フィナステリドと前立腺の関係性【作用を正しく理解】
フィナステリドは、もともと前立腺に作用する薬として開発された経緯があり、前立腺とは深い関わりがあります。
フィナステリドは「5αリダクターゼ(還元酵素)阻害薬」と呼ばれる種類の医療用医薬品です。このお薬は、男性ホルモンであるテストステロンが、より強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されるのを抑制します。DHTは前立腺の肥大やAGAの原因となるホルモンであり、フィナステリドはこのDHTを減少させることで効果を発揮するのです。
具体的には、フィナステリドを服用すると以下のような変化が起こります。
- 前立腺のサイズが約25%縮小する[1]
- 血中のPSA値が約50%低下する[2]
- 頭皮における脱毛の進行が抑制される[3]
このように、フィナステリドは前立腺に作用する仕組みを持つため、AGA治療で服用する場合でも、前立腺やPSA値への影響を理解しておくことが大切です。
フィナステリドは前立腺肥大症の治療薬として開発された
フィナステリドはもともとAGA治療薬ではなく、前立腺肥大症の治療薬として開発されました。
前立腺肥大症は、加齢に伴って前立腺が大きくなり、排尿障害などの症状を引き起こす疾患です。DHTが前立腺の肥大に関与していることから、DHT産生を抑制するフィナステリドが治療薬として開発されたという経緯があります。
前立腺肥大症の治療には5mg錠(商品名:プロスカー)が使用され、1992年に米国FDAで承認されました。その後、フィナステリドがAGAにも有効であることが判明し、1997年に1mg錠(商品名:プロペシア)がAGA治療薬として承認されました[4]。
日本では、AGA治療用の0.2mg錠・1mg錠が2005年に承認されましたが、前立腺肥大症治療用の5mg錠は承認されていません[5]。
このように、フィナステリドは前立腺疾患の治療から始まったお薬であり、AGA治療はいわば「副次的な用途」として広まってきたといえます。
フィナステリドで前立腺がんのリスクが上がるという科学的根拠はない
フィナステリドの前立腺への影響を心配する方の中には、「前立腺がんのリスクが上がるのではないか」と不安に感じる方もいらっしゃいます。
しかし、現時点で、フィナステリドが前立腺がんを「引き起こす」または「リスクを高める」という科学的根拠はありません。むしろ、大規模臨床試験では発症リスクの低下が報告されています。
約18,000人の男性を対象とした7年間の大規模臨床試験(PCPT:前立腺がん予防試験)では、フィナステリド服用群で前立腺がんによる死亡は42例、プラセボ群では56例でした[6]。統計学的に有意な差はなく、フィナステリドによって前立腺がん死亡リスクが増加するという証拠は見つかっていません。
また、約18年という長期追跡の結果、「フィナステリドは前立腺がんリスクを低下させ、前立腺がんによる死亡リスクを増加させない」という結論が得られています[7]。
フィナステリド5mgは前立腺がん全体の発生リスクを約25%低下させる
PCPTの結果、フィナステリド5mg/日を7年間服用した群では、前立腺がん全体の発生リスクが約25%低下することが明らかになりました[6]。
具体的なデータを見てみましょう。
PCPT参加者18,882人のうち、前立腺がんが診断された割合は以下のとおりです。
| 群 | 前立腺がん発症率 |
| フィナステリド群 | 10.5%(989/9,423人) |
| プラセボ群 | 14.9%(1,412/9,457人) |
この差は、フィナステリドの服用によって、前立腺がんの発生リスクが約30%低下したことに相当します。また前立腺がんの予防効果は、16年間の長期追跡でも維持されていることが確認されています[2]。
フィナステリド1mgの前立腺がんへの影響は大規模試験で未検証
AGA治療で使用される1mg製剤が前立腺がんリスクに与える影響は、大規模臨床試験では検証されていません。
