麦門冬湯の効能・効果
麦門冬湯は、乾燥したのどや気道に対して用いられ、せきの症状に対応する漢方薬です。
漢方医学では、体内の「水(すい)」が不足すると気道が乾燥し、せきが出やすくなると考えられています。
麦門冬湯は不足した「水」を補うことを目的として用いられ、乾いたせきや痰の絡みといった症状に対応します。
具体的な効能・効果として、以下の症状が添付文書に記載されています[1]。
- 痰の切れにくいせき
- 空せき(からせき)
- 気管支炎
- 気管支ぜんそく
- 咽頭炎
- しわがれ声
これらの症状に対して、麦門冬湯は気道の乾燥に着目して用いられます。とくに風邪の後にせきが長引く場合には、気道粘膜が炎症の影響を受け、乾燥しやすい状態になることがあります。このような状態に対して、麦門冬湯は気道の乾燥に対応する目的で用いられ、せき症状の軽減が期待される場合があります。
また、乾燥した季節ののどの違和感や、空調環境によるのどの不快感に対して用いられることがあります。さらに、声を使う仕事をしている方のしわがれ声や、加齢によるのどの乾燥にも用いられることがあります。
麦門冬湯には一般的に眠気を引き起こす成分が含まれていないとされており、日中の活動時にも使用しやすいとされています。
麦門冬湯に含まれる6つの生薬
麦門冬湯は、6種類の生薬を組み合わせて作られています。それぞれの生薬が異なる役割を担い、組み合わされて用いられることで症状に対応すると考えられています。主薬である麦門冬がのどの乾燥に対応し、半夏がせきや痰に関連する症状に用いられ、人参や甘草が全身状態を整える目的で配合されています。
| 生薬名 | 役割 |
|---|---|
| 麦門冬(ばくもんどう) | のどや気道の乾燥に対して用いられる |
| 半夏(はんげ) | せきや痰に関連する症状に用いられる |
| 人参(にんじん) | 胃腸機能のサポートや全身状態の維持を目的に用いられる |
| 甘草(かんぞう) | 炎症に関連する症状に用いられ、他の生薬との調和を図る目的で配合される |
| 大棗(たいそう) | 胃腸機能のサポートや精神的な不調に関連する症状に用いられる |
| 粳米(こうべい) | 体力の維持や口渇などの症状に対応する目的で用いられる |
麦門冬(ばくもんどう)
麦門冬(ばくもんどう)は、ユリ科の植物「ジャノヒゲ」の根の膨らんだ部分を乾燥させた生薬です[2]。体内の水分保持に関与し、のどや気道の乾燥に対して用いられる生薬で、麦門冬湯の中心的な構成要素とされています。
古くから「潤す生薬」として知られ、せきやのどの渇きに関連する症状に用いられます。
半夏(はんげ)
半夏(はんげ)は、せきや痰に関連する症状に用いられる生薬です[2]。気道の不調に関連する症状に対して用いられ、せきが出やすい状態に対応する目的で配合されています。
麦門冬湯の中では「燥性」を持つ生薬とされ、処方全体のバランスをとる役割があると考えられています。
人参(にんじん)
人参(にんじん)は、胃腸機能を高めて体力を補う生薬です[3]。漢方でいう「気」を補う目的で用いられ、体調の維持をサポートすると考えられています。体力が低下した状態に対して用いられることがあります。
甘草(かんぞう)
甘草(かんぞう)は、炎症に関連する症状に用いられ、他の生薬との調和を図る目的で配合されます[3]。多くの漢方薬に配合されている生薬で、処方全体のバランスを整える役割があります。
ただし、過剰摂取すると副作用のリスクがあるため、服用量には注意が必要です。
大棗(たいそう)
大棗(たいそう)は、胃腸を保護し、神経を鎮める働きがある生薬です[3]。「なつめ」の果実を乾燥させたもので、胃腸機能のサポートや精神的な不調に関連する症状に用いられます。
粳米(こうべい)
