アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、赤みやかゆみを伴う湿疹を主な症状とする皮膚疾患です。よくなったり悪くなったりを繰り返す、症状が左右対称に表れるといった特徴があります。
年齢に関係なく発症する可能性がありますが、特に赤ちゃんや小児(15歳頃まで)に多い傾向があります。
2006~2008年度の調査では、20代でアトピー性皮膚炎の症状があるのは10.2%という結果が出ています。さらに、年代が上がるに従って低下し、50代・60代では2.5%にすぎません。
一方、赤ちゃんから大学生までを対象とした調査(2000年~2002年度)では、大人よりも有症率が高くなっています。具体的には、生後4ヶ月で12.8%、3歳で13.2%、小学生6年生では10.6%です。単純計算でも、10人に1人以上はアトピー性皮膚炎を発症していることになります。
赤ちゃんと大人のアトピー性皮膚炎は異なる?
アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によって変わるわけではありません。かゆみを伴う湿疹がある、よくなったと思ったらまた悪くなることを繰り返すといった症状があれば、アトピー性皮膚炎と診断されます。治療方法も基本的に同じです。ただし、赤ちゃんの場合は、症状が表れる部位がやや異なり、他の疾患と見分けにくいのも特徴です。詳細は以下の通りです。
アトピー性皮膚炎が起こる原因は同じ
アトピー性皮膚炎の主な原因は、以下の3つです。
- 皮膚の乾燥やバリア機能の低下:皮膚は皮脂と水分から成る皮脂膜・細胞のすき間を埋める細胞間脂質・水分を保持する天然保湿因子で構成される天然のバリアによって保護されています。皮膚の潤いが保たれているのも、バリア機能の働きです。しかし、皮膚の水分が不足するとバリア機能は低下し、さらに乾燥したり異物が侵入しやすくなったりします。
- 外部からの刺激:バリア機能が低下した皮膚は、刺激を受けやすい状態です。アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が入り込みやすいだけでなく、接触や摩擦といった物理的な刺激にも弱くなります。
- アトピー素因:いわゆるアレルギー体質です。日本皮膚科学会ガイドラインでは「本人または家族が気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の診断を受けている」「IgE抗体を産生しやすい」という二つの条件にあてはまる場合に「アトピー素因を持っている」としています。
これらの原因は大人でも赤ちゃんでも変わりません。ただし、原因は一つではなく、複数が関与していることがほとんどです。
好発部位が異なることが多い
大人と赤ちゃんでは、症状が表れる部位に違いがあります。
赤ちゃんはまず頭や顔に赤みや丘疹※が表れ、首や肘の内側、脇の下、膝の裏など体に症状が下りていくのが特徴です。
2歳以上の幼児~学童になると、顔全体の症状は減りますが、代わりに首から下に増えてきます。また、思春期以降~成人のアトピー性皮膚炎は、頭や首、胸、背中など上半身に丘疹が多発する傾向があります。
※丘疹:皮膚が隆起した状態。米粒大のごく小さいものもあれば、大豆大になることもある。
乳児湿疹との違い
乳児湿疹は、赤いブツブツや皮膚のかさつきといった、赤ちゃんの皮膚トラブルの総称です。生後1~2週間ぐらいから表れる可能性があります。
乳児湿疹はまず頬やおでこ、頭など露出しているところに乾燥や赤みが表れます。続いてかゆみを伴う丘疹ができてきます。かゆみが強いため掻き崩してしまう赤ちゃんも少なくありません。傷がつくことで浸出液が出てジュクジュクしたり、かさぶたができたりします。
症状は耳や口の周辺、あごなど顔全体に広がり、徐々に体に下りていきます。全身にできる可能性がありますが、特に多く見られるのは肘や膝の柔らかい部分や両手足の外側、脇の下などです。
なお、乳児湿疹はいくつかの種類に分類でき、アトピー性皮膚炎も乳児湿疹に含まれます。そのほか、アトピー性皮膚炎と症状が似ているものには以下のようなものがあります。
- 新生児中毒性紅斑:生後数日の赤ちゃんに多く見られます。腕や背中などに赤いブツブツや水ぶくれができますが、しばらくすれば自然に消えていくのが一般的です。胎外の環境に適応するための生理的なものと考えられています。
- 乳児脂漏性皮膚炎:頭部や額など、皮脂分泌の活発な部位によくできます。黄色っぽいかさぶたや湿り気のあるフケが主な症状です。生後1ヶ月頃に多く見られますが、患部を清潔にしていれば改善しやすいとされています。
乳児湿疹の多くは一過性で、自然に治ります。しかし、長引く場合はアトピー性皮膚炎を疑った方がよいでしょう。
アトピー性皮膚炎が疑われるのはどんなとき?
