溶連菌とは?
溶連菌(溶血性レンサ球菌)とは、鎖のように連なった「連鎖(レンサ)球菌」の一種です。A群・B群・C群・G群レンサ球菌などいろいろな種類があります。
このうち溶連菌感染症の主な原因となるのは、A群β溶血性レンサ球菌です。溶血毒素や発赤毒素などを産生・分泌し、さまざまな症状を引き起こすといわれています。
- 溶血毒素:細胞膜に穴を作るなどして細胞を障害する毒素
- 発赤毒素:サイトカイン(免疫細胞が情報伝達に使うタンパク質)の産生を促して炎症反応を起こす毒素
ただし、A群のみが感染症の原因になるわけではありません。ほかの種類のレンサ球菌による感染症の報告例も存在します。
溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)の症状
溶連菌に感染すると、さまざまな症状が引き起こされます。どのような症状が現れる可能性があるのか、溶連菌感染症の主な症状を紹介します。
38度以上の高熱
溶連菌に感染すると、38度以上の高熱が出ることが多いです。溶連菌が放出する毒素が免疫細胞を活性化させ、サイトカイン(細胞間の情報伝達に使われるタンパク質)を大量に放出させます。
すると、サイトカインが体温調節中枢に作用するプロスタグランジンという物質を作り出し、体温を上げるため発熱するのです。熱は3~5日以内に下がることが多い傾向にあります。
喉の赤み・腫れ・痛み(咽頭炎・扁桃炎)
溶連菌感染症は、上気道(鼻から喉まで)の感染症です。そのため、溶連菌に感染すると咽頭炎の症状が出る場合があります。
咽頭とは、鼻の奥から喉の奥にかけての、空気や食べ物の通り道のことです。ここに病原菌が感染すると、喉が炎症を起こして赤く腫れたり喉に強い痛みが生じたりします。
また、溶連菌感染症によって、扁桃炎を起こすケースもあります。扁桃とは、喉の奥のほうにあるコブ状のリンパ組織です。扁桃は体を病原菌から守るための組織ですが、扁桃で病原菌が増えて炎症を起こすことがあります。
扁桃炎を起こすと高熱や喉の腫れ、痛みなどの症状が出るほか、扁桃が膿んで白くなることがあります。溶連菌による咽頭炎は乳幼児に多いですが、扁桃炎は年長児や成人に起こることが多い傾向にあります。
発疹(猩紅熱)
溶連菌が産生する発赤毒素に対する免疫をもっていない場合、かゆみをともなう赤い発疹ができることがあります。
発疹が現れるのは発熱から12~24時間ほど経ったころで、首から胸、手足など全身に広がっていきます。全身が赤くなるため、猩紅熱(しょうこうねつ)と呼ばれています。
イチゴ舌
猩紅熱の症状が出たあとに、イチゴ舌の症状が出る場合もあります。イチゴ舌とは、舌に赤いブツブツが現れてイチゴのように見える状態のことです。まず、舌が白い苔のようなものに覆われ、その後苔が剥がれてイチゴ舌になります。
溶連菌感染症の合併症(続発症)の症状
溶連菌感染症にかかると、別の病気を合併する場合があります。どのような合併症が起こる可能性があるのか、溶連菌感染症の代表的な合併症と症状について解説します。
中耳炎
中耳炎とは、中耳腔という鼓膜の奥の空間に病原菌が感染し、炎症を起こす病気のことです。耳の痛みや耳だれなどの症状が出る場合があります。
気管支炎
気管支炎とは、上気道の炎症が気管や気管支まで広がり、気道の粘膜や繊毛(細胞表面にある細かい毛のようなもの)が損傷した状態のことです。
咳や痰などの症状が現れるほか、発熱や胸部の不快感、全身の倦怠感などの症状が出ることもあります。
肺炎
溶連菌感染症の炎症が広がり、肺炎を合併するケースもあります。肺炎とは、肺に病原菌が感染して肺胞(体内に取り込んだ酸素と二酸化炭素を交換する組織)が炎症を起こした状態のことです。
呼吸に関わる部位がダメージを受けているため、咳や痰が出たり息切れや胸の痛みなどの症状が出たりするほか、呼吸困難になる場合もあります。
溶連菌が原因の肺炎は症状が重く、進行が速い傾向にあるのが特徴です。さらに約25%の患者さんが劇症型溶血性レンサ球菌感染症(※後述)を起こすとされているため、速やかに医療機関を受診する必要があります。
髄膜炎
稀なケースではあるものの、溶連菌感染症の合併症として髄膜炎を発症することがあります。髄膜炎とは、上気道や呼吸器の感染症の病巣経由で髄膜(脳や脊髄を覆っている組織)に病原菌が侵入し、髄膜が炎症することです。
