時や場所を選ばず出てくる鼻水はわずらわしいものです。花粉症の季節にはティッシュが手放せず「鼻水なんか出なくなればいいのに……」と思う人もいるでしょう。誰もが経験したことがあり、とても身近な症状といえますが、鼻水の状態や色がいつもと違ったり、頭を強くぶつけた後に出てきた場合などには注意が必要です。単なる風邪やアレルギーとは異なる病気や、深刻な症状のサインである可能性もあります。
そこで今回は、鼻水が出る仕組みや役割、原因と併せて、医療機関を受診するべき症状などについて解説します。
鼻水の役割
実は鼻水は人間の体にとって欠かせない役割を果たしているのです。
鼻の粘膜からは、普段でも微量の鼻水が分泌されています。主な役割は、鼻から取り込んだ空気や鼻の内部に適度な湿度を与え、乾燥や刺激から粘膜を守ることです。
また、空気にはウイルスや細菌、ホコリ、花粉などの異物も混じっています。鼻の粘膜に存在する神経がこれらの異物を感知すると、鼻水の分泌量を増やして、体外に排出しようとします。風邪をひいたときや、アレルギーによる炎症が起こったときに鼻水の量が増えるのはこのためです。
鼻水が出るときに考えられる原因
鼻水が出る原因は、風邪やアレルギー性鼻炎(花粉症)といった身近なものから、意外な病気や外傷までさまざまです。ここからは、主な病気の特徴と併せて解説します。
ウイルス性上気道炎(風邪)
上気道(鼻からのどまで)がウイルスによって急性の炎症を起こした状態です。一般的に風邪(風邪症候群)と呼ばれます。
ひき始めの鼻水は水っぽく、透明な状態です。しかし、炎症が進行すると黄色や緑色の粘り気のあるものになり、その後回復するに従って、徐々に透明な状態に戻ってゆく場合もあります。
急性上気道炎の主な症状は、鼻水のほか、鼻づまりや咳、発熱、倦怠感などが挙げられます。原因はほとんどがコロナウイルスやライノウィルス、パラインフルエンザウイルスなどのウイルスによるものです。それ以外では、一般細菌や肺炎マイコプラズマなどの細菌が原因となることもあります。なお、特にライノウイルスによる急性上気道炎の場合、鼻水の症状が強い傾向があります。
アレルギー性鼻炎
アレルギー反応は人間の体に備わっている免疫機能の一つです。アレルギー性鼻炎の場合、鼻から入り込んだ異物を排出しようとして、鼻水やくしゃみが起こります。
アレルギー性鼻炎には、ホコリやダニなど身の回りにあるものが原因となる通年性アレルギー性鼻炎と、スギやヒノキなどの花粉による季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)があります。鼻水は無色透明でサラサラしているのが特徴です。血が混じっているときは、鼻のかみすぎで粘膜に傷がついている可能性があるため、注意しましょう。
また、アレルギー性鼻炎の場合、起きがけに鼻水やくしゃみ、鼻づまりといった症状がひどく出る傾向があります。「モーニングアタック(朝の発作)」と呼ばれる、特徴的な現象です。
アトピー性皮膚炎
鼻水の直接的な原因ではありませんが、アトピー性皮膚炎はアレルギー性鼻炎と併存しやすいとされています。そのため、アトピー性皮膚炎の方は、アレルギー性鼻炎にも注意が必要です。
反対に、アレルギー性鼻炎による鼻水や涙で、顔面部のアトピー性皮膚炎が悪化することもあります。ある調査ではアレルギー性鼻炎患者の約50%に、症状変化によるアトピー性皮膚炎への影響が見られました。また、そのうち約85%が、アレルギー性鼻炎とアトピー性皮膚炎を併発していたという結果が出ています。
副鼻腔炎
副鼻腔(鼻腔の周辺にある空洞)に鼻水や膿が溜まる病気です。蓄膿症とも呼ばれます。主な症状は、鼻水や鼻づまりのほか、鼻水が喉に落ちる(後鼻漏)ことによる咳や、顔面痛・頭痛、嗅覚異常などで、鼻水は黄色や緑色で粘り気があるのが特徴です。
また、副鼻腔炎の原因は、ウイルスや細菌、アレルギーなどです。鼻の粘膜に炎症が起こることで、鼻と副鼻腔をつなぐ部分が腫れて狭くなります。そのため、鼻水や膿の排出が上手くできなくなったり、頻繁に鼻をかんだりすることで、さらに炎症が悪化するという悪循環に陥りやすいのです。
慢性化や難治性の好酸球性副鼻腔炎(指定難病の一つ)の恐れもあるので、鼻水の状態がいつもと違うと感じたら早めに医療機関を受診するとよいでしょう。鼻の周辺や顔に痛みがあるときも要注意です。
歯性上顎洞炎