日本皮膚科学会のガイドラインによるアトピー性皮膚炎の診断基準は、以下の通りです。
- かゆみがある
- 赤みやブツブツ、皮むけ、かさぶた、浸潤(ジュクジュクしている)などを伴う湿疹がある
- 左右対称に症状が表れる
- 症状が慢性的(乳児は2ヶ月、それ以外は6ヶ月以上続いている)
これらの症状や経過を基に医師が診断します。自己判断は難しいので、湿疹の症状など、気になることががあれば、早めに医療機関を受診しましょう。
(参考)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf
アトピー性皮膚炎の治療法・お薬
アトピー性皮膚炎の治療は、主に薬物療法で行います。使用方法や適用条件など、大人と赤ちゃんの違いも見ていきましょう。
外用薬
外用薬はアトピー性皮膚炎治療の基本です。クリームやローションなど、さまざまなタイプがあります。
ステロイド
代表的なお薬がステロイドです。抗炎症作用が確認されており、赤ちゃんから大人まで幅広い年代に使えます。
ステロイドには最も強い「ストロンゲスト」から弱い「ウィーク」まで5つのランクがあり、重症度に応じて種類が選択されます。副作用のリスクもありますが、症状に応じた適切なランクのお薬を、適切な期間・使い方を守って使えば、過度に怖がる必要はありません。
なお、乳幼児は比較的効果が現れやすいため、自己判断で使い続けることはせず、使用期間は医師の指示に従いましょう。
抗ヒスタミン薬
強いかゆみには、抗ヒスタミン作用のある外用薬が処方されることがあります。かゆみを抑えながら、かきこわしによる皮膚の損傷や細菌感染などの合併症を防ぐのが目的です。ただし、抗ヒスタミン薬単独での治療は推奨されておらず、ステロイドと併用することが一般的です。
タクロリムス水和物
副作用などでステロイドが使えないときの選択肢として、タクロリムス水和物のお薬があります。細胞内で情報を伝達する酵素の働きを阻害して、炎症を抑えるお薬です。ただし、2歳未満の乳幼児には使用できません。
保湿剤
アトピー性皮膚炎の治療に用いられる外用薬には、潤いを与える効果はありません。アトピー性皮膚炎改善のためには保湿が必須なので、保湿剤も一緒に使うことが望ましいとされています。
内服薬
内服薬は、外用薬で改善が見られないときの治療方法として選択されます。保険適用でも費用が高額になるものもあるため、医師とよく相談して決めましょう。
シクロスポリン
シクロスポリンは免疫抑制作用のあるお薬です。他の治療で効果が見られない最重症(強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる)に対して処方されます。ただし、長期使用する場合の安全性が十分に検証されていないため、15歳以下の小児には使用できません。
バリシチニブ
バリシチニブは細胞内の情報伝達物質の働きを阻害して、免疫反応や炎症を抑えるお薬です。重症・難治性のアトピー性皮膚炎に保険が適用されます。成人が対象とされていますが、2歳以上であれば体重に応じて量を調節することで使用可能です。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬はかゆみを抑える働きがあります。単独でアトピー性皮膚炎を治療する効果はないため、外用薬と併せて処方されることがほとんどです。
注射
外用薬での改善が難しく、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対しては、外用薬などの治療ともに、デュピルマブという注射を併用することが推奨されています。
デュピルマブは、刺激を細胞に伝達するIL-4とIL-13というタンパク質の働きを阻害するお薬です。炎症やかゆみといったアトピー性皮膚炎の症状を抑える効果が高く、副作用がほとんどないとされています。
以下のように、体重を基に使用量を調整することで、生後6ヶ月から使用できます。
年齢 | 体重区分 | 用量 |
成人 | 固定 | 初回600mg・1回300mg |
小児(生後6カ月以上) | 60kg以上 | 初回600mg・1回300mg |
30kg以上60kg未満 | 初回400mg・1回200mg | |
15kg以上30kg未満 | 初回300mg・1回300mg | |