粳米(こうべい)は、うるち米(お米)のことで、気を補い渇きを潤す作用があります[3]。麦門冬湯に独特の風味を与える生薬で、比較的飲みやすいと感じられることがあります。
麦門冬湯の漢方医学的な考え方
麦門冬湯は、漢方医学で「肺陰虚(はいいんきょ)」と呼ばれる状態に対応する処方とされています。
漢方医学では、体内の「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスが崩れると、さまざまな症状が現れると考えられています。
「肺陰虚」とは、体内の水分バランスが崩れ、とくに肺やのど、気管支が乾燥している状態を指します。
この状態では、気道の粘膜が乾燥して刺激に敏感となり、軽い刺激でもせきが出やすくなると考えられています。
また、痰は少量で粘り気が強く、切れにくいという特徴があります。
麦門冬湯は、不足した「水」を補うことを目的として用いられ、肺や気道の乾燥に関連する症状に対応すると考えられています。
西洋医学的観点からも研究が行われており、以下のような作用が報告されています[4]。
- せき反射に関与する鎮咳作用
- 痰の性状に影響し、排出を促すとされる去痰作用
- 気管支拡張に関連する作用
- アレルギー反応に関与する作用
これらの作用が複合的に関与することで、せき症状の軽減につながる可能性があると考えられています。
麦門冬湯が適している場合・適さない場合
漢方薬は体質や症状に合わせて選ぶことが重要です。
麦門冬湯は「乾燥タイプのせき」に用いられることが多く、水様性の痰が多い場合には適さないことあります。
自身の症状と照らし合わせ、服用前に確認しておくことが重要です。
漢方薬は「証(しょう)」と呼ばれる体質や症状のパターンに基づいて選択されます。
麦門冬湯に適した「証」を理解することは、適切な使用につながります。
麦門冬湯が適していると考えられる人の特徴
麦門冬湯は、体力が中等度以下で、のどや気道の乾燥がみられる方に用いられることが多い漢方薬です。
漢方医学では「陰虚(いんきょ)」という、体内の潤いが不足した状態にある方に適した処方とされています。
風邪などをきっかけに体力が低下し、のどの違和感や乾いたせきがみられる状態が典型的とされています。
以下のような症状がみられる場合、麦門冬湯が適している可能性があります。
- 痰を伴わないコンコンという乾いたせきが出る
- 痰が少量で粘り気が強く、切れにくい
- のどが乾燥してイガイガする
- せき込むと顔が赤くなるほど激しい
- 風邪の後にせきだけが長引いている
- 声がかすれる、しわがれ声になる
- 夜間にせきがひどくなる
乾燥した環境や季節の変わり目にせきが出やすい場合にも、用いられることがあります。
とくに秋から冬にかけての乾燥した季節や、エアコンの効いた室内で過ごすことが多い方は、気道が乾燥しやすい状態にあります。
このような環境要因によるせきに対しても、麦門冬湯が用いられることがあります。
また、以下のような方にも麦門冬湯が使用されることがあります。
風邪の回復期でせきだけが残っている方
風邪の熱や鼻水などの症状が軽快した後もせきが2週間以上続く場合、気道粘膜が炎症の影響を受けて乾燥している可能性があります。
このような状態に対して、麦門冬湯が用いられることがあり、症状の軽減がみられる場合もあるとされています。
新型コロナウイルス感染症の回復後にせきが続く方
新型コロナウイルス感染症の回復後に、痰を伴わない乾いたせきが続く場合にも、麦門冬湯が用いられることがあります。
気道の乾燥に関連する症状に対して用いられ、せき症状の軽減につながる可能性があります。
声を使う仕事をしている方
歌手、声優、教師、営業職など、声を使う機会が多い方ののどの乾燥やしわがれ声に対しても用いられることがあります。
麦門冬湯は、のどの乾燥に着目して用いられ、声の不調に関連する症状に対応する目的で使用されることがあります。
