多汗症の基本と種類
多汗症は、体温調節に必要な量を超えて過剰に汗をかいてしまう疾患です。
原因や発汗範囲によって複数のタイプに分けられます。
ここでは、多汗症の基本と2つの種類について順番に解説します。
多汗症は病気として治療対象となる疾患
多汗症は、体温調節に必要な量を超えて過剰に汗をかいてしまう疾患です[1]。
汗を出す働きを担う交感神経が過剰に興奮することで、暑さや運動と関係なく大量の汗が分泌される状態が続くためです。
具体的には、以下のような日常生活に支障が出る発汗が典型的なサインとされています。
- 手のひらが濡れて書類が湿ってしまう
- 脇汗で服にシミができる
- シャツを1日に何度も着替える必要がある
多くの場合は子どもの頃から思春期にかけて発症し、成人になっても症状が続くケースが多いとされています。
原発性多汗症と続発性多汗症の違い
多汗症は大きく「原発性」と「続発性」の2タイプに分類されます。
それぞれ原因・特徴・治療方針が異なるため、まず自分がどちらのタイプかをチェックしてみましょう。
| 原発性多汗症 | 続発性多汗症 | |
| 原因 | 明確な原因が特定できない | 基礎疾患やお薬の副作用 |
| 発汗範囲 | 手のひら・脇・顔など局所的なことが多い(全身性のタイプもある) | 全身に及ぶことが多い |
| 睡眠中の発汗 | 基本的にない | ある場合が多い |
| 発症時期 | 25歳以下が多い | 突然発症することが多い |
| 家族歴 | 関係する場合がある[2] | 関係しないことが多い |
| 治療方針 | 外用薬・内服薬・注射・手術など | 原因疾患の治療が中心 |
突然汗の量が増えた・全身に汗をかく・睡眠中も発汗があるといった症状がある場合は、続発性多汗症の可能性も考慮し、早めに医師に相談しましょう。
原発性多汗症(原因不明のタイプ)
原発性多汗症は、明確な原因が特定できない多汗症で、全多汗症の多くを占めるタイプです[1]。
体の構造に異常がないにもかかわらず、多くの場合特定の部位だけに過剰な発汗が見られる特徴があります。
具体的には以下のような特徴が見られます。
- 手のひら・足の裏・脇・顔・頭部など局所的な部位に発症する
- 左右対称で起こる
- 睡眠中は発汗が止まる
- 25歳以下で発症することが多い
- 家族に同じ症状の人がいる
海外の研究では家族歴がある方の割合は30〜50%程度とされており、遺伝的要因の関与が示唆されています[2]。
続発性多汗症(基礎疾患が原因のタイプ)
続発性多汗症は、別の病気やお薬の副作用が原因で起こる多汗症です[2]。
発汗を引き起こす基礎疾患があるため、原因となる病気の治療によって症状の改善が見込めるタイプです。
代表的な原因疾患には以下のようなものがあります。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
- 糖尿病・低血糖
- 感染症
- 自律神経異常
- 更年期障害によるホットフラッシュ
服用しているお薬の副作用として発汗が増えることもあります。
部位別に見る多汗症の症状
多汗症は発汗部位によって症状の現れ方や日常生活への影響が異なります。
汗腺の分布や症状の現れ方は部位ごとに違うため、対処法や治療法も部位に応じた選択が必要となります。
手掌多汗症と腋窩多汗症
手掌(手のひら)多汗症と腋窩(脇の下)多汗症は、社会生活への影響が特に大きい部位です。
手のひらは日常的に物に触れる機会が多く、脇は衣服のシミとして目に見える形で現れるためです。
それぞれ以下のような影響が出やすい傾向があります。
| 手掌多汗症 | 腋窩多汗症 |
| ・スマホ操作、書類記入、楽器演奏などへの支障 ・握手や手をつなぐ場面での悩み ・精神的な負担 | ・服にシミができる ・着替えの頻度が増える ・服選びが制限される ・商談や会議など重要な場面での悩み |
足蹠多汗症(足の裏)
足蹠(足の裏)多汗症は、靴の中で症状が悪化しやすく二次的なトラブルにつながりやすい部位です。
通気性の悪い靴の中は湿度が高くなりやすく、汗が蒸発せず細菌が繁殖しやすい環境となるためです。
具体的には以下のような影響が現れることがあります。
- 靴の中が湿る
- 足のにおいが気になる
- 水虫のリスクが高まる
- 靴下や靴がすぐに傷む
吸湿性のある靴下や通気性のよい靴を選ぶ、こまめに足を洗うといったケアが望ましい一方、症状が強い場合は外用薬やイオントフォレーシスなどの治療が選択肢となります。
顔面多汗症と頭部多汗症
顔面多汗症と頭部多汗症は、人目につきやすい部位での発汗のため、精神的な負担が大きい場合があります。
<顔面多汗症と頭部多汗症による影響の一例>
- 顔から汗が滴る
- メイクが崩れる
- 人前での緊張で発汗が強まる
- 髪が濡れる
- 寝具が汗で過度に湿る
ハンカチや汗ふきシートでこまめに拭き取る、通気性のよい環境を整えるといったセルフケアが望ましい一方、症状が強い場合は発汗を抑える内服薬やボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)などの治療が選択肢となるケースもあります。
