多汗症の基本と種類
多汗症は、過剰な発汗によって日常生活に支障をきたす皮膚疾患のひとつです。特別な原因がなくても発症することがあり、皮膚科では治療の対象となる疾患として扱われています。
日常生活に支障をきたす過剰な発汗
多汗症は、体温調節に必要な量を超えて汗が分泌される状態のことです[1]。通常の汗とは異なり、暑さや運動と関係なく多量の発汗があり、衣服に汗ジミができたり物を持つのが難しくなったりする場合があります。
手汗で書類が濡れる・シャツの脇に汗ジミができる・靴下が湿って不快といった悩みが日常的に生じるケースもあり、精神的な負担からQOL(生活の質)の低下につながることも少なくありません。
全身性多汗症と局所多汗症の違い
多汗症は発汗の範囲によって「全身性」と「局所性」の2つに大別されます[1]。全身性は体全体に過剰な発汗がみられるタイプ、局所性は特定の部位(脇・手・足・顔など)にのみ発汗が集中するタイプです。日本人で多汗症に悩む方の多くは局所性のタイプに該当する傾向があります。腋窩(脇)・手掌(手のひら)・足底(足の裏)・顔面・頭部に発症するケースが多くみられます。
原発性多汗症と続発性多汗症の違い
全身性・局所性のいずれも、さらに「原発性(特発性)」と「続発性」に分類されます[1]。原発性は明らかな原因疾患がなく体質的に発汗量が多いタイプ、続発性は他の疾患や薬剤が原因となるタイプです。
全身性の続発性多汗症の主な原因には以下のようなものが知られています[1]。
- 感染症(結核など)
- 内分泌・代謝疾患(甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・糖尿病など)
- 神経学的疾患(脳梗塞・脊髄損傷・視床下部障害など)
- 悪性腫瘍
- 薬剤の副作用
全身の発汗や夜間の発汗、片側性の発汗などがある場合は続発性の可能性を考慮して医師に相談してください。
多汗症の診断基準と部位別の特徴
多汗症は医学的に明確な診断基準があり、医師の診察で正式に診断されます。部位ごとの症状の特徴を知っておくことで、自分の悩みが治療の対象となるかどうかの目安になります。
診断基準(6か月以上持続・6項目中2項目以上・HDSS)
原発性局所多汗症の診断には、医学的に定められた基準があります[1]。まず「原因不明で6か月以上持続していること」が基本条件で、これに加えて以下6項目のうち2項目以上に該当することが診断条件となります。
- 最初に症状が出るのが25歳以下である
- 左右対称性に発汗がみられる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 週1回以上の多汗のエピソードがある
- 家族歴がみられる
- これらにより日常生活に支障をきたす
重症度評価にはHDSS(多汗症重症度尺度)という4段階のスケールが用いられます[1]。
| スコア | 発汗の自覚症状 |
| 1 | 発汗は気にならず、日常生活に支障がない |
| 2 | 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある |
| 3 | 発汗は我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある |
| 4 | 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある |
スコア3または4が「重症」の指標とされます[1]。保険適用のボツリヌス療法はHDSSスコア3または4に該当する重度の原発性腋窩多汗症が対象です。重症の場合でも、まず外用薬などの治療から始めることが基本です[1]。最終的な診断は必ず医療機関で受けてください。
腋窩多汗症と手掌多汗症
腋窩多汗症と手掌多汗症は、もっとも悩む方が多い局所多汗症です[1]。腋窩多汗症は局所多汗症の中でも頻度の高い代表的なタイプで、2020年の国内調査では有病率は約5.9%と報告されています[1]。衣服の汗ジミが目立ちやすく、人目が気になる場面でストレスを感じる方が多い傾向があります。
手掌多汗症は手のひらに過剰な発汗がみられるタイプで、書類を扱う仕事・スマートフォン操作・楽器演奏・握手など日常的な場面で支障が出やすい傾向があります。緊張やストレスで悪化する傾向があるため、症状が続く場合は医療機関の医師に相談してみてください。
足底多汗症と顔面・頭部多汗症
足底多汗症は足の裏に過剰な発汗がみられるタイプで、靴の中が蒸れる・靴下が濡れる・ニオイが気になるといった悩みにつながることがあります。手掌多汗症と併発するケースも少なくありません。