自身の症状が上記に当てはまる場合は、医師や薬剤師に相談のうえ使用を検討するとよいでしょう。
ただし、せきが長期間続く場合は他の疾患が隠れている可能性もあるため、医療機関の受診もあわせて検討してください。
麦門冬湯が適さないと考えられる人の特徴
麦門冬湯は、水様性の痰が多い場合や体力が充実している場合には適さないことがあります。
麦門冬湯は気道の乾燥に対して用いられるため、水分が多い状態では痰が増える可能性があります[6]。
体質に合わない漢方薬を使用した場合、十分な効果が得られないだけでなく、症状が悪化する可能性もあるため注意が必要です。
以下のような方は、麦門冬湯以外の漢方薬が検討されることがあります。
- サラサラした水っぽい痰が大量に出る
- 黄色い粘り気のある痰を伴うせきが出る
- 体力が充実していて、普段から元気な方
- 冷え性やむくみ体質の方
- 風邪のひき始めで発熱がある方
サラサラした水っぽい痰が多い方
透明でサラサラした痰が多くみられる場合、体内に余分な水分が滞っている「水毒(すいどく)」の状態と考えられることがあります。
このような方に麦門冬湯を服用すると、気道を潤す働きによって痰の量が増えてしまう可能性があります。
水様性の痰が多い場合には、小青竜湯や苓甘姜味辛夏仁湯などが用いられることがあります。
黄色い粘り気のある痰を伴う方
黄色い痰は、体内に熱がこもっている状態や、細菌感染などの可能性を示唆する所見とされています。
このような場合には、麦門冬湯ではなく五虎湯や清肺湯などが用いられることがあります。
体力が充実している方
麦門冬湯は「体力中等度以下」の方に適した処方です。
普段から体力が充実している場合には、適さないことがあります。
体力が充実している場合のせきには、麻杏甘石湯や五虎湯などが用いられることがあります。
冷え性やむくみ体質の方
冷えが強い場合には、体を温める作用をもつ漢方薬が選択されることがあります。
また、むくみがみられる場合には体内の水分バランスの偏りが関与していることがあり、麦門冬湯が適されないことがあります。
痰の性状や症状に応じて小青竜湯や清肺湯、五虎湯など、別の漢方薬が選択されることあります。
判断に迷う場合は、医師や薬剤師にご相談ください。
麦門冬湯の正しい飲み方|服用タイミングと期間
麦門冬湯を適切に使用するためには、正しい飲み方を守ることが大切です。
服用のタイミングや期間を確認し、適切に使用することが重要です。
漢方薬は西洋薬とは異なる特徴を持っており、服用方法によって作用の現れ方が異なる場合があります。
正しい知識を身につけ、適切に使用することが重要です。
服用のタイミングは食前または食間
麦門冬湯は、食前または食間に服用するのが基本です[1]。漢方薬は空腹時に服用した方が、成分の吸収がよくなると考えられています。胃の中に食べ物がない状態で服用することで、生薬の成分が吸収されやすくなるとされています。
具体的な服用タイミングは以下のとおりです。
- 食前:食事の約30分前
- 食間:食事と食事の間(食後約2時間後)
「食間」とは食事中という意味ではなく、食事と食事の間のことを指します。たとえば、朝食と昼食の間や、昼食と夕食の間に服用するということです。
服用方法
1日2〜3回に分けて、水またはお湯で服用します[1]。お湯に溶かしてゆっくり服用すると、のどの乾燥に対して使用しやすいとされています。とくにのどの乾燥が気になる場合は、お湯に溶かして少しずつ口に含むように服用する方法が用いられることもあります。
飲み忘れた場合
飲み忘れた場合は、気づいた時点で1回分を服用し、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばします。2回分を一度に服用しないよう注意が必要です。
胃腸が弱い方
