は大人でも起こりますか?
一度解熱したあとに再び熱が上がる、二峰性発熱は主に子どもで多くみられますが、大人でも起こることがあります。
大人で二峰性発熱がみられた場合も、基本的な対処法は同じです。
再発熱時に新たな症状が加わっていなければ、安静と水分補給を続けながら経過をみます。
ただし、高齢者や基礎疾患のある方で熱がぶり返した場合は、細菌性肺炎などの合併症を併発している可能性があるため、早めに医療機関を受診してください。
まとめ
インフルエンザで熱が下がらないと不安になりますが、発熱の期間には個人差があり、すぐに異常とは限りません。
発熱は通常3〜4日程度で、多くの場合は発症から1週間以内に症状が改善します。また、抗インフルエンザ薬を発症から48時間以内に服用すると、発熱期間を1〜2日短縮できることがあります。
熱が下がりにくい原因として考えられるのは、ウイルスの型、抗インフルエンザ薬の服用タイミング、免疫力や体質による個人差などです。また、一度下がった熱が再び上がる「二峰性発熱」がみられることもあり、子どもで起こりやすいとされています。
多くは自然な経過ですが、新たな症状が出たり元気がなくなったりした場合は注意が必要です。
解熱剤はウイルスを排除するお薬ではないため、服用しても完全に熱が下がらないことがあります。また、インフルエンザではアセトアミノフェンの服用が望ましいとされています。発熱によるつらさを和らげる目的で、用法・用量を守って服用しましょう。
一方で、呼吸困難や胸痛、水分が取れない状態が続く場合は再受診が必要です。意識障害、けいれん、異常行動、顔色の悪さ(チアノーゼ)などがみられる場合は、夜間や休日であっても救急医療機関を受診してください。
インフルエンザは多くの場合、適切な治療と十分な休養で回復します。ただし、子ども、高齢者、基礎疾患のある方は症状の変化に注意しましょう。子どもでは、インフルエンザ脳症の早期発見が重要です。
熱が下がらず不安な場合や、受診の目安に当てはまる症状がある場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。
