下痢症の種類
下痢症には1~2週間以内に治まる急性のものと、症状が3週間以上続く慢性のものがあります。そのうち急性の下痢は、下記の2種類に分類されます。
浸透圧性下痢 | 腸機能の低下によって水分が十分に吸収されなくなり、便の水分が増えて下痢になる |
分泌性下痢 | 腸粘膜に障害が起き、腸管内の分泌液が増加して下痢になる |
また、慢性下痢には下記の2種類があります。
蠕動(ぜんどう)運動性下痢 | 蠕動運動(腸が内容物を肛門側に押し出す働き)が過剰になり、十分に水分が吸収されなくなって下痢になる |
滲出(しんしゅつ)性下痢 | 腸粘膜から血液の成分や細胞内の液体が漏れ、便の水分量が増えた結果下痢になる |
上記のとおり、「下痢」といっても発生の要因は人それぞれ異なります。
急性の下痢症の原因
先述の通り、下痢症には急性・慢性があり、浸透圧性・分泌性・蠕動運動性・滲出性に分かれます。これらの下痢症になる原因はさまざまです。何が原因で下痢症になるのか、まずは急性の下痢症の主な原因を紹介します。
食べ過ぎ・飲み過ぎ
急性の下痢症でよく見られる原因が、食べ過ぎ・飲み過ぎです。大量の食べ物や飲み物を摂取することで消化不良を起こし、下痢になってしまいます。また、アルコールで腸が刺激されたことで下痢になる場合もあります。
食べ過ぎ・飲み過ぎによる下痢は1~2日程度で治まるのが一般的です。なかなか下痢が治まらない場合はほかの原因が考えられるため、医療機関を受診してみましょう。
胃腸風邪
胃腸風邪とは、細菌やウイルスに感染し、それらの病原体が腸に入ってしまった状態です。手指に病原菌が付着していたり、感染者の排泄物や嘔吐物に触れたり、くしゃみなどで飛沫が飛んできたりすることで感染します。
おなかの風邪や感染性胃腸炎と呼ばれることもあり、下痢だけでなく吐き気・嘔吐や腹痛などの症状が出る場合もあります。
胃腸風邪の主な原因は、ノロ・ロタ・アデノなどのウイルスです。また新型コロナウイルス感染症でも、下痢の症状が報告されています。
食中毒
食中毒とは、ノロ・ロタなどのウイルスやサルモネラ・カンピロバクターなどの細菌、アメーバなどの寄生虫に汚染された飲食物を摂取したことで感染し、中毒症状を起こした状態のことです。
消化管内で細菌やウイルスが増え、消化管を傷つけたり毒素を発生させたりしたことで下痢になります。下痢以外にも強い腹痛や発熱、脱水症状、血便などの症状が出る場合があります。
熱中症
一見下痢症とは結びつかない、熱中症が原因のケースもあります。熱中症になると体が脱水状態になるためです。
脱水状態とは、体内の水分や塩分のバランスが崩れている状態のことです。その状態で水分のみを摂取すると、体内の塩分濃度が低下します。
すると塩分濃度を正常に保つために、体が尿や便に含まれる水分量を増やして体外に排出しようとするため、下痢になるといわれています。
慢性の下痢症の原因
慢性の下痢症は、何らかの病気が原因になっている可能性があります。病気が原因の場合、その病気自体を治療しないと下痢が治まりません。
続いては、慢性の下痢症の主な原因を紹介しますので、思い当たることがある場合は医療機関の受診を検討しましょう。
ストレス
人間の体は活発に活動するときは交感神経が、休息や睡眠を取るときは副交感神経が働き、体を状況に適した状態に保っています。しかし、ストレスを感じると自律神経の働きが乱れ、体のさまざまな部分に不調が出てきます。
胃腸の働きも自律神経によってコントロールされているため、自律神経の働きが乱れると、胃腸の調子が悪くなることがあります。
症状の出方は人それぞれで、体が緊張状態になって便秘になる方もいれば、腸の蠕動運動が過剰になって便の水分がしっかり吸収されないまま排出されるようになり、下痢を起こす方もいます。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、慢性の下痢症でよく見られる病気です。検査で異常が確認できないにもかかわらず、長く下痢の症状が続きます。また、腹痛や腹部膨満感、便秘などの症状が出る場合もあります。
過敏性腸症候群を発症する具体的な原因はわかっていませんが、食事やストレスなどがもとで腸が敏感になり、過剰に蠕動運動が起こることで発症すると考えられています。
通勤・通学のためにバスや電車に乗る、人と会う、試験を受けるといった行動の前に急にお腹が痛くなったり下痢をしてしまったりする場合は、過敏性腸症候群の可能性があります。高いでしょう。
