
AGAの基本と「食事」の位置づけ
AGA(男性型脱毛症)は、遺伝的要因と男性ホルモンの影響により進行する脱毛症です。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、AGAの標準治療として内服薬(フィナステリド、デュタステリド)と外用薬(ミノキシジル)が推奨度Aとされています[1]。これらの薬物療法がエビデンスに基づく治療の主軸となります。
[1] 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」日本皮膚科学会雑誌 127(12), 表1「CQのまとめ」
一方、食事や栄養は治療の「補助」として位置づけられます。食事だけでAGAを治療することはできませんが、栄養バランスの最適化は髪の健康をサポートする支持療法として推奨されます。本記事では、AGAと食事の関係について、科学的根拠をもとに解説していきます。
頭皮に優しい生活習慣とは?自力でできる改善方法も紹介
薄毛を予防したい・薄毛を改善したい方は、生活習慣の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。特に生活習慣の中で気を付けたいのは以下の3点です。
- 睡眠不足
- 慢性的なストレス
- 食生活の乱れ
それぞれ詳しく解説していきます。
【睡眠不足&慢性的なストレス】血行不良を招く
睡眠不足と慢性的なストレスは、自律神経の乱れから頭皮の血行不良を招くとされています。日々の睡眠を十分取るようにしたり、自分なりのストレス発散方法を見つけたりして対処するようにしましょう。
また適度な運動は血行促進に繋がります。日々の移動でなるべく多めに歩いたり、エスカレーターを使わず階段を使ったりして、運動量を増やしましょう。
なぜ血行不良になるの?自律神経の乱れが引き起こす
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」と呼ばれる2種類の神経が、身体機能を正常に保てるように自動でバランス調整が行われています。
しかし、慢性的に睡眠不足やストレスが続くと交感神経が優位な状態になります。この神経は血管を収縮させる働きがあり、血行不良を招いてしまうのです。
血行不良が起こると髪の毛に栄養が行きわたらなくなる
髪の毛が新たに生えてきたり、強くたくましい太い髪に成長したりするには酸素と栄養が不可欠です。その酸素と栄養素は血によって、頭皮の毛母細胞へ運ばれてきます。
そんな中、血行不良になってしまうと髪の毛のものとなる毛母細胞へ酸素と栄養が十分に行きわたらなくなり、薄毛を引き起こしてしまいます。
【食生活の乱れ】髪の毛に必要な栄養が不足してしまう
髪の毛のもととなる毛母細胞の分裂活動には、十分な栄養が必要になります。毛髪の成長は生命維持という観点では必須ではないため、食生活が乱れていると、毛母細胞の活動に必要な栄養素がすぐに不足し、髪の毛が十分に成長できなくなってしまいます。
そのため以下の様な食生活は行わないよう、注意をしましょう。
- 食事を極端に減らすダイエット
- 脂肪分・カロリーの高い食事
- 暴飲暴食
必要な栄養素を十分に補うためには、サプリメントの使用も非常に有用ですが、ここからはAGA・薄毛の予防や改善に繋がる成分や食べ物について説明していきます。
髪に良い栄養と食べ物:不足リスクと摂り方
先の通りAGAや薄毛の改善・予防等には栄養バランスの整った食生活が欠かせません。ただし、2023年に発表された系統的レビューでは、30の研究を検討した結果、食事そのものの介入によってAGAが改善するという高品質なエビデンスは見当たらず、一部のサプリメントに有効性の示唆はあるものの、試験規模や質に限界があることが報告されています[2]。栄養の摂取は、治療効果を期待するものではなく、髪の健康を総合的にサポートするものとしてお考えください。
中でも髪の毛の成長で重要な栄養素は以下の5点になります。
- たんぱく質
- ビオチン
- ビタミン群
- 亜鉛
- ビタミンD
それぞれどのような働きをするのか、またどのような食材から摂ることができるのかを説明していきます。
【たんぱく質】髪の主成分ケラチンの材料
髪の毛の約90%は「ケラチン」と呼ばれるたんぱく質でできています。ケラチンはアミノ酸が結合してできるため、良質なたんぱく質の摂取が髪の健康に不可欠です。極端な食事制限によるたんぱく質不足は、休止期脱毛(TE)を誘発するリスクがあります。