副鼻腔のうち、上顎洞で炎症が起こる副鼻腔炎の一種です。虫歯や歯周病由来の細菌が上顎洞に入り込むことで起こります。
歯性上顎洞炎の症状として、黄色や緑色の粘り気のある鼻水、鼻づまりのほか、歯の痛みや顔面痛(特に目の下の頬部)、頭痛などが生じることがあります。副鼻腔炎と症状がほとんど同じのため、判別が難しいとされています。
血管運動性鼻炎
水っぽい鼻水やくしゃみなど、アレルギー性鼻炎に似た症状が現れる、鼻炎の一種です。鼻炎の要因となるものがなく、アレルギーのない人にも起こることから、非アレルギー性鼻炎とも呼ばれます。アレルギー性鼻炎に多く見られる目の症状がないことも特徴です。
血管運動性鼻炎の原因ははっきりしていませんが、鼻粘膜の自律神経異常のためと考えられています。症状を誘発する主な要因は、急激な気温変化(寒暖差)や空気の乾燥、タバコの煙、化粧品や香水の香料、ストレスなどです。
鼻・副鼻腔の腫瘍
鼻水の量や状態の変化は、鼻腔や副鼻腔にできた腫瘍の影響かもしれません。腫瘍には良性のものと悪性のものがあります。
良性の腫瘍としてよく見られるのが、血管腫や乳頭腫です。血管腫は血管が異常な塊となったもので、若い男性に多いとされています。大きくなると周囲の組織に影響を及ぼす恐れがあるため、手術で摘出するのが一般的です。乳頭腫は皮膚や粘膜にイボを形成するパピローマウイルスが原因と考えられています。
悪性のものとしては鼻腔がんや副鼻腔がんがあります。初期は特有の症状がないため、見過ごされがちです。
良性・悪性ともに、鼻水や鼻出血、鼻づまり、頬の痛みなどが現れることがあります。特に数週間にわたって症状が鼻の片側だけに続くときは、放置せず医療機関の受診を検討しましょう。
オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)
全身の血管に異常が起こる遺伝性の病気で、国の指定難病の一つです。親から子へ遺伝する確率は約50%とされています。
主な症状としてまず挙げられるのが鼻血です。オスラー病の場合、血管の異常がある部位から出血しますが、特に鼻からの出血が多く、およそ80~90%の患者に見られるとされています。体内の鉄不足によってヘモグロビンが十分に生成されなくなる鉄欠乏性貧血を伴うことも少なくありません。
鼻水に血が混じる方や鼻出血が頻繁に起こる方で、特に親・兄弟姉妹にオスラー病患者がいる方は、早めに医療機関の受診を検討しましょう。
髄液漏
頭を強く打つなど、外傷により脳や脊髄を覆っている膜(髄膜)が損傷し、脳脊髄液が流出するものです。正式には「脳脊髄液漏出症」といいます。鼻や耳から水のような液体が出るのが特徴です。
脳脊髄液は、一見すると水っぽい鼻水のように見えます。また、症状が現れる時期は、外部からの強い衝撃や外傷を受けた直後から数週間後までと幅があります。そのため、見過ごしてしまったり、アレルギー性鼻炎などと間違ってしまったりすることもあるかもしれません。
しかし、髄液漏の場合、抗ヒスタミン薬など、風邪やアレルギー性鼻炎向けの治療では改善しません。また、頭痛やめまい、吐き気、ふらつきといった症状が現れることもありますが、多くは横になると軽快します。これは立っていると重力に従って脳脊髄液が漏れ出すためです。
髄液漏れを放置すると、脳脊髄液減少症につながり、さまざまな症状によって日常生活にも支障が出てしまいます。頭を打ったあとなどに水のような鼻水が出たらすぐに医療機関を受診しましょう。頭痛やめまいなどの症状を伴うときは特に注意が必要です。
鼻水の色や状態から推測される原因
鼻水の原因は、色や状態から推測できることもあります。セルフケアのためにも、自分の鼻水をチェックしてみましょう。
透明な水っぽい鼻水
風邪の初期症状やアレルギー性鼻炎、花粉症などに多く見られる鼻水です。
風邪の場合、徐々に色や粘り気のあるものに変わってゆく場合があります。アレルギー性鼻炎や花粉症では、量が多く、くしゃみや鼻づまり、目のかゆみを伴うことがほとんどです。
風邪の症状やアレルギーがなく、水っぽい鼻水だけが出る場合は血管運動性鼻炎かもしれません。寒いところから急に暖かい部屋に入ったり、タバコなど強い臭いを嗅いだりしたときに起こりやすいという特徴があります。どんなときに出るのか、思い返してみましょう。
また、頭を強くぶつけたあとにサラサラした鼻水が出てきた場合は、髄液漏が疑われます。早急に医療機関の受診が必要です。