PCPT研究で使用されたのは前立腺肥大症治療用の5mg製剤のみであり、AGA治療用の1mg製剤とは、用量が5倍異なります。したがって、5mgで得られた結果をそのまま1mgに適用できるかどうかは、科学的には確定していないのが現状です。
ただし、フィナステリド1mgでもDHTは有意に低下し、PSA値も約50%減少することが報告されています[8]。この点から、1mgでも前立腺に影響を及ぼす可能性はあるといえるでしょう。
「フィナステリドで前立腺がんが増える」と言われた理由は検出バイアス
2003年に報告された「高悪性度がんの増加」は、フィナステリドで前立腺が縮小したことにより、生検でがんが検出されやすくなった「検出バイアス」が主な原因と結論づけられています[9]。
検出バイアスとは、実際にがんが増えたのではなく、がんが「見つかりやすくなった」ことで数字上の増加が生じる現象です。
フィナステリドが高悪性度がんの「検出」を増やす仕組みとしては、主に次の2つが考えられます。
前立腺の縮小効果
フィナステリドは前立腺を約25%縮小させます[1]。前立腺生検では、縮小した前立腺の方が、同じ針の本数でもがん組織を捕捉しやすくなります。これにより、存在していたがんが発見される確率が高まるのです。
PSA検査の感度向上
フィナステリドはPSA値を低下させますが、がんがある場合にはPSAの低下が小さくなります。この結果、PSA検査によるがん検出の精度が向上し、高悪性度がんも発見されやすくなります[10]。
ある研究では、フィナステリド群とプラセボ群で、前立腺がんによる死亡数に統計学的な有意差がないことが確認されました[6]。バイアスを補正した解析では、高悪性度がんのリスクもフィナステリドで増加していない可能性が高いとされています。
フィナステリド服用中はPSA値を2倍に補正して判定する
フィナステリド服用中は血中PSA値が約50%低下するため、健康診断や前立腺がん検診でPSA検査を受ける際は、測定値を2倍に補正して評価する必要があります[2][11]。
フィナステリドはPSA値を約50%低下させるため、測定値をそのまま使うと前立腺がんを見逃すリスクがあり、注意が必要です。たとえば、測定値が2.0ng/mLであった場合、実際のPSA値は4.0ng/mL相当と考える必要があります。
なお、長期服用(7年以上)では補正係数が2.0から2.5に増加するという報告もあります[2]。医師にはフィナステリドの服用を伝え、適切な補正のもとで検査結果を判断してもらうことが大切です。
また、フィナステリド服用中は「PSA値の変化」にも注意が必要です。服用開始後にPSA値が低下せずに上昇傾向を示す場合や、一度低下した後に再上昇する場合は、前立腺がんの可能性を考慮して精密検査を検討すべきといえます[2]。
前立腺がん検診が推奨される3つのタイミング
AGA治療中であっても、以下の3つのタイミングでPSA検査を受けることが推奨されます。
前立腺がんは初期症状が多くの場合はなく、自覚症状が出た時点ではすでに進行していることが多いためです。
日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン 2018年版」では、以下の3つのタイミングでの検診が推奨されています。
その1:50歳以上になったとき
前立腺がんの罹患率は50歳を過ぎると急激に増加します[12]。そのため、50歳以上の男性に対して、PSA検査によるスクリーニングを受けることをおすすめします。
日本泌尿器科学会では、PSA値が1.0ng/mL以下であれば3年ごと、1.1ng/mL以上であれば毎年の再検診を推奨しています[12]。早期に発見された前立腺がんは治療成績が良好であり、定期的なPSA検査が早期発見につながります。
その2:前立腺がんの家族歴がある場合(40歳から)
父親や兄弟に前立腺がん患者がいる場合、前立腺がんのリスクは約2〜3倍に高まることが疫学研究で示されています[13]。
家族歴がある方は、40歳から積極的にPSA検査を受けることがすすめられています。