無理な減量や低たんぱく食は避け、肉類、魚類、卵、大豆製品などからバランスよく摂取しましょう。
【ビオチン】髪の毛を作るケラチンの合成に重要な役割を果たす
ビオチンはビタミンB群に属する、水溶性ビタミンです。ビタミン群の中でも特に重要な成分ですので、別で取り上げます。
髪の毛はアミノ酸を基にした「ケラチン」と呼ばれるたんぱく質によってできています。ビオチンはそのケラチンを合成する際に必須の成分です。
ビオチン(ビタミンB7)と血液検査への影響
ビオチンの高用量摂取は、心筋トロポニンなどの血液検査結果に干渉し、誤った数値を示すことがあります。アメリカ食品医薬品局(FDA)は2019年にこのリスクについて安全性情報を更新しています[3]。ビオチンサプリメントを服用している場合は、採血前に必ず医師や検査技師にその旨を申告してください。
ビオチンが多く含まれている食材
ビオチンが多く含まれている食材には、以下のような食材が挙げられます。
- キノコ類(しいたけ、まいたけ)
- レバー
- ピーナッツ
- 鶏卵(卵黄)
- あさり
- アンチョビ
- ししゃも(生干し)
- たらこ(生)
- まいわし(生)
【ビタミン群】過剰な皮脂分泌の抑制+新陳代謝の促進
次ご紹介するのはビタミン群です。先にあげたビオチンはビタミンB7とも呼ばれますが、その他の重要な成分としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2などが挙げられます。これら抜け毛を抑えたり、髪の生成に役立つとされています。
ビタミンAが多く含まれている食材
ビタミンAが多く含まれている食材には、以下の食材などが挙げられます。
- レバー
- バター
- 卵黄
- 人参
- うなぎ
- モロヘイヤ
- ほうれん草
ビタミンAは脂溶性ビタミンのため、体内へ蓄積されやすく過剰に摂取することで身体の健康に影響を及ぼす可能性があります。そのため、摂りすぎには注意して適正量をとるようにしましょう。
成人男性の推奨量は年齢によって大きな差はなく、800〜900μgとされています。
ビタミンB1が多く含まれている食材
次にビタミンB1が多く含まれている食材は以下の食材などが挙げられます。
- 豚肉
- 赤身肉
- 全粒穀物
- ナッツ
- 大豆
- カリフラワー
- ほうれん草
ビタミンB2が多く含まれている食材
そして、ビタミンB2が多く含まれている食材についてです
- 肉の肝臓全般
- ウナギ
- カレイ
- 卵
- 納豆
- アーモンド
ビタミンB1とB2は水溶性ビタミンであるため、脂溶性ビタミンのビタミンAとは異なり、過剰摂取による心配はほとんどありません。
【ビタミンD】不足と脱毛の関連
ビタミンDは骨の健康だけでなく、毛髪の成長にも関わる栄養素です。複数の研究で、ビタミンD欠乏症と脱毛との関連が報告されています。2024年のFrontiers in Endocrinologyに掲載された系統的レビューでは、低ビタミンD血症が脱毛と関連することが示唆されていますが、ビタミンD補充によってAGAが改善するという高品質なランダム化比較試験(RCT)はまだ不足しています[4]。ビタミンD不足が疑われる場合は、血液検査などについて医療機関で相談することをお勧めします。
ビタミンDが多く含まれる食材には、サケ、サバ、イワシなどの脂肪の多い魚、卵黄、きのこ類(日光に当てたもの)などがあります。また、日光を浴びることで体内でビタミンDが生成されるため、適度な日光浴も有効です。
【亜鉛】髪の毛の主要成分の生成+抜け毛の原因成分を抑制
「薄毛対策と言えば亜鉛」というぐらいには有名な成分の亜鉛。亜鉛は髪の毛の主要な成分であるケラチンの生成にも大きく関係している成分です。また、抜け毛の原因成分である5αリダクターゼを抑制する作用もあるとされています。しかし摂りすぎには要注意。過剰摂取をしてしまうと、急性亜鉛中毒になり胃障害やめまいを引き起こす原因にもなります。
亜鉛の推奨量と耐容上限量(UL)
亜鉛は不足も過剰も問題となる栄養素です。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、成人男性の推奨量は年齢により異なりますが、概ね11mg/日程度とされています。一方、耐容上限量(UL)は成人男性で40~45mg/日です[5]。過剰摂取は銅欠乏症などのリスクがあるため、サプリメントで大量に摂取することは避け、医師と相談の上で適正量を守ってください。