なお、胃腸が弱い方は空腹時に服用すると胃に負担がかかることがあります。そのような場合は、食後に服用することも可能です。効果がやや低下する可能性はありますが、継続して服用することが重要とされています。
効果が現れるまでの期間は症状によって異なる
麦門冬湯の効果が出るまでの期間は、症状や体質によって個人差があります[3]。
空せきなど急性の症状に対しては比較的早期に変化を感じることがありますが、慢性的な症状では継続した服用が必要となる場合があります。
漢方薬は体質を整えながら症状の改善を目指す治療であり、即効性よりも継続的な服用が重視されます。
症状別の目安期間は以下のとおりです[3]。
| 症状 | 効果実感の目安 |
| 空せき(急性) | 数日〜1週間程度 |
| 風邪後の長引くせき | 1〜2週間程度 |
| 気管支ぜんそく・慢性気管支炎 | 1ヶ月〜半年程度 |
| のどの乾燥・しわがれ声 | 1ヶ月程度 |
| シェーグレン症候群による口腔乾燥 | 数ヶ月程度 |
急性の空せきの場合
風邪の回復期に残った乾いたせきなど、急性の症状では比較的早期に改善がみられることがあります。
早い場合には、1〜2回の服用でのどの違和感の軽減などがみられることもあります。
数日〜1週間程度で変化がみられることがあります。
慢性的な症状の場合
気管支ぜんそくや慢性気管支炎など、長期間続いている症状では、1ヶ月以上の継続服用が検討されることがあります。
漢方薬は体質を整えながら症状の改善を目指すため、即効性よりも継続的に体調を整えていく治療として捉えることが重要です。
効果が感じられない場合
空せきの場合は1週間、その他の症状は1ヶ月程度服用しても改善がみられない場合、麦門冬湯が体質に合っていない可能性があります。
その場合は服用を中止し、医師や薬剤師に相談することが推奨されます。
また、せきが長期間続く場合は、せき喘息や逆流性食道炎、肺がんなどの疾患が隠れている可能性もあるため、医療機関の受診が推奨されます。
飲みにくい場合の工夫
麦門冬湯は甘味があり、漢方薬の中では比較的飲みやすい処方とされています。
粳米(お米)が含まれているため、独特の香ばしい香りがするのも特徴です。
しかし、漢方薬特有の風味が苦手な方や、お子さまの場合は飲みにくいと感じることもあるでしょう。
そのような場合は、以下のような方法が用いられることがあります。
お湯に溶かして飲む
麦門冬湯をお湯に溶かし、少し冷ましてから服用すると、風味が変化して飲みやすくなることがあります。
飲み物に混ぜる
小児の場合は、オレンジジュースやリンゴジュース、牛乳、ココアなどに混ぜる方法が用いられることがあります。
また、チョコアイスやバニラアイスに混ぜる方法が用いられることもあります。
オブラートや服薬ゼリーを使う
大人の方であれば、オブラートや漢方専用の服薬ゼリーを利用して服用する方法もあります。
顆粒をオブラートに包んで水で服用することで、風味を感じにくくすることができます。
錠剤タイプを選ぶ
顆粒が苦手な方は、錠剤タイプの麦門冬湯を選ぶ方法もあります。
クラシエなどから錠剤タイプの製品が販売されているため、薬局で相談することも可能です。
麦門冬湯の副作用と服用時の注意点
麦門冬湯は比較的副作用の報告が少ない漢方薬とされていますが、まれに副作用が起こることがあります[1]。
服用前に注意点を確認しておくことが重要です。
漢方薬は自然由来の成分で構成されていますが、自然由来であることが必ずしも安全性を保障するわけではありません。
体質に合わない場合や、用法・用量を守らない場合は副作用が起こる可能性があります。
主な副作用と対処法
麦門冬湯で報告されている主な副作用は、消化器症状やアレルギー反応です[1]。
漢方薬は自然由来の成分で作られていますが、体質に合わない場合は副作用が起こる可能性があります。