5kg以上15kg未満 | 初回200mg・1回200mg |
ただし、デュピルマブは一部の医療機関でしか取り扱いがありません。保険適用でも費用が高額になる傾向があります。高額療養費制度や医療費控除の対象になりますが、経済的な負担が大きいため、使用にあたっては医師とよく相談しましょう。
また、デュピルマブは患者本人または保護者が自分で注射するため、医療機関で注射方法のレクチャーを受ける必要があります。
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎のケア方法
アトピー性皮膚炎を改善するためには、薬物療法だけではなく、日ごろのスキンケアや、悪化因子対策も必要です。
基本的なケア方法は赤ちゃんも大人も同じです。しかし、赤ちゃんはかゆみなどの症状を言葉で伝えることができません。ストレス対策が自分でできる大人とは異なり、症状そのものがストレスとなって悪化することも考えられます。そこで、アトピー性皮膚炎に対してどのように対応すればよいのか、大人にも応用できるケア方法を紹介します。
適切なスキンケア
スキンケアはアトピー性皮膚炎治療の一環です。皮膚の清潔を保ち、保湿することで症状の緩和や軽快が期待できます。
体を洗うときは、石けんや低刺激のボディソープを使いましょう。手の平でしっかり泡立てて、擦らないように洗います。関節の内側やシワは伸ばし、脇の下は腕を挙げさせます。お尻の下や鼠径部なども、洗い残さないよう丁寧に行いましょう。
全身を洗ったら、ぬるま湯をかけてしっかり石けん成分を洗い流します。流し残しは皮膚トラブルにつながる可能性があるためです。
入浴後はすぐに保湿剤を塗布します。上がってから5分以内が目安です。手の平全体で保湿剤を塗り広げると、塗り残しを防げます。
生活環境を整える
ダニやハウスダストは、アトピー性皮膚炎の悪化因子です。こまめに掃除やシーツ類の取り替えをして、除去するようにしましょう。エアコンのフィルターは定期的に掃除し、ホコリやカビを予防します。カーペットはできれば撤去して、フローリングにするとよいでしょう。水拭きなどの掃除もしやすくなります。
赤ちゃんの皮膚に刺激を与えないことも大切です。よだれや汗、食べ物の汚れなどは洗い流すか湿らせたガーゼなどで拭き取ります。かぶれや雑菌の繁殖につながる恐れがあるためです。髪の毛も短くしたり結んだりして、顔や首などの皮膚に触れないようにしましょう。
ぬいぐるみは、表面がツルツルしているものがおすすめです。ふわふわした素材のものはダニなどが付着しやすく、洗濯もしづらいというデメリットがあります。部屋に置いておくことで、ダニやハウスダストの温床になりかねないのです。
また、犬や猫などのペットもなるべく飼わないようにしましょう。毛やフケがアレルゲンになる可能性があります。
アトピー性皮膚炎は保険適用で診療できる?
アトピー性皮膚炎は保険適用で診療が受けられることが一般的です。診療は、保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、基本的に、皮膚になんらかの症状があり、治療の必要性があり、決められた範囲内の治療法を実施する場合は保険適用となります。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査・治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査・治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
アトピー性皮膚炎の治療はクリニックフォアへ
炎症やかゆみなど、アトピー性皮膚炎の症状はつらいものです。大人ですら苦痛に感じるほどですから、赤ちゃんやお子さんにはなおさらでしょう。早く何とかしてあげたいと思う親御さんも多いはずです。
クリニックフォアでは、さまざまなお悩みに対応するオンライン診療を行っており、保険診療の皮膚科では、アトピー性皮膚炎の診療にも対応しています。
赤ちゃん連れで外出するのが難しい方や、時間がなかなか取れない方も受診しやすくなっているため、皮膚の症状が気になるときは、受診をご検討ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。