亜鉛が多く含まれている食材
亜鉛が多く含まれている食材には、以下のような食材が挙げられます。
- 牡蠣
- 豚レバー
- 牛赤身肉
- 油揚げ
- カシューナッツ
- 卵
控えたい食習慣:砂糖入り飲料と過度な高脂肪・精製糖
摂りたい栄養素だけでなく、控えるべき食習慣についても理解しておくことが大切です。特に注意したいのが、砂糖入り飲料(SSB:Sugar-Sweetened Beverages)の過剰摂取です。
砂糖入り飲料とAGAの関連(観察研究)
2023年にNutrientsで発表された中国の若年男性1,028名を対象とした横断研究では、週7回以上砂糖入り飲料を摂取するグループは、AGAの有病率が高いことが示されました(調整オッズ比約3.36)[6]。ただし、これは横断研究であるため、因果関係は確立していません。しかし、砂糖入り飲料の過剰摂取を控える根拠の一つとして考えられます。
また、高脂肪・高糖質の食事や超加工食品の過剰摂取も、全身の代謝や炎症に悪影響を及ぼす可能性があります。バランスの取れた食事を心がけましょう。
サプリメントは必要?エビデンスと注意点
サプリメントは、食事だけでは不足しがちな栄養素を補う手段として有用です。しかし、前述の系統的レビュー[2]でも指摘されているように、サプリメントの有効性に関するエビデンスは限定的であり、試験規模や質に課題があります。サプリメントを使用する際は、以下の点に注意してください。
- 必要性を医師と相談すること
- 耐容上限量(UL)を超えないこと
- 血液検査への干渉(特にビオチン)に注意すること
- 治療薬との相互作用の可能性を考慮すること
大豆イソフラボン摂取量の目安
大豆製品は良質なたんぱく質源ですが、イソフラボンを含むため、摂取量には注意が必要です。内閣府食品安全委員会の「大豆イソフラボンに関するQ&A」によると、通常の食事量であれば概ね安全ですが、特定保健用食品(特保)などで高濃度のイソフラボンを摂取する場合は、一日の上限目安に留意が必要とされています[7]。
栄養素とエビデンス強度の一覧表
各栄養素とAGA改善のエビデンスについて、以下の表にまとめました。
| 栄養素/食品 | AGA改善のエビデンス | 代表研究/根拠 | 注意点(抜粋) |
|---|---|---|---|
| たんぱく質 | △(不足は休止期脱毛のリスク) | 休止期脱毛のレビュー | 無理な減量・低たんぱく食を回避 |
| 亜鉛 | △(不足時は補充が有用) | JAMAレビュー[2] | UL超過で銅欠乏のリスク[5] |
| ビタミンD | △(関連は示唆される) | 系統的レビュー[4] | 補充は採血評価後に |
| ビオチン | △(欠乏時以外は限定的) | 臨床報告 | 血液検査への干渉[3] |
| 砂糖入り飲料 | △(高摂取で関連) | 横断研究(OR約3.36)[6] | 因果未確立・節制の根拠 |
受診の目安と標準治療(内服薬・外用薬)
食事や生活習慣の改善を3か月程度続けても変化が乏しい場合は、医療機関への受診をお勧めします。AGAは進行性の疾患であり、早期に適切な治療を開始することが重要です。
内服治療の基本情報(適応・注意)
AGA治療の標準的な内服薬には、フィナステリドとデュタステリドがあります。これらの薬は、抜け毛の原因とされる「DHT(ジヒドロテストステロン)」の生成を抑えます。DHTは男性ホルモン(テストステロン)が「5α還元酵素」という酵素によって変化することで生じます。フィナステリドとデュタステリドは、この5α還元酵素の働きを抑えることで、DHTへの変化を防ぎ、抜け毛を抑える効果があります。
フィナステリドは5α還元酵素のII型のみに作用するのに対し、デュタステリドはI型とII型の両方に作用するため、より高い効果が期待されます。デュタステリドは、フィナステリドと比較して約1.6倍の毛髪数増加が報告されています。ただし、男性機能低下などの副作用の発症率もやや高いとされています(フィナステリド:約1%未満、デュタステリド:約5%未満)。
これらの薬には以下の注意点があります。
- 妊婦への禁忌:妊婦、妊娠する可能性のある女性、授乳中の女性は触れることも避けてください
- PSA値への影響:前立腺がん検査のPSA値が約半分になることがあります
