血栓症とは—ピルとの関係を正しく理解する
「血栓症」という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどんな病気なのか・なぜピルで起きるのかを知らないという方も多いでしょう。
正しい知識を持つことは、過剰な不安を減らし、万が一のときに冷静に行動するための基盤になります。
ここでは、血栓症の基本的な知識・ピルで起きる仕組み・実際の発症頻度の3つのポイントを整理します。
血栓症とはどんな病気か
血栓症は、血管の中に「血栓(血液が固まってできた塊)」が生じ、その血栓によって血管が詰まることで、臓器や組織への血流が妨げられる病気です。
ピルの服用と関係が深いのは、主に「静脈血栓塞栓症(VTE:Venous Thromboembolism)」と呼ばれるタイプです。
静脈血栓塞栓症に含まれる主な病態は以下の二つです。
- 深部静脈血栓症(DVT:Deep Vein Thrombosis)…主に下肢の静脈に血栓が生じる
- 肺血栓塞栓症(PE:Pulmonary Embolism)…深部静脈の血栓が肺の血管に詰まり呼吸困難を引き起こす
重症化すると脳梗塞・心筋梗塞などを引き起こす可能性もあります。
「エコノミークラス症候群」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。飛行機のエコノミークラスで長時間同じ姿勢を続けた際に発症しやすいことで知られています。足の深い静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)が血流に乗って肺の血管に詰まると、急性肺血栓塞栓症を引き起こします。
血栓症は早期に気づいて適切に対処することで重症化を防げる可能性が高いため、症状のサインをあらかじめ知っておくことが大切です。
ピルで血栓症が起きる仕組み
ピルに含まれるエストロゲン(卵胞ホルモン)が、血栓症リスクに関係しています[4]。
エストロゲンは肝臓で血液を固めるための「凝固因子」の産生を促進する作用を持っており、ピルに含まれるエストロゲンの作用により、血液が固まりやすい状態が生まれます[4]。
通常、体内の凝固系と抗凝固系はバランスを保って機能していますが、ピルに含まれるホルモンの影響により、凝固側にやや傾く可能性があります。
黄体ホルモンの種類によって血栓症リスクが異なる可能性が報告されています[4]。
「だからピルは危険なの?」と思う方もいるかもしれませんが、こうしたリスクを理解したうえで医師が処方の可否を判断しているため、定期的な受診と正しい知識を持つことが重要です。
血栓症リスクが高い人—ピル服用前に確認すること
血栓症のリスクは個人の体質・生活習慣・持病によって大きく異なります。
以下の特徴に当てはまる方は、医師から慎重な判断やピルの処方そのものが難しいと判断される場合があるため、受診前に確認しておきましょう[1]。
ここでは、病歴・体質・生活習慣・服用タイミングという3つの視点からリスク因子を整理します。
病歴・体質によるリスク因子
以下の病歴や体質がある方は、血栓症リスクが高いとされています[1]。
- 血栓症・脳梗塞・心筋梗塞の既往歴または家族歴がある方
- 先天性の血液凝固異常がある方
- 40歳以上
- 重度高血圧(収縮期160mmHg以上または拡張期100mmHg以上)
- 前兆を伴う片頭痛がある方
上記に当てはまる方は、処方の可否を医師が慎重に判断します[1]。
血栓症・脳梗塞・心筋梗塞などの既往歴または家族歴がある方は、投与に関して慎重に検討され、処方不可と判断されることが多くあります[1]。
「自分がこれに当てはまるかどうかわからない」という方は、受診前に家族の病歴や自分の過去の血液検査の結果を確認しておくと、医師との相談がスムーズになるでしょう。
生活習慣によるリスク因子
持病がない場合でも、生活習慣によって血栓症リスクが高まることがあります。
血栓症リスクを高める生活習慣:
- 喫煙(とくに35歳以上で1日15本以上はピル処方禁忌)
- 肥満(BMI25以上)
- 脱水状態
- 長時間の同一姿勢(デスクワーク・長距離移動など)