黄色や緑色で粘り気のある鼻水
風邪のほか、副鼻腔炎(蓄膿症)や細菌感染の可能性があります。
風邪をひくと、水っぽい鼻水から徐々に色や粘り気のある鼻水に変わってゆく場合があります。通常は1週間から10日ほどで落ち着いて、また水っぽいものになっていくはずです。しかし、風邪が治っても鼻水が続くようであれば、副鼻腔炎を起こしているのかもしれません。
副鼻腔炎の場合、鼻水が喉に垂れてくる「後鼻漏」になることもあります。咳を伴ったり、声が出しにくくなったりとほかの症状があるときは、耳鼻科を受診してみましょう。
歯性上顎洞炎(副鼻腔炎の一種)の可能性も考えられます。治療していない虫歯や歯周病はないでしょうか。思いあたる場合は、歯科の受診も検討する必要があります。
血が混じった鼻水
まず考えられるのが、鼻のかみすぎや乾燥です。鼻の粘膜に傷がついて出血している可能性があります。子どもの場合、鼻から入れた(入ってしまった)小さいおもちゃやボタン電池などの異物が原因かもしれません。
鼻水に頻繁に血が混じったり、鼻血がよく出たりするときは、鼻腔や副鼻腔の腫瘍、オスラー病といった病気のサインの恐れもあります。特に、繰り返し起こる鼻血は、オスラー病の特徴の一つです。
いずれの場合でも、なかなか治まらないときは医療機関を受診しましょう。
自分でできる鼻水対策
鼻水はある程度セルフケアで改善できます。日常生活に取り入れやすいことばかりですので「鼻水が出るけど病院に行くほどじゃないかな」「忙しくて時間がない」という方はまず試してみるとよいでしょう。
鼻を温める
特にサラサラした水っぽい鼻水が出る風邪のひき始めや、鼻づまりに有効です。蒸しタオルをあてたり、蒸気を鼻から吸い込んだりしてみましょう。鼻の中に潤いを与えるだけでなく、症状の悪化を防ぐ効果も期待できます。
鼻づまりは副鼻腔炎などで鼻水が溜まるほか、鼻の中の毛細血管の血行不良や、鼻粘膜の炎症によっても起こります。鼻を温めることで、血行が促進されて鼻の通りがよくなるでしょう。
部屋の温度や湿度を調節する
空気の乾燥や外気との寒暖差によって鼻の粘膜が刺激され、鼻水がひどくなることがあります。通常、鼻の中は適度な湿り気があり、外から入ってくる空気を温めて肺へ送り込んでいます。外気が乾燥していると鼻の中も乾いてしまい、刺激を受けやすくなるため、冬なら加湿器を使ったり、洗濯物を部屋干ししたりして、湿度に気を配りましょう。
また、温度差が7度以上あると、鼻水が出やすいとされています。エアコンを活用したり、重ね着など衣類で調節したりするとよいでしょう。
鼻のかみ方に注意する
鼻水や鼻づまりがあるときは、すっきりしたいという思いから何度も鼻をかみがちです。しかし、鼻が真っ赤になったり、鼻の周りの皮膚が荒れたりと、デメリットもあります。さらに、強く何度もかむことで、鼻血や、副鼻腔炎や中耳炎といった病気につながる恐れがあります。
やわらかいティッシュを使って片方ずつかむようにし、鼻の下に残った鼻水は拭き取りましょう。鼻を上手にかめない乳幼児は、温かいタオルで拭くか、鼻水吸い器で吸い取るのがよいでしょう。
市販薬を使う
症状をすぐに緩和したいときや、病院に行く時間がないという場合は、市販薬を使うという選択肢もあります。原因として考えられる病気や症状に合わせて、適切なものを選びましょう。
たとえば、鼻水を含む風邪の症状があるときは、抗ヒスタミン薬や解熱・鎮痛薬、鎮咳・去痰薬などさまざまな成分が配合されている総合感冒薬が適しています。
アレルギー性鼻炎など、鼻炎が疑われるときは、以下のような成分が配合されているお薬を選ぶとよいでしょう。
種類 | はたらき | 成分例 |
抗ヒスタミン薬 | 鼻水やくしゃみなどを引き起こすヒスタミンの働きを抑える | クロルフェニラミンマレイン酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩など |
抗コリン薬 | 鼻水を分泌する鼻腺を刺激する物質を抑制する | ベラドンナ総アルカロイドなど |
交感神経刺激薬 | 血管を収縮させて鼻づまりを改善する | プソイドエフェドリン塩酸塩など |
眠くなるのが心配な場合は、鼻の粘膜に直接注入したりスプレーしたりする点鼻薬でも症状の緩和が期待できます。薬剤師や医薬品登録販売者のいるドラッグストアで相談すると安心です。
鼻水は放置しておいてもいい?
