AGA治療は保険適用される? 制度・費用・例外を医師が解説

「AGA治療は保険適用されるのかな・・・」「女性の薄毛治療でも保険適用はできるのかな・・・」など、AGA治療を始めようと思っているものの、保険適用の有無について気になっている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、AGA治療における保険適用の有無や、適用事例について徹底解説。ぜひ参考にしてみてください。

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結論|AGAは自由診療、例外は「別疾患の治療」

AGA治療は保険適用外

AGA治療は保険適用されません。ただし、頭皮の炎症など、別の病気の治療は保険適用になる場合があります。

保険適用されない理由は「命に別状はない」ため

AGA治療が保険適用されない理由は、無治療で放置しても命に別状はないためです。

日本における保険適用の有無は、その治療をしなければ身体が不調になってしまったり、命に関わってくるかどうかという点で決められています。日本の医療保険制度では、病気やケガの治療など、健康を維持・回復するために必要な医療が保険の対象となります。一方、美容目的や生活の質の向上を主な目的とする医療は、原則として自由診療(保険適用外)となります。

AGAの場合は、髪の毛が抜けてしまったり、髪の毛が育たなくなってしまったりと、ある意味では健康は損なわれてはいますが、身体に不調をきたしたり、命に危険が及ぶ訳ではありません。

そのため、保険適用がされないのです。

保険が適用されるのはどんなケース?(皮膚炎・円形脱毛症など)

先の通り、保険適用はされません。しかし保険適用されるケースでもAGA治療に対して直接的に適用される訳ではありません。

例をあげると、頭皮にかゆみや赤みなどの炎症があり、それに対する治療の場合には保険が適用されます。AGA治療は皮膚科や美容皮膚科で受診されることが一般的です。その際に頭皮診断を行った結果、頭皮の炎症が確認され、その治療を行うといった場合には保険適用になります。また、円形脱毛症についても、AGAとは異なる疾患として保険適用での治療が可能です。

あくまでもAGAに対してでは無く、皮膚炎の治療に保険適用されたという形になります。

保険適用の可能性がある例

・脂漏性皮膚炎など頭皮の炎症性疾患の治療
・円形脱毛症の治療
・その他の皮膚疾患に起因する脱毛の治療

※これらの場合でも、あくまで該当する疾患の治療に対して保険が適用されるのであり、AGA自体の治療が保険適用になるわけではありません。

混合診療は原則不可―例外制度の正しい理解 

保険診療と自由診療を同時に受けること(混合診療)は、原則として認められていません。例外として認められているのは「保険外併用療養費制度」に該当する場合のみです。この制度には、評価療養、先進医療、患者申出療養、選定療養の4つの枠組みがあります。(1)AGA治療で保険診療と自由診療を同じ日に併用することは、原則としてできませんので注意が必要です。もし保険診療とAGA治療を併用する場合は、別の日に受診するなどの配慮が必要になります。 [追加]

(1) 厚生労働省「保険外併用療養費制度について」 

女性のFAGA治療においても保険適用はされない

これらの保険適用の有無に関しては、女性のFAGA治療においても同様です。判断基準は男性と同様で、身体の不調や命の危機に直接的な関係が無いため、自費診療に分類されます。

費用と家計の基礎知識 

高額療養費制度の対象は保険診療のみ

高額療養費制度は、医療費の自己負担が高額になった場合に、一定の金額を超えた分が払い戻される制度です。しかし、この制度の対象となるのは保険診療の自己負担額のみです。保険適用外の診療(自由診療)、差額ベッド代、食事代などは対象外となります。(2)AGA治療は自由診療ですので、治療費が高額になった場合でも、高額療養費制度は原則として利用できません。 

(2) 全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」 

医療費控除の対象外(美容目的) 

医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告によって所得税の一部が還付される制度です。しかし、国税庁は「容姿を美化し、容ぼうを変える等の目的で行った整形手術などの費用」は医療費控除の対象にならないと定めています。(3)AGAの自由診療は、一般的にこの「美容目的」の扱いとなるため、医療費控除の対象外となります。ただし、医師の判断で治療が必要と認められた場合など、個別の状況によっては対象となる可能性もありますので、詳しくは税務署や税理士にご相談ください。 