発熱、頭痛、関節炎、嘔吐などの症状が現れるほか、症状が進行するとけいれんや意識障害などが起こることもあります。
後遺症として、高次脳機能障害(怪我や病気が原因で脳が損傷し、記憶障害や注意障害などが起こること)が残るケースもあるため注意が必要です。
リウマチ熱
溶連菌感染症を発症した際に免疫に異常が起き、リウマチ熱を合併するケースもあります。リウマチ熱とは溶連菌に感染した後に発症することがある、全身に炎症反応が起こる病気です。
リウマチ熱を発症すると、関節炎や発熱、皮下結節(皮膚の下にできるしこりのようなもの)など、さまざま症状が現れます。
さらにリウマチ熱の合併症として心内膜炎を起こす場合もあります。心内膜炎の重症度は患者さんによって異なり、軽症で済む場合もあれば、血液が逆流したり心不全を起こしたりする場合もあります。
日本国内では、溶連菌感染症の合併症としてリウマチ熱を発症するケースは減少していますが、発症する可能性がゼロになったわけではないため注意が必要です。
急性糸球体腎炎
溶連菌感染症が治って10日ほど経過したころに、急性糸球体腎炎を発症することがあります。急性糸球体腎炎とは、腎臓内にある糸球体(老廃物を除去するための組織)が炎症を起こした状態のことです。
血尿や尿たんぱくが出るほか、顔や足のむくみ、高血圧などの症状が出る場合もあります。通常は時間の経過とともに症状は改善されますが、腎機能障害が残り透析が必要になるケースもあります。
劇症型の溶連菌感染症の症状
溶連菌には、免疫の働きを阻害するたんぱく質を作り出して免疫細胞の攻撃から逃れ、重篤な症状を引き起こすものがあります。この重篤な症状が現れた状態を、劇症型溶血性レンサ球菌感染症といいます。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症した患者さんは、体に壊死が起こることがあるほか、約30%が死亡するとされていることから最近のニュースでも発症の増加傾向があると話題になっています。
非常に症状の進行が速く、発症から数十時間で死に至るケースもあるため早急に医療機関を受診することが重要です。ここでは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症状を解説します。
風邪のような症状
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の初期症状は、発熱、喉の痛み、悪寒、全身の倦怠感などの、風邪やインフルエンザに似た症状です。ただし、これらの初期症状がないまま、急速に進行するケースもあります。
消化管症状
初期症状として、吐き気・嘔吐や下痢、食欲不振などの消化管症状が出る場合もあります。
ただ、こちらの症状も、出ないまま急速に進行するケースがあります。
手足の痛み・腫れ
劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症した方の多くに、手足の痛みや腫れの症状が出ます。本来菌が存在しないはずの血液や筋肉などに菌が侵入し、症状を引き起こすと考えられています。
また、後述する壊死性筋膜炎の初期症状で手足に痛みを感じている場合もあります。
風邪のような症状や消化管症状などとともに手足の痛み・腫れの症状が出た場合は、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の可能性が考えられます。
軟部組織の壊死(壊死性筋膜炎)
A群β溶血性レンサ球菌が皮膚や筋肉に侵入し、周辺の組織を壊死させることがあります。皮膚から筋肉まで症状が出ますが、主に筋膜(筋肉を包む膜)で症状が広がるため壊死性筋膜炎と呼ばれることがあります。壊死性筋膜炎は、下記のように進行していきます。
- 皮膚が赤くなる
- 赤くなった部分が紫色に変わる
- 水ぶくれができる
- 潰瘍(皮下組織が露出し、浸出液が流れ出る状態)になる
- 壊死する
壊死まで進行してしまった場合、組織の切除や四肢切断などの処置が必要になる場合もあります。
ショック症状(毒素性ショック症候群)
溶連菌の毒素が体に吸収されることによってショックを起こすことがあります。これを毒素性ショック症候群といいます。
毒素性ショック症候群になると体全体に十分な血液が巡らなくなって血圧が下がるほか、高熱、嘔吐、下痢、錯乱などの症状が出ることもあります。