「鼻水ぐらい」と軽く考えがちですが、なかなか治まらない場合は医療機関を受診したほうがよいでしょう。耳や鼻の重大な病気が背景にあったり、悪化したりする恐れがあるためです。
たとえば、鼻を頻繁にすすることで細菌が耳に入り込み、中耳炎が起きることがあります。特に子どもは鼻の奥と耳をつなぐ耳管が短いうえ、カーブが緩やかです。大人に比べて細菌が侵入しやすいため注意が必要です。
また、鼻水や鼻づまりで起こりやすくなるのが口呼吸です。人間は鼻で呼吸していますが、鼻がづまると口で呼吸しようとします。口呼吸にはいびきがひどくなる、口の中が乾燥して自浄作用が低下し、口臭や虫歯、歯周病の原因になるといったデメリットがあります。
鼻水で医療機関を受診する目安は?
軽く考えない方がいいと言われても「このくらいの症状で病院に行くのも……」とためらってしまう方も多いでしょう。最後に、医療機関を受診する目安や、早急に受診を検討するべき症状を紹介します。
顔面痛や頭痛をともなうとき
鼻水や鼻づまりと併せて顔面痛や頭痛があるときは、副鼻腔炎を起こしている可能性があります。放置しておくと慢性化して治りにくくなるだけでなく、鼻茸(鼻の中にできるポリープ)ができたり、嗅覚異常や睡眠障害、集中力の低下などが現れたりするなど、日常生活にも影響を及ぼすことがあります。
また、顔面痛や頭痛は鼻・副鼻腔の腫瘍、鼻腔がんや副鼻腔がんといった深刻な病気によるものである可能性もあるため注意しましょう。
セルフケアで症状が治まらないとき
風邪による鼻水は多くの場合、体を温める、十分な睡眠と休養をとるといったセルフケアで軽快します。しかし、改善が見られないときや風邪の症状が治まっても鼻水や鼻づまりが続くときは、注意が必要です。特に鼻水に粘り気や色があるときは、副鼻腔炎の可能性があります。
また、花粉症のシーズンが過ぎても鼻水やくしゃみといった症状が続く場合は、ほかのアレルギーや慢性鼻炎かもしれません。
症状に合わせた市販薬を服用・使用するのも対策の一つです。ただし、数日服用・使用しても改善が見られないときは、すぐに中止して医療機関の受診を検討しましょう。
血の混じった鼻水が続くとき
鼻のかみすぎで鼻水に血が混じったり、鼻から出血したりすることは珍しくありません。しかし、鼻水に混じる血の量が明らかに多い、または多くなってきたときは注意が必要です。
特に鼻の片側からだけ出血が続くときや、痛みがあるときは、腫瘍など深刻な疾患の恐れがあります。
頭をぶつけたあとで鼻水が止まらなくなったとき
頭を強くぶつけるなど、頭部に衝撃を受けたあと、水っぽい鼻水が出てきたら早急な受診が必要です。一見鼻水のようですが、髄膜が損傷を受けて漏れ出している脊髄液の可能性があるためです。
髄液が漏れる髄液漏の場合、適切な処置をしないと頭痛やふらつきなどの症状が起こることがあります。
鼻水の相談はクリニックフォアのアレルギー科へ
クリニックフォアでは、鼻水の診察・治療に対応しています。鼻水は健康なときにもしばしば見られることから軽く考えてしまいがちです。市販薬で症状を抑えている方も多いでしょう。
しかし、長引いているときや鼻水に色や粘り気があるとき、頭痛などの痛みを伴うときは、思わぬ病気の可能性もあります。気になる症状は、お気軽にクリニックフォアへご相談ください。必要に応じて、耳鼻科への紹介もしております。
※医師の判断によりお薬を処方できない場合があります。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。医師の診察をうけ、診断された適切な治療方法をお守りください。