多汗症のセルフチェックと受診の目安
多汗症が疑われる場合、自分で簡単にできるセルフチェックがあります。
医療機関に行く前に症状を客観的に確認しておくと、受診時の説明もスムーズになります。
多汗症のセルフチェック項目
多汗症のセルフチェックには、複数の判断項目があります[2]。
「明らかな原因がない局所的に過剰な発汗が6ヵ月以上続いている」ことを前提に、以下の1〜6のうち2つ以上当てはまる場合、原発性局所多汗症の診断基準を満たす可能性があります。
- 25歳以下で発症した
- 左右対称に汗が出る
- 睡眠中は発汗がない
- 1週間に1回以上過剰な発汗がある
- 家族や血縁者に同じ症状の人がいる
- 多汗のせいで日常生活に支障がある
これらはあくまで目安であり、正確な診断には医師による診察が必要です。
何科を受診すればよいか
多汗症の診療は皮膚科が基本です。
保険診療で診断と外用薬などの処方が受けられるため、最初の受診先として適しています。
注射やマイクロ波治療など特定の治療を希望する場合は、対応している皮膚科・専門外来を検討するとよいでしょう。
続発性が疑われる場合は、原因疾患の評価のため内科での診察が必要になることがあります。
多汗症の主な治療法
多汗症の治療法は、症状の重さや部位に応じて異なります。
| 治療法 | 主な対象部位 | 保険適用 | 効果の持続期間 |
| 外用薬(エクロックゲル・ラピフォーとワイプ・アポハイドローション等) | 脇・手のひら等 | あり | 使用継続中 |
| 内服薬(プロバンサイン等) | 全身・複数部位など | あり | 服用継続中 |
| ボツリヌス毒素注射 | 脇(重症) | あり(重症のみ) | 約4〜9ヶ月[3] |
| イオントフォレーシス | 手・足 | あり | 継続治療が必要 |
| マイクロ波治療(ミラドライ) | 脇 | なし(自由診療) | 長期間 |
| 手術(ETS) | 手・脇(重症) | あり | 長期間 |
薬物療法(外用薬・内服薬)
多汗症の薬物療法には、外用薬と内服薬があります[2]。
軽症から中等症の多汗症に対しては、保険適用の処方薬で対応できる場合があります。
<外用薬として保険適用で処方される主なお薬>
- エクロックゲル(抗コリン薬・腋窩多汗症)
- ラピフォートワイプ(抗コリン薬・腋窩多汗症)
- アポハイドローション(抗コリン薬・手掌多汗症)
内服薬としてはプロバンサイン(プロパンテリン臭化物)が代表的で、全身性の多汗症や複数部位の症状に対して使用されることが多いですが、局所的な部位の多汗症でも使用されることもあります。
副作用が起こる可能性もあるため、自己判断でお薬の使用を中止・変更せず、医師の指示に従って使用することが大切です。
ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)・イオントフォレーシス
ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)とイオントフォレーシスは、薬物療法で十分な効果が得られない場合の選択肢のひとつです[1]。
汗腺の働きを抑える施術として、薬物療法とは異なるアプローチで効果が期待できます。
ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)は脇汗に対しておおむね4〜9ヶ月程度効果が持続するとされます(効果・持続には個人差があります)。また、重症の腋窩多汗症は保険適用となっています[3]。
イオントフォレーシスは水道水に微弱な電流を流し手や足を浸すことで発汗を抑える物理療法で、保険適用が認められており継続的な治療が必要になります。
マイクロ波治療・手術
マイクロ波治療や手術は、症状が重い場合や長期的な改善を目指す場合の選択肢のひとつです[2]。
汗腺自体に働きかける施術のため、長期的な効果が期待できる方法とされています。
マイクロ波治療(ミラドライ)は、マイクロ波を用いて汗腺へ熱エネルギーを加える治療法で、脇汗への効果が期待されています。なお、自由診療のため費用は医療機関によって異なります。
手術(ETS:胸腔鏡下交感神経遮断術)は重症の手汗・脇汗に対する治療法で、効果は高い一方で代償性発汗(別の部位の発汗が増える現象)のリスクがある点には注意が必要です[2]。
多汗症の日常生活で取り入れたい対策
医療機関での治療と並行して、日常生活で取り入れられる対策もあります。
セルフケアを習慣化することで、症状を軽減しながら治療の効果を高めることが期待できます。
衣服と食事の工夫
衣服と食事の工夫は、日常生活で取り入れやすい多汗症対策です。無理のない範囲で工夫しましょう。
<衣服と食事のポイント>
| 衣服 | ・通気性のよい綿や麻素材の衣服を選ぶ ・ゆとりのあるサイズの衣服を選ぶ ・汗をかいたら早めに着替える |
| 食事 | 辛い食べ物・カフェイン・アルコールは交感神経を刺激して発汗を促すため控えめにする |
ストレス管理