(3) 国税庁「医療費控除の対象となる医療費」 

AGA治療と制度の関係がわかる早見表 

項目AGA治療
(フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジル)
頭皮炎症の治療
(皮膚炎等)
円形脱毛症の治療
保険適用不可(自由診療)可(該当疾患の治療に限る)
高額療養費対象外対象対象
医療費控除原則対象外(美容目的)対象対象
混合診療原則不可

根拠:厚生労働省(保険外併用療養費制度/混合診療)、全国健康保険協会(高額療養費Q&A)、国税庁(美容目的は控除対象外) 

AGA治療薬について 

AGA治療では主に3種類の薬剤が使用されます。それぞれ作用の仕方が異なり、目的に応じて使い分けられます。 

フィナステリド(抜け毛を抑える「守り」の薬) [追加]

フィナステリドは、抜け毛の原因となる物質「DHT(ジヒドロテストステロン)」の生成を抑える薬です。男性ホルモン(テストステロン)がDHTに変化するのを防ぐことで、抜け毛を減らす効果があります。(4)内服開始後1~3ヶ月程度で効果が実感できるとされています。 

適応と注意点:フィナステリドの適応は、男性の男性型脱毛症(AGA)の進行を遅らせることです。女性への適応はなく、また20歳未満の方への有効性・安全性は確立されていません。効果を判定するには、3~6ヶ月の継続的な服用が必要とされています。(4) 

主な副作用:食欲不振、気分の落ち込み、かゆみ、蕁麻疹、男性機能の低下(性欲減退、勃起不全、精液量の減少など)が報告されています。 

使用上の注意:妊婦、妊娠の可能性のある女性、授乳中の女性の手の届かないところに保管してください。服用期間中は献血ができず、中止後も1ヶ月間は献血を控える必要があります。 

(4) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「プロペシア錠 添付文書」 

デュタステリド(より高い効果が期待できる「守り」の薬) 

デュタステリドも、フィナステリドと同様に抜け毛を抑える薬ですが、より広い範囲に作用します。テストステロンがDHTに変化する原因となる「5α還元酵素」にはⅠ型とⅡ型があり、フィナステリドはⅡ型のみに作用しますが、デュタステリドはⅠ型とⅡ型の両方に作用します。そのため、フィナステリドよりも高い効果が期待されています。(5) 

臨床試験では、デュタステリドはフィナステリドと比較して、約1.6倍の毛髪数増加が報告されています。(5)ただし、男性機能低下などの副作用の発症率もやや高いとされています(フィナステリド:約1%未満に対して、デュタステリド:約5%未満)。 

適応と位置づけ:デュタステリドは、男性型脱毛症を適応として国内で承認されています。なお、AGA治療以外にも、前立腺肥大症の治療薬としても承認されています。(5) 

主な副作用:食欲不振、気分の落ち込み、かゆみ、蕁麻疹、男性機能の低下(性欲減退、勃起不全、精液量の減少など)が報告されています。 

使用上の注意:妊婦、妊娠の可能性のある女性、授乳中の女性の手の届かないところに保管してください。服用期間中は献血ができず、中止後も6ヶ月間は献血を控える必要があります。 

(5) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ザガーロカプセル 審査報告書」 

ミノキシジル(発毛を促進する「攻め」の薬) 

ミノキシジルは、発毛を促進する薬です。頭皮の血管を拡張することで、毛を作る細胞への血流を促進します。血行が改善されることで、毛細血管から毛乳頭へ栄養が行き渡るようになり、頭頂部や生え際の発毛が促されます。ミノキシジル配合の塗り薬(外用薬)と比べて、飲み薬(内服薬)の方が体内への吸収率が高く、より高い発毛効果が期待できるとされています。 

初期脱毛について:内服を開始して1ヶ月程度で、一時的に抜け毛が少し増えることがあります。これは古い毛が新しい毛に生え変わっているサインであり、薬が効いている証拠です。数ヶ月継続することで新しい毛が生えてきますので、心配せずに飲み続けることが大切です。 

主な副作用:血圧低下、心拍数の増加、頭痛、めまい、体重増加、手足のむくみなどが報告されています。 

使用上の注意:頭髪の増加に伴い、他の部位の毛量も増加することが一般的です(増加の程度には個人差があります)。気になる方は、塗り薬への切り替えなどの対応が可能ですので、医師にご相談ください。また、まれに低血圧などの副作用症状が見られることがあります。これらの症状を自覚された場合には、クリニックまでご連絡ください。 

