急性胃炎とは
急性胃炎とは、胃の粘膜の炎症が急激に発症する、一過性の胃炎のことです。胃の痛みや吐き気、嘔吐などの症状が現れることがあります。
胃の粘膜は出血やびらん(粘膜表面の欠損)、むくみなどが生じていることが一般的です。潰瘍(びらんよりもさらに深い部分まで欠損が生じている状態)になっていることもあります。
急性胃炎のよくある症状
急性胃炎になっても無症状のケースもあります。症状がある場合は、突然の胃の痛みや、吐き気・嘔吐などが代表的です。
また、胃の中に潰瘍などができると、吐血を引き起こすこともあります。何回も繰り返し症状が出る場合には、急性胃炎以外の病気も疑われるため、医師に診察してもらうようにしましょう。
【急性胃炎のよくある症状一覧】
- 胃の突発的な痛み
- お腹が張る
- 食欲不振
- 吐き気、嘔吐
- 消化不良
- むかつき
- 発熱
- 吐血
- 血便
急性胃炎の原因とは?
急性胃炎の原因は、食生活の乱れ、アルコールの過剰摂取、ストレスなどさまざまなものが挙げられます。詳しくは以下の通りです。
食生活の乱れ
日常的に暴飲暴食をしていたり、油っこい食事や甘いものに偏った食事などをしていたりする場合は、胃が刺激され、胃炎になる可能性があります。
特に辛い食べ物には注意が必要です。辛いものによく含まれているカプサイシンを大量に摂取すると、粘膜が傷つきやすい状態になり、胃の中で炎症を起こす可能性があるためです。
アルコールの過剰摂取
アルコールを大量に摂取すると、胃の粘膜が剥がれてしまうことがあります。その結果、剥がれた粘膜からアルコールが吸収され、胃酸が直接胃の粘膜に触れてしまう状態になるのです。
なお、適量であれば、アルコールは消化を助ける働きをしてくれるとされています。
ストレス
本来、胃の働きは自律神経によりコントロールされています。しかし、ストレスを受けるとそのバランスが崩れ、胃の粘膜の防御機能の低下と胃酸の過剰分泌が引き起こされます。
防御機能が低下した胃の中に胃酸が増えることで、粘膜が傷つき炎症を起こしたり、潰瘍ができやすい状態になったりしてしまうのです。
ストレスによる胃の機能低下は、機能性ディスペプシアを引き起こすこともあります。機能性ディスペプシアとは、検査等で肉眼的な異常が見当たらないにもかかわらず、胃炎と同様の痛みや持たれ感などが続いてしまう状態のことを指します。
食中毒
食中毒は、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ノロウイルスなど、細菌やウイルスなどが付着した食べ物を食べることで吐き気や嘔吐、腹痛などの症状が現れる中毒症のことです。
食中毒は年間を通して発生します。特に湿度や気温が高くなる梅雨や夏の季節には、食中毒の原因となるウイルスが増えやすいため、より注意が必要です。
ピロリ菌感染
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃粘膜に感染することのある細菌です。胃酸の中でも生き残れる特殊な細菌であり、今ほど衛生環境がよくなかった時代には、感染が珍しくないものでした。
ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると、多くの場合、胃炎が生じます。さらに、慢性的に炎症が続く傾向があり、放置すると胃・十二指腸潰瘍や胃癌などを引き起こすこともあります。
お薬の副作用
服用しているお薬の副作用として、胃が炎症し、胃のもたれや食欲低下、胸やけ、吐き気、みぞおちの痛みなどが起こる場合があります。
身近なお薬では、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などの解熱鎮痛剤の服用によって引き起こされるケースがあります。そのため、このようなお薬の服用中に胃炎のような症状が見られたら、早めに医師に相談しましょう。
肝硬変や腎不全などの全身性の疾患
肝硬変や腎不全などの全身性の疾患によって胃炎が引き起こされることがあります。
肝硬変とは、肝臓の炎症を修復する際にできるコラーゲンが、肝臓全体に広がった状態のことを指します。簡単に言えば、肝臓全体が硬くなり、肝機能が大きく低下した状態です。腹水で下腹部が膨張したり、白目が黄色くなる黄疸が引き起こされたりします。
腎不全は、腎臓の機能が低下し、正常に働かなくなった状態です。腎臓は老廃物を尿として排泄する機能を持っているため、腎不全になると体内に有害なものが溜まったままになります。
これらの病気になると、栄養・代謝障害、血液循環障害などが発生し、胃炎と同様の症状が起こることがあります。また症状は慢性化する傾向があります。
全身性の疾患が原因の場合は、とくに早期発見・早期治療が大切であるため、症状が続くようであれば早めに医師へ相談した方がよいでしょう。
自己免疫疾患
自己免疫疾患とは、本来異物などから体を守る役割を持っている免疫機能が、誤って自分の組織を攻撃してしまう病気のことを言います。
自己免疫疾患によって自分自身の組織に対して攻撃してしまうことが胃で起きると、胃粘膜が侵され、胃炎の症状が引き起こされることがあります。
急性胃炎の対処法
急性胃炎は、軽いものであればセルフケアで対応することも可能です。ここからは、胃の痛みなどの症状があるときのセルフケア方法や、受診の目安などをご紹介します。