ストレスや睡眠不足は自律神経機能の乱れに関与すると考えられており、発汗症状へ影響する場合があります。
入浴・趣味の時間・十分な睡眠などを通して、意識的にリラックスできる時間を確保しましょう。
ストレスだけが原因で原発性多汗症が発症するわけではありませんが、症状の悪化を防ぐためにストレス管理を意識することは重要です。
部位別のセルフケア
多汗症は部位ごとに適したセルフケアが異なります。
部位の特性に応じた対策を取り入れることで、日常生活の不便さを軽減しやすくなります。
| 部位 | 推奨セルフケア |
| 手掌(手のひら) | 吸水性のよいハンカチを携帯する |
| 足蹠(足の裏) | 通気性のよい靴・抗菌靴下を活用する |
| 顔面・頭部 | こまめに汗を拭き取り清潔を保つ |
| 全部位共通 | 汗をかいたらこまめに拭く・早めに着替える |
多汗症のご相談はクリニックフォアへ
多汗症の症状でお悩みの方は、クリニックフォアへご相談ください。
平日忙しい方や対面受診の時間が取りにくい方にとって、自宅から医師に相談できるオンライン診療は便利な選択肢のひとつとなるでしょう。
なお、多汗症の基本的な治療は保険診療でも受けられますが、クリニックフォアのオンライン多汗症診療は自由診療(全額自己負担)です。保険診療では処方できない塩化アルミニウム液やソリフェナシンなども選択肢となるため、保険診療で十分な改善が得られなかった方や、自由診療のメニュー・プランを希望される方にも適しています(これらは多汗症に対しては国内未承認のお薬を含みます。詳細・注意事項は多汗症診療ページをご確認ください)。
ただし、以下に該当する場合は対面での受診をご案内する場合があります。
- ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)・マイクロ波治療・手術などの処置を希望する場合
- 続発性多汗症が疑われる場合
- 症状が重く詳しい検査が必要な場合
※医師の判断によりお薬を処方できない場合がございます。
※対面診療をご案内する場合もございます。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。
多汗症に関するよくある質問
多汗症については、「本当に病気なのか」「何科を受診すればいいのか」など疑問を感じる方も少なくありません。
ここでは、多汗症に関してよくある質問をまとめました。
Q1. 多汗症は遺伝しますか?
多汗症には、家族に同じ症状を持つ人がいるケースが少なくありません。
海外の研究では、原発性局所多汗症の患者の30〜50%に家族歴があると報告されています[2]。
ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、ストレスや生活習慣なども発症に影響するとされています。
Q2. 多汗症は自力で治せますか?
多汗症を完全に治すことは、自力だけでは難しいとされています。
ただし、軽症の場合は市販薬の使用や生活習慣の見直しによって、症状をある程度抑えられることがあります。
症状が重い場合や日常生活に支障が出ている場合は医療機関での治療が望ましいため、医師に相談することをおすすめします。
Q3. ストレスで多汗症になりますか?
ストレスは多汗症の症状を悪化させる要因として知られています。
精神的な緊張や不安が交感神経を刺激し発汗を促進するためですが、ストレスだけが原因で原発性多汗症が発症するわけではありません。
もともとの体質との組み合わせで症状が現れるケースが多いとされています。
Q4. 子どもでも多汗症になりますか?
多汗症の多くは子どもの頃から思春期にかけて発症します[2]。
思春期あたりで症状が出始める方が多く、成人になっても症状が続くケースが一般的です。
エクロックゲルは12歳以上、ラピフォートワイプは9歳以上で使用可能とされているため、症状にお困りの場合は医療機関で相談してみましょう[4][5]。
まとめ
多汗症は体温調節を超えて過剰に汗をかく病気で、原発性と続発性の2タイプに分類されます。
手のひら・脇・足の裏・顔・頭部など部位ごとに症状の出方が異なり、セルフチェック項目で2つ以上当てはまる場合は皮膚科の受診を検討しましょう。
治療法は薬物療法・ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)・イオントフォレーシス・マイクロ波治療・手術などから症状の重症度や希望に応じて選べます。
日常生活では衣服選び・食事管理・ストレスケア・制汗剤の活用が症状の軽減に役立つ場合があります。
日常生活に支障がある場合は医師に相談し、症状に応じて適切な治療やセルフケアを取り入れていくことが大切です。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。症状や治療の選択については、必ず医師の診察を受けてください。
※効果・効能・副作用の現れ方には個人差がございます。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合や、対面診療をご案内する場合がございます。