頭部顔面多汗症では、額・頬・鼻周囲などに発汗がみられ、メイク崩れや食事中の発汗に悩む場合があります。部位によって治療選択肢が異なるため、自己判断せず医療機関の医師に相談してください。
多汗症の主な治療法
多汗症の治療には、軽度から重度まで段階に応じた複数の選択肢があります。日本皮膚科学会のガイドラインに基づき、症状の重さや部位に応じて治療法を選ぶことが大切です。
外用薬と内服薬
多汗症のもっとも基本的な治療法が、外用薬と内服薬による薬物療法です[1]。副作用の少ない治療から段階的にステップアップするのが、ガイドラインに沿った進め方です。
外用薬には以下のようなものが選択肢となっています[1][2]。
- 塩化アルミニウム外用薬
- エクロックゲル
- ラピフォートワイプ
- アポハイドローション20%
内服薬の場合は、抗コリン薬(プロパンテリン臭化物など)が処方されるケースがあります[3]。
抗コリン薬の副作用として、排尿障害・口の渇き・便秘などが報告されており、閉塞隅角緑内障や前立腺肥大による排尿障害のある方などは禁忌とされているため、医師の判断のもとで処方されます[3]。自己判断でお薬の服用・使用を中止・変更せず、医師の指示に従うことが大切です。
ボツリヌス療法とイオントフォレーシス
ボツリヌス療法とイオントフォレーシスは、外用薬・内服薬で十分な効果が得られない場合の選択肢のひとつです[1]。
ボツリヌス療法は、神経終末からのアセチルコリン放出を抑え汗腺への発汗指令を遮断する仕組みで、外用薬・内服薬とは異なるアプローチで効果が期待できます。重度の原発性腋窩多汗症に対しては2012年から保険適用となっており、効果の持続期間は個人差がありますが、4〜9か月程度とされています[4]。
イオントフォレーシスは水道水に浸した手や足へ微弱な電流を流して発汗を抑える治療法で、手掌多汗症や足底多汗症に対する代表的な治療法のひとつです。効果を維持するためには継続的な治療や複数回の通院が必要となる場合があります。
手術療法(ETS)とマイクロ波治療
重症のケースや長期的な改善を目指す場合は、手術療法やマイクロ波治療が選択肢となることがあります[1]。
手術療法(ETS:内視鏡下胸部交感神経遮断術)は、既存の治療に抵抗性を示す重度の手掌多汗症に対して、術後の代償性発汗について十分なインフォームドコンセントを得たうえで行われる治療法です[1]。術後には体幹や下半身など別の部位で発汗が増える「代償性発汗」が高頻度でみられることが知られており、不可逆的な治療であることから慎重な適応判断が求められます[1]。
マイクロ波治療は、マイクロ波を用いて汗腺の機能を低下させる自由診療の治療であり、腋窩多汗症治療の選択肢のひとつです。不可逆的な治療や費用負担の大きい治療もあるため、医師と十分に相談したうえで慎重に判断することが大切です。
部位別の治療選択肢と保険適用
多汗症の治療は発症部位によって選択できる治療法が異なり、保険適用範囲も部位ごとに変わります。費用の目安を理解しておくことで、治療選択時の判断材料になります。
部位別の治療選択肢
多汗症は発症部位によって、適切な治療法が異なります[1]。
| 部位 | 主な治療選択肢 | 保険適用の代表例 |
| 腋窩 | 外用抗コリン薬・塩化アルミニウム外用・ボツリヌス療法・マイクロ波治療・ETS | エクロックゲル・ラピフォートワイプ・重度に対するボツリヌス療法 |
| 手掌 | 外用抗コリン薬・塩化アルミニウム外用・イオントフォレーシス・ボツリヌス療法・ETS | アポハイドローション20% |
| 足底 | 塩化アルミニウム外用・イオントフォレーシス・ボツリヌス療法 | (現時点で保険適用の外用薬なし) |
| 頭部・顔面 | 塩化アルミニウム外用・内服抗コリン薬・ボツリヌス療法 | 内服抗コリン薬(多汗症全般に対して) |
重症の場合でもまずはは外用薬から、その後内服抗コリン薬を使用し、それでも治療抵抗性の場合にボツリヌス療法や手術を検討する段階的なステップアップが基本です[1]。
保険適用となるケース
現時点で保険適用となっている多汗症治療には、適応となる症状や治療法に一定の範囲があります[1]。重症度評価(HDSS)でスコア3または4に該当する原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス療法のほか、エクロックゲル・ラピフォートワイプなどの腋窩用外用薬が保険適用となっています。アポハイドローション20%は12歳以上を対象とした臨床試験で有効性が確認された、原発性手掌多汗症に対する国内初の保険適用外用薬です[2]。