喫煙はタバコの煙に含まれる成分によって血管内皮が傷害され、血管が収縮しやすくなるほか、血液が固まりやすい状態を引き起こします。そのため、血栓症のリスクを高めることが知られています。とくに35歳以上で1日15本以上喫煙している方へのピル処方は禁忌とされています[1]。
服用タイミングによるリスク
血栓症のリスクがとくに高まる「服用タイミング」があることも知っておく必要があります。
服用開始後3〜4か月以内は血液凝固に関わる服用開始に伴って凝固系への影響が生じるため、血栓症が起きやすい時期とされており、その後、リスクは低下する傾向がありますが、服用中は定期受診が重要です[1]。
ピルを4週間以上中断した後に再開すると、飲み始めと同じようにリスクが再び高まるため、「飲んだり休んだりを繰り返す」使い方は血栓症リスクの観点からも望ましくありません[3]。
「少しやめていたがまた飲み始めた」という場合は、再開後3か月はとくに体の変化に注意が必要です[3]。
自己判断で中断・再開を繰り返さず、変更を検討する際は医師に相談しましょう。
見逃してはいけない血栓症の初期症状
「血栓症は症状が出たときに気づければ対処できる」という認識を持っておくことが、万が一のときの行動につながります。
以下の症状は血栓症のサインとして添付文書に明記されており、該当する場合はすぐに服用を中止して医療機関を受診することが必要です[3]。
| 症状の部位 | 主なサイン | 疑われる病態 | 対応 |
| 足・脚 | 片足の急激な痛み・重さ・熱感/腫れ・むくみ/皮膚の赤み | 深部静脈血栓症 | 直ちに服用中止・医療機関受診 |
| 胸・呼吸 | 突然の息切れ・呼吸困難/胸痛(息を吸うと痛む)/動悸・脈が速くなる | 肺血栓塞栓症 | すぐに救急車または救急外来 |
| 頭部・視覚 | 今まで経験したことのない激しい頭痛/視野欠損・視力低下/手足のしびれ・麻痺(片側)/ろれつが回らない・意識混濁 | 脳梗塞 | すぐに救急車または救急外来 |
これらの症状があらわれた場合は、直ちにピルの服用を中止し、「低用量ピルを服用している」ことを医師・救急隊員に伝えてください[3]。
症状の種類によって疑われる病態が異なるため、足・胸・頭部の3つのポイントで確認しておきましょう。
足・脚への症状(深部静脈血栓症のサイン)
片足(または両足)のふくらはぎや太ももに以下の症状が突然あらわれた場合は、深部静脈血栓症が疑われます[3]。
急激な痛み・重さ・熱感、腫れ・むくみ、足の皮膚の変色(赤黒い変色)などが代表的なサインとして知られています[6]。
「運動したわけでもないのに片足だけが急に腫れた」という状態は、とくに注意が必要なサインです。
「筋肉痛かな?」「むくみかな?」と様子を見ることが重症化につながる可能性があるため、疑わしい場合は早急に医師に相談することが大切です。
深部静脈血栓症で生じた血栓が血流に乗って肺の血管に詰まると、肺血栓塞栓症を引き起こす可能性があります。そのため、足の痛みや腫れなどの症状には注意しましょう。
胸・呼吸への症状(肺血栓塞栓症のサイン)
深部静脈の血栓が肺に飛んだ状態(肺血栓塞栓症)では、以下の症状があらわれます。
突然の息切れ・呼吸困難・胸痛(とくに息を吸うと痛む)・動悸・脈が速くなる感覚・安静にしていても続く息苦しさが代表的な症状です[3]。
「階段を上ると苦しいのは体力がないせい」と考えるのではなく、ピル服用中にこれらの症状が突然あらわれた場合は、迷わず救急車を呼ぶことが必要な状態です。
肺血栓塞栓症は短時間で重篤化する可能性があるため、すぐに行動することが大切です。
症状があらわれた際は、救急車を呼ぶか直ちに救急外来を受診し、受診時に「低用量ピルを服用していること」を医師・救急隊員に伝えましょう。
頭部・視覚・その他の症状(脳梗塞・重篤なサイン)
血栓が脳血管に生じた場合(脳梗塞)、以下の症状があらわれることがあります[1]。
- 今まで経験したことのない激しい頭痛
- 視野の一部が見えなくなる
- 視力が急に低下する
- 手足のしびれや麻痺(とくに片側だけ)
- ろれつが回らない
- 言葉が出にくい