学会ガイドラインでの位置づけ 

日本皮膚科学会が発表している「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」では、フィナステリド、デュタステリド、外用ミノキシジルについて、それぞれ推奨度とエビデンスレベルが示されています。(6)治療を選択する際の重要な根拠となる指針ですので、医師とよく相談しながら治療方針を決めていきましょう。 

(6) 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」 

AGAのセルフチェック方法

ご自身かAGAかどうか気になる方は、「【医師監修】AGA(薄毛)のセルフチェック診断全9項目!無料診断も実施中」の記事を参考にセルフチェックをしてみてくださいね。

よくある誤解Q&A(皮膚科なら保険?オンライン診療は?ほか)(見出し修正) 

Q. AGA治療でクリニックに行く場合は保険証は不要ですか?

A. 原則不要です。

先の通り、AGA治療は保険適用外のため基本的には保険証は不要です。しかし万が一、皮膚炎などが確認された場合には一部で保険適用されることもあるため、念のため持っていくと良いでしょう。本人確認のために使用されるケースもあります。

Q. 皮膚科で受診すれば保険が適用されますか? 

A. いいえ、診療科によって保険適用の有無が変わることはありません。 

AGA治療は、皮膚科で受診しても、美容皮膚科で受診しても、AGAクリニックで受診しても、自由診療です。診療科や医療機関の種類によって保険適用の扱いが変わることはありません。ただし、頭皮の炎症など別の疾患が見つかり、その治療を行う場合には、どの診療科でも保険が適用されます。 

Q. オンライン診療でAGA治療を受ける場合、保険は使えますか? 

A. いいえ、オンライン診療でも保険は使えません。 

オンライン診療であっても、対面診療であっても、AGA治療は自由診療となります。また、オンライン診療でAGAの薬を処方してもらう場合、同じ日に別の疾患で保険診療を受けることは、混合診療の観点から原則としてできませんので注意が必要です。 

Q. 自由診療のAGA治療と、保険診療を同じ日に受けることはできますか? 

A. 原則としてできません(混合診療の制限)。 

前述の通り、保険診療と自由診療の同時利用(混合診療)は原則として認められていません。例外は保険外併用療養費制度に該当する場合のみです。AGA治療で自由診療を受ける場合と、他の病気で保険診療を受ける場合は、別の日に分けて受診する必要があります。 

Q. AGA治療は一生続ける必要があるんですか?

A. 原則として、一生続ける必要があります。

AGAは進行性の疾患のため、残念ながら完治することはありません。たとえ治療が効いて、十分に薄毛が改善されたとしても、投薬をやめると抜け毛の量がまた増えてしまい、薄毛の状態まで戻ってしまうなんて事もあります。

しかし髪の毛が十分に生えてきた場合には、減薬をできることが多いですので、治療の初期段階よりも費用や身体的負担も少なくなります。

Q. AGA治療を受けても効果が無い場合はありますか?

A. 稀にあります。

AGA治療をしても薄毛が改善されない事も、起こり得ます。そういった場合であっても、お薬の変更や増量、頭皮への注射治療などをすることで効果が期待できます。しかし、そもそも薄毛の原因がAGAでは無い、円形脱毛症や頭皮湿疹など他の疾患の場合にはAGA治療を行っても薄毛が改善されることはありません。必ずクリニックで相談を受けるようにしましょう。

受診前チェックリストと次のアクション

受診前に確認しておきたいこと 

AGA治療を始める前に、以下の点を確認しておくとスムーズです。

  • AGA治療は自由診療(保険適用外)であること
  • 治療費は全額自己負担となること
  • 高額療養費制度や医療費控除は原則利用できないこと
  • 治療は長期間継続する必要があること
  • 効果が現れるまで数ヶ月かかること
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AGAを正しく理解する

AGAセルフチェック

自分がAGAなのか、簡単セルフチェック。

AGAの原因

AGAが起こる原因を理解しましょう。

AGAのお薬について

自分に合ったお薬を知りましょう。

参考文献

  1. [1]厚生労働省「保険外併用療養費制度について」
  2. [2]全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
  3. [3]国税庁「医療費控除の対象となる医療費」
  4. [4]独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「プロペシア錠 添付文書」
  5. [5]独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ザガーロカプセル 審査報告書」
  6. [6]日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」