呼吸困難(成人型呼吸窮迫症候群 ・ARDS)
血液中に病原菌が入って増殖し、敗血症を起こした結果、成人型呼吸窮迫(きゅうはく)症候群になることがあります。
成人型呼吸窮迫症候群とは、動脈内の血液に酸素が回りにくくなり、息切れや呼吸困難などの症状が出ている状態のことです。咳や痰が出る、呼吸や脈が速くなるなどの症状が現れることもあります。
成人型呼吸窮迫症候群を発症した場合、酸素吸入だけでは対応しきれず、人工呼吸器が必要になることが多いです。
出血しやすくなる(播種性血管内凝固症候群・DIC)
播種性血管内凝固症候群とは、畑に種をまくように、血管内部にたくさんの血栓がばらまかれた状態のことです。
播種性血管内凝固症候群になると、出血を止めるための血小板と凝固因子が大量に消費されるため出血しやすくなります。
また、血栓が細い血管に詰まると、各臓器の組織に酸素や栄養が届かなくなり障害が起こります。最悪の場合、死に至るケースもあるため、適切な治療を受けることが大切です。
敗血症
劇症型溶血性レンサ球菌感染症により、敗血症を起こす場合もあります。敗血症とは、病原菌や病原菌が作り出した毒素が血液に入り込んで全身に回り、さまざまな症状が現れている状態のことです。
全身で炎症反応が起こり、発熱、悪寒、体の痛み、息切れなどの症状が出るほか、意識障害や多臓器不全につながるリスクもあります。心機能障害を合併して心臓のポンプ機能の働きが落ち、ショック状態になって死亡する恐れもあります。
多臓器不全
敗血症や成人型呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群などさまざまな症状が現れた結果、複数の臓器が正常に働かなくなり多臓器不全を起こす場合があります。
多臓器不全は、死に至るリスクが高い状態です。劇症型溶血性レンサ球菌感染症にかかると、通常の状態から24時間以内に多臓器不全まで進行するおそれがあります。そのため、風邪のような症状や手足の痛み・腫れなどの初期症状が出ている時点で医療機関を受診することが重要です。
溶連菌はどうやってうつる?感染する原因を解説
溶連菌の主な感染経路は、飛沫感染、接触感染、経口感染の3種類です。
飛沫感染とは、感染者の飛沫によって病原菌に感染することです。溶連菌の感染者が咳やくしゃみなどすると、溶連菌が含まれるしぶきが放出され、そのしぶきを吸い込むことで、溶連菌に感染します。
接触感染とは、病原菌が付着しているものに触れて感染することです。溶連菌の感染者が触れたものに、溶連菌が付着します。その溶連菌が付着したものに触れると、手に溶連菌がつきます。そして溶連菌が付着した手で鼻や口に触れることで感染するのです。
経口感染とは、病原菌に汚染された飲食物を摂取して感染することです。溶連菌に汚染された飲食物を摂取した結果、口から溶連菌が体内に侵入して感染します。
溶連菌の潜伏期間
溶連菌の潜伏期間は2〜5日程度です。潜伏期間後、発熱や喉の腫れ・痛み、舌が白い苔のようなものに覆われるなどの症状が現れます。
その後イチゴ舌や猩紅熱などの症状が出ることがあるほか、人によっては中耳炎やリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの合併症を起こす場合があります。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症した場合は、数十時間以内に急速に症状が進み、最悪の場合死に至ります。
溶連菌感染症にかかりやすい年齢は?
溶連菌感染症と劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、それぞれ発症しやすい年齢が異なります。
通常の溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)は、学童期の子どもが発症しやすいのが特徴です。3歳以下の子どもや大人の症例は少ないといわれています。ただし、3歳以下の子どもや大人でも絶対に感染しないわけではないので、年齢にかかわらず感染予防に努めることが大切です。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は大人も、年齢にかかわらず発症するリスクがあります。ただし、30歳以上の大人が発症しやすいといわれています。
溶連菌感染症を予防するには?