- 意識が混濁する
とくに「今まで感じたことのない激しい頭痛」は脳血管への血栓を強く疑うサインであり、すぐに救急受診が必要な状態です[6]。
ピル服用中に上記の症状があらわれた場合は、すぐにピルの服用を中止し、救急車を呼ぶか直ちに救急外来を受診してください。
夜間・休日などで医療機関が受診しにくい場合は、「#7119(救急安心センター事業)」に電話することで受診すべき医療機関を案内してもらえます。
なお、#7119は地域によって運用が異なる場合があります。
血栓症を防ぐために—日常でできる予防法
「リスクがあるなら、できることを取り入れたい」という方のために、血栓症の予防として有効とされる日常の習慣を整理します。
ここでは、水分補給と姿勢・禁煙と体重管理・定期受診という3つのポイントを解説します。
こまめな水分補給と長時間の同一姿勢を避ける
脱水状態は血液を濃縮させて血栓が生じやすい状態を作るため、こまめな水分補給が血栓症予防の基本です。
長時間の同一姿勢を避ける工夫:
- 1日1.5〜2L程度の水分補給(ただし心臓・腎臓の疾患がある方は医師の指示に従う/カフェイン・アルコールは水分補給の代替にならない)
- 数時間ごとに立ち上がって足首を回すストレッチ
- 飛行機・長距離バス利用時は通路を歩く
- 座ったまま足首の上げ下げ(ポンプ運動)
- 弾性ストッキング(着圧ソックス)の活用
「在宅ワークでほぼ一日中座りっぱなし」という生活習慣がある方は、とくにこまめな姿勢の変更と水分補給を意識することが大切です。
禁煙・適正体重の維持
喫煙は血管を収縮させ、血液の凝固を促進する代表的な血栓症リスク因子です[1]。
禁煙によって心血管疾患リスクが時間とともに低下することが報告されているため、禁煙はリスク低減の有効な対策のひとつといえます。
また肥満(BMI25以上)は血液循環を悪化させて血栓形成リスクを高めるため、バランスのとれた食事と適度な運動による適正体重の維持が予防に役立てられます[1]。
「禁煙したいが自力では難しい」という方は、禁煙外来や禁煙補助薬の活用を医師に相談してみることもおすすめします。
定期的な受診と体調の変化を記録する
ピルを継続的に服用する場合は、定期的な婦人科・産婦人科の受診が血栓症の早期発見・予防において重要です[1]。
定期受診では血圧チェック・問診による体調確認がおこなわれ、リスクが高い状態になっていないかを医師が判断できます[1]。
「体調の変化をメモしておく」習慣も、医師との相談をスムーズにする有効な方法です。
足の腫れ・重さ・違和感などの小さな変化を記録しておくことで、受診時に具体的な情報を伝えやすくなり、早期発見につながります。
「症状が出てから受診する」のではなく、「定期的に状態を確認してもらう」という考え方が、ピルを安心に活用するための基本姿勢といえるでしょう[1]。
クリニックフォアでピルと血栓症について相談できます
「血栓症が心配でピルを始めることを迷っている」「今のピルを続けても大丈夫か確認したい」という方には、クリニックフォアのオンライン診療が便利です。
クリニックフォアでは、低用量ピルの処方・血栓症リスクの確認・副作用の相談をオンラインで医師に気軽におこなうことができます。
ただし、低用量ピル内服後の片足の急激な腫れや痛み・突然の息切れ・激しい頭痛など血栓症が疑われる緊急の症状がある場合は、オンライン診療ではなく、すぐに救急車を呼ぶか救急外来を受診してください[1]。
また、血圧測定や血液検査など対面での検査が必要と医師が判断した場合は、近くの医療機関への受診が必要になることがあります。
※診察の結果、医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※触診・検査などが必要な場合は、対面での診療をお願いする場合があります。
※効果・効能・副作用のあらわれ方は個人差がございます。
よくある質問
ピルと血栓症の関係について正しく理解することで、不安を過度に大きくせず、安心して服用を検討・継続することができます。ここでは、よくある疑問とその答えをまとめました。
Q1: ピルで血栓症になる確率はどのくらいですか?