心当たりのある原因を取り除く
暴飲暴食、アルコールや刺激物の過剰摂取、ストレスなど、胃炎の原因に心当たりがあり、日常生活の中で取り除いたり改善したりできる場合は、直ちに対応することが大切です。
特に食べすぎや飲みすぎによる胃炎は一過性であることも多いため、食事を見直すだけで改善できることも多いでしょう。
胃に負担をかけない食事をする
急性胃炎になった際には、胃の負担を軽減し、安静にすることが大切です。コーヒーや香辛料など刺激の強いものを避けることはもちろん、おかゆやうどんなどの消化の良い食べ物が好ましいです。症状の程度によっては、絶食する必要がある場合もありますが、まずは体に優しいものを食べて様子を見ましょう。
市販薬で対処する
さまざまな種類の胃薬が市販されています。そこまで症状がひどくないのであれば、まずは市販薬で対処してもよいでしょう。
胃炎に使われるお薬の詳細は後述しますが、市販品でも十分な効能の成分が含まれているものがあります。ただ、医療機関で処方されるお薬(医療用医薬品)のほうが有効成分の量が多いことが一般的です。
また、医療用医薬品は1つのお薬に1種類の成分が入っていることが多く、成分によって、胃酸を抑えるお薬、胃の粘膜を保護するお薬といったように、個々の胃の不調に対してアプローチします。一方、市販薬の場合は、複数の成分が配合され、さまざまな原因・症状に対処できる総合胃腸薬がある点が特徴です。
なお、市販薬を飲んでも症状が改善されない場合や、症状がどんどん強くなっている場合などは、早めの受診をご検討ください。
医療機関を受診する
胃炎の背景にはさまざまな病気が隠れていたり、胃炎が悪化して潰瘍や胃がんに進行したりすることもあります。そのため、症状が強かったり長く続いたりするような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
以下に当てはまるような方は、特に早めに医療機関の受診や、主治医への相談を行うとよいでしょう。
- 耐えられないほどの強い痛みがあるなど、症状が強い
- 症状がだんだん強くなっている
- 数日たっても症状がよくならない
- 市販薬を飲んでも効果がない
- 胃の症状以外にも気になる症状がある
- 肝硬変や腎不全などの持病がある
- 何らかのお薬を常用しているなど
急性胃炎の医療機関での治療法
肝硬変や腎不全、自己免疫疾患といった病気が原因となっている場合には、その病気に対する治療によって、症状改善が見込めます。
その他に、症状を緩和するための薬物療法や、ピロリ菌の除菌治療、栄養補給のための点滴などを行うこともあります。詳細は以下の通りです。
薬物療法
薬物療法は、胃粘膜の炎症を抑え、症状を緩和する目的で行われます。
急性胃炎の症状に応じて、胃酸分泌を抑えるお薬や胃粘膜を修復するお薬、胃の運動機能を改善するお薬などが処方されます。一例は以下の通りです。(いずれも医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。)
お薬の種類 | お薬の特徴 | 使用する状況の例 | |
胃酸に対して作用するお薬 | 胃酸分泌抑制薬 | 胃酸の分泌を抑える | 胃酸の過剰分泌などが生じている場合 |
制酸薬 | 胃酸を中和する | ||
防御因子増強薬 | 胃粘膜を守る | ||
胃のけいれんを改善するお薬 | 消化管の運動をやわらげる | 胃の筋肉が痙攣し、差し込むような痛みを感じる場合 |
お薬の副作用が原因の場合
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などが原因で炎症が起きている場合には、お薬の服用を中止する場合があります。
ただし、胃酸の分泌を抑制し、胃粘膜を修復するのを助けてくれるプロトンポンプ阻害薬を使用することで、NSAIDsの使用を続けながら胃炎の改善が見込めることがあります。
除菌治療
ピロリ菌による胃炎の場合には、除菌治療を行います。3種類のお薬を7日間服用し、約1ヶ月後に除菌されているかを確認します。
約70%以上の人が1回目の除菌治療に成功すると言われていますが、除菌されていない場合には二次除菌を行います。
点滴
急性胃炎の症状の中でも、吐き気や嘔吐が強い場合には、自分自身での栄養補給・水分補給が難しいため、点滴で栄養分を投与することがあります。
急性胃炎は保険適用で診療できる?
急性胃炎は保険適用で診療が受けられることが一般的です。診療は、保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、基本的に、胃の痛みなどの症状があり、治療の必要性があり、決められた範囲内の治療法を実施する場合は保険適用となります。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査、治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査、治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
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※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。