溶連菌は飛沫や接触などが原因で感染します。そのため、下記のような習慣を心がけて、溶連菌に触れないようにすることが重要です。
- 外出時はマスクを着用する
- 外出後はしっかりと手を洗う
- 感染した家族を看護する際にはマスクを着用する
- 感染した家族を看護した後は手を洗う
- 感染した家族とタオルなどを共有しないようにする
- 感染者が触れたものをアルコール消毒する
など
溶連菌感染症にかかったときの対策
溶連菌に感染しないように注意していても感染してしまうことがあります。そこで、溶連菌感染症にかかったときの対策を紹介します。
登園・登校・出勤を控える
溶連菌感染症にかかった場合の登園や登校ついては、学校保健安全法施行規則による「学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症」では溶連菌は第三種感染症として「適切な抗菌薬による治療開始後24時間を経て全身状態が良ければ登校(園)可能」と定められています。
溶連菌は感染力が高く、飛沫や接触によってほかの人にうつしてしまう恐れがありますが、適切な治療が開始されれば速やかに症状は収まり、感染力もなくなります。
社会人の場合は、明確に定められてはおりませんので、会社の規定に従いましょう。
咳エチケットを心がける
溶連菌に感染した方の飛沫には溶連菌が含まれています。咳やくしゃみなどでほかの人にうつしてしまわないように、咳エチケットを心がけましょう。
咳エチケットとは、感染症の拡大防止のために、咳やくしゃみをするときに周囲に配慮することです。具体的には下記のような行動を指します。
- 咳やくしゃみをするときはハンカチやティッシュで抑える
- マスクを着用する
- こまめに手を洗う
など
とくに公共交通機関を利用するときや、学校・職場などでは咳エチケットを心がけましょう。
喉を刺激する食べ物を避ける
溶連菌感染症にかかると咽頭炎が引き起こされ、喉の痛みを感じることが多い傾向にあります。喉を刺激する食べ物は避けて、喉にやさしく消化によい食べ物を食べるようにしましょう。
水分をしっかり摂取する
溶連菌感染症を発症したときは、発熱などによる脱水症状になるのを防ぐために水分をしっかり摂取することも重要です。
ただし、真水だけでは体内の水分と電解質のバランスが崩れてしまいます。水分と電解質を同時に摂取できる経口補水液やスポーツドリンクなどを飲むとよいでしょう。
爪を短く切る
溶連菌感染症による発疹はかゆみをともないます。患部を掻き壊さないように、爪を短く切っておきましょう。
溶連菌感染症の検査
溶連菌感染症にかかっているかどうかを判断するには、医療機関で検査を受ける必要があります。溶連菌感染症の検査には、迅速診断キットを用いるのが一般的です。綿棒で喉の奥のほうの粘膜を採取し、試薬を使って判定します。
必要に応じて血液検査や培養検査(患部から採取した検体を培養して、菌の有無や種類、量などを調べる検査)などが行われることもあります。
溶連菌感染症の医療機関での治療法
溶連菌感染症の検査結果が陽性になった場合は、医療機関で治療を受けることが重要です。一般的に溶連菌感染症の治療には、ペニシリン系の抗菌薬が使用されます。ただし、ペニシリン系の抗菌薬にアレルギーがある場合は、ほかの薬が検討されます。
抗菌薬を処方されたら、少なくとも10日間は服薬することが必要とされています。薬の摂取で症状が治まっても、体内から溶連菌がいなくなったわけではありません。再発や合併症を起こすリスクがあるため、医師から指示された期間中は服用し続けましょう。
なお、劇症型溶血性レンサ球菌感染症では、軟部組織の壊死が起きている場合は患部を切除するなど、状況に応じた治療を行います。
溶連菌感染症は保険適用で診療できる?
溶連菌感染症は保険適用で診療が受けられることが一般的です。診療は、保険適用の保険診療と、保険適用外の自由診療に分けることができ、基本的に、発熱や喉の痛みなどの症状があり、治療の必要性があり、決められた範囲内の治療法を実施する場合は保険適用となります。
保険診療 | 自由診療(保険外診療) | |
概要 | 公的な健康保険が適用される診療 | 保険が適用にならない診療 |
主な状況 | 病気の症状があり、治療の必要性がある状況 | 美容目的や、予防目的の場合 |
診察・治療内容 | 国民健康保険法や健康保険法などによって、給付対象として定められている検査・治療 | 医療保険各法等の給付対象とならない検査・治療 |
費用 | 同じ診療内容なら、どの医療機関でも同じ | 同じ診療内容でも、医療機関によって異なる |
原則1~3割負担 | 全額自己負担 |
溶連菌感染症の治療はクリニックフォアのオンライン診療へ
溶連菌に感染すると高熱や喉の腫れ・痛みなどの症状が現れるほか、イチゴ舌や猩紅熱などの特徴的な症状が出る場合もあります。
さらに合併症を発症したり、劇症型溶血性レンサ球菌感染症によって重篤な症状が現れたりするリスクもあるため、医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。
クリニックフォアでは、さまざまなお悩みに対応するオンライン診療を行っており、保険診療の内科では、溶連菌感染症の診療にも対応しています。
溶連菌感染症が疑われる症状が出ている場合は、早めにご相談ください。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。