- 男性機能に関連する副作用:性欲減退、勃起不全、精液減少などが報告されています
- 献血制限:フィナステリド服用中は献血ができず、服用中止後もフィナステリドは1か月、デュタステリドは6か月の休薬期間が必要です
外用治療:ミノキシジル
ミノキシジルは、発毛を促進する「攻め」のための薬です。ミノキシジルは頭皮の血管を拡張することで、毛を作る細胞(毛母細胞)への血流を促進します。血行が改善されることで、毛細血管から毛乳頭へ栄養が行きわたるようになり、頭頂部や生え際の発毛が促進されます。
内服型のミノキシジルタブレットは、外用薬に比べ体内への吸収率が高く、より高い発毛効果が期待できますが、以下の副作用に注意が必要です。
- 血圧低下や心拍数の増加
- 頭痛やめまい
- 体重増加、手足のむくみ
- 多毛症(頭髪以外の体毛も増加)
内服開始後およそ1か月程度で、一時的に抜け毛が増えることがありますが、これは古い毛が生まれ変わっている証拠であり、薬が効いているサインです。数か月で新しい毛が生えてきますので、飲み続けることが大事です。
医師の処方なく海外から医薬品を個人輸入する危険性
海外からの個人輸入薬には、偽造薬や不純物が含まれるリスクがあります。有効成分が規定量に満たない、あるいは全く含まれない可能性も指摘されています。健康被害を避けるため、AGA治療薬は必ず国内の医療機関で医師の診察のもと処方を受けてください。また、個人輸入した医薬品で副作用が発生した場合、国の医薬品副作用被害救済制度が利用できない点にも注意が必要です[9]。
AGA対策に関するよくある質問
最後にAGA対策に関するよくある質問について、まとめたので是非チェックしてみてくださいね。
Q. AGAに効く食べ物はありますか?
A. 食事は治療の補助です。日本皮膚科学会ガイドラインでは、内服薬(フィナステリド、デュタステリド)と外用薬(ミノキシジル)が推奨の中心です[1]。栄養の最適化は推奨されますが、食事だけでの治療効果には限界があります。バランスの良い食事と、必要に応じた医学的治療の併用が重要です。
Q. AGA予防のために飲んだ方が良い薬はありますか?
A. フィナステリドを使えば抜け毛の予防ができます。
AGA治療薬の1つであるフィナステリドを飲めば、抜け毛の進行を抑えることができます。しかしドラッグストアなど市販では売っていないため、医師からの処方が必要となります。個人輸入のウェブサイトでの購入は、偽物が入っている可能性があり、厚労省からも注意喚起がされており、推奨されません。
Q. フィナステリドとはどういった薬ですか?
A. 世界で最も多く使用されているAGA治療薬です。
フィナステリドは世界で最も多く使用されているAGA治療薬です。詳しく知りたい方は「AGA治療薬のフィナステリドってどんな薬?皮膚科医が解説します。」の記事をご確認ください。
Q. 亜鉛サプリは摂っても大丈夫ですか?
A. 不足時の補充は有用ですが、過剰摂取は銅欠乏症のリスクがあります。日本人の食事摂取基準2025の耐容上限量(UL)を超えないよう注意し、医師と相談してください[5]。
Q. 砂糖入り飲料は薄毛に悪いですか?
A. 若年男性を対象とした横断研究で、高摂取とAGAとの関連が示されました(因果関係は未確立)[6]。節度ある摂取が推奨されます。
Q. ビオチンは髪に効きますか?
A. 欠乏時を除き、有効性の高品質エビデンスは限定的です。またビオチンは血液検査値に干渉する可能性があるため、採血前は服用を申告してください[3]。
Q. 産毛が生えてきたらAGAの可能性が高いんでしょうか?
A. 細くて短い毛はAGAの可能性があります。
AGAでは、ヘアサイクルが乱れることによって、成長期が短縮し、細くて短い毛が生えてくることが特徴です。髪の毛が徐々に細く短くなることにより、生え際やつむじ周りの地肌の露出が目立ってくることでAGAに気づかれる方が多いです。
まとめ:食事は補助、標準治療との併用が重要
AGAと食事の関係について、科学的根拠をもとに解説しました。たんぱく質、ビタミン群、亜鉛、ビタミンDなどの栄養素は髪の健康をサポートしますが、食事だけでAGAを治療することはできません。日本皮膚科学会ガイドラインでも示されているように、標準治療は内服薬と外用薬が中心です。
栄養バランスの最適化は、治療効果を最大化するための補助的なアプローチです。生活習慣の改善を行いながら、必要に応じて医師に相談し、適切な治療を受けることをお勧めします。