症状がみられた場合は服用を中止し、医師や薬剤師に相談することが推奨されます。
主な副作用として以下が報告されています[1]。
よくある副作用
- 食欲不振
- 胃部不快感
- 悪心(吐き気)
- 下痢
- 発疹、かゆみ
- 眠気、倦怠感
これらの副作用は比較的軽度で、服用中止により改善することが多いとされています。
ただし、症状が持続する場合や気になる場合は、医師や薬剤師への相談が推奨されます。
まれに起こる重大な副作用
- 間質性肺炎(発熱、空せき、息切れ、呼吸困難)
- 偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、手足のだるさ)
- ミオパチー(筋肉痛、脱力感、手足のけいれん)
- 肝機能障害(皮膚や白目が黄色くなる、全身のだるさ)
これらの重大な副作用は頻度は低いものの、注意が必要とされています。
間質性肺炎
間質性肺炎は、発熱、空せき、息切れ、呼吸困難などの症状が現れます[1]。麦門冬湯はせきに対して使用される漢方薬ですが、服用後にせきの増悪や息苦しさが感じられる場合には、間質性肺炎の可能性が否定できません。このような症状がみられた場合は、速やかに服用を中止し、医療機関の受診が推奨されます。
偽アルドステロン症
偽アルドステロン症は、麦門冬湯に含まれる甘草により生じる可能性があります[1]。手足のむくみ、だるさ、しびれ、血圧の上昇などの症状が現れます。とくに高齢者や、他の甘草を含む漢方薬を併用している場合にはリスクが高まるとされており、注意が必要です。
ミオパチー
ミオパチーは、低カリウム血症の結果として起こることがある筋肉の障害です。脱力感、筋肉痛、手足のけいれんや麻痺などの症状が現れます。偽アルドステロン症と関連して起こることがあります。
肝機能障害
肝機能障害は、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、全身のだるさ、食欲不振などの症状が現れます[1]。これらの症状がみられた場合は、速やかに服用を中止し、医療機関の受診が推奨されます。
飲み合わせの注意点 甘草を含む漢方薬との併用
麦門冬湯には明確な併用禁忌とされる薬剤はありませんが、甘草を含む他の漢方薬との併用には注意が必要です。
甘草は多くの漢方薬に含まれている生薬で、過剰摂取により偽アルドステロン症のリスクが高まるとされています[6]。
麦門冬湯を服用する際は、他に漢方薬を服用していないか確認することが重要です。
甘草を含む代表的な漢方薬には以下があります[7]。
- 芍薬甘草湯(足のつりに使用)
- 補中益気湯(疲労回復に使用)
- 抑肝散(イライラや不眠に使用)
- 六君子湯(胃腸の不調に使用)
- 葛根湯(風邪の初期に使用)
また、甘草の有効成分である「グリチルリチン酸」は、漢方薬だけでなく、風邪薬、胃腸薬、肝臓病の治療薬などにも含まれていることがあります。
複数の薬剤を服用する場合は、甘草やグリチルリチン酸の重複について薬剤師に確認することが推奨されます。
一方、以下の西洋薬は麦門冬湯と併用されることがありますが、併用の可否については個別に医師または薬剤師へ確認することが望ましいとされています。
- ムコダイン(カルボシステイン):痰の切れを良くする薬
- ロキソニン(ロキソプロフェン):解熱鎮痛薬
- アレグラ(フェキソフェナジン):抗アレルギー薬
- アスベリン、メジコン:せき止め薬
即効性を求める場合には、これらの西洋薬との併用が検討されることもありますが、使用にあたっては医師または薬剤師に相談することが望まれます。
服用前に確認すべきこと
麦門冬湯を服用する前に、以下の点を確認しておくことが重要です。
医師に相談すべき方
- 医師の治療を受けている方
- 妊娠中または妊娠の可能性がある方
- 授乳中の方
- 高齢者