静脈血栓塞栓症(VTE)の発症頻度は、年間1万人あたり約3~9人とされています[1]。
ピルを服用していない人の発症頻度(年間1万人に1〜5人)と比べるとリスクは高まりますが、妊娠中は年間1万人あたり約10~14人、産後12週間以内は約23人とされており、ピルによるリスクは妊娠中や産後より低いことが知られています[1][2]。
発症しても早期に適切な治療を受ければ多くの場合は命に関わることがないとされているため、正しい知識と定期受診が大切です[5]。
Q2: 血栓症リスクが高いと言われたがピルを飲めない場合の代替は?
エストロゲンを含まない「ミニピル(デソコン)」は、卵胞ホルモンを含まないため血栓症リスクが低減されており、血栓症リスクが懸念される方でも服用できる選択肢のひとつです。
また、月経困難症・子宮内膜症の治療目的では、保険適用のあるプロゲスチン製剤「ジエノゲスト(ディナゲストなど)」が用いられる場合もあります[7]。
子宮内に装着する「IUS(黄体ホルモン放出子宮内システム:ミレーナなど)」も血栓症リスクを高めずに使用できる選択肢のひとつです。
「ピルを飲めないが避妊や生理痛のケアをしたい」という場合は、婦人科で代替の治療法について相談することをおすすめします。
Q3: ピルをやめれば血栓症リスクはなくなりますか?
ピルの服用を中止すれば、エストロゲンによる凝固作用は徐々に低下し、血栓症リスクも服用前の水準に戻っていきます[4]。
ただし、4週間以上中断した後にピルを再開すると服用開始直後と同じようにリスクが再び高まるため、「飲んだりやめたりを繰り返す」使い方は推奨されていません[4]。
服用の中止や再開を検討する場合は、自己判断せず医師に相談してから判断することが安心です。
Q4: 血栓症の症状が出たらどうすればいいですか?
片足の急激な腫れや痛み・突然の息切れ・今まで経験したことのない激しい頭痛・視覚障害・手足の麻痺などの症状があらわれた場合は、直ちにピルの服用を中止し、救急車を呼ぶか救急外来を受診してください[3]。
受診の際は「低用量ピルを服用している(または直近まで服用していた)こと」を医師・救急隊員に伝えることが迅速な診断につながります。
夜間・休日で受診できない場合は、「#7119(救急安心センター)」に電話して対応医療機関を確認することをおすすめします。
まとめ
ピルの服用によって血栓症リスクは高まりますが、年間1万人あたり約3~9人で、ピルによるリスクは妊娠中や産後より低いことを正しく理解しておくことが大切です[1]。
血栓症が起きやすい仕組みは、ピルに含まれるエストロゲンが肝臓の凝固因子産生を促進することで血液が固まりやすくなるためであり、とくに服用開始後3〜4か月以内と服用中断後の再開直後がリスクの高い時期です[1][4]。
喫煙・前兆を伴う片頭痛がある方・高血圧・血栓症の既往歴・遺伝的な凝固異常などのリスク因子がある方は医師への正直な申告が最も重要であり、場合によっては処方が難しいと判断されることがあります[3]。
血栓症の初期症状として、片足の急激な腫れ・痛み・胸痛・息切れ・今まで経験したことのない激しい頭痛・視覚障害・手足の麻痺などがあらわれた場合は、直ちに服用を中止して救急受診が必要です[3]。
日常の予防策として、こまめな水分補給・長時間の同一姿勢を避ける・禁煙・適正体重の維持・定期受診が有効であり、これらの習慣を続けることが血栓症リスクを低く保つことに直結します[1]。
血栓症リスクが高くてピルを服用できない場合でも、エストロゲンを含まないプロゲスチン製剤やIUDなど代替となる治療の選択肢があるため、諦めずに婦人科で相談してみることが大切です。
「怖いから服用しない」ではなく「正しく知って、定期的に確認しながら服用する」という姿勢が、ピルを安心に活用するための重要な考え方です。
※診察の結果、医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※触診・検査などが必要な場合は、対面での診療をお願いする場合があります。
※効果・効能・副作用のあらわれ方は個人差がございます。