これらの薬剤は皮膚科で処方され、保険診療として3割負担で治療を受けられます。軽症の方や保険適用条件を満たさない方の治療は自由診療となるため、医師に確認しながら治療を選びましょう。
自由診療と費用の目安
保険適用外の治療は自由診療として実施されます。医療機関や治療範囲によって費用が異なるため、事前の確認が大切です。
| 治療法 | 区分 | 費用の目安 |
| 保険適用の外用薬(エクロックゲル・ラピフォートワイプ・アポハイドローション20%等) | 保険診療(3割負担) | 月数千円程度 |
| 保険適用のボツリヌス療法(重度の原発性腋窩多汗症) | 保険診療(3割負担) | 1回数万円程度 |
| 自由診療のボツリヌス療法(足底・顔面など) | 自由診療 | 医療機関により異なる |
| マイクロ波治療(腋窩) | 自由診療 | 医療機関により異なる(高額になる場合があります) |
| 塩化アルミニウム外用 | 自由診療(院内製剤) | 医療機関により異なる |
費用は使用する薬剤や治療範囲、医療機関ごとの加算などによって異なるため、診察時に医師や医療スタッフへ確認しておくと安心です。
多汗症のご相談はクリニックフォアのオンライン診療へ
多汗症の症状でお悩みの方は、クリニックフォアのオンライン診療でご相談いただけます。クリニックフォアでは、内服薬(ソリフェナシン・プロバンサイン・防已黄耆湯)や外用薬(塩化アルミニウム液20%・40%、ラピフォートワイプ、エクロックゲル、アポハイドローション)を症状に応じて処方しています。(ただし、プロ・バンサインは需要の増加により、製薬会社からの出荷が限定的な状況が続いているために、現在クリニックフォアでは新規の処方は停止させていただいています。)
なお、クリニックフォアの多汗症治療は自由診療となります。保険診療を希望される方や保険診療で改善しなかった方の自由診療メニューもご利用いただけます。
ただし、ボツリヌス療法やイオントフォレーシス、マイクロ波治療などの処置を希望する場合や、続発性多汗症が疑われる場合などでは、対面での医療機関の受診を優先しましょう。
※医師の判断により、お薬を処方できない場合がございます。
※対面診療をご案内する場合もございます。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。
多汗症治療に関するよくある質問
多汗症の治療についてよく寄せられる質問をまとめました。治療選択の参考にしてください。
Q1. 多汗症は何科を受診すればよいですか?
多汗症は、基本的に皮膚科で診察を受け治療を開始することが可能です。日本皮膚科学会が「原発性局所多汗症診療ガイドライン」を策定しており、皮膚科で専門的な診断と治療が受けられます。生活に支障があれば早めに皮膚科の医師に相談してください。
Q2. 治療効果はどれくらい持続しますか?
治療法によって効果の持続期間は異なります。ボツリヌス療法は4〜9か月程度、外用薬は使用を続けている間が効果の持続期間となります[4]。それぞれの特徴を理解したうえで、自分のライフスタイルに合う治療を医師と相談しながら選びましょう。
Q3. 副作用はありますか?
多汗症の各治療法には、それぞれ以下のような副作用が生じる場合があります。
- 外用薬:適用部位の皮膚炎・口渇など
- ボツリヌス療法:注射部位の痛み・一過性の筋力低下など
- 内服薬(抗コリン薬):口渇・便秘・排尿障害など
- 手術療法(ETS):代償性発汗(不可逆的、発生頻度が高い)
起こりうる副作用について医師から十分な説明を受け、納得したうえで治療を進めましょう。
Q4. 軽度の多汗症でも治療を受けられますか?
軽度の多汗症でも、医師に相談して治療が必要と判断されれば、治療を受けられる場合があります。ただし保険適用の条件(HDSSスコア3または4など)を満たさない場合は自由診療となるケースもあるため、症状や費用について医療機関の医師に相談することをおすすめします。
まとめ
多汗症は2020年の国内調査で原発性局所多汗症の有病率が約10.0%と報告されている皮膚疾患です。種類は全身性・局所性があり、それぞれ原発性・続発性が存在します。
診断基準は症状が6か月以上持続することなどに加えてHDSSスコアが用いられ、主な治療法は外用薬・内服薬・ボツリヌス療法・イオントフォレーシス・手術療法・マイクロ波治療などです[1]。保険適用となるのは、重度の原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス療法や特定の外用薬などに限られています。
治療選択は重症度・部位・ライフスタイルを総合的に考慮し、自己判断せず医療機関の医師に相談しながら自分に合った治療法を選びましょう。