BRCA2遺伝子変異を持つ男性では、65歳以下での前立腺がんリスクが約8.6倍に高まるという報告もあります[14]。
その3:排尿症状が気になり始めたとき
頻尿、残尿感、尿の勢いの低下などの排尿症状は、前立腺肥大症だけでなく前立腺がんの兆候である可能性もあります。前立腺がんは外腺から発生することが多く、初期には自覚症状が出にくいとされています[15]。
症状が気になる場合は、年齢にかかわらず泌尿器科を受診し、PSA検査を含めた検査を受けることが望ましいでしょう。
PSA値が急上昇した場合は速やかに受診をする
フィナステリド服用中にPSA値が急上昇した場合は、まずは処方を受けている医療機関へ相談してください。
状況に応じて、泌尿器科での精密検査が必要と判断される場合があります。
フィナステリドはPSA値を低下させる効果がありますが、前立腺がんが発生した場合にはPSAが上昇します。また、フィナステリドを服用していることでPSA検査の精度が向上するという側面もあります[1]。
とくに以下のような場合は、前立腺がんの可能性を考慮した精密検査を検討する必要があります。
- 補正後のPSA値が4.0ng/mLを超えた場合
- PSA値が急激に上昇している場合
定期的なPSA検査を継続し、値の推移を医師と共有しておくことが、早期発見につながります。検査時には、医師にフィナステリド服用中であることを伝え、適切な判断を受けることをおすすめします。
フィナステリドと前立腺に関するよくある質問
フィナステリドと前立腺の関係について、多くの方が抱く疑問にお答えします。
前立腺肥大症を予防する目的でフィナステリド1mgを飲んでもいいですか?
フィナステリド1mgの服用は推奨されません。前立腺肥大症の治療には5mgが必要ですが、日本ではAGA治療用の0.2mg・1mgのみ承認されています。前立腺肥大症の症状がある場合は泌尿器科を受診してください。
前立腺がんの治療中でもフィナステリドは服用できますか?
フィナステリドを服用する前に、医師に相談してください。フィナステリドはPSA値に影響するため、治療効果のモニタリングに支障をきたす可能性があります。自己判断での服用は避けましょう。
フィナステリドで前立腺炎は治りますか?
フィナステリドは、前立腺炎の治療薬としては承認されていません。一部の研究で症状改善の報告がありますが、標準治療ではないため、泌尿器科で適切な治療を受けることが重要です[16]。
フィナステリドでED(勃起不全)になりますか?
臨床試験でのED発生率は約1.3%で、プラセボ群(約0.9%)との差はわずかです。また、多くは服用中止や継続で改善します[17]。しかし、EDなどの副作用が心配な場合は、ED治療薬との併用も可能ですので、医師に相談することをおすすめします。
まとめ:安心してAGA治療を続けるための3つのポイント
安心してAGA治療を続けるために、フィナステリドと前立腺の関係について以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
ポイント1:フィナステリドで前立腺がんの発症リスクは増加しない
- 約18,000人の長期追跡で、前立腺がん死亡リスクの増加は見られなかった[6]
- 5mg/日では前立腺がん発症のリスクを約25%低下させる[6]
- 「高悪性度がんが増える」といわれたのは、検出バイアスによる見かけ上の増加[9]
ポイント2:PSA検査では「2倍補正」を忘れずに
- フィナステリドはPSA値を約50%低下させる[2][11]
- 検査時は測定値を2倍に補正して判定する[2][11]
- 検診時には、医師にフィナステリド服用中であることを伝えることを推奨する
ポイント3:50歳以上は定期的な前立腺がん検診を受けましょう
- 50歳以上の男性は年1回のPSA検査が推奨される[12]
- 家族歴がある場合は40歳からの検診が望ましい[12]
- 早期発見で前立腺がんの治療成績は向上する
正しい知識を持ち、適切な検診を受けながら、安心してAGA治療を続けていきましょう。