食物アレルギー
食物アレルギーが原因で下痢になることもあります。アレルギー物質によって腸粘膜に障害が起こり、腸管内の分泌液が過剰に増えて下痢を起こすのです。
食物アレルギーは子どもに起こるものと思っている方もいるかもしれませんが、大人になって発症する方もいます。下痢以外にもかゆみや発疹、唇や喉の腫れなど症状が現れた場合はアレルギーの可能性があります。
乳糖不耐症
乳糖不耐症とは、牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解するためのラクターゼという酵素が十分に分泌されないことで起こる病気です。
ラクターゼの分泌量が少ないために、牛乳の消化不良を起こして下痢になります。下痢のほかに腹痛、消化不良などの症状が起こる場合があります。
糖尿病の合併症
糖尿病の治療が十分でない状態が続くと、自律神経が乱れる場合があります。その結果、消化管の働きまで乱れると、便秘と下痢を繰り返すことがあります。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは、大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引き起こす炎症性腸疾患の一種です。原因不明の疾患であり、難病指定を受けています。
潰瘍性大腸炎を発症すると腸内が出血を起こしやすくなるため、下痢になったり血便が出たりすることもあります。
クローン病
クローン病とは、潰瘍性大腸炎と同じ炎症性腸疾患の一種です。大腸や小腸の粘膜だけでなく、口から肛門までのどの部位でも慢性の炎症や潰瘍が起こる可能性があります。クローン病も原因不明の疾患であり、難病指定を受けています。
クローン病を発症すると、腸内に炎症が起きて吸収機能が落ちたり、腸内に滲出液が排出されたりすることで下痢になるほか、血便や発熱などの症状が出ることもあります。
虚血性腸炎
虚血性腸炎とは、腸に血液を送る血管の血流が一時的に悪くなって、腸の働きが弱くなる病気です。血流悪化の原因として多いのが、便秘で強くふんばり腹圧がかかることだとされています。
虚血性腸炎は、強い腹痛を感じた後に下痢になることが多いのが特徴です。軽症の事もありますが、腸閉塞を起こしたり激しい腹痛や合併症を起こして死に至ったりするケースもあります。
慢性膵炎
慢性膵炎とは、膵臓が繰り返し炎症を起こした結果、委縮して硬くなった状態です。膵臓とは、脂肪を分解するための消化液(膵液)を分泌する働きをもつ臓器です。
慢性膵炎になると膵液の分泌量が減り、脂肪分の消化・吸収が悪くなるため下痢になることがあります。このときの便は、消化しきれなかった脂肪分でギラギラしているのが特徴です。
大腸がん
大腸がんとは、大腸表面の粘膜にできる悪性腫瘍です。腫瘍で腸の内部が細くなるため便秘になることが多いですが、下痢を起こす方もいます。
生理前・生理中に下痢になる場合も
生理の影響で下痢になる場合もあります。生理中は子宮内膜で生成される「プロスタグランジン」という物質の分泌量が増えるためです。
プロスタグランジンには、子宮を収縮させて不要な子宮内膜を体外に排出する働きがあります。そのプロスタグランジンが血液中に入ると、腸管が収縮して下痢を起こすといわれています。
一方、生理前は便秘になる方が多い傾向にあります。生理前はプロゲステロンという、水分の再吸収に関わる女性ホルモンの分泌量が増加するからです。
プロゲステロンの影響で便の水分まで吸収されてしまうため、便が硬くなって便秘が起こります。ただし、必ずしも便秘になるわけではなく、月経前症候群(PMS)が原因で下痢になる場合もあります。
下痢症の対処法
急に下痢になってもすぐに治るケースが多いですが、何らかの病気によって下痢を起こしている場合もあるので、適切に対処することが大切です。ここでは、下痢症の治し方・対処法を紹介します。
消化によいものを食べる
下痢は腸に異常が起きて発生するものです。腸に負担をかけないよう休ませる必要があるので、おかゆや味噌汁、リンゴのすりおろしなどの消化によいものを食べるようにしましょう。
ただし、ヨーグルトは腸によいイメージがあり消化もしやすいですが、過敏性腸症候群などの場合は症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。