- 高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けている方
- むくみのある方
とくに高血圧、心臓病、腎臓病などの持病がある方は、甘草による副作用のリスクが高まる可能性があるため、事前に医師に相談することが推奨されます。
服用してはいけない方
- 生後3ヶ月未満の乳児[1]
市販の麦門冬湯の多くは、生後3ヶ月未満の乳児には使用できないとされています。
3ヶ月以上の乳幼児に服用させる場合も、事前に医師や薬剤師へ相談することが推奨されます。
服用中の注意点
- 定められた用法・用量を守る
- 症状が改善しない場合は漫然と服用を続けない
- 他の漢方薬との併用に注意する
- 異常を感じたら服用を中止して医療機関を受診する
麦門冬湯は比較的安全性が高いとされていますが、自己判断で長期間服用を継続することは避ける必要があります。
麦門冬湯と他の漢方薬の違い 五虎湯・小青竜湯との使い分け
せきに効く漢方薬は複数ありますが、症状によって適したお薬が異なります。
麦門冬湯と他の漢方薬の違いを把握し、症状に合ったものを選択することが重要です。
漢方薬は「証(しょう)」という体質や症状のパターンに合わせて選ぶことで、より高い効果が期待できます。
せきの性質(乾いているか、痰が多いか)、痰の状態(粘り気、色)、体力の程度などを踏まえて、適切な漢方薬を選択することが重要です。
乾いたせきには麦門冬湯
麦門冬湯は、痰を伴わない乾いたせきや、痰が少量で切れにくい場合に適しています。
のどや気道の乾燥状態を改善することで、せきを鎮める作用が期待されます。
マオウ(麻黄)を含まないため、比較的穏やかな作用が期待できます。
麦門冬湯が適している症状は以下のとおりです。
- コンコンという乾いた空せき
- 痰が少量で粘り気が強く切れにくい
- のどの乾燥感、イガイガ
- 風邪の後に残る長引くせき
- 発熱を伴わないせき
- しわがれ声
体力が中等度以下の方や、風邪の回復期でせきのみが残っている場合に適しています。
眠気を引き起こす成分が含まないため、運転時や日中の活動中でも使用しやすいとされています。
麦門冬湯は、体力低下時の状態にも配慮された処方であり、虚弱者や高齢者、病中・病後で体力が低下している方のせきにも用いられます。
黄色い痰を伴うせきには五虎湯
五虎湯は、黄色い粘り気のある痰を伴う激しいせきに適しています[8]。
体に熱がこもっている状態でみられるせきに効果が期待され、気管支拡張作用により呼吸を楽にする働きがあります。
マオウ(麻黄)を含むため、麦門冬湯と比較して作用が強い傾向があります。
五虎湯が適している症状は以下のとおりです。
- 黄色い粘り気のある痰が出る
- 発熱を伴うせき
- ゼーゼーという喘鳴がある
- 顔が赤くなるほど激しくせき込む
- 気管支ぜんそくの発作時
五虎湯は体力が中等度以上の方に適しており、体力が低下している場合には適さないことがあります。
また、マオウを含むため、高血圧や心疾患のある方では注意が必要とされています。
麦門冬湯と五虎湯の使い分けのポイントは「痰の色」と「発熱の有無」です。
乾いたせきや発熱を伴わない場合は麦門冬湯、黄色い痰や発熱がある場合は五虎湯が選択肢となります。
水っぽい痰が多いせきには小青竜湯
小青竜湯は、サラサラした水っぽい痰が多く出るせきに適しています[9]。
体内の水分代謝の乱れを改善し、鼻水やくしゃみを伴うアレルギー性のせきにも効果が期待できます。
花粉症シーズンのせきや、風邪の初期症状に対して用いられることがあります。
小青竜湯が適している症状は以下のとおりです。
- サラサラした水っぽい痰が多く出る
- 鼻水やくしゃみを伴う
- アレルギー性のせき
- 風邪のひき始め
- 花粉症によるせき
小青竜湯は体力が中等度以上の方に適しており、マオウを含むため麦門冬湯と比較して作用が強い傾向があります。