水分をしっかり取る
下痢になると体内の水分・塩分が失われるため、しっかり水分を取る必要があります。ただし、水だけを大量に摂取すると塩分濃度が下がってしまうので、塩分も一緒に摂取することが大切です。経口補水液やスポーツドリンクを飲むとよいでしょう。
刺激物を避ける
アルコール飲料や炭酸飲料、コーヒーなどは腸に刺激を与えるので控えましょう。また、脂肪分が多い食材や玄米、生野菜などの消化に時間がかかるものも、腸に負担がかかるので避けることをおすすめします。
下痢止めや整腸剤を服用する
「腸の水分を吸収する」「腸への刺激を軽減する」「腸の蠕動運動を抑制する」などの効果をもつ市販薬があるため、状態に応じて服用するのもひとつの方法です。ビフィズス菌入りの整腸剤を飲むのもよいでしょう。
どれを飲んだらよいかわからないときは店舗の薬剤師さんなどに相談したり、副作用と思われる症状が出た場合は医療機関を受診したりしましょう。
下痢症の治し方~医療機関での下痢症の治療~
下痢症で医療機関を受診した場合も、下痢止めや整腸剤が用いられるのが一般的です。ただし、胃腸風邪や食中毒などのウイルスが原因の下痢の場合、下痢を止めると体内のウイルスの排出が遅れて症状が長引く可能性があるため、下痢止めを処方しないこともあります。
とはいえ、あまりに下痢が酷い場合は、体力を消耗したり脱水状態になったりと危険な状態に陥るおそれがあるため薬を用いる場合もあります。
また、症状が酷い場合は、失われた水分や電解質を補うために点滴したり抗生物質を投与したりすることもあります。そのときの状態で対処が異なるため、自己判断せずに医師の指示に従いましょう。
なお、アレルギーや過敏性腸症候群、大腸がんなど病気が原因の慢性的な下痢については、消化器内科などの医師の下で病気そのものを治療する必要があります。
こんなときは医療機関に相談を
下記に該当する場合は何らかの病気が原因で下痢になっている可能性が高いため、医療機関を受診して下痢の原因を突き止め、適切な治療を受けましょう。
- 下痢止めを数日飲んでも症状が改善しない
- これまで経験したことのない激しい下痢が起きている
- トイレから離れられないくらい頻繁に下痢が出る
- 発熱・吐き気・嘔吐など下痢以外の症状も出ている
- 排便してもお腹が痛い
- 血が混ざった便が出た
- 同じものを食べた人も下痢を起こしている
- 症状が収まる気配がない、または悪化している
- 脱水症状を起こしているなど
下痢症の禁忌事項
下痢症になったときは、アルコール飲料や炭酸飲料、コーヒーなどの刺激物の摂取を控えましょう。辛いものや冷たい食べ物・飲み物も、腸に刺激を与えるので避けてください。
過敏性腸症候群などの場合は、ヨーグルトで症状が悪化する恐れがあるなど、病気によっても注意点が異なるため、医師から指示などが合った場合はしっかり守りましょう。
下痢症は保険適用で診療できる?
下痢症は保険適用で診療が受けられることが一般的です。診療は、保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、基本的に、下痢などの症状があり、治療の必要性があり、決められた範囲内の治療法を実施する場合は保険適用となります。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査、治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査、治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
下痢症の治療はクリニックフォアのオンライン診療へ
下痢症の原因はさまざまで、ただの食べ過ぎの場合もあれば、食中毒やアレルギー、過敏性腸症候群などの病気のケースもあります。
虚血性腸炎や大腸がんなどの重い病気のリスクもあるので、症状が長引いているときや下痢以外の症状も出ている場合は医療機関を受診しましょう。
クリニックフォアでは、さまざまなお悩みに対応するオンライン診療を行っており、保険診療の内科では、下痢症の診療にも対応しています。
下痢の原因がわからない、長く続いているなどでお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。