麦門冬湯は気道の乾燥を改善する処方であるため、水っぽい痰が多い方には適さないことがあります。
痰の状態を踏まえて、適切な漢方薬を選択することが重要です。
痰が多くて切れにくい場合は清肺湯
清肺湯は、ネバネバした痰が多くて切れにくいせきに対して用いられる漢方薬です[10]。
麦門冬湯と同様に去痰作用が期待されますが、清肺湯は痰の量が多い場合に適しています。
清肺湯が適している症状は以下のとおりです。
- ネバネバした痰が多く出る
- 痰がなかなか切れない
- 長期間せきが続いている
- たばこや排気ガスによるせき
麦門冬湯は痰が少量で切れにくい場合に、清肺湯は痰の量が多い場合に適しています。
痰の量を目安にで使い分けることが有用です。
せきに使う漢方薬の比較表
| 漢方薬 | 適した症状 | 痰の状態 | 体力 |
| 麦門冬湯 | 乾いたせき、のどの乾燥 | 少量で粘り気が強い | 中等度以下 |
| 五虎湯 | 激しいせき、発熱を伴う | 黄色い粘り気のある痰 | 中等度以上 |
| 小青竜湯 | 鼻水を伴うせき、アレルギー | 水っぽい痰が多い | 中等度以上 |
| 清肺湯 | 長引くせき(痰が多い) | ネバネバした痰が多い | 中等度 |
麦門冬湯は市販で買える?処方薬との違い
麦門冬湯はドラッグストアで購入できる市販薬と、医療機関で処方される処方薬があります。
それぞれの違いを理解し、症状に合わせて選びましょう。
手軽に入手できる市販薬は軽度の症状に適していますが、症状が重い場合や長期間続く場合は、医療機関での診断のうえ処方薬が検討されます。
市販薬と処方薬の成分量の違い
市販薬と処方薬の主な違いは、1日あたりの生薬配合量です。
市販薬は処方薬に比べて生薬量が少ない製品が多く、安全性に配慮した設計となっています。
症状が軽い場合は市販薬で対応できることもありますが、症状が重い場合や長期的な治療が必要な場合は、医療機関での診察が推奨されます。
たとえば、「ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用)」と市販薬である「ツムラ漢方麦門冬湯エキス顆粒」を比較すると、市販薬は医療用に比べて生薬量が少ない場合があります。
市販薬と処方薬の違いは以下のとおりです。
| 項目 | 市販薬 | 処方薬 |
| 1日の生薬量 | 処方薬の1/2〜3/4 | 満量 |
| 入手方法 | ドラッグストア・薬局 | 医療機関の処方 |
| 費用 | 全額自己負担(1,500〜2,500円程度) | 保険適用で1〜3割負担 |
| 相談先 | 薬剤師・登録販売者 | 医師 |
| 適応症状 | 軽度〜中等度の症状 | 軽度〜重度の症状 |
市販薬は手軽に購入できるメリットがありますが、生薬量が少ないため効果がやや穏やかになる傾向があります。
症状が1週間以上続く場合や改善がみられない場合は、医療機関を受診してください。
おすすめの市販薬(ツムラ・クラシエ)
麦門冬湯の市販薬は、ツムラやクラシエなど複数のメーカーから販売されています。
顆粒タイプ、錠剤タイプ、ドリンクタイプなど形状もさまざまで、飲みやすさや生活スタイルに合わせて選ぶことが可能です。
生薬の配合量はメーカーや製品によって異なるため、添付文書を確認してから購入しましょう。
代表的な市販薬は以下のとおりです。
ツムラ漢方麦門冬湯エキス顆粒
- 顆粒タイプで1日2回服用
- 2歳以上から服用可能
- エキス量は処方薬の1/2
- 価格:20包入り 約2,000円前後
ツムラは漢方薬の大手メーカーで、医療用医薬品でも広く使用されています。
顆粒タイプで、服用しやすい製品です。
クラシエ麦門冬湯エキス錠
- 錠剤タイプで飲みやすい
- 1日3回服用
- 医療用と同等量の生薬を配合製品もあり(製品により異なります)
- 価格:72錠入り 約1,500円前後
顆粒が苦手な方には錠剤タイプが選択肢となります。
クラシエからは満量処方(処方薬と同等の生薬量)の製品も販売されています。
漢方せき止めトローチS「麦門冬湯」
- トローチタイプでのどを直接ケア
- 口の中でゆっくり溶かして服用
- 外出先でも使いやすい
トローチタイプは、口腔内で溶かして使用するため、のどの不快感がある場合に用いられます。
水なしで服用できるため、外出先でも手軽に使えます。
ツムラ漢方内服液麦門冬湯S
- ドリンクタイプで飲みやすい
- 1日3本服用
- すぐに効果を感じたい方に
ドリンクタイプは服用しやすい剤形の一つです。初めて服用する場合は、薬剤師や登録販売者に相談してから購入すると安心です。
医療機関で処方を受けるメリット
症状が重い場合や長期間続く場合は、医療機関を受診してください。
医療機関で処方を受けるメリットは以下のとおりです。
生薬量が多い製品がある
処方薬は市販薬よりも生薬量が多い場合があります。
市販薬で改善がみられない場合、医療機関で治療方針が見直されることがあります。
医師の診断を受けられる
せきが長引く原因には、風邪以外にもせき喘息、逆流性食道炎、副鼻腔炎など、さまざまな疾患が考えられます。
医師の診断を受けることで、適切な治療を受けることができます。
保険が適用される
医療用の麦門冬湯は保険適用となるため、自己負担額が1〜3割で済みます。
長期間服用が必要な場合は、保険適用により自己負担が軽減されることがあります。
体質に合った漢方薬を選んでもらえる
漢方に詳しい医師が、体質や症状に応じて漢方薬を選択します。
麦門冬湯以外の漢方薬が適せ悦と判断される場合もあります。
最近はオンライン診療で漢方薬を処方してもらえるクリニックも増えています。
通院が難しい場合は、オンライン診療が利用できることもあります。
麦門冬湯に関するよくある質問
Q. 麦門冬湯はどのくらいで効きますか?
麦門冬湯の効果が出るまでの期間は、症状によって異なります。
空せきなど急性の症状に対しては、数日〜1週間程度で変化がみられる場合があります。
早い場合には、服用後にのどの違和感やせきが軽減することがあります。
一方、慢性的な気管支炎やぜんそくなどでは、継続的な治療が行われることがあります。
漢方薬は体質や症状に応じて用いられ、継続的に使用されることがあります。
1週間〜1ヶ月服用しても改善が見られない場合は、麦門冬湯が体質に合っていない可能性があります。
その場合は服用を中止し、医師や薬剤師にご相談ください。
Q. 麦門冬湯は妊娠中・授乳中でも服用できますか?
妊娠中・授乳中の服用については、必ず医師に相談してください[1]。
麦門冬湯は比較的安心して使用できる漢方薬とされていますが、妊娠中は特別な状態にあるため、自己判断での服用は避けるべきです。
添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されています[1]。
産婦人科の担当医に現在の症状を伝え、服用の可否を確認してから使用しましょう。
授乳中の服用についても、医師や薬剤師に相談してください。
麦門冬湯の成分が母乳に移行するかどうかは明確にはわかっていませんが、赤ちゃんへの影響を考慮して判断する必要があります。
Q. 麦門冬湯が効かない場合はどうすればよいですか?
麦門冬湯が効かない場合は、いくつかの原因が考えられます。
体質や症状に合っていない
麦門冬湯は「乾燥タイプのせき」に適した漢方薬です。
水っぽい痰が多い方や、黄色い痰を伴うせきには別の漢方薬が適しています。
症状に応じて、他の漢方薬をが検討されることがあります。
服用期間が短い
漢方薬は体質を整えながら症状を改善するため、ある程度の期間継続して服用する必要があります。
一定期間使用しても改善がみられない場合は、医師や薬剤師に相談してください。
他の疾患が原因
せきが長期間続く場合は、せき喘息、逆流性食道炎、副鼻腔炎、肺の病気など、他の疾患が原因の可能性があります。
2週間以上せきが続く場合は、医療機関を受診してください。
服用を中止し、医師や薬剤師に相談して、適切な対処法を検討してください。
Q. 麦門冬湯は子どもでも服用できますか?
麦門冬湯の市販薬は、製品により服用可能な年齢が異なります。
ただし、3ヶ月未満の乳児には使用できません。
小児に服用させる場合は、年齢・体重に合わせた用量を守り、保護者の指導監督のもとで服用させてください。
年齢別の服用量は製品によって異なるため、添付文書を確認するか、薬剤師に相談してください。
一般的な目安は以下のとおりです。
- 2歳未満:服用不可(医師の指示がある場合を除く)
- 2〜4歳:成人量の1/3
- 4〜7歳:成人量の1/2
- 7〜15歳:成人量の2/3
お子さまのせきが長引く場合は、小児科を受診してください。
まとめ
麦門冬湯は、のどや気管支の乾燥に伴う空せきなどの症状を改善する漢方薬です。
体力が中等度以下の方で、乾いたせきや痰が切れにくい症状に用いられることがあります。
6種類の生薬を組み合わせ、乾燥に関連する症状に対応する処方とされています。
市販薬はドラッグストアで手軽に購入でき、処方薬は医療機関で入手できます。
比較的副作用は少ないとされていますが、甘草を含む他の漢方薬との併用には注意が必要です。
五虎湯や小青竜湯など他の漢方薬との違いを踏まえ、症状に応じて適切な薬剤が選択されます。
一定期間服用しても改善が見られない場合は、医師や薬剤師に相談してください。
